その3
「そう。そうして気まぐれにやってきた姫神様は良かれと思いご自分の羽衣という力ある道具を用いて、緑多かったこの土地の地下水を、すべて氷に変えてしまったの」
「酷いや、そんなの!」
本気で憤っているらしい少年に、わたしは同意する。
「そうね。なんでも姫神様は人々が喜ぶよう黄金の地にしてあげたかったらしいわ。でも力の加減を誤ってしまったの。後からやってきた父神様が見た時にはもう遅く、辺りは一面の砂の大地に。さすがの父神様にもすぐにはどうにもすることができなくて、姫神様の力を三人の人間に分け与えたの。力を受け継いだ者たちは水や植物を生み出す能力を用い、日々砂漠の地下にある氷を溶かしてオアシスを創っている」
淡々とした口調で告げるも、ルンダが戸惑いの色をみせる。
「えっと、それってもしかして……」
ためらいがちに尋ねてくる少年の視線を、微笑みで受けとめた。
「そう。わたしたち楽園屋よ。もちろん、ただの伝説だけどね」
「んと、じゃあ、お姉ちゃん悪い人なの?」
ルンダの問いに頬を掻く。
「そんなつもりはないんだけどなあ」
苦笑しつつ答えると、少年が肩の力を抜いた。
「なんだ。じゃあ、いいよ。オレにとっては村を助けてくれた人だもん」
「ありがとう」
どこか照れた風情の少年を目にして口元を和ませる。心から礼を言うと、少年が再び首をかしげた。
「でもさ、砂漠の下からなんで水がでてくるのかな、って思ってたら、地下にあったんだね?」
「そうよ。水はちゃんとあるの。でも、それを硬くて分厚い氷の盤が覆っているのよ。わたしたちはそれをところどころ溶かして、下にある水を引きだしているってわけ」
「すごいや」
目を輝かせる少年に対し、わたしは苦笑う。
「そうかしら? もっと力があれば、氷の盤すべてを溶かすこともできるかもしれないじゃない?」
そうすれば、砂漠をまた緑の土地に戻すこともできるだろう。
(でも、そうしたら、砂漠でしか生きられない生き物たちが困っちゃうかしら……)
近年爆発的な進化を遂げている砂漠生物のことを思い浮かべると、自然と溜め息が零れた。四年ほど前からどんどんと巨大化している彼らだが、すべては生きるために遂げた必然的進化の結果だ。それを邪魔だからと言ってただ排除してしまうことは、わたしにはできそうもない。もっとも、相棒のテディックはまったく逆のことを思っているみたいだけれど。