戦場を駆ける少女
諸事情により2日ほど更新できませんでした。
でももう大丈夫です。完結まで書く時間を確保したので!
楽しんでくださいね!
「リル、体調は大丈夫か?」
「はい、父様。もう魔力も生命力も全快です!」
「それはよかった。でももう少し休んどけ」
「いえいえ、大丈夫です。バッチリですよ?」
「いやいやいや、いいから。もう少し休んでなさい」
総合部門が始まる少し前にログインした俺は、ソルを部屋に呼ぶ前にリルと喋っていた。
テイマー部門であれほどのダメージを負ったリルに、労いの言葉とモフモフを触らせて貰おうと思ったんだ。
ポーション以外なんでもアリと言った総合部門に、リルが出たいのかも聞きたいしな。
「もう、父様は私のことが好きすぎです。いつか母様に刺されますよ?」
「俺のソルに向ける愛情と、リルに向ける愛情は別だからな。お前はこう......可愛がる? みたいな感じだな。あと相棒」
「相......棒......」
「あぁ。この枠はソルでも勝ち取れないポジションだぞ? 俺としては、ソルはライバルだからな。リルは唯一と言ってもいい俺の経験を知る人でもあるし、もっと自信を持て」
アルトム森林で地獄を見た、リルとの鬼ごっこ。
『ただの遊びです』と言われ、着いて行ったらモンスターの殺戮。
挙句の果ては、両者の技術向上という名目で始めた、ただの殺し合い。
ここまで共に戦い、競い合った仲で、相棒と呼べなければ何を相棒と呼ぶ?
「で、どうする? 総合部門、出るか?」
「......いいえ、辞めておきます。私は父様と違い、1人で沢山の相手をするのに向いていません。ですから、その戦いは相棒である父様に託します」
「言うじゃねぇか。分かった、任せろ」
「はい! 頑張ってくださいね!」
そうしてリルと入れ違いになる形で、ソルが俺の部屋に入ってきた。
どうやら今回は巫女服のようだ。とても似合っている。
「よっ、かわい子ちゃん。お茶してく?」
「やぁ、イケてる君。もっと熱い事をしようよ」
「ハハ〜ン、キスとかかい?」
「ノンノン、熱いバトルさ......ルナ君、負けないからね」
「当たり前だ。お前が俺に、負ける前提で戦ったことなんか無いだろうが」
「ふふっ、確かに。それはそうかも」
小さく笑う陽菜の頭を撫でると、タイミング良く休憩時間終了のウィンドウが出てきた。
ここからはソルが敵となる。次に恋人として会えるのは、総合部門が終わった後だ。
自信を持ち、緊張しないように自分の中の理想より2段階低いノルマを作り、それをこなす気持ちで行けば勝てるはずだ。
「行こう。最弱最強の力を見せ付けてやる」
「ふふっ、何それ。別にルナ君は弱くないよ?」
「いいんだよ。これはただの、自己満足だから」
◇◇
『さぁ、いよいよこの時がやって参りました! 本武術大会、最高にして最恐。語り人の持つ、アイテム以外で最強を競い合う、総合部門の開幕ですッ!!!!!』
轟音の様な歓声と共に、ルール説明のウィンドウが全プレイヤーの前に出てきた。
『ルールは単純。ポーション系統の回復アイテムの使用を禁止。他はなんでもアリの戦いです! あ〜っと、心配ご無用。装備品の付与効果による回復はアリですからね! なんと言っても、消耗品ではないですからね!』
ここまで聞いていると、俺の頭に1つの疑問が浮かんだ。
「これ、『反転の横笛』はどうなるんだ?」
◇━━━━━━━━━━━━━━◇
『反転の横笛』は使用可能です。
◇━━━━━━━━━━━━━━◇
対応早っ! ほぼノータイムで俺の呟きに答えが返ってきたぞ!?
でも、これで分かったことはある。それは、俺が真っ先に狙われる可能性を限りなく0に近付けられるということだ。
少女の......テスカの姿であれば、ソル達ぐらいしか俺の存在を見抜けないからな。
「鏖殺天使パート2、いっちょやりますかね」
弱そうな敵を狙って倒す? 漁夫の利を狙う? 誰かと徒党を組んで戦う?
......バカか、鏖だ。
「少女の姿で戦場を駆け回れば、それだけで相手の思考は乱せる。あぁ、俺の持つ全てを使ってでも勝つぞこんにゃろう」
インベントリ上部に女の子用の服をセットした俺は、息を潜めながら予選開始を待った。
『これより、総合部門予選A、B、Cブロックの試合を開始します! このタイマーが0になった瞬間、予選会場へ転移されます! では、タイマースタート!!!』
手元のウィンドウで10秒のカウントダウンが始まった。
これは勝利へのカウントダウンなのか、はたまた死の宣告か。それは誰にも分からない。
体は弱く、心は強く。
幼い見た目からは想像も出来ない攻撃を繰り出すことで、この予選では圧倒できる結果を導き出せるはずだ。
「早く始まれ、早く始まれ。もう口の中が戦闘の味なんだよ」
3......2......1......
『ゼロ!! 試合開始です!!!!』
カウントダウンが終わった瞬間、俺は背の高い草が生い茂る、広大な草原に転移された。
ピィ〜〜〜♪
小鳥の鳴き声の様な音を出して身長、性別を反転させると、俺は見事に草の中に埋もれてしまった。
「しまった、予想より草が高ぇ。シリカ」
『なになに〜? どしたのテスカちん』
明るい口調のシリカに、南極の吹雪の如く、冷たく鋭い気持ちを声に乗せて俺は言った。
「サーチを切って集中するから、報告頼む」
『任せて』
短く返事をしたシリカは、まるで刀全体が氷で出来ているかの様な雰囲気を纏った。
最強のプレイヤーと、最強の神がコンビを組めば、この世界ではどれほどのパワーになるだろうか。
まぁ、恐ろしいことこの上ない結果になるだろうな。
『右2人。70メートル』
「ん」
シリカの報告を聞いて0.5秒程度でアルテを取り出した俺は、敢えて『必中』を切ってから矢を放った。
『当たり。でも死んでない』
「もうじき死ぬ」
『まさか......毒矢?』
「正解」
バジリスクモドキの劇毒液をたっぷり塗ったこの矢なら、刺さった時点で相手は大ダメージを喰らう。
ただ刺さっただけでも痛いのに、更に劇毒付きとなれば、あのプレイヤーはもう終わりだ。
『ありゃま、本当に死んじまったよ。凄いね!』
「ここが背の低い草だったら位置バレするけど、幸いなことに1.6メートルはあるからな。この作戦で行こう」
『むっ......女の子口調じゃない』
「今回は見逃してくれ。頭を使いたい」
『それならいいよ! 頑張ってね!』
軽いなぁと思いつつも俺はクトネシリカを腰に提げ、報告を受け取り次第、相手に劇毒を塗りたくった矢を当て続けた。
そして30分もすると、俺の存在は少しずつ死んだプレイヤー経由で広まっていった。
「かくれんぼタイムは終わりだ」
『もう終わっちゃうの〜?』
「仕方ないだろ。金髪の幼女がヤベーなんて知れ渡ってんだから、今更銀髪の男がヤベーなんて言われても問題ないんだからさ」
『お兄さんは元からヤベー奴だったけどね!』
「......反論出来ぬ」
言うじゃないか、シリカ。今度久しぶりにお前と戦うか? この前やった時は、草原の土が抉れ放題になったから途中で辞めたが、次はどちらかが死ぬまでやるぞ?
まぁ、今はそんなことに思考を割かないようにしよう。
「さてさて、銀髪せんせーの魔法には非常に便利なものが御座いまして。こちらをご覧下さいな」
『どれどれ〜?』
「はい、名を『ヘルバハーベスト』と言うのです」
俺が超広範囲に渡って魔法陣を広げると、その範囲内にある草が全て、根元だけを残して刈り取られた。
「あら、隠れている芋虫を見付けましたねぇ?」
『燃やせ燃やせ〜!!』
「それも良いですが......今回はこちらを使います。【軍神】『魔力刃』......オラァ!!!!」
青白い魔力の刃は、俺の全力の一振りによって物凄い速度で禿げた草原を駆け回った。
──ぎゃぁぁぁぁぁああ!!!!
──逃げろ、逃げろぉぉぉぉぉ!!!!!
──ヤバイヤバイやばいやばい......あぁぁぁぁ!!!!
「クックック......芋虫の三枚おろしの完成です」
『不味そう』
「シンプルな意見だな。俺もそう思うが」
真っ赤なポリゴンを撒き散らして死ぬプレイヤーを眺めていると、どこからともなく大量の矢と魔法が飛んできた。
「邪魔すんな。やり返すぞ? 来い、セレナ」
『はいはい、軍神の効果が切れる前に撃って』
「分かってる。『魔力矢生成』」
純粋な魔力で矢を作った俺は、魔法達が飛んできた方向へ向かって数百本もの魔力矢を放った。
もし必中が無ければ、1本当たっていたら御の字だろう。
だが、必中があれば?
「ふぃ〜、24キルゥ! 気持ちいぃ!!!」
『1人殺り損ねたけどね。大丈夫なの?』
Bブロック予選、生存人数26人の内24人を倒した訳だが、あと1人だけ敵が残っている。
でも大丈夫。俺には、俺達には心強い味方が居る。
そう、ソイツこそ──
「殺れ、メル」
「ん。『滅光』」
『決まったぁぁぁぁぁぁ!!!!! いち早く総合部門、予選試合を終わらせたのは......我らがルナ選手だぁぁぁぁぁぁぁあああ!!!!!!!』
「「『いぇ〜い』」」
『仲良いわね』
総合部門に関わらず、全部門に於いて出会いたくないモンスターランキング1位(リル調べ)の業績を持つ子ども......それがメルだ。
「パパ、あとなんにんころすの?」
「いっぱいだ。総合部門は1番人数が多いからな。予選だけで200ブロックあるぞ」
「うぇ......そっか」
「露骨に嫌そうな顔すんなよ。可愛いんだからニコニコしとけ」
「ふふ......そう?」
冷静を装いつつも口角が上がっているメルの頭を撫でた。
「あぁ。自慢の娘だ」
「うれしい。あとでママにつたえる」
「そういうところも可愛いんだよなぁ......全く」
もし、こんな子どもが自分の家に居てみろ。24時間365日、付きっきりで構いたくなっちゃうだろ?
え? ならない?......え?
「次は準々決勝だ。ソルも来るはず......というか猛者しか来ないから、次はメルの出番だぞ」
「まかせて。かくせいしたメルはだれにもとめられないから」
「俺でも?」
「......とまる」
くぅ! この可愛さ、天下一品でござるなぁ!!!
そうして俺達は、考えうる最悪のパターンを想定しながら控え室へと転移された。
俺の娘ズで最強の戦闘力を持つメルには、期待が膨らむばかりだな。故に何かあった時にリカバリーが出来るように、俺が頑張らなければならない。
次回『ラグナロク』お楽しみに!