神匠フェルの弟子 1 直感とやらかし
遂に鍛冶編です。
長くなるかもしれませんし、短くなるかもしれません。
ただ1つ作者が言えること、それは『書いてて楽しい!』です。
良ければ皆さんも楽しんでくださいね!
ソルに巫女服を贈り、俺達は3人でフェルさんの店へ向かっている。
「今日から暫くは生産メインでいこう。それで、ある程度極めたら王都に行かないか?」
俺は提案する。2人の意向を聞きたい。
「うん! それがいいよ。私も生産系スキルを取って、レベル上げがしたい」
「賛成です。それと私はお手伝いですね。必要な素材などありましたら取りに行きますよ?」
え? リルって1人でエリアに出れるのか?
「もしかしてリル、リルは1人でゴブリン狩ってくることってできる?」
「はい、出来ますよ?」
マジかよ......気づかなかったよ。
「じゃあ、鉄とか足りなくなったら行ってきてくれるか? その時に他の語り人相手に絡まれた時の対処法を教えるから」
対処法と言っても『無視』か『強引に来たら広場送り』の2つだけだがな。うちの子に手を出そうとするやつは許さない。
「はい! 頑張ります!」
「あぁ、頼りにしてるよ」
そんな感じで今後の予定を立ててたらフェルさんの店に着いた。
「「「こんにちは〜」」」
「らっしゃい! お、ルナか!」
「はい! 今日からお願いします!」
「おう! 準備はだいぶ前からできてるぞ! 早速やるか?」
「はい! フェルさんの技術は全部吸収したいと思います!」
運営陣ですら出来なかったことが出来るんだ。絶対に成し遂げたい。
「じゃあ私は色んな店で生産系スキルを習得して来るね! フェルさん、スキルが取り終わったらここに来ていいですか?」
「おう、勿論だ! それくらいの時間なら丁度ルナも疲れてるだろうしな。ソル嬢ちゃんが居てやってくれ」
ちょまっ
「はい! じゃあまた後でね!」
そう言って直ぐにソルは行ってしまった。
......顔は真っ赤だったけど。
「じゃあ始めるぞ、着いてこい」
そう言われ、着いて行ったのは店の奥。そこは正に『鍛冶場』と言える空間だった。空気は綺麗だ。だが密度が違う。重く、ずっしりとする。
フェルさんの経験が空気すら変えているのだろう。
「......ここは、凄いですね」
「だろう? ルナなら分かるだろう?俺という人間が」
分かる、と言うより感じる。
「はい」
「なら大丈夫だ。俺が100%を教えるに値する。ちゃんと覚えろよ?」
「はい! 勿論です!」
「よし、ならリル嬢ちゃんはこっちで座っときな」
そう言ってフェルさんは椅子を持ってきた。
「じゃあルナ、炉の前にある金床の横の椅子に座ってくれ。今鉄を持ってくる」
そして待つこと2分。
「おう、これが最初に扱う鉄だ」
そう言って持ってきたのは箱に入った大量の『錆び付いた剣』の様に見える。
「これって......」
「そうだ、ゴブリンからドロップする『錆び付いた剣』だ。こいつは初心者が扱うに相応しい鉄だ。弱く、脆い鉄だ。それ故にまず、『鉄とは何か』を学べる」
「それとな、まず知って欲しいのは温度だ。『鍛冶』スキルは感覚で『これぐらい』と、温度がわかる。だがな、それではダメなんだ。『感覚』で分かる温度は基本、アテにならん」
「きちんと融点に合わせて温度を調整してやれば、鉄は『喜ぶ』ぞ。喜んだ鉄はな、感覚の温度で熱し、鍛えた鉄の2倍の性能は誇る。まずはその違いを知ってくれ。そうすればルナは、鍛冶にハマると思うぞ」
「それと一つ、大事なことを敢えて言わなかった。それは今からやってけば分かることだ。気づいたら言ってくれ。正解か不正解か答えるぞ」
やべぇ! このゲームの鍛冶、奥が深い!
『スキルを使ってハイ終わり』では無いのが最高だ!絶対に極めたいな。愛剣を進化させたり出来ないものか。
「はい。まずはやってみて、失敗した経験を積みたいと思います。炉に火を入れるやり方から教えてください」
「勿論だ! やっぱりやる気がある奴ってのは輝いて見える! 期待してるぞ!」
「それで、火の入れ方だな。ルナ、お前さんは『上質な薪』は持ってるか?」
お、マネーレトレントからドロップするやつだな。
「はい、40個ほどありますよ」
「そりゃ良かった。普通の薪じゃあ火の質が悪すぎてな、ただでさえ粗悪な鉄が、本当の鉄屑になると思ってくれていい」
普通の薪、こっわ。
「分かりました。幾つほど入れたらいいですか?」
「うーん......本当はこれは『試してみろ』って言いたいところだが、教えると言ったからな。まずは2個入れてみろ。火はこの道具でつける」
そう言ってフェルさんは、点火棒の様なものを取り出した。
「これは魔道具だな。一種のアクセサリーと思ってくれていい。それでだな、火をつけてしばらくすると、火が赤く輝くタイミングがあるはずだ。そこで『錆び付いた剣』を入れるんだ。数は試してみろ」
「はい、やってみます」
俺はそう言ってフェルさんから点火用魔道具を受け取る。どうやらこれはMPを消費して火をつける道具のようだ。便利だな。
そして炉に『上質な薪』を2つ八の字に並べ、火をつける。火口は要らないのかな?
すると普通に燃えてくれた。良かった。
「ん、そのまま待機だな。今のうちに火を見て温度の確認でもするといい」
「はい」
そうして火を見守ること10分。火が赤く輝き始めた。
「あ、輝いた。さて、剣を何本入れようか。うーん......直感で50本」
俺はそう言って箱から『錆び付いた剣』を50本取り出し、5本ずつ火に入れていく。あ、炉の中にちゃんと坩堝は入っているからな。そこに入れているぞ。
そして剣を入れること10回、炉の中の火がオレンジに光り、ウィンドウが出てきた。
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『鉄のインゴット』Rare:5を精錬しました。
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「フェルさん、インゴットが出来ましたよ」
「......マジか」
フェルさんが頭を抱えてた。
「どうしたんですか!? 俺、ミスしましたか?」
「逆だ。なんでミスしないんだよ。お前が直感で入れた50本、あれは正解だ」
え!? マジですかぁ!?
「本当ですか!?」
「あぁ。じゃないとインゴットは出来ねぇよ。っかぁ! ルナはそれ程の人物か! 俺は直ぐに抜かされそうだな!」
それは言い過ぎだろう。多分。
「そんなことは無いですよ。それに追い抜いたとしても、これはフェルさんから教えて貰った技術です。それで何か良い物が出来たとしても、俺がやったとは言えませんよ」
「ありがとう。そう言ってくれると嬉しいぜ! ......じゃあ、インゴットの扱い方を教えよう。それとここからは『アイアンソード』の作り方を教えるぞ」
「はい、よろしくお願いします」
「じゃ、インゴットを金床の上に出してくれ」
「分かりました」
そう言って俺は『鉄のインゴット』を金床の上に出した。......これ、できた瞬間にインベントリに入ったのだが、めちゃくちゃ怖かった。
「よし、こいつを中の坩堝に入れ、溶かしてくれ。そして溶けたらこの鋳型に流すんだ」
「はい」
返事をして、俺はインゴットを火の中の坩堝に入れる。鉄の喜びがまだ分からない。知りたいな。初めての鍛冶でそういう奥義的なことを知ることは出来ないんだろうが、それでも知りたい。
そうだ、試してみよう。何事もトライアンドエラーだ。
「フェルさん、薪を追加していいですか?」
「お? いいぞ。やってみな」
そう言ってくれたので薪を3本追加した。
そして薪を追加して5分がたった時、『それ』は感じた。
タン! タン!
「ん?」
何か聞こえたような......
タン! タン!
やっぱり聞こえる。このタイミングで出すか。
「よいしょっと」
坩堝をトングで取り出し、鋳型に流し込む。
鋳型はインゴット1つ分で綺麗に収まった。
「フェルさん、この後はどうすれば?」
「『鍛造』だな。ハンマーで叩いて形を作る。ほら、これだ。やり方はまぁ、そのまま叩けば分かるだろう。最初なんだ、歪になっていい」
「はい」
フェルさんからハンマーを受け取り『カン!』『カン!』と叩いていく。
これ、かなり難しい。全然思い通りに行かない。
叩く以外で、何か抑えられないかな?
......あ、そうだ! MPは使えないかな?
試してみる。するとなんと、『使えた』
「よし、やるぞ」
MPを少しずつ、鉄を抑えるイメージで出す。
うわ、これかなり難しい。叩くのも難しいし、MPで抑えるのも難しい。
でも、凄く楽しい!!
カン! カン! カン!
カン! カン! カン!
これ、冷めて割れないのかな? と思ったが、そこはゲーム補正がかかっているようだ。助かるが、いいのだろうか。
ま、いっか。レイジさんが決めたことだろうし、俺が何か言うのはおかしいな。
そして15分ほど叩くと、ウィンドウが出た。
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『魔剣:アイアンソード』Rare:12を作成しました。
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は?
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プレイヤー『ルナ』がレア度10以上のアイテムを作成しました。
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称号『魔剣鍛冶師』を獲得しました。
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ああああああああ!!!!!
やらかしたぁぁぁ!!!!!
ってか何やこれぇ!!!!!
「......フェルさん。とんでもないものが出来ました......」
「ん? どんなのだ?......は?」
フェルさんも俺も、頭を抱えた。
俺は魔剣ができた事と、ワールドアナウンスで。
フェルさんは俺が魔剣を作ったことに。
「「......はぁ」」
2人揃って、溜息をついた。
ゲーム内時間1日でフラグ回収する銀髪のプレイヤーがいるそうです。
それと次回の後書きでなぜ、今回魔剣が出来たか書きたいと思います。ハッキリ言ってクソみたいな理由です。
では次回、『神匠フェルの弟子 2 魔剣作りは負けん。』です!お楽しみに!




