その2
(それってもしかして、わたしのせい?)
わたしには六歳以前の記憶がない。だから幼い頃に事故で亡くなったという両親の顔も、まったく覚えていない。自画像があれば少しは想像できるのだろうけれど、兄も姉も両親のことは語りたがらなかったし。何よりわたしには兄姉の他にリルサおばさんという親代わりのような存在がいたから。けれど、正直わたしには自信がない。だって、兄姉は両親の話を聞かせてくれないし、リルサおばさんだってテディックのお父さんのことや自分のことを話してくれたことはほとんどない。テディックだってそうだ。たまに尋ねると、ものすごく辛そうに表情を歪める。だから不安になってしまうのだ。記憶にない幼少の頃に、わたしが何かしたんじゃないか、って。両親の死やテディックのお父さんの死に、わたしが関わっているんじゃないのか、って。でも、兄姉やテディックへ何度も探りを入れてみても、明確な答えは返ってこない。
(嫌だな、こういうの……)
重い気分を引きずりおでこに手をあてていると、突如後方から抱きつかれた。
「ありがとう、楽園屋のお兄ちゃん」
満面の笑みで見あげてきたのは、小麦色の肌をしたスタック村の少年、ルンダだった。
「あのね、ルンダ。わたしはお兄さんじゃなくて、お姉さんよ」
やんわりと身を退かせながら窘めると、ルンダが目を丸くした。
「え! そうだったの! ごめんなさい。オレてっきりお兄ちゃんだと思ってたよ。だって……」
「髪がちゃんと長いでしょ?」
一つに纏めておいた青紫の長髪をわざわざ梳いて見せると、ルンダが焦げ茶色の髪を掻く。
「髪ならオレも長いし。背だってオレよりは高いけど、その、色々やせてもいるし……」
なんだか聞き捨てならないことを言われた気がするのだが気のせいだろうか。語尾を濁す少年にむっとして訂正しようとしていると、ルンダが自身の後頭部へ手を置いた。
「あーあ。ここも砂漠じゃなかったらなあ」
砂を蹴る少年にわたしも頷く。
「そうね。わたしが小さかった頃はまだ緑が残っていたと思うわ」
「じゃあ、なんでこんなになっちゃったの?」
少年の疑問を前に腕を組んだ。
「それはわたしにもよくわからないんだけど、昔父神様の愛娘である姫神様がこの地にやってきたことから砂漠化が始まったんだそうよ」
「姫神様が? なんで? オレらが悪いことしたの?」
「そうじゃないの。姫神様はとってもおてんばな神様で、父神様の言うことを聞かずこの地へ降りてきてしまったの」
昔話はあまり得意ではないけれど、なるべくわかりやすいように語ってみる。
「そうなの?」
どうやら本当に聞いたことがないらしい。少年が目を見開いたので、話を続けることにした。




