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夕暮れに言う

作者: 木之一


 僕はまだ、君に愛を伝えていないから、死ねないよ。


 放課後、教室の隅で尻餅をつく僕。目の前で罵詈雑言を掛けられた。そのうちの一つ、とても簡単に言えて残酷な二文字。

 その言葉へ、僕はそう思った。


 僕の目の前に立つ親友は、舌打ちをして去っていく。その後ろ姿を、ただ、見つめるだけ。




 僕はいじめられている。昔から恋焦がれている、君に。

 きっかけは何だったか、分からない。ある日突然に、君は言ってきた。


 気に入らない、と。


 何が気に入らないのか、僕には理解ができなかった。僕が理解が出来ずとも、君は僕をいじめ続ける。

 いつの日か、僕は学校に行かなくなった。たったそれだけで、周りの景色から彩りが消えたような、そんな錯覚を覚えた。


 母が心配する。当然かな、不登校になった子供を心配しない母親が居るだろうか。

 分からない。でも、僕の母は、僕のことを大事に思ってくれている。それだけは感じられた。


 どうして学校に行かないのか、なんて。毎日、自問自答を繰り返した。けれど、答えは見つからない。

 不思議な話だ。僕の意志で、学校に行くことを辞めたのに。どうして僕は、こんなにも悩むんだろう。




 僕の親友はとてもかっこよくて、綺麗だった。付き合いとしては小学校からで、親友はいつも女の子に人気で。

 その頃から、多分、僕は嫉妬してたんだと思う。女の子と話しているところを見ると、なんだかモヤモヤして。

 ムスッとした顔を僕がしていると、親友はなんでそんな顔してんだよって、言ってくる。笑いかけてくれる。そんな親友を見たら、モヤモヤが晴れて。


 そんな毎日が楽しくて、嬉しかったのかな。


 中学に入って、関係が少し変わった。周りの人が変わって、親友とはクラスも違って。小学校では、気軽に親友のクラスを訪れたけど。中学は何故か親友に会いに行けなくなっていた。

 最初は確かに寂しかったけど、クラスに馴染んで、友達も増えて。楽しくなってきた。


 でも、そんな僕にバチが当たったのかな。親友と学校で会う度、僕が話しかけても無視をする。なにか、僕が悪いことをしたのかな。

 そんなふうに思って、親友に聞いたら。


 気に入らない。


 そう言われて僕の肩を押す。親友はなんだか怖い顔をしていて、そんな親友を僕は見上げることしかできなくて。


 悲しかった。苦しくなった。どうしてなのか、分からなくて。


 それから、学校には行けてない。たまに家に来る先生も、親の心配の声も、全部見えないし、聞こえない。

 でも、それでも。僕は君が好きなんだなって。




 いつものように、昼前に起きる。階段を降りて、リビングに向かうと母親が居た。

 おはようと、言ってくる母。そんな母親におはようと返して、作ってくれた朝ごはんを食べる。

 ご馳走さま、美味しかったよ。そう言うと、母親は笑顔を浮かべて、食器を洗う。


 そんな母親を尻目にリビングを出る。階段を上がる、そんな時だった。玄関先にある固定電話。突然に鳴り響くその音に、気を取られた。

 リビングの扉を開けて、母親は電話を取る。はい、もしもし。そのワンフレーズで会話は始まる。


 母は僕に気付かず話をする。久しぶりに聞く、親友の苗字。母の口から出たその話を、僕は知らなかった。


 なんで、どうして?


 驚きと同時に疑問が浮かぶ。なんで言ってくれなかったんだ。どうして相談してくれなかったんだ。


 それじゃあ、あの時の君の顔は。


 急いで玄関を出る。後ろから、母親の声が聞こえた気がした。僕は親友の家を尋ねる。走って数十分。

 息を乱しながら、インターホンを鳴らす。ドアを開けた君は、驚いた顔をしていた。そんな君に構わず家の中に入る。


 変わってない。小学校の頃から、変わってない。何度も遊びに来た家。勝手知ったるか、親友の部屋に入る。そんな僕をただ眺めることしか出来ない君を見て、やっぱり君は変わってない。そう、確信できた。


 電話口で母が言っていた。一年前、僕らが中学校に入った頃、親友の母が倒れた。病院に運ばれたって。

 ふざけるな。怒りを親友にぶつける。なんで相談しなかった、どうして言ってくれなかった。

 僕は相談するに値しないヤツなのか。お前に、不満をぶつけられた僕の気持ちは何なんだ。

 不満をぶつけるんじゃなくて、相談をしろよ。そう、怒りに任せて言った。


 ごめん。君に謝る。呆然と立ち尽くす親友を置いて、家から出る。

 丁度、夕日が出ていて、僕を照らす。


 君を、愛してるよ。そう、夕暮れに言った。



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