太陽
多分今までで一番短いタイトル.....ですかね?
控え室でゴロゴロしながらインベントリ操作速度を上げていると、遂に最後の準決勝......ソルと猫フードさんとの戦いが始まった。
「猫対狐。可愛い者同士の戦いが始まっちゃうな」
「大丈夫です。母様が勝ちますよ。だって、狐さんは可愛い上にカッコイイので。それに強いですし」
「それ、天狐の前で言えるのか?」
「......父様は一度、母様に殴られるべきです」
試合開始前の緊張する一瞬。俺とリルは見当違いの方向に会話のレールを敷いていた。
「でもこの猫フードって人、魔法使いっぽいよね? なら姉さんが近接戦に持ち込めば勝てるんじゃない?」
「チェリ、準決勝に来て『私近接戦無理なんですぅ』って人が居ると思うか? ここの戦いはもう、出来る出来ないの話じゃないんだ。やって当然の世界なんだよ」
「むぅ......じゃあ兄さんはどっちが勝つと思うの?」
「分からん。ただ、出し惜しみしない奴が勝つだろうな」
俺がガーディ君相手に、切り札であるクトネシリカの特殊技を使ったように、この試合もどちらが先に、上手く切り札を出せるかの勝負になるだろう。
戦闘経験ではソルの方が上だと思うが、ゲームへの理解度が猫フードさんの方が上の可能性もある。
「そう長くは続かないだろうし、煎餅でも食べて観ていよう」
「私の頭に欠片を落とさないでくださいね」
「大丈夫大丈夫。机の上で食べるから」
試合が始まったと同時に、俺はフーが焼いてくれた煎餅を齧った。
パキッと良い音を立てると共に、リルの頭へと欠片が舞い降りた。
「......あの」
「リルの居る位置も悪いよな。あ、猫フードさんが先攻取ったぞ。というかスピードタイプだぞこの人」
「父様?」
「ごめんなさい」
俺は櫛とブラシを使って、リルの髪に付いた煎餅の欠片を落とし、イグニスアローで焼却してやった。
あぁ、モフモフの耳がピンと立って、まるで怒っているようだ。怖い怖い。一体誰がリルを怒らせたんだろうか。俺にはヨクワカラナイ。
っと、そう思っていると今度はソルが魔法と共に居合抜刀を決めた。
「今のは痛いな」
「ですね。でもあの猫さん、かなり余裕のようですね。防御力が相当高いのでしょう」
「どうだろ。わたしにはがまんしてるようにみえるけど」
「ん〜、俺も我慢かな。あそこで怯んだら追撃の判断を下されるから、敢えて強気に出たんだろ」
「でもでも、追撃を誘導させるって手も無い?」
「無いな。痛みって、遠回りする思考をぶった斬る力があるからな。猫フードもラッキーと言ったところか」
でもソルの魔法を完璧に避けているのを見るに、彼女のAGIは相当な数値へと化けていることだろう。
ステータス上限値が設定されていたと思うが、あれは種族補正を抜きにしての数値だからな。
猫獣人......いや、虎か? とにかく、猫派生の種族はAGIにボーナスが乗るから、避ける速度に関して......は......
「......なるほど。猫フード、流石だ」
「どういうことですか?」
「アイツ、さっきの居合をわざと喰らってる。あの速度で動ける奴が、居合抜刀を避けれないとは思えない。だからこれは、猫フードの術中だろう」
「「「なるほど」」」
「ど〜」
上手いな、あの人。ソルのような思考から行動へ連結させるタイプではなく、俺と同じ、思考と行動を同時に処理しているのだろう。
だがこれでソルが不利になった訳じゃあない。なんと言っても、ソルは俺と何度も戦っている。そう、何度も。
「ほら、切れる手札を増やして混乱させているな。あれは俺や猫フードに刺さる技術だぞ」
「凄いですね。敢えて弱い魔法を使って魔力が少ないフリをするとは、母様の演技力に驚きます」
「女は生まれた時から女優って言うしな」
「それは別の意味だと思いますけどね、父様」
「知らん」
俺は敢えてリルから目を逸らし、試合に注目した。
映像には判断が遅れ、ソルの魔法で少しずつHPが削られる猫フードの様子が大きく映し出されている。
う〜ん、まだ何かある気がするんだよな。なんだろうか、この人の動きに物凄く違和感を覚えるんだ。
「お〜? お〜! やっぱり持ってたか、切り札」
猫フードは連撃に使っていたレイピアを仕舞うと、蒼色の刃のショーテルを持ち出し、凄まじい速さでソルの懐へ潜り込んだ。
しかし、やはりと言うか当然と言うか、ソルの反応速度も常人のソレでは無いので、普通に対応しているな。
「勝負あり、だな」
「分かりませんよ? まだ母様が勝つかもしれません」
「逆だ逆。猫フードの負けだ。例えあのショーテルに毒があろうと防御力無視の攻撃があろうと、ソルには勝てんよ」
「......どうして?」
「そりゃあ、ソルの目を見れば分かる。ほら、アップにして見せてやろう」
俺はカメラを弄ってソルの顔をアップにすると、可愛い顔が画面いっぱ......じゃなかった。本来は紅い瞳のはずが、今だけ紫へと変わっている。
......可愛い。
「何ですか? この目......」
「ユニークスキル『紫眼花』。効果は確か、HPとMPを1割消費して目から得られる情報量の増加と、1分間の思考加速だったかな?」
「「「「へぇ〜」」」」
「なんでパパはママのスキルをしってるの?」
「前に教えてくれた。4人が寝てる時にこっそり、な」
ソルは以前に、『秘密の話があるの』とか言って、このユニークスキルのことを教えてくれたんだ。
理由は俺のユニークスキル『悪魔崇拝者』を教えてくれたから、と言っていたが、別に隠してくれていてよかったのにな。
きっと、秘密にしておきたくなかったんだろう。可愛い奴め。大好きだ。
「まぁ、あの状態のソルに勝つのは難しいだろう」
「父様でも、ですか?」
「当たり前だ。俺は思考加速化系のスキルは持ってないし、使えたとしてもクロノスタシスだ。でもあれは時間を止めるから出来る技だし、使うMPがシャレにならん」
「なるほど。では今のうちに対策を練りますか?」
「対策ならもうしてる。この試合にソルが勝ち、俺と戦ってもソルは紫眼花を使えない」
「どうしてですか?」
「単純明快、使ったところで意味が無いから」
ソルは俺のことを知りすぎている。そのせいで、例え俺に対する手札を沢山用意しようとも、俺がその手札で倒せないことを理解しているからだ。
戦術に関しては俺はソルに負けない。だからこそ、ソルは俺相手に戦術勝負を仕掛けてこない。もし仕掛けたとしても、俺に勝てないから。
......だからこそ、技術勝負に持ち込まれると危ういんだがな。
「切り札勝負はソルの勝ち。ステータス勝負は猫フードさんの勝ち。両者一歩も譲らないように見えて、その実ソルが3歩はリードしているな」
「凄いね、姉さん」
「あぁ。ソルは凄いんだ。ソルが扱う戦術は、どれも綺麗に組み立てられるからな。それに技術というコーティング剤が塗られると、それはもう全然崩れない要塞だ」
「お父さんだからこそ、お母さんの強さを語れるね〜」
よせよ、照れるだろ?
「でも油断したら終わりなんだよな。猫フードさん、虎視眈々とソルの隙を狙ってやがる」
「虎フードさんになるのは母様でしょうか」
「上手いことを言うじゃないか」
ふんすっ、と鼻を鳴らして尻尾を揺らすリルの頭を撫でると、段々と激しく尻尾が荒ぶり始めた。
やはり可愛いな、リルは。子犬とも見間違える可愛さだ。
「父様? ぶち殺しますよ?」
「怖いなぁ。リルが可愛いと思っただけだろ?」
「そうですか? 何かこう、悪意を感じたのですが......」
「きっと疲れているんだ。テイマー部門であれだけ頑張ったんだし、もう少し休んだ方がいい」
「むぅ......分かりました。でも父様の戦いを観てからにします」
「あいあい」
危ない危ない。数少ないリルの地雷を思いっ切り踏み抜いてしまったぜ。それもこれも、リルが可愛いのがいけない。
全く、誇れる娘だ。
「お、狐式使ったな。終わりだ」
『そこまで! 勝者、ソル選手!!!』
可愛くガッツポーズをして勝利を喜ぶソルに、俺達は拍手を送った。
「もう決勝か。早いな〜」
「そう? ながかったきがするけど」
「戦ってると早く感じるんだよ。もっと遊びたい」
「子どもみたいですね、父様。可愛いです」
「だってまだ子どもだもん。あと可愛くない」
優しくリルとメルを抱きしめると、俺は皆の居る位置から少し離れ、正座をして深呼吸を繰り返した。
ここが畳でよかった。和風な空間は凄く落ち着くんだ。
だって、道場に居る時を思い出すから。
「ふぅ......最強、決めるとしますか」
それから俺は、決勝前までの見どころシーンを映す公式生放送を見ながら、皆と談笑を楽しんだ。
さぁ、遂に準決勝が終わり、決勝戦の開幕です。
ルナ君の全力とソルさんの全力がぶつかり合うシーンを、是非とも楽しんで頂けたらなと思いまsoon.
それでは次回『燃ゆる心に散る火花』お楽しみに!