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Your story 〜最弱最強のプレイヤー〜  作者: ゆずあめ
最終章 最強決定戦
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勝たなくていい。負けるな




「これはマズイな。おマズマズナマズだぞ」



予想外なことに、ラキハピさんがソルを打ち倒してしまった。俺の中でラキハピさんが強いイメージが無かったせいで、口がポカーンと開いてしまった。



「母様、負けちゃいました」


「ママないちゃう? だいじょうぶかな?」


「姉さんはこれぐらいじゃ泣かないよ。でも、あそこまでコテンパンに負けたら、少しはショック受けてそうだよね」


「うん......心配だね〜」



精査だ。ラキハピさんの出したモンスターから戦略を導き出して、仇討ちをしなければ。



「オートマタに武器を持たせて前衛を任せても、後衛のあの魔法は何だ? ソルの妖を一撃で倒す威力を持っていながら連発するなんて相当だぞ」



ラキハピさんが出したモンスターは2体。

完全武装したオートマタと、浮遊する謎のフヨフヨとした、柔らかそうなモンスターが1体だ。


オートマタに関しては満遍なくステータスが高いから採用した理由は分かるのだが、フヨフヨモンスターはどういうポジションなのか分からない。


さっきの戦闘を見るに、後衛の高火力モンスターだとは思うが......



「......スライム......ではないよな」


『む? あれはスライムで合っているぞ? 王よ』


「はぁ!? 俺、あんなスライム見たことないけど?」


『当然であろう。あれは変種も変種、希少種に分類される者だからな。名は『精霊スライム』。魔法攻撃に特化しており、下手をすれば地形が変わる魔法を使うスライムだ』


「精霊......」



どういうこっちゃ。何でそんなスライムをラキハピさんがテイムしてるんや? 前にアカウントを借りた時、テイムモンスターの欄には居なかった。



「ニクスは精霊スライムの弱点や出現場所は知ってるのか?」


『無論、知っている。だがしかし、今の王の配下......ゴホン。家族では、奴を倒すのは難しいぞ?』


「別にいい。教えてくれ」



俺が机の上にニクスの好物の1つである、モスベリーを2粒置くと、ニクスはパタパタと目の前に飛んできた。


そしてモスベリーを1つ咥えると、満足そうな顔でこちらを見た。



『精霊スライムの弱点はただ1つ。核だ。これは出現場所にも関わることだが、精霊スライムは生物の死体から生まれる、言わば霊的な存在だ』


「ふんふん」


『従来のスライムの弱点と同様だが、精霊スライムの核は見えず、その上自身の体から核を切り離すことも可能なのだ』


「......無敵か?」


『フッ、その無敵を倒すのが王とその家族だ。精霊スライムの核は魔力反応を持つ。つまり、魔力反応を見れる存在なら誰でも勝てる』



終わった。終わりました〜! 対抗策がありませ〜ん! 僕の負けでぇぇ〜っす!!!

とは言わないが、精霊スライムの対処をしながらラキハピさんを倒せるかどうか、それが鍵になると思うぞ。


モンスターを倒すより、テイマーを倒した方が早いしな。



「急に無理ゲー化したな......あっでもメル、お前って魔力反応見れたよな?」


「むり。せいれいはかくれるのがうまいもん。メルじゃみれない」


「マジか......ん? 待てよ?」



オイオイオイオイ、ボクちゃん、気付いちゃったよ?



「リル、次はお前の出番だ」


「私ですか? 私は決勝に出るんじゃ......あ!」



俺の意図を察したリルが、耳と尻尾をピンと立てて反応した。



「そう。メテオラスだ。あれならサーチが使える」



ボクちゃんとしたことが、メテオラスの存在を忘れていた。

ソルとリルの箒に備わっているサーチの魔法なら、精霊スライムの見えない核でも捉えることが出来るだろう。



「ということは兄さん、私が決勝に?」


「あぁ。チェリは唯一外部の人間が知らない存在だから、隠し球としてアドバンテージが取れるからな。リルと同じ、オールラウンダーとして頑張ってくれ」


「分かった」



そうして次に、ラキハピさんの隠している第3のモンスターについて考えていると、リルが尻尾でぺちぺちと俺を叩いてきた。



「どうした? リル」


「......チェリちゃんがメテオラスを使ってはダメなのでしょうか......私、父様と決勝に出たいです」



消え入りそうな声で、先程の意見に対抗してきた。

流石の俺も、これには悩まざるを得ない。あのリルを決勝で出すか、メテオラス持ちということを加味して準決勝で出すか。


悩ましい。



「いいよ。なら私が準決勝に出る。リルちゃんからメテオラスを借りて出る。それでいい?」


「それは......そう、ですが............でも!」


「どっちなの? 兄さんと決勝に出たいのか、出たくないのか。別にどっちを選んでもいいけど、私が準決勝に行けば最悪負けるからね?」


「うっ......うぅ......」


「オロオロしても分かんないよ! ハッキリして!」


「そっ、え......わた、私は......」



「黙れ」


「「っ!?」」



喧嘩をし始めた2人に、俺は怒気を孕ませた声で黙らせた。



「喧嘩するなら2人とも出さん。黙ってここで観てろ」


「それは......嫌だ」



チェリの言い分も、リルの心の内の悩みも分かる。

自分の中の気持ちと戦い続けているリルに対して、現実的な考えでズカズカと切り込んだチェリ。


2人の想いも分かるが、今は静かにしてくれ。



「準決勝はリル、お前に頼みたい。これが正しい選択だとは言えないが、俺はこの案を推す」


「は、はい」


「最終決定はお前が決めろ。決勝とか準決勝とか置いて、純粋にお前が戦いたいか、その気持ちで考えろ」



どっちに転んでも構わない。リルのメテオラスだって、9割が俺の魔力で育ったチェリなら専用装備効果を破れるだろうし、リルが出たらそれは直ぐに解決する問題だ。


俺としては、俺と同じように魔法が強いリルに、精霊スライムの相手をして欲しい。



「......出ます。準決勝に、私が出ます」


「そうか。ありがとう」



全く、久しぶりの喧嘩が戦闘の直前とか勘弁してくれ。

今まで仲良くやってきた......というより、お互いを認め合ってきた仲だというのに、どいしてこのタイミングなんだか。


久しぶりに怒っちゃったよ。もう。



「......勝たなきゃ」



決勝で当たるかもしれない人の試合を観ながらリルの頭を撫でていると、リルは俺の胸に顔を寄せ、震えながら心の内を漏らした。



「勝たなくていい」


「え?」


「負けるな。敵が勝っても、自分は負けるな。例えどんなに相手が強くとも、戦いに対する熱意で負けるな。リルなら出来る。俺は知ってるぞ」


「負け......るな......?」



俺の言った意味をイマイチ理解出来ていないリルは、そのままギュッと足を絡めて俺に抱きついた。



「敗北ってさ、何だと思う?」


「それは......試合に負けることでは?」


「違うな。答えは『負けを認める』ことだ」


「それはそうですよ。だって負けてるんですもん」


「違う違う、表面上の話じゃないんだ。自分自信が『コイツには勝てない』『参りました』と思うことが敗北なんだ」



俺の中では、敗北の対義語は勝利ではない。

敗北の対義語は、負けず嫌いだと思っている。

この世界は、負けた人が居るから勝った人が居るのではなく、勝った人と足掻き続ける人が存在するんだ。


例え形式的に負けを認めるのは良いことだろう。

だが、心の奥から負けを認めてしまうと、それは最早、『諦め』なんだよ。



「リルはこれまでに俺と戦ってきて、敗北したのは1回だけだぞ?」


「......え?」


「テイムされた時だ。あの時のリルは、俺に敗北している」



だからテイム出来ているんだ。あの時ばかりは仕方がない。完全に負けを認めさせないと、リルはテイムされなかっただろうからな。



「お前はこれまで、向上心を捨てて戦ったことはない。それ即ち、敗北していない。いいか、リル。よく聞け。『勝たなくていい。負けるな』。この言葉を胸に刻め」


「勝たなくていい......負けるな」


「そうだ。この場に居る全員、この言葉を忘れるな」



俺が真剣な顔で言い放つと、皆それぞれ頷いた。






「心が折れた時が死の証だ。常に向上心を持ち、その意志を燃やし続けろ。それが、生きるってことなんだ」




生きたくないけど死にたくない。

そんな言葉に近いと思いますが、どう捉えてもらっても大丈夫です。


ただ私は、この言葉のお陰でゲームの実力が数倍に伸びました。



次回『月の華』お楽しみに!


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