6vs1&2&11
タイトルで何の話か分かったらビビります。
「ふんふっふふ〜ん♪」
3年生の生活にも慣れてきた頃。
学校が休みの日に俺は、ユアストではなくFSにログインした。
「ご機嫌ですね。良い事でもありましたか?」
「いえ、そこまで特別なことは。ただ、こうしてゲームしている時は楽しいな〜って」
「分かります。僕もこのゲームをやる時は、凄く自由な気持ちになります」
リルの姿で民家を漁り終わってマップを見ていると、野良で出会った男性プレイヤーが話しかけてくれた。
今の俺のランクはかなり低いから、多分この人も低ランク帯の人だと思うが、漁る手際がかなり良い。
「上級者なんですか?」
「え? 僕が?......ないない、ないですよ! このゲームで自分のことを上級者と名乗れる人なんて、多分居ませんよ?」
「そうですか? アイテム整理にかける時間、かなり短いと思ったんですが」
「それは僕の方が思いましたよ。アルテミスさん、異様に早くないですか? 普通、悩みません?」
「悩まないです。野良でやる時は使う武器をある程度決めてますから」
俺はそう言って一丁のアサルトライフルとスナイパーライフルを取り出し、野良の人に見せた。
「えっ! ガンマ5とサナを使うんですか!?」
「はい。慣れてると言うか、使う弾が一緒なんで、弾不足になる事も少ないですし、火力が出ますからね」
「た、確かに火力は出ますが......当たるんですか?」
「当てるんですよ。さぁ、皆さん漁り終わったみたいですし、次の街に行きましょうか」
俺はこのゲームで1番扱いづらいアサルトライフルと言われる『ガンマ5』と言う銃を好んで使う。
コイツは反動が大きい上にスコープが乗せられないのだが、その分威力はアサルトライフルで1番高く、弾薬も5ミリ弾を使うお陰で、継戦能力が高いのだ。
サナは以前からも使っている、スコープが乗せられないスナイパーライフルだ。
こちらも威力は最高であり、弾に困ることは無い。
そう、この編成はスコープを探す手間も無く、弾も直ぐに見つかりやすいというダブルコンボの組み合わせなんだ。
「今回は私含め4人なので、確実に勝つ立ち回りで行きましょう」
「「「了解です」」」
「まず、次のエリアにある高台は既に取られていると思うので、そこを迂回するように東回りで。その次は敵の位置を確認して、倒せそうなら倒す感じで行きましょう」
「「「はい!」」」
今回のマッチは運が良いな。
野良で出会った人って、基本的に戦略を説明しても言うことを聞かないパターンが多いし、今のように大雑把な説明で理解できる人はかなり少ない。
相手が常人のプレイヤーなら、この試合は勝てるだろうな。
◇◇
「敵! 320方向、人数3!」
高台が取れた俺達は、この高台を維持して勝利を目指す方針に変更した。
「把握しました。ショットガン持ちのお2人は引いてください。私とこの人でちょっかい出すので、周りの警戒を頼みます」
「分かりました。俺は東を見るので、3番さんは南西側をお願いします」
「了解」
320方向は北西側なので、ちょうど後ろを警戒してくれるのは有難い。
「では、ちょっかいを......逃げろ!!!」
サナを構え、マップ確認中に俺と話してくれた人と一緒に敵の方向に顔を向けた途端、俺は野良の人に向かって叫んだ。
だが、そんな叫びも虚しく──
「ぅ......すみません、頭ぶち抜かれました」
野良の人のヘルメットは吹き飛び、頭から大量の血が流れ出ていた。
そして俺は野良の人を蘇生しながらキルログを見ると、納得のいく気絶だと思った。
◇『Piggy』が『サイン』を気絶させました◇
「ピギーか......3人とも、絶対に顔を出さないように。1秒で頭を抜かれると思って」
「「はい」」
「アルテミスさんはどうすんですか?」
「俺は......ピギーを倒します」
「「「俺?」」」
あっ、中身が出てきちゃった☆ てへぺろ!
「気にしないでください。では、引き続き警戒を」
俺はサナを構え、平原を歩くピギー達が歩く先の地点を予想し、一瞬だけ顔を出して射撃した。
バンッ!!!
強烈な炸裂音と共に、俺の弾丸はピギーの足に、ピギーの弾丸は俺の脇腹に命中した。
「......ダメージディールは俺の負け。それと凄く嫌なものを見ちゃった」
俺が肉眼で見た一瞬、ピギーの近くに居た2人と目が合ったんだ。
「リンカとミア。世界1位と日本2位が揃ってる」
「「「......え?」」」
「ついでにサインさんを倒したの、元世界11位だ」
「「「ええぇぇぇぇぇええええ!?」」」
化け物揃いだ。多分、ピギーの配信かなんかで2人を連れてるんだろうが、それに轢かれかけてる身としては厄介極まりない。
「ど、どうするんですか!? 逃げますか!?」
「いや、寧ろそんなプレイヤーに殺されるなんて光栄だろう」
「そんなこと言ってる場合か? 今すぐ離れるべきだ」
3人が固まり、身を低くして話し合っている。
「皆さんは『あの3人を倒そう』とは思わないんですか?」
「「「無理!!!」」」
「えぇ?」
やる前から諦めるとか、何考えてんだ?
ここはリアルじゃないんだし、安全思考を捨ててリスキーに立ち回ることだって出来るんだ。なのに何故、勝利の喜びを感じようとしないんだ?
「じゃあ3人は逃げてください。私は戦いますんで」
「いや、いやいやいやいや! アルテミスさんも逃げましょう!」
「逃げませんよ。リンカとミアはともかく、ピギーに関しては何度も勝ってますし。それに、3人でそこまで話し合いが出来るなら、上位に残ることは出来るでしょう? 私が死んだところで、3人なら大丈夫です」
俺は仲間に一瞥もくれず、チラチラとピギー達の様子を伺った。
ピギーとミアはこちらに手を振っており、俺も銃口を上に向けて横に振った。
「アイツらは私が倒す。生き残りたいなら逃げたらいい。でも、勝ちたいなら私と一緒に戦え」
俺はそう告げてから、ピギー達の射線が通る位置にスモークグレネードを投げ、その煙幕の中に入った。
煙幕が続く時間は30秒。手持ちのスモークグレネードは残り2つだから、戦闘可能時間は1分半だ。
「すぅ......まずはお前だ」
煙の中でサナを構え、俺は呼吸を整えた。
「2......1......ここ」
バンッ!!!
◇『アルテミス』が『ミア』を気絶させました◇
完璧だ。先程のポジションからミア達の位置を予測し、完璧なヘッドショットを決めてやった。
「あと2人。多分リンカのサブウェポンはショットガンだから、先にピギーを潰すか」
チラッとリンカを見た時に構えていた銃が、ポンプ式ショットガン特有の形状をしていた。
「ピギーのメインウェポンは、銃声から予測するに『ガーヴァ』。スコープは知らんが、頭さえ抜かれなければ1発は耐えられる」
これがインドラなら胴体でも死ぬかもしれない。
だが、さっき俺が撃たれた時のHPの減り具合を見るに、多分ガーヴァで確定だ。
あの銃、確か連射速度がスナイパーライフルの中で2番目なんだっけ。ちなみに1番はサナだ。
それとは別に、ピギーのサブウェポンはサブマシンガンで固定している。つまり、近距離に持ち込まなければ勝機はある訳だ。
「胴撃ちなら速度で負けるから、確実に頭に当てないと」
俺はピギー達が隠れたであろう遮蔽物の裏へグレネードを投げ、不人気武器であるガンマ5を持って走った。
「ミドルレンジは俺の適正距離だ。神だろうと化け物だろうと、全員まとめてブッ倒してやる!!」
狼の耳を立て、八重歯を剥き出しにしながら俺は戦場を駆けた。
多分最後のFS回となります。悲C
次回『異次元の戦場』お楽しみに!