語り合う語り人
調子が戻ったのでいっぱい投稿します。
『おぉっと! またしてもルナ選手は無戦闘で勝利したァァ!!! これは一体、どういうことだ〜!?』
戦闘系スキル部門の最後の予選が終わり、俺は無事に全部門の予選を通過した。
全部で7つの部門を通して、俺の与えたダメージは0。受けたダメージも0。ついでに友達も0......ではなかった。
俺にはマサキやガーディ君が居る。
「ルナさん、試合中どこに居たんですか?」
「戦場で棒立ちか遮蔽物の裏」
「......マジですか?」
「マジ。まぁまぁ、俺の話はいいから初心者戦の本戦見ようぜ。ガーディ君も気になるだろ? 盾の使い方とかさ」
「まぁ......」
控え室にて怪奇の目を向けられる俺の元には、マサキとガーディ君が居てくれた。
「コイツ、変に強引だよなぁ」
マサキのツッコミには耳を貸さず、俺達は初心者戦の映像に食いついた。
「行け! 詰めろ! 勇気を出せ!!!」
「あ〜あ。その構え方じゃあ......やっぱり。弾かれるに決まってんでしょうが」
「うおおおおカッケェ!! 何だあの魔剣術!!!」
本戦は1対1のトーナメント形式だ。
ただの1度も敗北が許されない、緊張の走る戦いだ。
俺は控え室の中で『サウンドカーテン』を使い、3人で大盛り上がりしている。
「あちゃ〜! 急所貰ったか〜」
「仕方ないっすよ。焦ってる人と冷静な人、勝つのは明白ですからね」
「でもよ、あっちも焦らなければ勝てたよな?」
「「当たり前だ。レベル差がデカい」」
「ハモんなよ......」
俺とガーディ君は1字1句同じ言葉を発し、マサキはドン引きした。
──そんな空間に、1人の男が訪れた。
「やっほ。僕も混ぜてよ」
「こんにちは犬子さん。是非来てください」
剣術と闘術部門の予選を最速でクリアした犬子さんが来た。
俺は試合中だったから分からないが、きっと前回より何倍も強くなっていることだろう。
そう、強く。
「ディー君は剣術と槍術が苦手って言ってたけど、予選通過できたんだね」
「はい。ずっと迎撃してたら相手が諦めたんで、余裕でした。俺としては、ルナさんの予選の方が気になりますけど」
「それは僕も同意だね」
「俺も。どんな手を使って戦闘を回避したんだ?」
マズ〜イ! 何故かまた俺の話に戻ってる〜!
しかし、ここで本当の事を言うか嘘をつくか......悩め、悩め俺!
「生産職のプレイヤーの為ですよ。指輪に付与されてる効果で、死ぬ気で魔力切れに耐えて気配を消してたんです」
本音で答えた。やっぱり、数少ない友達には本音で語った方が良いと思ったからな。
もう、マサキ達に壁を作って話すのは疲れた。
「お前......惚気か?」
「左手じゃなくて右手なんだが......」
「あっ、それはスマン。で、どんな効果だ?」
素直に謝るマサキに、俺は神ギュゲを外して見せた。
効果を見た人なら、きっと試合中の俺の気持ちに納得してくれるだろう。
「「「うわぁ......すげぇ」」」
性能を見た3人は、製作者である俺に向かって感嘆の声を上げた。
「指輪自体は簡単に作れるぞ?」
「いや、そうじゃなくてMPの消費に関してだ。俺はお前のステータスが高いことは知ってるが、割合で消費するMPだとステータスなんか意味無いだろ?」
「本来なら10秒が限度なのに......流石です」
「うんうん。尊敬するよ。超ハイリスクハイリターンの賭けを7回もやるなんて、本心で語るなら意味不明だね」
予選も待っているだけじゃなくて頭痛との戦いだからな。
そこを評価してくれたと考えると、少し嬉しい。
「生産職として参加するなら、スキルは何も使いたくなかったんだ。自分で作ったアクセサリーの効果だけで生き残ることが、戦闘が上手くないプレイヤーでも参加できるって証明になると思ってさ」
俺は生産特化のプレイヤーじゃないから、生産職を代弁することは出来ない。だが、生産系スキルを神匠まで育てたプレイヤーとして発言することは出来る。
だから俺は言う。
「例え生産だけを鍛えたプレイヤーでも、最強戦に出れる」
「......なるほどな。でも、それはお前のスタイルには合わないだろ?」
「あぁ。だが証明は出来ただろ? 生産系スキルだけで予選は突破可能だと」
予選が突破出来れば、生産メインのプレイヤーなら知名度を上げることも出来るし、戦闘もこなせるなら最強の座を狙うことも出来る。
ある意味でこの大会は公平だ。
戦闘や生産に於ける最強の座を競い合う場と見れば、誰だって力の証明、名声の獲得が出来るからだ。
まぁ、己の力次第という但し書きが要るがな。
「戦闘系スキル部門の初心者戦の後、何するんだっけ」
「最強戦の魔法とテイマー部門の予選だ。初心者戦は数が少ないからもう終わるが、俺達最強戦は出場者が多いからな」
「了解。にしてもテイマーの予選は不安だな」
ニクスで一掃するのも良いが、ここでフェニックスを見せるリターンとしては予選通過は小さすぎるからな。
予選は誰を出したら通過できるのか、不安だ。
「......お前は全プレイヤーから狙われる覚悟をした方がいいな」
「分かってるさ。でも犬子さんだって要注意人物なんだから、俺ばかり狙ってたら足元すくわれるぞ?」
「当たり前だ。ま、それもテイマー部門も同じルールなら、の話だけどな」
「違いない」
そうして3人からドライフルーツを摘まれながら、初心者戦の観戦を楽しんだ。
レベル200未満という制限があるにも関わらず、フェンリルをテイムしている人が居たのには驚いた。
魔法部門では派手な魔法から目立たないが強力な魔法など、新たな刺激を貰うことも出来た。
「ん? ルナさん、あの人も忘れちゃヤバくないですか!?」
紅茶を飲んでリラックスしていると、急にガーディ君が焦ったように立ち上がった。
「あの人......?」
「......ソルさんですよ。ソルさんも今回の最強戦、出てるんでしたよね?」
「..................ア゜ッ」
もし予選でソルと当たった場合、俺は逃げ切れるか?
う〜ん、無理☆
だってソルにかくれんぼは通用しないからな。鬼ごっこは俺の方が強かったが、かくれんぼは白星0の戦績だ。
「うわぁ、彼氏のクセに忘れるとか、可哀想」
「......俺、ソルが敢えて予選を被せなかったという説があるのだが、 話しても良いか?」
「「「どうぞ」」」
「んじゃ......」
俺は紅茶を飲み干し、ソルが知っている俺の癖を話し、俺がBブロックか最終ページにあるブロックを選ぶ傾向があることを話した。
そして出た結論は──
「「「敢えて外してくれてる」」」
「ッスよねぇ......うわぁマジかぁ。不安になってきた」
本戦で当たれば、勝率50パーセントの戦いを強いられることになる。そんな低確率の賭けに挑むのは自殺行為とも言える。
しかし、この賭けから逃げれば、待っているの敗北だ。
「覚悟を決めて戦うしかない。途中でソルが落ちるという、ソシャゲのガチャもビックリな確率に挑もう」
0.01パーセントでもあれば賭けちゃうのはゲーマーの性だ。そしてあろう事か、俺はゲーマーだ。低確率に挑んでこそ、勝利の快感を得られるってもんだ。
「でも、ソルには順調に勝ってほしい」
「どっちだよ」
「彼氏としては勝ってほしいが、対戦相手としては負けてほしい。相反する2つの思考がバトってる」
人間だから仕方ないんだ。許してくれ、ソル。
「きっとソルの方も同じことを言ってる。『負けてほしいが勝ってほしい』ってな」
次回『人と関わるモンスター』お楽しみに!