生放送出演 1
生放送の打ち合わせ的な雑談です。
とうとうやって来てしまった生放送当日。
現実時間で午前11時頃、ゲーム内時間で午後4時頃に『語りの広場』に行くことになっている。
そして今、ゲーム内時間午後3時半。俺はソルとリルと一緒に、街のベンチでのんびりしていた。
だって緊張してたんだもん。落ち着きたいから2人といるのだ。
「はぁ......あと30分か......」
「そんなに気にしても仕方ないよ。ちょっと生放送に出て、ちょっとお話して、報酬を貰うだけだよ」
「父様、緊張しているのならリルの手をお握りください。落ち着くかもしれませんよ?」
「分かった。そうさせてもらう」
とりあえずリルの手を握ろう。うん、小さい。
リルはこれから成長するのだろうか? 今の見た目は12〜3歳くらいだが、いつか大人になった姿も見てみたいな。
「あれ? これ完全に父親思考じゃね?」
「どうしたの? ルナ君。遂に決心した?」
「遂に決心て......いやな、リルは大きくなるのかなぁ、って思ってな。いつか大人になった姿を見たいと考えていたんだ。だから父親思考だと感じたんだよ」
「なるほど、確かにそれは娘の成長を楽しみにしている父親って感じだね。リルちゃん、リルちゃんは大きくなるの?」
どストレートに聞きますわね、ソルさん。
「はい、成長すると思います。私はフェンリルの中でも幼い方なので」
マジか! それは成長が楽しみだな。
「そうなのか、リルのレベルと時間で幼いって、フェンリルは相当強い生物では?」
いや、幻獣と言われてるんだし当たり前じゃん。
馬鹿かよ、俺。
「当たり前でしょ? 私達の子が弱いわけないわ」
「えぇ.......ソルさん............」
それ、とんでもない爆弾発言では? もうソルの中ではそういう感覚?
「あっ!」
ほら言わんこっちゃない。真っ赤っかではないか。物事はよく考えてから発言しましょう。そして俺もつられて真っ赤っかだと思うぞ。どうしてくれる。
「もう、父様と母様はこれだから......」
リルすわぁん!?
「あ、もうそろそろ時間だな。行ってくる!」
話してたら時間が来てしまった。行かねば。
はぁ、言葉遣いとか、姿勢とか、色々聞かなきゃな......
「う、うん! 頑張ってね! リルちゃんと一緒に見てるから!」
「頑張ってください! 父様!」
「あぁ、行ってきます」
「「行ってらっしゃい」」
こうして2人に見送られて俺は『語りの広場』に来た。すると――
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ルナ様へ
特設エリアに転送します。よろしいですか?
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と出たので迷わず『はい』を押す。そしたら俺はログアウトの時のような光に包まれて、目を開けると何やらステージの上に立っていた。
「お! キタキタァ!!」
「やぁ、ルナさん」
「初めましてだな、ルナ氏」
なんかあの3人がスタンバってた。
ステージの上には丸いテーブルがあり、そこに4つの椅子が置いてあって、そのうち3つがあの3人が座っている。
「あ、初めまして。ルナです」
とりあえず挨拶とお辞儀ををね。
「はいはーい! 私は初めましてだけど初めましてじゃないよね! 覚えてる?」
ったりめぇだろ。キャラクリの時に声だけ聞いたし、第1回の生放送であんなことをしてくれたんだ。
「もちろんですよ、キアラさん」
「あはは! 尻尾の説明はありがとう! それと1回目の時はごめんね?」
「いいですよ。どうせ今回の出演で1回目とは比にならないぐらい注目浴びると思うので。リアルの方じゃまだ2日しか経ってないのに......」
俺がそう言ったらレイジが口を開いた。
「いや〜、本当にごめんなさい。本来なら第1回の1週間後に第2回をやる予定だったんですけどね。第2陣に合わせるのと、詳細を少しずつ発表するって感じで。それがまさかの幻獣に勝利したプレイヤーが出ちゃいましたからね」
そしたらカズキが横から......
「それも第1回で目立った銀髪のプレイヤーだ。これは一気に有名人になるぞ」
うへぇ......有名人か。コソコソとせずに堂々と話しかけてくれるなら対応出来るんだけどなぁ...昔を思い出すからコソコソされるのは苦手なんだよな。
「あ、初めまして! ルナさん。レイジです。挨拶が遅れて申し訳ありません」
おうレイジさん! 貴方はマトモな人だ!第1回でのあの優しそうな印象は間違いじゃなかった!
「俺も改めて。初めまして、カズキだ。俺はルナ氏のファンだ」
ん??? ファン!?
「改めて初めまして、ルナです。よろしくお願いします。キアラさん、レイジさん、カズキさん。ところでファンと言うのは?」
「はっはっは! 男ならあの戦闘見れば誰だってファンになるだろ! 遥かに格上のモンスター相手に臆せず、勇敢に立ち向かい、更に勝利を刻む!あのカッコ良さはだれでもファンになる!
なぁ、レイジはどうなんだ? お前はルナ氏のファンにならないか?」
なんか本人の目の前で布教された。
「ふっ......先輩。僕は誰よりも早くルナさんの戦闘を見たんですよ? 先輩より早くファンになってるに決まってるじゃないですか!
まるであの時の為かのようなショートカット操作の練度! そして武器の完璧な扱い!武器に対する心! そして何より、あの的確にモンスターの弱点を突く戦闘技術!! あんなの見たらもう、普通の戦闘シーンじゃ満足できませんよ」
なんかカズキよりヤベー奴がいた。
「いやーごめんね? ルナくん。まず打ち合わせって言うか、あの時の私達の話を聞いてもらっていいかな?」
「はい、こちらからも少し聞きたいこととかあるので、話しちゃいましょう」
「うんうん! そうしよう!」
俺は椅子に座って思う。『もしかしたらキアラさんが1番マトモなのでは?』と。
「えっとね、まず私達は最初の『幻獣』は倒されると思ってなかったの。いや、正確に言えば『討伐される』と思ってたの」
え? どゆこと? 『倒される』ってことはつまり、『テイム』されると思ってなかったって事か。
いや、これはテイムした時にもそう思ったよな。
「そうなんですか?」
「うん。フェンリルの最初の一体はお喋りが好きな設定にしたし、超高性能AIを積んでるの。それでも人間の話を聞きたい、とは思わないはずだったのよ。お喋りが好き、だけど他の生き物は餌としか思わない。そういう思考のはずだったの」
そうなの!? あの時はあっちから話しかけてきたぞ!?
「多分、その超高性能AIが原因だ。ルナ氏、貴方はフェンリルに『友達がいない』的な事を言っただろ? それでフェンリルは『友人にも秘匿している情報がある』と誤認したのだろう。それで最初に『他に何か話すことはあるか?』と聞いたんだろうな。『冥土の土産』とも言っていたから、『死ぬ前に話すか』と思って話すと思ったんだろう」
えぇ......何その自爆は。賢すぎる故に深読みしすぎたのか。ってかそれってリルは大丈夫なのかな?
「あ、今は改善してますよ。ルナさんの戦闘ログを見た後直ぐに、AIの思考回路を変更しました。ですのでこれからは、『賢い上に強すぎる狼』って感じになりますね。お喋り好きの要素を消しました」
え? リルのお喋り好きは健在だぞ?
「あ、野生のフェンリルの話だからね! だからルナくんがテイムしたリルちゃんは大丈夫だよ!」
「良かったです。あ、そのテイムについて聞きたいんですけどいいですか?」
時間はたっぷりある。聞きたいことは全部ここで聞こう。
「もっちろん! 答えられる範囲なら何でも答えるよ!」
「なら早速。リルが、というよりテイムしたモンスターが生産系のスキルを取れないのって、モンスターによってはDEXとかのステータスが高すぎるからですか?」
「そうだよ! リルちゃんのステータスを見ればわかるけど、1万なんてステータスで生産されたらとんでもない性能のアイテムが出来ちゃうからね! ゲームバランスを保つためにも、テイムしたモンスターは生産系スキルを取れないようにしてるの! ただ、DEXだけが高くても高レア度のアイテムは作れないよ! ちゃんと適した技術が必要なの!」
やはりあの仮説は外れていたようだ。ちゃんとした技術がネックだと、そう理解しようか。
「ありがとうございます。予想通りで良かったです。次の質問をしてもいいですか?」
「うん! ここからは質問タイムとしよう!私達も色々聞いていいかな?ログを見るんじゃなくて、本人に直接聞きたいの」
「勿論です。沢山質問するので、そちらも沢山質問してください」
「やったー! じゃ、ルナくんの質問は何?」
「そうですね、これはレイジさんの専門だと思うのですが、ステータスによって武器の耐久値が減るスピードが変わるのって何故ですか?」
これもまぁ、予想はできる。例えるなら初心者が職人の道具を使うのと、職人が初心者用の道具を使う感じ......なんだろう。言葉にしにくいな。
「はい、僕がお答えします。
ステータスによって武器の耐久値の減少量が増えるのは、2つ、理由があります。
1つ目は『技術に適した武器を使う』というのを知って欲しいからですね。
レイピア等の細い武器を扱う、力のない人が大剣を扱うのは難しい。大剣を扱う人がレイピアのような、『突く』動作が主で、細い武器を扱うのは難しい。という感じですね」
なるほどな。予想と少し違う答えが出たな。
「そして2つ目は、『力に適した武器を使う』というのですね。
これはもう体験されてると思いますが、弱い武器は強い力に耐えられません。レベル20くらいでステータスをどれか1つに集中して上げると、そのステータスに適した武器は、最初の街ではありませんね。
そこで知って欲しかったのです。『集中して上げるのではなく、溜め込むか、満遍なくSPを振って欲しい』と。
まぁ、ルナさんの場合は仕方ないですよね。相手が幻獣なんで、そこら辺のステータスじゃマトモに1ダメージを与えるのすら、キツイでしょう」
これだこれ、これを予想してたんだ。フェルさんも言ってたが、やはり強い力に耐えられないんだな。
......これから師匠になる人の言葉を信じてない俺って............
「あ! そうそう、ルナ氏。貴方は良くあの場であれだけのステータスを上げて普通に動けるよな。普通の人ならステータスに振り回されるはずなんだが...何か秘訣とかあるのか?」
え!? ステータスに振り回されるのか!?
「ステータスに振り回されるんですね、知りませんでした。それに秘訣ですか......うーん」
秘訣......秘訣......あ、師匠の教えとか?
「あ、俺やソルはリアルの方で道場に通っていたんですが、そこの師匠に言われたことを意識しているからかもしれません」
「師匠に? それは教えて貰ってもいいか? ダメならいいんだ」
「多分、大丈夫ですよ。お話します。
それで、秘訣というか、教えられたことは『理想の動きを常に求める』って事ですね。それで一気にステータスを上げても『もっと』と思って、動けたんでしょう」
これは向上心の話に繋がるのだ。常に向上心を、『理想の動き』を求める事で、より自分を高みに至らせる。
「『理想の動き』か......なるほど。ありがとう」
「いえいえ! こういうことならバンバン答えますよ! では次の質問、いいですか?」
「おう! もちろんだ!」
「では、......あ、これ凄く言い辛い.........」
あれだ、俺が聞こうとしてるのはサンドイッチの件だ。『ルナちゃん特製たまご☆サンド』の名前についてだ。
「ん? どうしたんだ? 言うだけタダだ。ルナ氏の質問には答えたいぞ」
くっ! カズキさん、これはマジで口に出すのが怖いんだ! でも、聞かないとなぁ......
「......あの、俺が料理をしたら、完成した料理の名前が変だったんです」
意を決して聞いたぞ。するとキアラさんが......
「あ! 『ルナちゃん特製たまご☆サンド』の話だね!」
「キアラ貴様ァ!!」
なんだこいつ! 人が隠して言ったことを全部バラシやがった!!
「ルナさん!? 大丈夫ですか!?」
「落ち着いてくれ、ルナ氏。これには訳がある」
「............はい。すみません。取り乱しました」
キアラを殴りてぇ。師匠仕込みかつ、『闘術』込でSTR2,610のフルパワーで殴りたい。
「ごめんごめん! えっと、料理の名前だったね。あれは料理を作った人の印象が強かったりすると名前に出ることがあるんだよ! あの時のルナくんはノリノリだったからね、ああ言う名前になったの。
私も初めての特殊な名前がルナくんでビックリしたよ!」
クソが!
「真剣に料理を作ったら名前が変になるってどういう事ですか......」
「いや、あれは......うん。無意識なんですね」
「ルナ氏はすげぇな」
えぇ? 2人が何言ってるか分からないぞ。
「まぁまぁ。ルナくんはそのまま料理を楽しんでね! 名前は気にしなくてもいいじゃない!」
「ダメですよ。次作った時に同じような名前だったら泣きますよ」
そう言ったら3人が悲しい目をして俺を見てくる。
......なんで?
そこから数時間、雑談したり、また色んな質問したり答えたりした。
そして時刻は土の曜日23:50になった。あと10分で生放送開始だ。
次回は生放送本番です。これで2章が終わる!はずです!




