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Your story 〜最弱最強のプレイヤー〜  作者: ゆずあめ
最終章 最強決定戦
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開戦前夜

推しのASMR配信で脳がイカれました。


「遂に明日か」


「黙れ小僧! お前に私を幸せにすることが出来るのか!?」


「懐かしいネタを改変してぶっ込むとは、中々やるじゃないか陽菜。お? ネタ勝負でもするか?」


「ううん、やめとく。ボロボロに負ける未来が見えた」


「賢明な判断だ」



5月2日。武術大会の前日の夜、俺は陽菜と紅茶を飲みながら雑談をしていた。


先程までの話題だと、新作ゲームの情報やアニメの話、今をときめく人気お笑い芸人の2年後の未来を予想するなどして、そこそこ盛り上がっていた。



「月斗君は緊張とかしてる?」


「してない。FSの世界大会でも遊んでいた俺が、今更どこかの大会で緊張なんてしていたら笑い物だぞ」


「ふふっ、そうだね! その時はどんな風に遊んでたの?」


「確か、ボロボロの民家の壁をハンドガンを撃って、最初に崩壊させた方が負けっていう遊びをやってたな」


「......大会中に?」


「大会中に。ちなみにその部分が公式の配信に流れて、海外で話題になってた。別名炎上とも言うが」


「そうなの? って思ったけど、皆が死に物狂いで頑張ってる大会で、1チームだけ遊んでたらそうなるよね」



いやぁ、懐かしい。俺の場合、それが原因で色んなプレイヤーに嫌われたという説があるが、あの大会で最高のパフォーマンスをするには、どうしても遊ばなきゃならなかったからな。


遊びの副次的被害、そう、コラテラル・ダメージだ。



「陽菜はどうなんだ? 前回は遠慮して出場を辞退してくれたから、今回が初だろ? 緊張とか不安は無いか?」


「う〜ん、私は分かんないや。ただ月斗君と全力で当たりたい、って言うのが参加の理由だから、昔とそう変わらないかな」


「そうか。そういや昔、陽菜に貰った物があるんだが、アレはずっと持ってるぞ」


「アレ?」


「ちょっと待ってろ」



俺は部屋に行って机の引き出しを開け、1枚の手紙を持ってリビングに戻った。


すると、その手紙の包装を見た陽菜は顔を真っ赤にして両手で隠した。



「ど、どうした?」


「......捨てて。今すぐそれを捨てて」


「え? 嫌だ。陽菜が『大きくなったら開けてね』って言って渡してきた物だから、大切に持ってたんだけどな」



可愛いピンクの封筒には、ちゃんと手書きで『月斗君へ』と書いてある。


確か小学生5年生くらいの時に貰ったから、もう7年ほど前の物か。



「読んでもいいか?」


「ダメ。ここで読んだら私が死ぬ」


「何が書いてんだよ。呪いの文章か?」



俺がそう言うと、陽菜は囁くような小さい声で反応した。



「ううん............ターだから」


「あ〜、ラブレターね」


「なんで聞こえてるの!?!?!?」


「いや、この見た目と陽菜の反応で、これがラブレターと分からない奴が居ないだろう」


「ひどい! ひどいよ月斗君!!」



真っ赤な顔で言葉を投げる陽菜を見て、俺はニヤッと笑みを浮かべてから封筒を開けた。



「んにゃぁぁぁあ!!! や〜め〜て〜!!!」


「シーっ、静かに。近所迷惑だぞ」


「このマンションは防音設備が凄いもん! 他の人には聞こえないよ!」


「確かにそうだけど、でも夜に大声を出すのは恥ずかしいだろ。やめなさい」


「大声を出させているのはそっちでしょ!!!」


「どうどう。落ち着きたまえ」



俺は一旦ラブレターを置き、陽菜の隣に椅子を持ってきた。


そして顔を伏せる陽菜の肩を抱き、耳元で囁いた。



「大丈夫。当時は恥ずかしかったかもしれんが、今は大丈夫だろ? ちゃんと大きくなったんだって、過去の自分に胸を張れるだろ?」


「うぅ......でもぉ......」




「安心しろ。中身を見て笑う訳でもないし、ちゃんと陽菜の気持ちを受け取る。だから、だから......取り敢えず音読するわ」




「殺す気なの!?!?」


「大丈夫だって。黒歴史なんて誰でも経験することだ」


「も〜!!」



唸る陽菜の頭を撫で、俺はラブレターを手に取った。



「では、昔の陽菜からの想いを受け取ろうと思います」


「うぅぅぅ......」



可愛い。心の奥から揺さぶられる可愛さだ。


そんな陽菜に肩をピッタリとくっ付けた俺は、最初にラブレターに目を通してから、音読を始めた。



「『月斗君へ。ずっと前から好きでした。はじめて月斗君を見た、5さいのころから大好きです。あそぶ時も、道場にいる時も真けんな月斗君が大好きです。

 私ははずかしがり屋だから、これは言葉では伝えられません。だから、この手紙でつたえます。陽菜より』」


「......」


「死、死んでるッ!?」



読み終わった頃には、陽菜はぐったりとして動かなかった。


試しに額へ手を当ててみると、およそ人間が出していい温度じゃない熱さをしていた。



「耳どころか全身真っ赤だな。お〜い。大丈夫か〜?」



揺すってみるが、反応が無い。まるで人形の様だ。


にしても困った。まさかここまで恥ずかしがるとは思わなかった。だって、今の陽菜なら、この手紙に書いてある言葉以上の気持ちをぶつけられるからな。


それでもこの反応をするということは、それだけ昔から想いが強かったのだろう。


今とは違う、友達へ向ける愛情が。



「さて、返信するか。便箋はあるし、ちゃんと返す」


「......書くの?」


「勿論。貰った分は返すのが俺の主義だ。陽菜からラブレターを貰ったなら、俺もラブレターを書いて送ろう」


「......読むのが恥ずかしいよぉ」



消え入りそうな声で伝える陽菜に、俺は背筋を伸ばしてハッキリと言った。



「じゃあ言葉にして伝えようか?」


「......ね、寝る前にお願いします」


「分かった」



それはそれで眠れないと思うが、陽菜が望んだことだ。

俺は陽菜の気持ちに答えるだけだし、今更恥ずかしがることでも無い。


正直に、本心で想いを伝えるだけだ。



そうして洗い物や風呂など済ませた俺は、陽菜が待っている俺の部屋へと赴いた。



「お待たせ」


「待ってたよ! さぁ、寝よう!」


「あいあい」



俺は部屋の電気を切り、陽菜の隣に潜り込んだ。

後はラブレターの返信して、今日は終わりだな。



「陽菜」


「な〜に〜?」


「俺はあの時、陽菜のことは異性として見ていなかった。友達の居なかった俺に出来た、唯一の友人だと思って、頑張って一定の距離を保って関係を続けていた」


「うん......」



陽菜が俺に抱きつき、顔を俺の胸に当てた。



「でもな、その関係は壊れてしまったんだ。きっかけはゲームだが、陽菜が凄く魅力的な笑顔を見せてきてな。

気付いた頃には、もう陽菜の魅力にどっぷり浸かっていたよ。その声も、その顔も、唯一無二の友人が、異性として好きな人に変わったんだ」


「......変えた。私が月斗君の傍に居たくて、変えちゃった」


「あぁ。感謝してるよ。あの時に手を繋いでくれたから、俺は自分の気持ちに気付いたからな。

俺は、陽菜が好きだ。どんなことにも一所懸命に取り組んで、失敗を恐れないその姿勢が大好きだ。愛してる」



ギュッと強く抱きしめてあげると、陽菜も俺を強く抱きしめてくれた。


もうそろそろ、この関係も終わりに近い。俺達はこれから、更にお互いの領域に踏み入る関係になる。

だからせめて、今ぐらいは好きにさせてくれ。ある程度の距離を保っている今の関係で、少し踏み込んだ行動を。



「私も。ずっと前から、こうしていたかった。この温かさを、ずっと知りたかったの。大好きな月斗君に、大好きだよ、って言われて抱きしめられるの」


「大好きだよ」


「うん......私も大好き」



何だこの生き物。可愛すぎんか? 可愛すぎんか?


本当に俺が隣に居ていい存在なのか? この魅力は、本当に俺が独り占めしていいのか?



「ありがとう、陽菜。ずっと傍に居てくれて」


「私の方こそありがと。付きまとう私を、嫌わないでいてくれて」


「寧ろ助かってたよ。陽菜のお陰で、俺は孤独にならずに済んだんだ。ありがとう」



この人から受けた恩は、一生をかけてでも返したい。

月見里月斗という人間を作る上で、無くてはならない人物だ。



「えへへ」



あ〜もう! 可愛いすぎるやろ〜!!!!



そんな心の叫びを胸に閉じ込め、武術大会開催日を迎えた。



次回『火花の花火』お楽しみに!


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