テクニシャン、ルナ
毎日がホリデイ。エブリデイが休日。
「おぉ......こいつァスゲェなぁ」
「本当に凄いよ。その糸」
「だよなぁ。俺も初めて使ったわ」
「えぇ?」
糸術部門の決勝戦、対戦相手として当たったのは例の男の娘だ。
数試合しか真面目に観戦していない俺は、彼がどの糸を使うのか分からないし、糸術がメインなのか、それとも魔糸術で戦うのかも分からない。
ただ1つ言えることは、この人は相当に頭が切れる人物だということだ。
「そう言えば翔を倒したの、君なんだっけ。あ、翔ってのはアイツな。ジョーカーとかいう名前の奴」
「あぁ〜! 戦ったよ。凄く上手い人だよね」
「お、そこに気付くとは素晴らしい」
翔のことを強いと言わず上手いと表現する彼を、戦闘に於ける敵の力量を把握する能力が高いと見た。
翔は前から火力不足の問題を解決しようとしていたのだが、伸び悩んでいたんだよな。
アイツ、俺が刀に執着するように、翔も糸術に執着しているせいで視野が狭くなっているんだ。
ニヒルの頭脳プレイヤー、2人とも頭が悪いな。
「『雷糸』.....ここっ!」
「あっ」
凄まじい速度で飛んできた糸が俺の左腕に当たると、左腕の大半がポリゴンとなって散った。
「痛ってぇ。『炎糸』.....よし、止血完了」
「.....その糸、何? 見たことないよ」
「これは髪の毛だぞ。ほら、綺麗な銀髪だろ?」
俺は自分の髪に糸を近付けると、若干だがメルの髪の方が綺麗なことに気付いてしまった。
メルよ、こんな綺麗な髪になったんだな......凄いな。
「髪の毛かぁ。試したこと無いや」
「ヒントを出すけど、これは人間の髪じゃない。もっともっと、ハチャメチャに強い奴の髪の毛を使ってる」
「でも髪の毛なんだよね? なら人間じゃないの?」
「人間ではない。それは本当だ」
でもどうなんだろう。メルの種族は『神龍人族』なんだし、人間の一種と言えるのかもしれん。
ただまぁ、家族が人間か人間じゃないかなんて些細な問題、今更気にするものじゃないしな。
メルはメル。俺の可愛い娘の第2号だ。
「じゃあ、超強化された魔糸術で戦うとしますかな。『炎糸』『風糸』」
赤い炎を纏う糸に、別の糸で風を送り込んで火力を上げてやった。
「よっ、ほいっ、よいしょ。ルナさん凄いねぇ。片手で2本の糸に魔糸術を使うとか、脳が何個あるの?」
「1個だけだな。それにやり方は簡単だぞ? 全ての指を独立して動かせばいいだけだからな。小指は小指、人差し指は人差し指。ちゃんと個別に動かせるなら誰でも出来る」
「それが出来たら苦労しないんだけどね。習得には何時間くらいかかったの?」
「さぁ? 出来るようになるまでやってたから、具体的な時間は知らん」
「ふ〜ん、そっかぁ」
技術に関してはやり込む以外、身に付ける方法は無いだろう。アイデアを出し、それを強くイメージして体に投影し、出来るようになるまでやる。
俺はそうやって色んな技を覚えたんだ。そこら辺の誰かが一朝一夕で覚えられたら泣くぞ。
「ほいっ、『停糸』」
「しまっ......」
俺が地面から伸ばしていた釣り糸に刺された彼は、行動速度にとてつもないデバフのかかる魔糸術を体内に注入してやった。
あの糸にデバフ解除の効果があるなら長期戦になるが、どうやらそこまで万能ではないらしい。
「辞世の句、詠むか?」
「辞めとくよ。その変わりと言っては何だけど、今度、ルナさんの戦い方を教えてくれないかな」
「いいぞ。時間があればヴェルテクスの城に来い。翔と一緒に教えてやる」
「......うん、ありがとう」
爽やかな笑みを浮かべた少年は、神鍮鉄の糸に首を刺され、ポリゴンとなって散った。
『試合終了です! 糸術部門を制したのは、ルナ選手ですッ!!!!!』
「いや〜、ヒヤヒヤした。思考のレベルが翔と同等とか、本物の天才タイプじゃねぇか」
天才は苦手だ。人が積み上げた努力を、軽々と超えるから。優秀な才能を持つ人ほど、知らぬ間に頑張っている誰かを殺すんだ。
この世は才能ある者が努力した結果が最高だ。
誰よりも高いスタート地点から飛び立ち、他の追随を許さない質で高く飛ぶ。そんな成果を残すから。
だが、それは維持できなければそれだけだ。
どれだけ高みに至ろうと、どれほどの力を見せつけようと、その瞬間だけの輝きでは過去の栄光となる。
「この輝きを曇らせないようにする努力こそが、何よりも難しいんだよな」
「ルナ君、勝ちすぎて変な悟り開いちゃった?」
「あぁ。スタート地点の低い俺は、どれだけ鍛えれば良いのか分からなくてな。所詮ただのゲーマーで、その道のプロという訳ではないからさ」
ピタッと俺の傍にくっ付いて座り、闘術の観戦をしているソルに説明した。
「う〜ん、ルナ君は才能があると思うけどね」
「そうか?」
「うん。スタート地点は凡人と一緒だけど、そこからの伸び代が誰よりも大きい。そんか才能を持ってるよ」
「伸び代......」
「だってルナ君。ハマったゲームは極めるでしょ? 寝食も忘れるくらい没頭してさ。それってつまり、努力の才能があると言えるよね」
忘れていた。確かに、俺は才能を持っている。
それはソルが言ってくれたように、続ける才能。
最底辺から始まったその世界で、消えることのない向上心を持って取り組むこの意志は、紛れもない才能だろう。
「......ありがとう。自信湧いてきた」
「ふふん。ずっと見てきたからね! ルナ君の隣に立ちたくてたくさん練習したけど、それ以上に強くなるルナ君に追い付けなかったんだから」
「それはすまん。どのゲームも楽しくてな。ついついやり込んでしまうんだ」
「いいよ。今はこうして一緒のゲームをしてくれるし、ルナ君の頑張りを横でみれるからね。これ以上ない幸せだよ」
そうキッパリと言い切るソルに、俺は疑問を抱いた。
「それ以上の幸せ、本当に無いのか?」
「う゛ぅ゛ん。言葉の綾ってヤツだよ。これ以上の幸せは、ルナ君が作ってくれるんでしょ?」
言うじゃないか。俺の求めている答えを出すとは、さてはルナマイスターの称号を持っているな?
「その通りだ。幸せすぎて、毎日が楽しくって仕方がない生活にしてやりたいからな。その表情筋、毎日筋肉痛にしてやるよ」
「言ってくれるね〜! じゃあ、私も幸せを作っちゃおっかな〜。そうだ、1日1回、ドッキリでも仕掛けようかな」
「それはやめろ。寿命が縮む」
「ふふっ、そうだね! でも私も何かお返ししたいから、その時はちゃんと受け取ってね?」
「勿論。お前から貰ったものは何でも大切にするからな。だから臆せず渡せ。ちゃんと受け取る」
「うん!」
可愛いなぁ、ソル。軽率に抱きしめてしまいそうだ。
最後に行われる総合部門の前に、リアルで1時間くらい休憩時間があるみたいだし、そこで陽菜を抱きしめちゃうか。うん、そうしよう。
これまでの疲れを癒し、存分に俺の全力を発揮できるよう、ちゃんと休憩しないと。
「よし、まずは闘術部門を頑張ろう」
どうやって相手を倒そうか。どの体術のスタイルで行くか、今のうちにシミュレーションしておこう。
次回は『』です! え? 聞こえない?
だから『』です! 『』ですよ『』!
.....あら、この話を投稿した時点ではまだ決まっていないようですね。なるほど。
そのうち投稿されると思うので、お楽しみに!
(評価等よろしくねっ☆)