誓いの言葉
次回予告? アイツなら隣で寝てるよ。
「さぁさぁ月斗君! 今日は豪華なご飯にするよ!」
「どうして? 何かあったっけ」
「ううん、無いよ。無いからこそ、豪華にするの!」
「それは良いな。じゃあ豪華にするか」
ゴールデンウィークも終わり、ゲームでもリアルでも落ち着きを取り戻してきた頃、俺達は何気ない日常のひと時を楽しんでいた。
「はい、まずはイタリアン組ね。カプレーゼとアヒージョ、あとフランスパン持ってって!」
「ほいほい。鍋敷きどこだ?」
「そこ、手前の引き出しの中」
「あいよ〜」
ササッと作り上げられた料理達をテーブルに並べると、次は白身魚のフライと薄味の味噌汁を陽菜が持ってきた。
「これだけか? 緑が足りないと思うが」
「安心せぇい! ちゃんとサラダもあるぜぇい!」
「そうでござるか。安心したでごわす」
普段と変わらず楽しい会話をしながら、少し豪華な晩ご飯がテーブルに舞い降りた。
イタリアンな明るい盛り付けと和食の質素な見た目が相まった、異色とも言えるご飯になったな。
「「いただきます!」」
エプロンを外した陽菜が椅子に座ると、2人で一緒に食べ始めた。最早これは我が家のルールだ。
ご飯は一緒に食べましょう。
「ん〜、美味しい。ありがとう」
「ふふっ、どういたしまして。毎回お礼を言ってくれるから、作り甲斐もあるね!」
「そりゃあ、毎日ご飯を作ってくれることに感謝しないとか、人として終わってるからな。それにプラスして、俺は陽菜にお礼を言うけど」
少し照れくさくなりながらも、俺は陽菜に感謝を伝えた。
「およよ? デレモード来た?」
「残念ですが、食事中はモード変更不可です。俺の頭のCPUは旧型なんだよ」
「その割には演算速いよね」
「古き良き、旧型ですからな」
しみじみと昔を懐かしみながら飲む味噌汁は、陽菜の愛情がたっぷり詰まった優しい味をしている。
「ほんとに。昔から変わらず、カッコイイよ」
「およよ? デレモード来た?」
「残念ですが、私のデレモードは標準状態です。私の頭のCPUは最新型だからね!」
「そいつぁスゲェ。急な変化にも処理出来そうだな」
「もちろん! なんてったって、私だもん!!」
ニコニコと笑う陽菜を見て、俺も笑顔になれた。
やっぱり、俺の人生には陽菜が居てくれないと笑顔になれない。この人の存在が、俺の未来を明るくしてくれると思うんだ。
「ん? 月斗君?」
徐に席を立った俺は、30秒ほど席を立たつと、また直ぐにリビングへと帰ってきた。
「どうしたの?」
「いや、急激な変化にも処理出来るって言ったからな」
「あ、だから変な事したの? も〜!」
ずっと笑顔が絶えない陽菜の前で、俺もニコニコとした表情で小さな箱を取り出した。
「結婚してくれ」
「え......?」
カラン、と手から箸を落とした陽菜は、そのまま2分ほどフリーズしてしまった。
おいおい、急激な変化にも耐えられる最新型CPU搭載の陽菜さんの頭よぉ、処理し切れてないじゃん。しっかりしてくれよ。人生の一大イベントなんだぜ?
「あ、えっ、あ......ほ、ほん......とに?」
「あぁ。届けを出すのは高校を卒業してからにするが、プロポーズは今する。陽菜、俺と結婚してくれるか?」
再度目を見つめながら告げると、陽菜は涙をポロポロと零し始めた。
夕方、ユアストでもあれだけ泣いたのにまた涙を流させるとは、俺も悪い男になったもんだ。
「嬉しい......嬉しいよぉ......結婚するぅ!」
その言葉を聞いた俺は席を立ち、陽菜の左手の薬指にプラチナリングを嵌めてあげた。
「うぅ......ぐすっ、本当にプロポーズされちゃったぁ......」
「本当にプロポーズしちゃったな。俺も泣きそう」
「泣けぇ! 私と一緒に泣けぇ!」
「い〜や我慢するね。男は女の前では涙を見せんのよ」
もう、嬉しいとかいう気持ちより緊張が勝ってるんだ。
正直に言って、今から席に戻れるかも怪しいぐらいには足が震えてるし、目もチカチカとする。
でも耐える。今ぐらい、見栄を張りたい。
そう思っていると、陽菜は俺に手招きをするので近寄ると、今までに無いくらい熱いキスを貰った。
「大好き。愛してる!」
「俺も愛してるよ。これから先、ずっとな」
今度は俺からキスをすると、何とか落ち着きを取り戻せたので、ゆっくりと席に戻った。
「う〜、お母さんに報告するの、いつにしよっかな〜」
「まぁまぁ、プロポーズって言わば婚約だろ?」
「そうだね」
「婚約とはつまり、結婚の約束ってことだろ?」
「まぁそうだね」
「それってさ、去年の夏にもうやっちゃってるんだよな。太一さん達に向かって、陽菜をくださいって言ったからさ」
「......確かに!」
「とは言いつつも、俺もあれは婚約とは思ってないからな。ただの意思表明だし。多分、太一さん達も同じだと思う」
「つまり?」
「家族には盛大に報告しろ」
「いぇ〜い!!!!! どデカく報告しちゃう!!!」
俺の中では、これでようやく婚約だ。ちゃんと2人で生きていくことの約束でもあり、幸せになる約束。
「さぁ、今日は何故か豪華な晩ご飯だからな。お祝い気分で楽しく食べよう」
「うん!」
あぁ、今の俺と陽菜、世界で1番幸せな人間なのかもしれない。
だって、陽菜と一緒に居る空間は楽しいと思えるし、一緒に食べるご飯は凄く美味しいし、何だったら水ですら美味しいからな。
この先もずっと、陽菜にはこの思いで生きて欲しい。
俺と一緒なら、幸せだと思える......そんな人生にしてあげたい。
そして夜、普段通りに風呂に入り、いつもと変わらず一緒に寝ようと思ったのだが......何か怪しい。
「陽菜さん?」
「ん〜? な〜に〜?」
「何か企んでないか?」
「うん、企んでるよ。さっきは月斗君から前に出てくれたからね。今度は私から出ようかな、と」
どうしたものか。
吾輩、今日は、今日こそは乗ってもいいかなと思うんだ。何せ小生は今まで我慢してきたからだ。
陽菜の熱心なアプローチを受けるも、手を差し出すことはなかった。何せ、自分の中の僕が『まだ出番じゃない』と言っていたから。
でも、そろそろ俺も陽菜と横に並んで歩いた方がいいと思うんだ。その一環として、受け入れちゃおうかな、と。
でももしもの事を考えたら受け入れるのはダメなんだよな。まだ高校生だし。未成年だし。
一時の思いに身を任せない判断も出来ているはずなんだが......今日は許して欲しい。
俺は、陽菜の想いに応えたい。
「......いいよ、おいで」
「へ? いいの!?」
「......うん。でも今日だけだ。高校を卒業するまで、ちゃんと我慢すること。いいな?」
「分かった。ちゃんと自制心を利かせて、襲いたくても我慢する」
「ん。なら良し」
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父さんと母さん、太一さんと陽奈さんへ
父さん、俺はもう、男の子じゃなくなったよ。あなたの息子はちゃんと相手を見付け、成長したよ。誇ってくれ。
母さん、陽菜との生活で何か困ったら相談するよ。聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥って言うからさ。頼りにしてるから。
太一さん......ごめんなさい。陽菜に手を出しました。責任は取ります。陽菜の恋人として、夫として生きる為に。
陽奈さんは、結構オープンでしたよね。近い将来、孫の顔が見れるかもしれません。きっと陽菜に似て、顔も性格も良い子です。楽しみにしてください。
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心の中で4人への手紙を書き、俺は陽菜と共に眠りましたとさ。
次回、最終話。『おわりに〜』お楽しみに!
(敢えて何も触れないビビり作者)