異次元の戦場
「ミアちゃ〜ん? 死んでもらうぜ〜??」
俺は気絶したまま放置されているミアの元にグレネードを投げ、直ぐに次の遮蔽物へと移動した。
「こら〜! ミアちゃんを殺すな〜!!!」
「ム〜リ〜。1v3なんてやってられっかよ!」
ピギーの叫び声に答えつつ、俺は遮蔽物を転々としながらリンカからの射線を切った。
だが、リンカとピギーの位置取りが完璧で、俺が一方の射線を通すと、必ずもう一方からの射線も通るのだ。
そうして訪れた膠着状態に、俺達3人には緊張の糸が張っていた。
「アル〜? 念願のアルとの戦闘なんだし、もっと撃ち合いましょ?」
「嫌だね! リンカだけなら別にいいけど、ピギーも付いてるなら戦えないもん!」
「あら、女々しいことを言うのね」
「慎重と言え敗北者」
「敗......北者ァ......!?」
「ダメ! 乗るなリンカちゃん!」
俺の一言に対し、リンカは憎悪の篭った声で答え、大きな足音を立てて走り出した。
それを必死にピギーは止めていたが、もう遅い。
俺の煽り圏内に踏み込んでしまったからには、理性的なプレイングはもう出来ないと思え。
「死ねぇアルテミスッ!!」
可愛い可愛い狼っ娘の隠れる岩へと走って来たリンカは、岩の裏に居る俺目掛けてアサルトライフルを連射してきた。
ズドドドドドドドドドッ!!!!!!!
マガジン1つ分を撃ち切り、リロードするリンカ。
その瞬間にリンカは、違和感に気付いた。
「んなっ、ドール!?」
「ざ〜んね〜んで〜した〜!」
「ふんっ!!!!」
ほぼ外しようが無い俺の一撃が、リンカが咄嗟に横に転がることで避けられてしまった。
でもなぁ......それは読んでたんだ。
「ッ! 足が!」
「See you goddess」
バンッ! バンッ!!
2発の弾丸を頭で受けたリンカは、辞世の句を詠む間もなく砂の様に消えていった。
「残るはピギー......チッ、逃げたか」
遠くの方に、ピンクの髪を揺らしながら走る、小さな影が見えた。
「ごめんな。俺と会ったのが運の尽きだ」
俺はその場に寝そべりサナをリロードしてからバイポッドを展開させた。
「サナちゃんターイム! さぁさぁピギーちゃん、鏖殺天使から頑張って逃げてね! じゃあ......死ね」
ババババババンッッッ!!!!!
本来ならば立って撃てないレベルの反動でも、こうして伏せて撃てば楽に制御が出来る。
「ん〜、1ヒットか。じゃあ次〜」
ババババンッッッ!!
◇『アルテミス』が『Piggy』をキルしました◇
「ナイスファイト、ピギー。恨むならサナちゃんを恨みな。いや、サナをフルオートで撃てるようにした運営を恨みな!」
ニコニコ笑顔で俺はバイポッドをバックパックへ仕舞った。
そしてきちんと全弾リロードしてから立ち上がり、後ろへ振り返ると──
「グッバイ、狼ちゃん」
「まったね〜!」
5人の集団が、俺の後ろでスタンバイしていた。
コイツら......いつ来たんだ? 足音もエンジン音もしなかったし、もし音を立てて移動していたとすると、俺が気付けない訳がない。
つ・ま・り
「チーターか」
「こちとら商売なんでね」
「犯罪者に商売もクソもあるか......よっ!」
お話に花を咲かせるチーターに向けてグレネードを投げると、5人は転移して爆発を回避した。
スピードハックの数値が高すぎて転移したように見えるのは、チート特有の現象だ。
「魔法ならユアストで使えよな」
俺はそう呟いて5人から射線を切り、ガンマ5を片手に味方へ位置報告を......
「死んでやがる。いつの間に轢かれたんだ?」
多分、俺の元に来る前に殺られたのだろう。野良3人は見事に死んでいた。
「いいよ、いいですともやりますとも! ウォールハックがなんだ、オートエイムがなんだ! プレイヤースキルもまともに持ってねぇゴミクズ野郎に俺は負けねぇ!!」
1v5。相手はチーター。99パーセント以上の確率で、俺は負けるだろう。
でも、俺は戦う。相手が強くとも、相手がズルをしていても、俺は俺の持つ技術で戦うぞ!
「リル、口が悪くてスマン」
この場に居ない小さな子どもに謝罪をしてから、俺は真上にグレネードを投げた。
チャンスは1度きり。俺は、この試合を純粋に楽しんでいる他のプレイヤーの為に、このチーターを殲滅する。
「来いよカスども! 俺をぶっ殺してみろ!」
「言われなくても」
ズドドドッ!!!!
4発しか撃たれなかった5ミリ弾は、全弾俺の頭へと命中し、俺は砂の様に消えた。
(観戦じゃい観戦じゃい。俺の置き土産、ちゃんと受け取ってくれよ?)
俺が死んだ位置に出現した大きな袋に、チーター5人は集まり、俺の装備品や回復アイテムを漁っていた。
そして3秒後、5人の頭上に起爆寸前のグレネードが落ちてきて......
ズドォォォォン!!!!
轟音と共に、チーター5人衆は花火のように散った。
(俺の勝ち。グレネードを投げたことに気付いてない馬鹿どもめ。チートを使って勝つくらいなら、純粋なプレイヤースキルを磨けっての)
観戦画面が他のプレイヤーに移り、本来あるべきの公平な撃ち合いをしている姿を見届けた俺は、笑顔でロビーに帰った。
「お疲れアル。やっぱり今の試合、チーター居たよね?」
俺はベンチに座り、久しぶりに『ファンタスティックトロピカルサイダー』を飲みながら次の試合をどうするか悩んでいると、ピギーとミアとリンカがやって来た。
「あぁ。自爆して全員倒したぞ」
「凄いですね! 一応2人はこちらで倒したのですが、流石に5人は無理だと判断して、逃げたんですよ」
「そうね。全く......まさかここでも負けるなんて思わなかったわ」
「ドンマイドンマイ。技術で見ればお前の方が上なんだし、今回はたまたま俺が勝てただけだ。落ち込むなよ?」
「ハッ、誰が落ち込むもんですか。アンタの方こそ、私に負けても落ち込まないでよね!」
リンカがツンデレヒロインの様なセリフを吐き、同時に俺にフレンド申請をしてきた。
そこに添えられているメッセージに、
『チーター討伐ありがとう』
と、添えられていた。
「仕方ない、承認しといてやるよ。それで、ピギーは配信中か?」
「そだよ〜。というか、私ら3人とも配信中」
嘘でしょ? ガッツリ中身を出して話してたんだけど......今更か。気にしてもしょうがない。
「あ、なんかさっきの試合、ルナと同じパーティだった人がスパチャくれたよ。『強すぎてビビりました』だってさ」
「そっか〜。あの時は飛び出してすまんかった。それと、チーターに轢かれてるのに気付かなかったのもごめん。でも、倒しといたから許してニャン」
手を猫のポーズにして、ピギーに向かって可愛く首を傾げてみた。
「うわ......」
「キモっ......」
「アルテミスって、こんな事もするプレイヤーなのね。知らなかったわ」
「可愛いんだからいいだろ? 最近はリアルやらユアストやらが忙しかったんだから、FSでくらい遊ばせろ」
そう言って俺はピギーのパーティに入り、試合準備完了のボタンを押した。
「ではでは〜、突発コラボになりますが、これからはアルも入れてやって行きま〜す!」
「世界ランカーがこうも集まると、圧巻ですね」
「確かに。今まで組んだパーティだとダントツに強いパーティかも」
「俺......私は差程かな。ニヒルでやる時とそこまで変わらないと思うから、リラックス出来る」
「んじゃ、つよつよメンタルのアルを入れて〜......しゅっぱーつ!」
そうして、この日は化け物4人で仲良く暴れた。
次回『毎度のやらかし』お楽しみに!