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Your story 〜最弱最強のプレイヤー〜  作者: ゆずあめ
最終章 最強決定戦
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蒼惶の刀

フーちゃんすこなんだ.....



『闘術部門、決勝戦を始める! 両者、構え!』



カズキさんの言葉を聞き、俺は全身の力を抜いた。



『始め!!!!!』



試合開始直後、リアルで師匠に叩き込まれた縮地で素早く相手へ近付くと、驚いた素振り見せた相手の胸ぐらを掴み、全体重を乗せて相手を地面へ叩き付けた。



「......遅い」



ステータス上限の影響に悪態をつき、俺は逃げようとする相手の足を掴んだ。



「逃げんな」



魔拳で威力を上げたパンチで片足を砕き、涙目になって這いずる相手の背中の前で、俺は1つの特殊技を使った。



「『雷脚(らいきゃく)』」



バチバチと雷のエフェクトを纏った右脚を上げ、続く2つ目の特殊技を発動させる。



「『穿脚(せんきゃく)』」



来客に先客と、まるで休日のレストランかと思える言葉と共に行われた行為は、恐ろしい威力を持ったかかと落としだ。


2つセットで1つの技。使いどころが難しいだけに、威力は絶大だ。



バゴォォォォォォンッッ!!!!!



「あ......がっ......」



『そこまで! 勝者、ルナ!!! 闘術部門も優勝だぁぁぁぁ!!!!!』



「「「「「「ワァァァァァァァァァァァァアアアアアア!!!!!!!!」」」」」」




優勝候補だった犬子君のお陰だろうか、これまでと比較にならない程の歓声を浴びた俺は、戦闘系スキル部門の最後を飾る、刀術の本戦控え室へと飛ばされた。




「フー」


『はい何でしょう』


「準決勝まで任せる」



同室の選手に恐怖の対象としての視線を貰いながら、俺は右手に握る布都御魂剣に語りかけていた。



「ッ!............本当に......?」


「勝手に出てくんな。悪目立ちする」


「既に目立ってますよ? 目ェ付いてます?」


「うっざ。あ〜あ、主とのコミュニケーションもまともに取れないとか、ここはイブキと交代し「待ってください! 今のはナシで!!!」......なら戻れ」



『はい......』



しゅんとするフーが刀に戻ると、俺は打ち粉を始めた。

打ち粉というのはアレだ。刀の手入れでよく見る、ポンポンするアレだ。


布都御魂剣は製作者なら簡単に分解出来るので、手入れも楽で非常に助かる。



『あ〜、お風呂みたいで気持ちいいです〜』


「そりゃ良かった。これでリフレッシュして、最初の2戦は頼むからな」


『は〜い。それよりも今回の打ち粉、普段とは違いますよね? なんか、凄く力が湧いてくるんですが......』


「正解だ。市販の打ち粉じゃなくて、フェルさんから貰った最高級の砥石の粉と、魔力を宿した『魔神馬の神角』の粉を使ってるぞ」


『......もしかして私、貢がれてます?』


「先行投資だ。期待してるぞ」


『おっしゃ任せろぉぉぉぉぉぉお!!!!!!』



おぉ、やる気になってくれた。これでフェルさんから3億リテ出して勝ったのも、サタンのダンジョンで15時間粘って神角を出した苦労も報われる。


あのユニコーン、全然角を落とさなかったんだよな。

俺、あと少しでLUCにSPを振るところだったぞ。


でも、こうしてフーが喜んでくれたならそれでいい。

ここでアレの練習をしておかないと、最悪、総合部門で自滅する羽目になるからな。


フーを信じて戦おう。



『それじゃ〜、刀道部門、準々決勝をはっじめっるよ〜! 2人とも〜......構え!!!』



「テンションの差が激しすぎるだろあの審判」



フワフワした遊園地のテンションから、一瞬にして南極に飛ばされたような気温の変化を感じるアナウンスをするキアラさんに、俺は言葉を零した。



『始めっ!!!』



『ではやりますか。ルナさん、私のタイミングで左手に顕現するので、握ったらすぐに相手に投げてください』


「あいよ」



俺は棒立ちのまま右手に布都御魂剣を構えていると、抜刀の構えでスタンバイしていた相手の人が先手を仕掛けてきた。



『はい』


「フンッ!!!」


「あっちぃぃぃぃ!!!!!!」



一投目は火属性の魔力が込められた投擲を。



『はい』


「そいっ!!!」


「うわぁぁあ!!!!」



二投目は風属性の魔力が込められた、神速の投擲を。



『はい』


「ほい!!!」


「ガッ............ハッ..................」



最後、三投目は雷属性の魔力が込められた、広範囲に大ダメージを与える投擲が相手の腹に命中し、ビリビリと痺れた後にポリゴンとなって散った。




『そっこまで〜! 勝者は〜、ルナく〜ん!!!』




「お疲れ。あっけなかったな」



控え室に戻った俺は、インベントリに残っていたドライフルーツを口に放り込み、先に行われている準決勝の映像を観ている。


俺の膝の上では鞘に納められたフーが、珍しく口数が少なく待機していた。



『問題は次ですから。ルナさんが余計なことを考える前に私が動かないとなので、今凄く考えています』


「今日の晩ご飯を?」


『はい』


「嘘つけ。声が真剣だぞ」



俺の冗談にも付き合えないほど思考の沼に浸かるフーに、俺は若干の安心を覚えた。



「あの落ち着かない雰囲気のメイドが、まさかここまで集中するとはなぁ。成長を感じるが、少し寂しいな」



目を閉じれば、いつも慌ただしい蒼髪のメイドの姿が思い浮かぶ。


人一倍お喋りで、賢そうな見た目から想像もつかないレベルのドジっ子で、そして誰よりも俺達のことを考えてくれている、そんなメイドが。



「......昔の巫女服も良かったなぁ」



最近は着ている姿を見ないから、フーの巫女服も見たいな。


ソルの巫女服とはまた違う、クールな印象を与える巫女服姿のフーも、俺は結構気に入っている。



「あの......」


「懐かしいなぁ。あの頃は可愛かったのになぁ」


「あの〜......ルナさ〜ん?」


「あ・の・こ・ろ・は! 可愛かったのになぁ」


「な、なんスか急に!! 今だって可愛いでしょうが!!! ほら! ご所望の巫女服ですよ!! ほら! どうですか!?」


「さんきゅ」



一通りの戦術が立て終わったフーを呼び出すと、まんまと俺の罠にかかり、以前の巫女服姿を見せてくれた。



「こうしてみると美人だよな、フー。どうしてこんな、残念な子になったんだ?」


「残念ってなんですか残念って!」


「いや〜、良い意味でだぞ? 良い意味で、残念」


「どこからどう受け取っても貶してるんですよね......」


「親しみやすくなったと言いたいんだよ。お前、集中すると近寄らないでオーラを出すからな。昔は掃除中とか、話しかけづらかったんだ」



そうして考えてみると、フーのポンコツ具合を上げたの、俺のせいな気がしてきたぞ。

今でも仕事の質は変わらないが、やらかす確率は以前の5倍は増えているからな。多分、俺がコイツの集中力を削ったからだろう。


う〜ん、でも分からん。俺が居なくてもやらかすって、前にシリカが言っていたし......う〜ん。



『あの、ルナさん?』


「あぇ? なに?」


『準決勝、始まってますよ?』


「はぁ!? マジィ!? 『雷纏』『風纏』『炎纏』」


『待ってください! 私の出番......が......』



俺は驚きつつも冷静に魔刀術を使い、対戦相手と3合交えた。そして最後に一刀だけお腹を斬りつけたら、落ち着いて納刀し、1歩引いた。



「おっと、ごめんフー。危うく終わらすとこだったぜ」


『はぁ......気付いてくれて良かったです』


「考え込んでいた。じゃあ気を取り直して、頼んだ」


『はい。私が魔纏を使うので、ルナさんは適当なタイミングで攻撃してください。私は完璧なタイミングで属性を切り替えるので、頼みましたよ?』


「うぃ。信じる」



鯉口を切って刀身を隠すと、俺は相手の懐に潜り込み、一閃を放った。


どうやら今回は火属性らしく、相手の防具の耐久値にダイレクトなダメージを与えることに成功した。



「次」



相手の斬り返しに合わせてしゃがんで避け、シャボン玉の液を浸けるかの様に鞘へ刀身を戻すと、今度は雷属性の魔力が付与されていた。



「ふっ、面白い」


「何が......ッ!?」



加速された抜刀攻撃をその身で受けた相手は、尋常ではないダメージを喰らい、フラフラと後退りした。


もう終わりにしよう。最後のシャボン玉の液は何かな?



「......何これ」


『フーちゃんの魔力です! 綺麗でしょう?』


「青くね? スライムみたいで気持ち悪いんだけど」



半身ほど刃を抜くと、青くドロっとした粘液状の魔力が刃全体に纏っていた。



『ルナさん、人の魔力を貶すとは酷いですね。それは個性の否定でもありますよ? 今すぐ謝ってください』


「ご、ごめん。そういうことなら......まぁ。有難く」



フーに怒られつつも、俺は相手プレイヤーの心臓目掛けて突撃し、華麗に急所を一突きさせてもらった。



『そこまで! 試合しゅ〜りょ〜! いや〜、最後は鮮やかに決めたね〜!』



「あっけねぇ。フー、やっぱりお前と居るとイマイチ力が入らん」


『おや? もしかしてクビですか?』


「それは無い。お前は俺の右腕とも言っていい存在なんだし、自分から失うようなことはしない。だが、こう......もっと雰囲気を作ってくれと言いたい」


『ルナさんが集中できるように?』


「あぁ。こういう時こそ、社長秘書感を出してくれ」



コイツと喋っていると頭がふわふわするんだ。もっと、シリカみたいにバッサリした性格だと相手しやすいんだが、フーは絶妙に柔らかくて苦手だ。


思考を汚染されそうな気がして、先頭に集中できんのだ。



『仕方ありませんねぇ......最後はイブキさんと変わりますか。ルナさん、それでも宜しくて?』


「良くねぇよ。お前、特殊技の使えないイブキって攻撃力20しかないんだぞ? それで勝てると思ってるのか?」



『勝てますよ。あなたなら。攻撃力20のアイアンソードでフェンリルを倒した、あのルナさんなら』



......論破されちゃった。フェンリルを引き合いに出されると、流石に俺も反論できない。

あの最弱時代の俺を見ていたフーにとって、この言葉ほど信用を置いているものは無いだろう。


ここまで言われたんだ。自分を信じて行くしかない。



「......分かったよ。すまんな、俺の頭がおかしくて」


『ふふ、何を今更。ルナさんは昔から頭がおかしいですからね』



カッチーン☆ ルナ君、怒っちゃったもんね!

付喪神兼メイドのフー、天罰を喰らわしてやるもんね!



「よし、大会終わったらお前はクビだ」


『フッ、どうせ冗談だろう? 長年共に居る私は分かりますよ。今の発言はニ・セ・モ・ノ......ってね』


「え〜っと、刀、処分、方法で検索......」


『待って? 嘘、嘘でしょ? ルナさん? ルナさ〜ん? ちょ、ちょ待てよ。私が悪うござんした! だからクビは、クビだけは容赦してください!!!』


「フー。この世には取り返しのつかない発言というものがあってだな」


『そんなぁ! 私とルナさんの仲じゃないですかぁ!』


「親しき仲にも礼儀あり、だ」


『そこで正論ブッこみます!? え〜、私、これからどうなっちゃうんですか!?』


「そうだな......ただの刀に戻っ『ごめんなさい』......次からは気を付けろよ」


『はい......』



疲れた。フーと遊ぶと異様に疲れる。こんなのを普段から相手しているシリカ達って、もしかしてメンタルがバグってるのかもしれないな。


でも、これぐらい激しい奴も居て欲しい気持ちもある。

過去を振り返れば、フーが居なければ失敗に終わったこともあるからな......うむ。


判定。要らない:1、要る:9により、フーさん残留決定。



「総合部門では頼んだぞ、相棒」


『......! はい! 任せてください、ご主人様!』


「ご主人様言うな」




コイツ、ホンマにヤバいって。テンションが0か100しかあらへん。

推しは増やすもの、って神が言ってました。



次回『最弱の刀、最強のプレイヤー』お楽しみに!

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