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Your story 〜最弱最強のプレイヤー〜  作者: ゆずあめ
最終章 最強決定戦
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悪魔の思考

美容師さんに毎回褒められる髪質のお陰で、自己肯定感がぐんぐん伸びます。



糸術の試合が始まってからというものの、俺はFSでの経験をフルに活かし、相手を完封する位置に糸を仕掛けていた。



「あ〜残念、そこにも糸あるの。痺れちゃった? ドンマイドンマイ。あ〜、そこもあるよ。あ〜あ〜、だから君の周りにはいっぱい張ってるんだって」


「クソ......悪魔かよ......」


「俺は天使だ。中身は悪魔かもしれんがな。ガハハ!」



魔糸術によるチクチクと刺さる雷属性に耐えきれず、遂に対戦相手の人が麻痺状態になってしまった。


可哀想だ。自分の糸に通電させられた挙句、距離を取る事も詰めることも出来ずに倒れるなんて......全く、誰がこんなことをしたんだ。


許せない。プンプン!



「糸は出来ることの幅が広い。広い視野で戦い方を見直すと、君の強さは格段に上がるよ。無論、ステータスを抜きして、だ。頑張れ」


『試合終了! 準決勝への歩を進めたのは、ルナ選手です!!』



よしよし、今まで通りの戦い方で勝てているな。

このまま行けば、安定して勝利を掴......み......ん? それだと負けねぇか?


固定化された戦い方で優勝できる程、この大会は甘いのか? いいや、違う。トップが集う大会なんだ。甘い訳が無い。


危ねぇ、あと少しで慢心の海に浸かるところだった。



「......ふぅ。危なかった」


「私がどうかしましたか?」


「ヘぁイ!?............びっくりしたぁ」



ソファに座り、のんびりと準々決勝を見てリラックスしていたら、いつの間にかフーが俺の後ろに立っていた。

このゲーム、もしかしたらホラゲーかもしれん。



「お前なぁ、来るなら来るって言えよ」


「あはは、サプライズです。それよりも喉は乾いてませんか? 小腹が空いたり、膝枕は要りませんか?」


「要らない。それよりフー、髪型変えたんだな。似合ってるぞ」



俺の隣に座り、一緒に観戦していたフーの髪型が、普段の下ろした髪型ではなくツインテールになっていた。


普段の青く透き通った髪が魅せるスラッとした印象を変え、フーの持つ純粋な可愛さを前面に押し出した仕上がりだ。


可愛い顔に似合った、良いヘアスタイルだと俺は思う。



「えへ、えへへ......ほ、ホントっすか? ぶへへ」


「マイナス100点の言動をする辺り、流石だな。それともう1つ言うなら、そのツインテールは大人の魅力を減らしているから、もう少し柔らかい姿勢を取った方が合うぞ」


「柔らかい姿勢ですか。少しこう、猫背にするとか?」


「違う違う。足をプラプラしたり、動かない時間を減らすんだ。今のお前、社長秘書感のある子どもだからな。属性盛りすぎだ」


「ほう。難しいですね......」


「誰かを参考にするなら、リルを参考にすればいい。想像してみろ。リルがツインテールにして、足をプラプラさせて座っている姿を......」



イメージするは家のリビング。何気ない会話の時に目を向けると、そこには忙しなく動く可愛らしく動くリルの姿。


心は落ち着いていても、どこか遊びに行きたそうな雰囲気を感じるあの子どものオーラ。




「「......可愛い」」




この一言だろう。



「分かりました。私にはツインテールは遅すぎたということですね」


「そうでもないがな。遊ぶ時なんかはそのスタイルで行けば、可愛らしさ全開なんだから良いと思うぞ?」


「嫌ですよ。ルナさん以外の男性に可愛いなんて言われても嬉しくありません」


「めんどくせぇ女。ソルを見習え」



とは言ってみたものの、ソルが他の男に可愛いと言われているシーンを想像してみると──



「フーッ! フーッ! ンギギギギギィィィァァ」


「お、落ち着いてください! 大丈夫、大丈夫ですから! ソルさんはルナさんしか見ていませんから! だからその殺意を抑えてください!!!」



全身の血管が浮かび上がり、俺の全身はプルプルと震えていた。



「......はぁ、はぁ。クソが。デレデレすんなよクソ野郎が。その顔面に滅光喰らわずぞ」


「ルナさんの頭の中に出てきた人、相当な人ですね」


「マジで腹が立った.....はぁ。次の対戦相手にこの怒りをぶつけてくる」


「お、お気を付けて......」



可愛いは褒め言葉だ。別に誰が誰に向けて言っても良い言葉なんだ。そう、そうだ。ソルが可愛いのは周知の事実なんだし、今更誰かが可愛いなんて言っても、それは当然のことだ。



「ハァ......」


「き、機嫌悪そうっすね」


「全然? 俺、今までの人生で1度も怒ったことなんか無いし。今だって笑顔だし」


「そんな殺意マシマシの笑顔を見せられても、同意できないっすよ」



深呼吸をして落ち着こう。体は熱く、心はクールに。

言うなれば、冷たい炎を体に灯すんだ。


大丈夫。俺なら出来る。寧ろ俺にしか出来ない。自信を持て。不安を捨てろ。お前には力がある。よし、よし。



『糸術部門、準決勝戦を始めます! 両者、構え!』



相手が真っ黒な糸を構えると同時に、俺は右手の薬指に装備している神鍮鉄の糸に魔力を流した。




『始め!!!』


「ッシ!」


「......あぁ、なるほどね」



試合開始直後、糸による鋭い突き攻撃をしてきたのを見るに、あの糸はデバフを付与できるのだろう。

糸の先から出る、黒くドロッとした粘液に嫌悪感を隠せないが、喰らわないに越したことはない。逃げよう。



「あれ、距離取るんすか? ルナさんなら前に出ると思ったんすけど」


「距離を取る事に疑問を抱くとは、もしかして君、初心者? それなら初心者戦に出てると思ったんすけど......おっかしいなぁ。何でだ?」


「......くはぁ。落ち着け......落ち着け」



何だよ、敵に煽るクセして自分が煽られないとでも思ってんのか? そんな都合のいい話がある訳無いだろ。


いつだって戦いってのは、煽り、煽られ、冷静を保った者が勝利を掴むんだ。この感情の制御をこなしてこその強者だぞ。



「ほいほい、ほい」


「見え見えっすよ!」


「マジで? 凄いね君」



相手が見え見えと言いつつも、実際は俺の糸を避けることが出来ていなかった。

それもそのはずだ。今は中指と薬指の、合計2本の糸で攻撃しているんだ。


同じ手に複数の糸を装備するのは、糸1本あたりの攻撃力を減らす効果をもたらすが、上手く扱えるなら減った攻撃力以上の火力を出せる。


俺はずっと片手で5本の糸を操る練習をしていた。

敵の攻撃により、片腕を失っても手数で戦えるようにと、死に物狂いで練習した。



「あれあれ? もっと糸を張ったらどうだ? そんなヘニョヘニョの糸で何をするつもりだ?」


「う、うるせぇ!」


「ははっ、キレんなよ。糸の動きが滅茶苦茶だぞ?」



俺の中指の糸に付与した闇属性の魔糸術によって、段々と相手の動きが鈍くなってきた。


魔糸術の毒だから特筆した強さは無いが、俺も彼を見習って、糸自体に毒を塗り込むとしようか。



ということで俺は、親指と小指に着けている糸を使い、左手の人差し指をプッツンした。

そう、本当にプッツンしたのだ。



「え......?」


「いや〜、やっぱ毒はこれに限る。好きな相手も、憎い相手も、この毒1つで黙らせられる」



俺は大量に流れ出る血のポリゴンに、右手の人差し指に着けている裁縫用の糸を潜らせると、白かった糸が鮮やかな紅い糸へと姿を変えた。



「じゃ、お疲れ様。苦しんで死にな」



深紅の糸が相手の首に巻き付くと、その血を染み込ませるようにして、深く、優しく締め付けていく。



「アガッ......ウゥ......ッ!? ど、く......?」



人間の血の恐ろしさを実感した相手さんは、一瞬だけ酷く苦しんだ後、ポリゴンとなって散った。



『そこまで! 勝者、ルナ選手!!!』


「ナイス俺。プランもクソも無い、アドリブ100パーセントの状態で勝つなんて......後でソルに褒めてもらお」



多分、ソルには『ちゃんと考えなさい!』って怒られるだろうが、それはそれで俺が悪いのでちゃんと反省しよう。


それでもきっと、ソルは褒めてくれる。俺がソルの立場だったら、そうするからな。






「で、決勝の相手がソルさんじゃなかった、と」


「......あぁ。糸術は戦闘スタイルが決まらないからって、そもそもエントリーしてないのを思い出した」


「んも〜、どうしてこう、ルナさんには抜けているところがあるんでしょうか」



だからどうしてフーは世話焼き系幼馴染みたいな反応をするんだ? 腰に手を当てて前屈みになってその台詞を言うと、どこからどう見ても世話焼き系幼馴染ポジの子なんだよ。


本当に面白い奴だな。フーは。



「俺が完璧超人な訳無いだろ? イベント事は毎回何かをやらかすし、コミュニケーションは苦手だし......至らない点なんか無数にあるわ」



決勝戦が始まるまでフーと雑談をしていた俺は、インベントリを戦闘用に整理していると、とある存在を思い出した。



「あ、次はアレで遊ぼっかな」


「アレ? あぁ、アレですか」


「そう、アレだ。皆大好きなアレ」



顔を合わせて笑顔で頷くと、俺はフーの目を見てこう告げた。



「アレって何だよ」


「知りませんよ! 私の方こそ聞きたいです。アレって何ですか?」



何もないことを然も重要そうなことにして話す、俺がよくやる無思考ジョークが炸裂した。


だが、今回ばかりは違う。アレというのは本当に用意してあり、ちゃんと次の試合で使える物を、俺は指していた。



「アレアレ言ってても何も起きないから、実物を見せてやるよ」



俺はインベントリから1本の銀色の糸を取り出すと、フーに向けてアイテム詳細のウィンドウを投げ飛ばした。



「これは............えぇ!?!?」



驚いてくれて俺も嬉しい。何せコレ、今存在するプレイヤーだと俺しか作れない物だからな。




「そう。これは『神龍の髪』......つまり、メルの髪の毛で作った戦闘用の糸だ」




あ、本人には許可取ってます。快く受け入れてくれました。はい。



次回『テクニシャン、ルナ』お楽しみに!

(懐かしのタイトル改変にゆずあめ、涙を流す)

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