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催眠術と白紙の魔導書  作者: 天羽レイラ
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貰い物の力に、価値がありますか?

話数が長くなるので、二つの話をくっつけました

「人間の悪戯のせいで、不当な死を遂げてしまった貴様らに告ぐ。貴様らには、異世界に行ってもらう。」

 真っ白な部屋の中、俺、否、俺たちは唐突にそんなことを告げられた。

 突然のことで、理解が追いつかない。事実、周りの人間からどよめいた声が聞こえてくる。

 真っ白な部屋の中にはステージがあり、さらにその上に台が置いてある。その台にはマイクが設置してあり、大多数を収容している空間に自らの声が響き渡るようになっている。 


 ステージ上、一人で淡々と告げている、白く麗しい羽根を生やしている女性を天使、もしくは女神と呼ぶのならば、きっと彼女のことを言うのだろう。 

 外見は俺より遥かに若く、20歳前後くらい。夕焼けに燃える金色の麦のような、赤みがかった金髪。大きな青水晶のような瞳。その容貌は非常に目麗しく整っており、そこから漂う色香についつい魅了されてしまう。また、過不足なく完璧な躰を誇っており、装束の単調な服の色合いにも関わらず、艶美に映る。

  

 死を告げられた後、学校の制服を着た、爽やかな男性が質問するように声を上げる。

「死、死んだんですか……?俺たち?…………な、なんで?」

 そう質問した男性は、明らかに動揺して呂律が回っておらず、滝のように汗をかいており、爽やかな顔立ちが崩れている。

 動揺する気持ちは俺にも十分わかる。実際、俺も同じ立場だったら似たようなことを聞いているだろうから。

「電車の路線上に約五キログラムほどの大きなコンクリートブロックが置かれていた。それが原因で電車が脱線し、事故が起きたのだ。」

 天使は、その男性とは対照的に冷たい口調で冷静に話す。しかし、その表情はどこか申し訳なさそうに表情を曇らせていた。

 そのことを聞き、質問者の男子生徒含め、その空間にいる電車の乗客やその他の巻き込まれて亡くなった人の大多数は涙を流した。

 家族の名前を叫ぶ者、声を押し殺し、唸るように泣く者。死を認めない者。

 それでも、俺は泣かなかった。と言うより、泣けなかった。親友、家族、恋人。そのどれもが、死んで真っ先に思い浮かばなかったのだ。

「泣いていたってしょうがない。戦争などの人的要因や震災などの環境要因を始め、さまざまなところで死はある。日本という安全な国で生活していれば忘れるだろうが、死の要因というのは生活の中でいくらでもある。今回は、人の悪意による置き石が原因で死んだ。それだけだ。」

 人の死を、しょうがないという簡単な言葉で片付ける天使に、激しい怒りが込み上げるが、どこか正しいところもある気がして、感情が複雑に入り乱れる。俺はギリっと歯を食いしばる。

「…異世界に行くのは強制ではない、異世界行きを希望するものは、手を上げなさい。もし希望しないのなら、天国か地獄を決める場所に行ってもらう。」

 天使は静かに言った。若い人たちは手を上げるが、年配の人たちは手を上げない。

 俺は手を挙げた。

 違う世界では何かが変わるかもしれないという、身勝手でどうしようもない妄想のようなものに取り憑かれたからだ。

 

 天使は、「了解した」と言うと、手を挙げなかった人たちは淡い青色の光に包まれて消えていった。

 

ーーー

 「これより別会場に転移する。少し揺れるぞ。」

 白い部屋が消え、かなり広い書斎に転移する。本が背の高い棚にぎっしり詰められ、端には階段がある。部屋の構造は一貫して木造で、古い本特有の独特の紙の香りが漂っている。

 転移した際、俺はつい、おわっ、と情けない声を出してしまった。


「それでは、説明を開始する。」

 天使は、書斎らしい空間で、右手を高らかに上げ、そう宣言する。そして、続けて話し始めた。

「今から、この書斎の中から、一つだけ、自分の気に入った本を選んでもらう。ただし、一度手を掛けた本は戻すことができない。中身を読むことも、表紙を見ることも、一度手に取ってみないと、確認できない。隅に階段があるが、他のフロアに移動してはいけない。時間は無制限だが、質問は一切受け付けない。人間同士の私語は許可する。それでは、ここにいる34名全員が終わり次第、次の説明をする。」

 

 言い終えると、天使は青い光に包まれた後、消えた。 

 人間同士の私語が許されるということを聞いた瞬間、俺は本より先に、人が固まっているこの周囲を見渡す。やはり、制服を着た高校生が多いのだが、俺と同じような30代半ばくらいの人もちらほらといた。

 10秒くらいすると、話し合いをするグループが分かれていった。

 上空の見取り図を撮ると、制服を着た男女とスーツや私服を着た成人した男女がはっきりと分かれているのが分かるだろう。それぐらい、二つのグループで距離ができていた。もちろん俺は後者のグループにいる。

 ここにいる全員が最初の白い部屋で、異世界行きを希望した人たちだから、大半が盛り上がっている。

 学生集団は楽しそうに話し合っているが、こちらのグループは気まずそうに顔を見合わせる。そして、特にこれといった会話も無いまま、解散した。


 俺は、長めの距離を早歩きし、部屋の反対側に移動しようとする。 

 くじ引きでも、箱の奥に良い物が集まっているという子供じみた偏見を持っているからだ。

 しかし、歩けど、歩けど反対側につきそうになかった。

「オェ……、もう………無理………。」

 ぜえぜえ、と息が荒くなる。俺は口に手を当て、疲労で吐きそうなのを必死に堪える。重い身体を支えられなくなり、その場で腰を下ろしてしまった。 

 休憩がてら、座りながら下段にびっしりと敷き詰められた本を眺める。

 急に足を止めて一息ついたからか、冷静になる。

 もし、ラノベやゲームのように、特別な能力を受け取ることができたとして、果たしてそれが自分のためになるのだろうか。チートな貰い物の力を誇示して無双することの、どこに価値があるのだろうか。それで成果を出したとしても、それは俺のおかげではなくて、与えられた能力のおかげということではないか。

 俺は冷静になった思考でそんなことを思うが、結局武道の心得がない俺は能力を貰わなくては何もできないという考えに帰着してしまった。

 よくよく見ると、それぞれどの本も違う色で、帯や側面が異なっているのに気づいた。

「この違いになんで気づけなかったんだよ…。アホすぎるーーーー!」

 俺は、あー!と大声を上げ、頭を抱える。

 こんなことなら、じっくり見て動けばよかった。そう頭の中で後悔する。 

 「でも、帯があったり、本の側面にある奇妙な記号?が描かれてる本は、多分、移動する前の本棚にはなかったからきっとここら辺にしか無い…よなぁ…。」

 俺はそうやってポジティブに捉えようとする。

 そして、よし!と立ち上がった瞬間、立ちくらみで、足がよろけ、その拍子に綺麗な紫紺色の本に手を掛けてしまった。

「あ……………。」

 刹那、本に手を掛けたまま青色の光に包まれ、最初の白い部屋にワープした。すでに俺以外の大半が戻っていた。



 


 

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