人と関わるモンスター
本日3本目です。
◇ソルside◇
「ルナ君には負けてほしいけど勝ってほしい」
「どっちやねん」
戦闘系スキルの予選を通過した私は、ルナ君とは違う控え室でピーちゃんやミアちゃんと話し合っていた。
「ルナ君の婚や......妻としては勝利を願ってるんだけど、対戦相手としてはどこかでコケてほしいの」
「ソルちゃんって、割と平気にそういうこと言えるから強いよね。私なら絶対無理かも」
「私も無理ですね。恥ずかしくなっちゃって、言えても彼氏です」
「え〜? そう? でもルナ君も恥ずかしがるからな〜......狐国じゃ声を大にして言ってくれたのに」
知ってるもん。狐国でルナ君が『ソルは俺のお嫁さんです!』って言ったの。
私の脳内フォルダに永久保存されてる話の1つ。
証人のマサキ君も居るし、この記憶は消えることはない。
「もしルナさんと戦うことになったら、どうするのが正解ですか?」
「ミアちゃん。ルナ君との戦闘に解を求めることが間違いだと気付いた方が良いよ。その思考だと、知らない間にルナ君の作戦に嵌るから」
「......ピギーさんはどうです?」
「ソルちゃんと一緒。アイツの戦闘は理解しようとすれば負け。翔がいつまで経ってもルナに勝てないのって、それが原因だからね」
「あ〜、あの人はいつも正解を出そうとしますもんね」
「そういうこと。あ、強いて言うなら、自分の中に芯を立てて戦うと良いかも。ちゃんと戦闘リズムを意識してれば、単純な技術勝負に持ってけるから」
「なるほど」
流石ピギーちゃん。長い間FSでルナ君と戦っているだけあって、私の知っている彼の戦い方を熟知している。
......でも、私の方がルナ君を知ってるもん。
「ミアちゃんはお試し参加だから、勝利に拘らない戦い方をするのが良いかな」
「分かりました。芯を立てて、勝利に拘らない戦い方をしたいと思います」
「頑張って」
「けっぱれ」
「はい!」
◇ルナside◇
「テイマー部門......人数少ねぇ」
「まさか50人だけとはな。2ブロックしかないし、ルナはどっちにするんだ?」
「悩んでる。ちょっと時間くれ」
テイマー部門は2ブロックに分けてトーナメント戦を行い、1ブロック4人まで人数を絞るようだ。
ここで重要なことは2つ。『シード権』と『3回戦う』ことだ。
シード権はなんと、取れただけで本戦出場が確定するという完全な運勝負だ。レイジさん達のくじ運次第で本戦までスキップ出来る可能性があるからな。
3回戦うことに関しては、誰を試合に出すかの調整だ。
幻獣枠のニクスやメル達を出すか、それとも一般枠でラースドラゴン達を出すか......
よし、ここは1つ、楽しめると思った方に進もう。
「俺はAブロックに出る。その時当たった人と、全力でぶつかりたい」
「そうか。なら俺は安定を取ってBに」
「俺もBに」
「じゃあ僕はAかな。ルナさん、当たったらよろしく」
「こちらこそ」
逃げたマサキとガーディ君とは違い、犬子さんはぶつかる事を楽しみにしてくれた。
そんな犬子さんと硬い握手をしてから、俺達は転移した。
『それでは皆さん! 待望のシード権を賭けたくじ引きの時間です! 上空のモニターをご覧下さい!!!』
個人の控え室に飛ばされた俺は、部屋に備え付けられているモニターに注目した。
「ドキドキワクワクですね、父様」
「そうだな。でも皆の出番は本戦を予定しているから、ここじゃ楽しめないぞ?」
椅子に座っていると、俺の膝の上にリルが現れた。
そしてリルに続くように、メルやベル、チェリにニクスとアルスまで控え室にやって来た。
俺の切り札が勢揃いするという、敵からしたら地獄の控え室が出来てしまった。
「いい。ここでパパのかつやくをみるのもたのしいから」
「......そうか」
心から嬉しいと感じる言葉を受け取った俺は、メルの頭を撫でながらモニターを注視した。
『では、ドラムロールスタート! ドゥルrrrrrrrrrr』
「お前がやるんかい!!」
おっと、ついツッコんでしまった。
『──デンっ! Aブロックのシード権を手に入れたのは、『今日犬子』選手ッ!! Bブロックのシード権を手に入れたのは、『ソル』選手だぁぁあ!!!!』
「ソル......」
「母様......」
「ママ......」
「お母さん......」
「姉さん......」
なんだろうこの気持ち。予選でソルのモンスターを見れない、『未知』という恐怖が大きくなるのを感じる。
『王、案ずるな。私が王を勝利に導く』
「我も最大限、主の力となりましょう」
「......ありがとう2人とも。信じるよ」
全く、ウチの男性陣は俺以外カッコイイ奴しか居ねぇ。
1人は可愛いインコだが、こと戦闘に関してはフェニックスに相応しい強さを見せるし、1人はツンツンした執事かと思えば、ピンチの時に駆け付ける速度が異常に早いイケメンだ。
やはり、男性陣のヒエラルキーでは俺が最底辺である自信がある。めげずに頑張ろう。
『それでは両ブロック予選1試合目を開始します!』
遂にテイマー部門の予選が始まったが、俺にはまだ時間がある。
「俺達が出るのは4戦目だから、それまで作戦会議だ」
◇◇
「父様、出番です。対戦相手は『センドウ』という方です」
「分かった。行ってくる」
「行ってらっしゃいませ」
リルに教えられて、俺は今回のメンバーを光に戻して闘技場へと向かった。
『対するは、第1回武術大会でただの1度も敗北しなかった最強の語り人、ルナ選手ッ!!!!』
「「「「オオォォォォォォォォォ!!!!!」」」」
大きな歓声と共に入場すると、今回の対戦相手であるセンドウさんと向かい合った。
「わたくし、センドウと申します。よろしくお願いします」
「ルナです。よろしくお願いします。良い試合にしましょう」
センドウさんは初老の男性の姿をし、少し汚れたベストを着ているプレイヤーだ。
多分、あの服も作戦だろう。
敢えて汚れた見た目をすることで、相手に弱者だと潜在的に思わせることで隙を作る、そういう策略だ。
きっと、様々な人と対応してきた経験から生まれた作戦だと思う。
『それではルールのおさらいです。選手の方は3体のテイムモンスターを出し、相手のモンスターを全員倒す、又は相手選手のHPを0にすることで勝利です』
『そして試合中、選手は『テイム』以外のスキルが使用不可となります。スキル無しでの殴り合いをしても良いですが、そんな時間が生まれるのか......楽しみです』
スキル無し。つまりは純粋なプレイヤースキルとステータスのみが戦闘に影響するという事だ。
つまり、殴り合える環境があれば俺は一般人より優位に戦えるという訳だ。
『それでは! テイマー部門予選4試合目、開始です!』
大音量のブザーと共に、試合が始まった。
「ドラゴン達、行きなさい!」
センドウさんが指示を出すと、大きな闘技場に3体のドラゴンが出現した。
ドラゴンはそれぞれ、インフェルノドラゴン、ブリザードドラゴン、テンペストドラゴンと、3属性を司る強力なドラゴンだ。
「ロイン、ヒカリ。任せた」
『......』
『任された〜! ぶちのめすねっ!!』
俺はオークであるロイン君と、ペットで1番好きなヒカリを呼び出し、戦闘を任せた。
「2体で大丈夫なのですか?」
「えぇ。正直ロイン君1人で問題無いのですが、流石に1対3は見ていて可哀想ですからね」
「......わたくしのドラゴンが弱いと?」
「さぁ? それは結果が示すことで、語り人が語る内容ではないですよ」
自分のモンスターを信じてやれないなんて、テイマーとしてナンセンス極まりない。
寧ろ『こちらも1体ずつ相手します』と言ってくれた方が、俺のセンドウさんに対するモンスター愛が伝わったな。
さて、後は可哀想なドラゴン達を眺めるとしますかな。
『行っくよ〜!』
『......!』
『えっ! ロイン君がやるの!? 分かった!』
前線に出ようとしたヒカリをロインが止め、背中にある大剣を真っ直ぐに構えた。
どうやらロイン君が片付けるようだ。
『......ッ』
「何ィ!? ドラゴンが一撃で!?!?」
空中からブレスを吐こうとするテンペストドラゴンに向けて投げた大剣は、綺麗にドラゴンの顎を貫き、一撃で光に戻した。
「ヒカリ」
『な〜に〜?』
「ブリザード殺ってこい」
『うんっ☆』
ロイン君が大剣を顕現させて手元に戻すと、インフェルノドラゴンとブリザードドラゴンが突っ込む寸前だったので、俺はヒカリに適当な指示を出した。
『喰〜らえ〜!』
可愛い口調から発せられたブレスは、青白い稲妻となってブリザードドラゴンに着弾し、ロイン君を噛み付く前に迎撃された。
可哀想なドラゴンだ。まともな育成がされていない。
『......』
「......バカ、な......ドラゴンが一瞬で......」
最後にロイン君がインフェルノドラゴンを顎から斬り上げ、急所を突いたことで一瞬にして光となった。
『し、試合終了〜!! 勝者、ルナ選手です!!!!』
「「「「「ウォォォォォォォオオオオ!!!」」」」」
入場時より大きな歓声が上がり、試合は俺達の勝利で終わった。
「ロイン君、ヒカリ。よくやった。ありがとうな」
『......!』
『えっへん! あるじの為だもん! まだまだ頑張るよっ!』
「あぁ。これからもよろしくな」
俺はお礼として、それぞれの好物であるモスベリーとワイバーン肉を与え、光に戻した。
「何故......何故負けた......」
俺はそのまま退場しようと思ったのだが、リング内で這いつくばっているセンドウさんを見て足を止めた。
「大会に出る以前に、戦闘する以外にもちゃんとモンスターと接してますか?」
「戦闘......以外?」
「はい。テイムしたモンスターは、生きているんです。家族の様に、或いは友達の様に接することで、お互いに信頼関係が生まれます。センドウさん。あなたはどうですか? フィールドで一緒にお肉を食べたり、背中に乗せてもらって空を飛んだりしましたか?」
「わ、わたくしは......わたくしは......!!!」
センドウさんはこれまでの経験を振り返って、涙を流して蹲った。
きっと、人とは接しても動物とは接しないタイプの人だったんだろう。俺はどちらとも接していない最悪のタイプだが、この世界では違ったんだ。
テイムしたモンスターと関わり、信頼することで、更なるチームワークと個々のレベルアップに繋がることを理解した。
そして何より、そのテイムモンスターと居る時間が楽しいと思え、シンプルにこのゲームが楽しくて仕方がなくなった。
と言うか......娘になった奴も居るしな。楽しいどころじゃない。
「センドウさんの楽しみが増えることを祈っています。では、失礼します」
「ありがとう。ありがとうルナ君」
俺は、顔を上げたセンドウさんに笑顔を返し、退場した。
あの人は変わる。テイマーとして、ゲーマーとして変わるだろう。俺はそう信じている。
止まらない更新、書き終わらない下書き、何も起きないはずがなく.....
次回『一閃試合』お楽しみに!