毎度のやらかし
(泣)
「ルナ君や。運営から大会についての追加情報がきたぞい」
「教えてくれ」
「よかろう」
4月も後半に入り、本格的に将来の為に頑張る学生が増えて来た。
ソルもその内の1人であり、大学入試に向けての勉強をしていたのだが......その休憩中に俺は、ソルに膝枕をしてもらっていた。
「大会はね、前と同じ剣術、弓術、槍術、拳の方の闘術、刀の方の刀術、糸術、盾術の7つの部門が入っている『戦闘系スキル部門』と『魔法部門』、『テイマー部門』と『総合部門』の4つの部門に分けられてるの」
「ほんほん......ん? 斧術は?」
「無いよ?」
「え?」
つい最近まで頑張って鍛えていた斧術の文字は、ソルの見せてくれたウィンドウには表記されていなかった。
「......そうか」
「頑張ってたのに、残念だね。にしてもイベント事になると、絶対に何か1つはやらかさないと気が済まないの?」
「あぁ、気が済まない。そういう星の元に産まれたんだ」
仕方ないんだ。でもな、頑張って鍛えたことは絶対に役に立つ。1の努力をした相手に勝るのは、いつだって2も3も努力をした者なんだから。
分かりやすいのはリンカだ。才能を努力で伸ばしたアイツは、紛れもなく強者だ。
「じゃあ続けるね。今回の大会は、『初心者戦』と『最強戦』の2つがあるんだって」
「相違は?」
「初心者の方は合計レベルが200未満のプレイヤーが割り振られるんだって。そもそものレベルが200以上ないと、最強の方は出れないの」
「問題ないな。俺は合計レベルが600くらいあるし。ソルも余裕だろ?」
「うん! 私も大丈夫!」
良かった良かった。これである程度のプレイヤーはふるいにかけられるから、最強戦の方は強いプレイヤーばかり集まるだろう。
あぁ、今から楽しみだ。
「それでねそれでね、試合に関しても色んな制限があるんだって。なんか、特殊技が3つに固定されてるよ」
「はい?......はい?」
思わず2度聞きした。
「だから、戦闘系スキル部門で使える技、特殊技が3つに固定されてるの。ルナ君の大好きな刀で行くと、『一閃』『斜突』《引き直し》の3つだね」
「な、なんだそりゃ。ちなみに技の詳細は?」
「『一閃』は名前の通り、素早く水平に切り払う技だね。『斜突』は刃先を斜め上に向けて、相手の心臓を貫く技。《引き直し》は一瞬で相手の足を突いて、素早くバックステップするみたいだね」
「ふ〜ん......微妙」
浅い思考で生まれた言葉を口にすると、ソルが俺の頬を指で突いてきた。
「そうでもないよ。特に《引き直し》は唯一青ランクの特殊技だから、使いどころを見極めれば強いと思う」
「それは他の2つも同様だ。特殊技はプレイヤーの行うモーションをキャンセルして発動するから、人外みたいな動きだって出来る」
「でも関節は痛めるよね?」
「超絶痛いと思う。俺の刀の特殊技は、どいつも自己強化系ばかりだからな。まぁ、全員がそうじゃないけど」
俺は1人、自己強化系に属さず、最高ランクである黒の特殊技を持つ刀を持っている。
アイツの特殊技は本当に危険なんだ。下手すれば使用者である俺が死ぬからな。それも、布都御魂剣の様な制御できる死ではない。
体が弾け飛ぶような死に方だ。
「う〜ん、そこら辺は要研究だね。情報はこれくらいかな。初心者の報酬は最強戦の下位互換みたいな感じだから、興味無いよね?」
「無い。ただ、初心者戦の優勝者とは戦いたい」
「それは......実際にルナ君が優勝した時に、運営の人に聞いてみて」
「元よりそのつもりだ」
俺は手を伸ばし、ソルの柔らかい頬を撫で、体を起こした。
休憩時間もそろそろ終わるだろうから、ちょっと外に行こう。
「勉強、適度に頑張れよ。相談なら幾らでも乗るから、困ったら呼べ」
「うん! 行ってらっしゃい」
「行ってきます」
今日もソルは可愛い。見てるだけで元気が貰える。
◇◇
「チェリ、左足を引け。アルスは肩の力を抜け。リル、剣を持つ手は小指に力を入れろ。メルは詠唱のタイミングが少し遅い。ベル、寝るな!」
普段通り、テイマー部門に出る子を育てている俺は、様々な場所で皆を鍛えていた。
今回の練習場はフィデムの騎士団が使う練習場だ。
「フリット、お前はクッキー貰ってこい」
「......は?」
「冗談だ。ってかなんでお前も参加してるんだ?」
戦争で立派に戦った王子なんだし、後は執務関係の仕事をするか、モンスターでも狩ってレベルを上げればいいじゃないか。
どうして練習に参加してるんだ?
「そりゃあ、お前の弟子だからな。技術を盗める機会があるなら参加するべきだろ。それに、俺が強くなれば国の為にもなる」
「はいはい分かりましたー」
「話を聞けよ馬鹿者」
「いや〜、王子の話はタメになるな〜!」
「心も籠ってないことを言うな!」
「いやいや、思ってるって......多分」
「嘘確定じゃないか......」
相変わらずフリットは忙しそうだ。まだ小さいのに、ストレスで禿げそうだな。
まぁ、ストレスの原因の殆どは俺だが。
「ベル、お前はフリットの相手をしてやれ。魔法使いを相手にした時の練習だ」
「は〜い。まじゅちゅは〜?」
「使うな。フリットが死ぬ」
「分かった〜」
俺におんぶされていたベルを降ろすと、ベルは眠たげな目を擦りながら広い場所へと歩いて行った。
「オイ待て。何か嫌な言葉が聞こえた気がするのだが」
「気のせいだ。ほれ、逝ってこい。対処方法は本人に教えて貰え!」
「は、はぁ!?」
俺に背中を押されたフリットは、困惑しつつもベルとの戦闘訓練を始めた。
さて、俺はチェリと手合わせてして貰うかな。
「チェリ、全力で来い」
「はい、兄さん」
美しい白い刃の妖刀を構えたチェリは、恐ろしい速度で俺の懐に入り込んできた。
「せいっ!」
俺を一撃で殺さんとする突きを避け、俺は拳に魔力を纏わせた。
「......刀を使わないの?」
「あぁ。顕現する時間も惜しい総合部門だと、最終手段は拳による戦闘だからな。最悪の事態を想定して、今回は素手で戦うぞ」
「そう。死んだからって、怒らないでね」
「安心しろ。その時は俺自身にキレるから」
相手がズルをしていない限り、敗北の要因は俺にある。
それが分かっているのに相手へ怒るなんて、負け犬の遠吠えも良いとこだ。
戦闘の反省は正しく行うことで成長する。
俺はそれを、師匠から学んだ。
「ふっ! はぁっ!」
チェリの連撃を被弾するギリギリで避け、隙があるタイミングで刀を指で突いてやった。
それに気付いて隙を作らないように動くチェリだが、意識をそちらに持っていかれる割合が多く、本来の威力を発揮できなくなっていた。
「無意識に隙を作らないようになるまで戦え。一撃の被弾は死と想定しろ」
「はい!」
「前に教えた足運びは使えているのだからお前は出来る。自信を持て」
「はいっ!!!」
元気良く返事するチェリに満足した俺は、その後も子ども達の育成に励んだ。
そして時間は流れ、リアルで夕飯を食べようと思ったので俺達は帰宅し、今日の皆の頑張りをソルと話していた。
ユアストではもう夜中だからな。子ども達も使用人ズもグッスリの時間だ。
「──でさ、チェリがズッコケたんだよ。俺の目の前で」
「うんうん。それでどうなったの?」
「俺が助けようと思って手を出したら、そのままスパーンと斬られてな。まさかのズッコケ作戦だったんだ」
「それは凄いね。相手に隙を作らせるなんて、中々できない事だよ」
「あぁ。全く持って同意見だ。このまま強くなってくれたら、テイマー部門でも輝いてくれるだろう」
「そうだね。じゃあ、そろそろ寝よっか」
「だな。おやすみソル」
「おやすみルナ君」
ソルが優しく俺の頬に唇を当て、ログアウトした。
それに続いて俺もログアウト......する前に、眠っている皆の頭を撫でた。
ここに居る4人も、フー達使用人ズも、俺の大切な人達だ。
出来る限り、感謝を伝えたい。
「ありがとう」
そう呟いてから、俺もログアウトした。
酷いよ運営! 斧術君が泣いてるよ!?
次回『前夜祭』お楽しみに!