運も実力に入れていいなら、俺は強い
やっと異世界編です。テンポが悪くてごめんなさい。
上空1500m、地上から雲までの大体の距離を一定の速度で、俺は重力に逆らうことなく垂直に落下していく。絶叫と共に。
「ぎゃぁぁああああああぁああああああ!!!!!!」
あの天使が本当は悪魔なんじゃないかと思ってしまうほどの所業に、苛立ちを覚える。
視界には歪な円状に城壁が並ぶ土地と、旭日旗の光のように城壁が並ぶ土地から道が伸びているのが見える。
俺の真下には湖があり、このまま落ちたら、水が俺を受け止めてくれると思った。湖が見えた瞬間、少し安堵したが、ここで、某名探偵の漫画に出てくるセリフが脳裏をよぎる。
「この高さから飛び降りたら、水面もコンクリートみたいになるで。」
俺は冷や汗をかいた。結局生きる術は無いのかと諦めかける。すでに、俺の頭は真っ白だった。思考が固まらない。
しかし、俺は生に執着しようとしていた。天使が、なぜここに落とすことにしたのかという思惑はわからないが、それでも自分の中で、必死に生きようと思った。
『最後まで悪あがきをしよう。』
そう心に決めた。俺は右手に魔導書を持ったまま、両腕と両足を大きく広げる。着水の瞬間は頭を抱え、脚を揃えて、そのまま脚から入水しようと考えた。これが、俺の思いつく限り、最善策だと思った。しかし……。
「何だよ…あれ……。」
俺は言葉が見つからなかった。湖が広がり、そこにただただ巨大な魚がいる。
入水して仮に助かったとしても、その後に食べられるんじゃ無いかと不安になる。
眼前まで水面が近づき、俺が体勢を整えた瞬間だった。
バクン
魚は捕食行動を取るときに、勢い余って水面から飛び跳ねることがあることを、俺は知っていた。
水面に着くより早く、俺は胃袋の中に吸い込まれていく。口から食道を通り、胃にたどり着いた瞬間、酷い悪臭を感じる。弾力のある内臓や、胃の中にある他の魚の死骸のおかげで衝撃は和らぎ、俺は無事だった。しかも、着地をした際、胃に衝撃が走ったからか、胃が収縮し、ゲロとなって魚の体内から生還した。
俺は犬かきで陸まで泳ぎ、生きていたことに安堵しながらも、陸に上がったときに悪臭を思い出し、吐いた。
「だずがったぁぁあ……。」
悪臭が付き、来ていたスーツを着替えたかったが、替えがないので諦める。
湖沿いには、舗装されておらず所々欠けている石畳の道があり、さらにその道の向かいには小さな街があった。しかし、2メートルくらいのフェンスがあり、人は立ち入りできないようになっている。
「とりあえず、どこかで人に会おう。王都とか言ってたっけ。場所はわからないけど…上から見た感じ、多分こっち…。」
俺は大体の目星をつけて向かおうとする。
石畳に沿って歩いていく。横目で街の中を見ながら進んでいくと、中には二人の人間がいた。二人とも武装しており、白銀に輝いている。恐らく、どこかの兵士だろう。
俺は人を見つけた喜びを感じながら、手を振り、呼びかける。王都までの道や、
「おーい!!!!ちょっと尋ねたいことがあるんですけどーーー!!!」
兵士はギョッとした表情になり、怒号を飛ばす。
「おい!ここは立ち入り禁止区域だぞ!さっさと立ち去れ!」
「そんなこと言わないでくださいよ……。王都までの道がよく分からなくて困ってるんですよ…。」
兵士は少し苛立っていたが、何やら二人で話し合っている。
一人の兵士が俺に近づいてくる。
「お前、よく分からない身なりをしているが、もしかして民間人か?そうじゃなければ、ここには来れないはずだが…。」
「え?あ〜、はい」
俺は身分の説明がめんどくさかったので、適当に相槌を打った。王都まで行ったら説明をすればいいと思っていた。
「そうか!ならば王都まで送ろう!ちょうどここから反対の場所に保護用の馬車を用意してあるんだ!」
兵士はそう言ってフェンスをよじ登るように指示してくる。俺は手を貸してもらいながら内側にこれた。
俺は兵士に案内されて、移動を始めた。
この、助けを求めるという判断が、悲劇を起こすことを、俺はまだ知る由もない。