ラグナロク
誤字報告、超感謝の舞。
「それじゃあパパ、いっぱい倒してくるね」
「おう、行ってこい。俺は反対側でモゾモゾするから」
「ダメ。ちゃんと戦って」
「はいはい」
総合部門本戦第1試合。およそ100人によるバトルロイヤル形式の戦闘を行い、上位8人が次の舞台である準々決勝に進める戦い。
俺はこの試合こそが準々決勝の扱いになると思っていたが、やはり人が多すぎるのか、俺の予想とは違った。
「さてさて、他の人はテイムモンスターを出さないみたいだし、ここはメルに頑張ってもらうかね」
『娘を利用するとは、悪い人ですね。ルナさん』
「利用してないし。メルにピッタリの出番を待っていたら、総合部門になっただけだ」
あちこちから飛んでくる魔法を斬り落としていると、余裕を見てフーが茶々を入れてきた。
ちゃんと心の余裕がある時に話しかけるあたり、フーも索敵してくれているのが分かる。
『まぁ、それもそうですね。メルさんが本気で戦えば......ラグナロクが起きますよ』
「世界終わったな」
俺は魔法部門で初めて使った、『終焉』の魔法。
あれは神龍の放つ、最強で最悪の魔法だ。
喰らえば即死。掠っても即死。例え指先だろうと、当たったら即死。
正に龍神魔法の奥義とも言えるあの魔法だが、プレイヤーが使うには些か良くない。何せ、消費MPが恐ろしく多いからな。
『終焉終了(終わりの終わり)』だけで30万だぞ30万。
アクセサリーをモリモリ着けて、ようやく使えるか使えないかのラインだぞ?
あんなの、普通のプレイヤーは使わない。というより使えない。
『ルナさんも使ったあの魔法、ポンポン使ってますね』
「だな......ブラックホールがいっぱいだぁ......」
広大な森林エリアに、幾つもの真っ黒な球体が出現している。あれはメルの魔法だ。世にも恐ろしい、神龍の魔法だ。
「巻き込まれた語り人諸君。すまないね」
『あの戦いを生き残っても尚、ここで無差別に終わらされるとは......可哀想です』
「ホントだよ。一体誰があんなことしたんだ?」
『ルナさんですよ!!!!!!』
「いや俺じゃねぇし。本気で暴れたの、メルだし」
『でもルナさんがメルさんに『殺れ』って言ってましたぁ〜。私はルナさんが悪いと思いまぁ〜っす』
「ウゼェなこの刀」
それからも、森にボコボコと穴が空くが、俺とフーは依然としてお喋りをしていた。
ただし、人を斬りながら。
「──パパ、パパ!」
「おう、おかえり。時間切れか?」
「うん。あとね、フェンリルつれてるひとがいた」
「はいよ。その人は俺が倒すから、メルは他の人を引き続き頼むわ」
「うん!」
少し怪我をしているメルが俺の元へ走って来たので、AGIが高い攻撃をしやすい風龍核を渡し、頭を撫でるついでに怪我を治した。
「メルのVITでも中々な怪我をさせているのを見るに、やはり敵は強いな」
『そりゃ最強を決める戦いに、メルさんに傷を付けられないほど弱い人が出る訳無いじゃないですか』
「まぁな。少し心配だし、次は俺のサポートに回らせるか」
少し心配と言ったが、内心は活火山と南極くらい温度差のある意見を持っている。
1つは、神龍人族なのだから、そう簡単には死なないという冷たい考え。もう1つは、何としてもメルを守り、その上で敵を全員倒す熱い考え。
口ではメルを守ろうとしているが、冷静な思考は前者を取りそうだ。
「こんな時、ソルはどうやって考えるんだろ」
......いや、違うな。ソルも俺と同じ立場になった時、『ルナ君ならどうやって考えるんだろ』と言うはずだ。
俺とソルは、基本的に2人で意見を出し合うことが多い。
その中でも特に、俺達に無いものを考える時は、どちらからも意見が出ない時がある。
今回の俺達に無いもの......それは本物の子ども。
故に俺はソルの意見を聞きたくなってしまった。分からないから。
「仕方ない、ここは思い切ってメルに直接聞くか」
『それが1番ですね。さぁ、南西方向で2人戦ってます。あれを倒せば終わりですよ』
「分かった。ありがとう」
『いえいえ』
別にいいんだ。ここじゃメル達は俺とソルの子どもなんだし、リアルで出来ない対応が出来るのが強みなんだから。
それに──
「俺という人生に於いて、リルやメル、ベルは大切な娘だ」
◇◇
『そこまで! 準々決勝に挑むのは......?』
『五十音順で言うね! ガーディくん選手、今日犬子くん選手、ソルちゃん選手、太刀魚マンちゃん選手、猫フードくん選手、マサキくん選手、弥生やよ〜ちゃん選手、そして......ルナくん選手!』
『以上の8名が、準々決勝へと進出しますッ!!!!』
途中、凄く気になる名前の人が居た気がするが、ここはグッと飲み込んで切り替えよう。
「知ってる人は4人だけか。個性の強い名前の3人が知らない人だ」
『犬子さんも中々に個性が強い名前だと思いますが......』
「知らん。あの人の名前は何度も聞いてるからな。寧ろそれが普通だと思うレベルで印象に残っている」
『それでは戻りますか。メルさんに聞くんでしたよね?』
「そうだな。っていうかメルはどこだ?」
「ここ」
......ビックリした。俺が体重をかけている木の後ろに居たんだな。
俺、今一瞬だけ心臓止まったかと思ったわ。ドキッ! とかそんなレベルじゃなかった。ドクン......って、もう鼓動が止まる1歩手前の動きをしてた。
「メル、ありがとうな」
「ううん。たのしかったからいい」
「それ良かった。あと、人が言おうとしてることを先読みして答えるの、止めような」
メルを信頼しているとは言え、この試合での扱いは酷かったからな。せめて謝罪して撫で撫でしてあげようと思ったのだが、先に立ち回られてしまったぜ。
テイムした時と比べて、本当に優しい子になったな、メル。
賢さは以前より少しずつ学んでいるのが分かるが、優しさやコミュニケーションを取ろうとする意識は、昔の何倍も強くなっている。
これが......成長、なんだろうな。
「あ、おかえりなさい! 父様、メルちゃん」
「おかえり〜。観てたよ〜、凄かったね〜」
「おかえり。兄さんの仕事量とメルちゃんの仕事量、100倍くらい差があったね」
控え室に戻った瞬間、チェリにグサッとくる言葉を頂いた。
「チェリちゃん? 父様は先の事を考えて動いているのです。ここで無駄に疲れるのは得策じゃないでしょう?」
「そう? ここで負けたら終わりなんだから、全力で行くものだと思ってたけど」
「それもそうですね。ですが、父様は強いです。勝てる見込みの無い試合で、わざわざリスクを犯す人ではありません」
「確かに。リルちゃんの言う通りかも」
何だこれは。
控え室が和室となっている上に、リルとチェリがバチバチに議論を交わしているんだが。
2人の議論の発端の俺としては、『勝ちたい』としか思っていなかったと言いたいが、それを言えばボコボコにされる気がするんだよな。
よし、賢く行こう。メルみたいに。
「メル、次は俺のサポートに来て欲しいんだが、どうだ?」
「え? ふぇりひゃんやないの?」
「あるゑ? 次もメルが出ると思ってたんだが......」
モサモサとお菓子を食べているメルは可愛いのに、人選が本気で勝利を掴もうとしているのが恐ろしいな。
リルかニクスを推薦すると思っていたが、まさかのチェリとはな。どうしたもんか。
「チェリ、お前はどうしたい?」
「メルちゃん次第かな。メルちゃんはどうしたいの?」
「おふぁしふぁべたい」
もうダメだ。お子様モードに入ってやがる。
こんな状態で戦闘させても、俺に流れ弾が被弾しそうだ。
「じゃあリルとチェリでジャンケンだな」
「お父さ〜ん。私は〜?」
畳に座ってクッキーをひと齧りしていると、ベルが後ろから抱きついてきた。
「ベルは特殊すぎて大会に出られません」
「そんな〜」
ずるずると床に倒れ込んだベルは、救いは無いかと、俺の膝に顔を擦り付けた。
凄く......凄く可愛いんだけど、救いはありません。
だって、運営の判断なんだもん。大悪魔は出しちゃダメって、うんえーさんが言ったんだもん。
ぼくたちプレイヤーはね、うんえーのしたにいるの。
「出たかったな〜......大会」
「次があるさ。だからそう落ち込むな」
「つぎ〜?」
「あぁ。俺が最強の座を維持する戦いがある。その時にはベルも出れるだろうし、活躍出来るはずだ」
来年には運営側になっていそうだが、何とかしてプレイヤー側で居られないか、相談しないとな。
っと、2人のジャンケンが始まりそうだ。
「「じゃん......けん......ポン!!!!!」」
「やったぁぁぁぁぁああああああ!!!!!! 勝ちましたぁぁぁああああ!!!!!!!!」
「負けたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」
「うるさ。コイツら準々決勝と準決勝と、どっちか1回は確実に出れるに何やってんの」
ただ順番を決める為のジャンケンだろうに、どうしてこの大会で最後まで戦うかのような雰囲気を出してたんだ?
──そう思っていた矢先、こんなウィンドウが出てきた。
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
準々決勝からは、テイムモンスターの参加が出来ません
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
「......黙っとこ」
次回『用意周到、抱腹絶倒』お楽しみに!