用意周到
抱腹絶倒できなかったです.....ぬぅん。
「と、いう訳で......4人仲良くここで観てなさい。そして俺が帰ってきたら、全力で褒めてください」
「「「「は〜い」」」」
運営の配信を見る限り、どうやらここまでは1人で用意できる最高の戦力を、複数の相手に対して行使できるかどうかを測ったようだ。
そして準々決勝である今からは、テイムしたモンスターや結託する味方も居ない、完全な個人としての能力が求められるそうな。
だからこそのトーナメント形式で、今回の総合部門を進めるらしい。
「別に前みたいな乱戦でも良かったがな」
試合会場までの通路を歩きながら、誰に言うでもなく呟いた。
『ダメですよ。それじゃあルナさんだけの実力で勝ったって、そう認めてくれない人も出てきますから』
「それでもいい。そういう煩わしい小バエみたいな奴を黙らせられる能力も要るからな」
『蛮族思考ですね。いえ、蛮族至高?』
「誰が蛮族崇拝者や。この魔法崇拝者め」
『な、何を〜!? 別に魔法は崇高な物じゃないですし! ただの攻撃理論の一環に過ぎませんよ、このおバカ!!!』
「あ〜はいはい、すごいすごい。フーちゃんは偉いでちゅね〜?」
『......ソルさんにチクリます。ソルさんじゃなく、私に赤ちゃんプレイを求めた、って』
「チクるって、小学生の思考じゃねぇか。いや、小学生至高?」
おや? これは少々、マズいループに入ったのでは?......一旦落ち着くか。
取り敢えず、今回の相手が誰かによって、使う武器を変えようと思う。汎用性の高いステラノヴァを使うか、特攻上等クトネシリカ&布都御魂剣で行くか。
一度思考をフラットにして、会場へ行こう。
「フー」
『はい』
「信じてる」
『私もですよ。勝てると信じてます』
俺は負けない。
負けたくないんじゃない。負けない。
勝利の前に、俺は恥もプライドも全部捨てられる人間だ。
俺は勝つ。
勝ちたいんじゃない。勝つんだ。
これまで何度も負け、決して折れずに立ち向かった結果が勝利だからだ。
俺は弱い。
SPを振らず、ここまで来たから。
もうSPを振ったところで、もう俺の戦闘には大きく影響しないから。
俺は強い。
プレイヤースキルも、装備も強い。
ゲームでの生産はあまり好きではなかったが、ここでハマって極めたんだ。そして、他の誰にも無いような戦闘経験を積んできたから。
「ははっ、いつもと変わらねぇや。過去を振り返るだけ無駄だな」
努力は経験となって足跡を刻む。それは今の俺が教えてくれたこと。
誰に何をされようと、自分が何を誇ろうと、その全てが経験として俺の歩んだ道を教えてくれる。
「さぁ、楽しもう」
◇◇
『最強戦、総合部門準々決勝第1試合! 1対1の完全個人戦で最初に戦うのは! ルナ選手と太刀魚マン選手だぁぁぁ!!!!』
「よろしく。ルナさん」
「よろしくお願いします。太刀魚マン......さん」
「太刀魚でいいよ」
「じゃあよろしく。太刀魚」
初戦で俺と戦うのは、可愛いサメの帽子を被った、大太刀を背負っている女性のプレイヤーだ。
俺は『太刀魚マンじゃなくて、太刀魚ウーマンじゃないんですか?』と聞こうと思ったが、もう属性過多だから辞めておいた。
これ以上は、是非俺が負けた時にでも聞こう。
『それでは......両者、構え!』
太刀魚が5尺はあろう刃を抜くと、刃先から紅く染まり始めた。
「妖刀か。大太刀にもあるんだな。カッコイイ」
「でしょ? 私のお気になの」
ニコッと笑う太刀魚の顔は、殺意に塗れたドス黒い笑顔だった。
「そうか......大太刀か」
大太刀は俺も作ったことがあるのだが、ここで魅せられるほど上手く扱えないからなぁ。それに、下手にクトネシリカと夜桜ノ舞以外を使うと煩いんだよな、フー。
っとと、レイジさんがこちらの準備を伺ってる。
「あ、始めていいですよ。構えはもう出来てるので」
手をブラブラさせて伝えると、レイジさんは頷いて応えてくれた。
『はい、それでは......始めっ!!!』
「はぁぁぁあ!!!」
ブォン!!!!
先手は太刀魚が取った。
あの大きな刀からは想像も出来ないほどの速度で切り込んでくるとは、相当な熟練者だということが分かる。
「お〜、おわ〜、お〜」
俺は両手に小さなウィンドウを出しながら、太刀魚の繰り出す素早い連撃、魔刀術を避けた。
「何をしている?」
「準備。俺は戦闘に関しちゃアドリブが大好きなんだが、そこに刀が加わるとどうもロジカルになるんでな。悪いがもう少し攻撃しててくれ」
「クッ......そう。じゃあ死ね!!!」
「怖いなぁ」
この人、刀を振ってる時は凄く楽しそうだから時間稼ぎが出来るんだよな。有難いことに。
そうして1分ほど攻撃を躱し続けていると、俺の準備が整った。
「太刀魚。右」
「は?......ガッ──」
俺の言葉に太刀魚が反応した瞬間、俺は太刀魚の目の前に転移し、顔面を思いっ切り殴った。
「はい次。下」
「ヴフッ......あ......」
「はい後ろ。ほら右。次は下だよ?」
俺は宣言してから拳を握り、的確に太刀魚が苦しむであろうポイントを殴り続けた。
人間には弱点がある。それは正中線だ。
正中線は体の真ん中を通る、人間の弱点寄せ集めバーゲンセールのことだ。
代表的なのは鳩尾だろう。あの殴られたら呼吸が出来なくなって蹲る、あの部位。あそこも正中線を通っている。
「う、うぅ......」
「刀を落としちゃいかんでしょ」
「凄く......強い............どうして?」
「スキル補正。闘術を使ってたら進......神化した」
名前が【闘神】だもん。ただの進化とは言えないよね。
あれは女神アテナに認められなきゃいかんし、難易度も高い条件だから、一概にただの進化とは言えないだろう。
「スキル補正ってズルいよな。例え相手が盾を使っていても、極められた拳には敵わなくなる。だからこそ、戦闘系スキル部門が細かく別れてるんだろうが......何にせよ、補正は強い。強すぎる」
特に俺の持つ、『最弱無敗』との組み合わせが強い。
SPさえ振らなければ、幾らでもスキルレベルを上げられるんだからさ。
「はぁ、はぁ......強い」
「どうも。最強の座を狙いに来ました」
「レベルは幾つなの? あとステータス」
「レベルは499。ステータスはカスだから言わない」
「3万以下?」
「当たり前だ。そんなに高かったらここまでのやつ瞬殺だから。まぁ、この大会じゃステータス制限に引っかかるから何とも言えんが」
「いや、どれも瞬殺だった気が......いいや」
あれは武器とプレイヤースキルによるゴリ押しだ。
俺の言うステータスによる瞬殺は、作戦も技術も無しに、ただステータスの高さだけで敵を薙ぎ倒すことを指す。
爽快感があるかもしれないが、楽しくはないからな。
楽しいと気持ちいいは別物だ。俺は楽しいを求めて戦っているんだから。
「さて、では終わらせようかな」
「......ん?」
「頑張って生きてくれ。ショータイムだ」
俺は布都御魂剣を抜刀すると、真っ直ぐに床へ刺した。
すると刺した地点から大量の水が湧き出し、辺りが凄まじい勢いで水浸しになった。
「水が何? この程度全く影響し......な......」
「おやおや、ビリビリし始めたねぇ。俺も足がプルプルと震えてきたよ」
刃からは雷のエフェクトが出ていないにも関わらず、俺と太刀魚の立つリングに電撃が走った。
そしてひとしきりビリビリし終えると、今度は上空から赤黒い雨が降り注いできた。
「おっと、これは酷い雨だ。触れると猛毒状態になってしまう」
「ゲホッ、ゲホッ......重い......」
「毒の症状、苦しいね。でも次は......あぁ怖い、氷の針が降ってきた! 恐ろしい!」
リング一帯に夥しい量のアイスニードルが降り注ぎ、的確に太刀魚の体を刺した。
無論、俺にもアイスニードルは降ってくるのだが、行動詠唱に設定したサーキュレーションにより、直撃しても痛くない速度に抑えられている。
「さて次は......炎の雨だ! これは熱い!!」
次に降り注いだのは、大量のイグニスアローによる絨毯爆撃。こちらは全てアウラで強化されており、俺自信を守る為のサーキュレーションは意味を成さないほど熱い。
でも俺の魔法だからな。減るHPはほんの少しだ。それも直ぐに回復する。
「この後は......って死にかけてんのかよ。折角のマジックショーが途中で終わりかぁ」
『いつも思いますけど、ルナさんの行動詠唱切り替えって頭おかしいですよね。普通、攻撃を避けながらあの数を使うのは無理ですよ?』
「出来るからいいんだよ。俺の強みは魔法にある」
『ホント、羨ましい能力ばかりですよ』
俺も他人視点だったらそう思う。だからこの人相手に魔法で遊んだのだ。
別に大太刀を使う太刀魚を煽ってる訳じゃないぞ? 煽るならそもそも攻撃を躱さずに受けるからな。
だからこれは、ただのショーなんだ。
切り替わる魔法の雨に、苦しむプレイヤー。
最っ高に気持ち悪いな!!
「魔法で遊ぶのはこれが最後だ。じゃあな、太刀魚」
ここから遥か上空、雲の中に浮かぶ黄色い魔法陣は、何重にも重なった層を成し、俺の放つ魔法を強化した。
そしてその魔法は別の魔法により指向性を持ち、的確に相手を貫かんとして舞い降りた。
「『サンダー』」
バガァァァァァァァァン!!!!!!!!!
強烈な破壊音と奏でた雷は、太刀魚を丸焦げにした。
......あと俺も結構ビリッとした。
『そこまで! 勝者、ルナ選手!!!』
「ふぅ、終わった。俺は何で魔法で遊んだのか覚えてないが、どうしてなんだろうな」
『さぁ? 最初の時点で勝てると思ったからじゃないです? ルナさん、本気でピンチになると無意識に武器を出しますからね』
「まぁな。でも今回はそこそこ楽しめたし、満足かな。ところで、地面にアクアスフィアを出すの、もうやらないと誓ったわ」
『どうしてです?』
「維持するのに魔力をゴリゴリ使うから。今の試合、1番魔力を使ったのってアクアスフィアだぞ」
地面から水が湧き出る演出の為に用意したアクアスフィア。あれの維持に、俺の持つMPの7割が持っていかれた。
俺、もう魔法で遊ばない。魔法の維持なんてもうしない。
『全くもう。今度、魔法の維持の仕方に関しても教えますよ』
「それは有難い。よろしく頼むよ、先生」
『先生......いいですね! その呼び方、好きです!』
「俺は嫌いだ。まぁなんだ......よろしく」
『はい!』
布都御魂剣の切っ先に付いた土を払ってから納刀し、俺は控え室へと戻った。
もう、これ以上遊ぶことは出来ないだろう。ここからは本気で戦わないと、負ける未来が見える。
「決勝で会おう、ソル」
俺はトーナメント表を見て、俺から反対側に名前があるソルの文字に、小さく呟いた。
太刀魚マンは大太刀でモンスターも人も薙ぎ倒す、ヤベー奴です。
次回『秘められた力』お楽しみに!
(投稿時間がバラバラで申し訳ないです)