冷めない温もり
最近、次回予告の精度が良いですね。昔とは比べ物にならない程正確です。
「覚悟............決めたよ」
今の状況を整理しよう。
俺はソファに押し倒されており、押し倒してきた張本にである陽菜は、上半身が下着姿だ。
そして陽菜の目はキリッと決意に満ち溢れており、俺の服を脱がそうと手を動かしている。
う〜ん、ピンチ。M・O・5だね。
「待て、待て待て待て。俺は覚悟出来ていないぞ!」
「責任......取るでしょ?」
「取るよ? 取るけどさぁ、流石に流れに身を任せるのはダメだと言うか、ちゃんとルールは守ろうと言うか」
「そのルールそのものを消そうとした月斗君に、拒否権はあるとでも?」
「......ダメだ。陽菜を傷つけたくない」
「いいよ。月斗君になら傷つけられてもいい。寧ろ傷つけて欲しい」
嘘〜ん。大変だ、この子、本気で襲いに来てる!
ダメだよ、僕達まだ学生だよ? もしもの事があれば、高校卒業出来ないよ?
というかさ、するにしても物が無いよね? 人生ゲームオーバーする確率が高いよね? ヤる気ならちゃんと物は揃えた方が良いよね!?
「分かった。分かったから」
「するの?」
「しないわ!!! それは結婚してからだって、前にも言ったろ?......はぁ、全部話す。何があったか、全部話すから」
「それで?」
「陽菜にごめんなさいする。信頼を裏切ってごめんなさい、って」
「ん〜? 私は月斗君を信頼してるよ? 月斗君がどうかは知らないけど」
「......どうやったら証明出来るんだよ」
詰んだ? もしかして俺、詰み申した?
「だぁもう! 分かった! 俺が悪いのは認めるから服を着てくれ!」
「私は本気だよ?」
「俺も本気だわ! 本気だから、こうして陽菜の体を考えて『それはもう少し先にしよう』って言ってんだろうが!」
「むぅ......じゃあこの気持ち、どこにやればいいの?」
よ、良かった。アブナイ選択肢を選ばなかった俺、偉いぞ。一時の感情で陽菜を傷つければ、もう一生陽菜と良い関係を築けない可能性もあったからな。
「それは分からん。抱きついて治まるなら、遠慮なく抱きつけばいい」
「いや。月斗君から抱きしめて欲しい」
「陽菜さん。アンタ、自分の格好を理解して言ってんのか?」
「うん」
「はぁ......変なことするなよ」
今の陽菜は危険だからな。少しでも変な刺激を与えると俺を爆発させる、恐ろしい爆薬となっている。
俺としては嫌な気はしないが、今後を考えると両者にとって大変な目に遭うからな。
「うひゃあ!」
おちおちおち落ち着けけけ。まだ、ままだまだ大丈夫なラインだ。これは......そう。陽菜が下着姿なのがいけないんだ。別に俺は悪くないと思う。
いや......俺の手つきがおかし......そんな事ない。うん。
「陽菜、ごめん。将来の為の準備をしてて、それで緊張してたんだ。だから、その......ごめん」
柔らかい陽菜の背中を撫でながら、俺は緊張の理由を少しだけ言い換えて話した。
「いいよ。ただし、あまり私に心配させないでね? 白髪が増えちゃう」
「あぁ。いつまでも若々しく居られるように、苦労はかけない......ことは無理だから、出来る限り小さくしておく」
「それなら許そうかな。もうちょっとだけギュッとして」
「はいよ」
今更だが、陽菜はこの状況にドキドキしていないのか?
俺はさっきから心臓が爆発しちゃった音が何度も聞こえるのだが、陽菜の方は大丈夫なのだろうか。
ん? いや、顔真っ赤だわ。陽菜、今になって自覚し始めたな?
「つ、月斗君」
「離さんぞ」
「どうして!? 私だけすっぽこぽんなんだよ!?」
「それを言うならすっぽんぽんだ。でも陽菜、下着を付けてるから厳密にはすっぽんぽんじゃないよな」
「れ、冷静すぎない? もしかして私の体、興味無い?」
「興味しかない。一応言っておくが、頭の中で戦争が起きてるからな? 今の俺、相当無理してるからな?」
「ならどうしてそんなに強く抱きしめられるの〜!!」
「陽菜が好きだからな。ん? 陽菜を、好きだからな」
「別に言い直さなくても伝わるよ!! それより早く離して〜!!!」
「ダメでェす。反撃タイムでェす」
と言っても、流石にこれ以上は嫌われそうだからな。辞めておこう。
陽菜が可愛いから、ついやりすぎてしまった。ごめんよ。陽菜が可愛すぎるのが悪いんだ。そして陽菜の事を好きすぎる俺も悪い。
「取り敢えず服を着ろ。なんなら着させてやろうか?」
「ひ、1人で出来るもん!」
「ははっ、すまんすまん」
ポコポコと叩いてくる陽菜の手を受け止め、脱ぎ捨てられた洋服を渡してあげた。
うむ。よくよく考えてみたら、大分テンションがおかしくなっているな。深呼吸しよう。
「......はぁ。今日は今までで1番危なかったな」
「だね。私も、過去に無いくらいセーフティが全部外れてた」
「定期的にチェックしないと、間違って引き金を引いてしまいそうだ」
「月斗君の得意分野だよね」
「銃口は俺の頭に向いているけどな」
本当、人間って難しい。もっと浅く考えて行動したいけど、そうすると様々な問題を自分で作る羽目になる。
逆に、今みたいに難しく考えてしまうと、目先の問題に対して時間をかけすぎてしまう。
そういう点から見ても、今の俺達に必要なのは時間なのだろう。
「お着替え完了!」
「よし、じゃあユアストを始める......ま・え・に」
俺は陽菜の手を取り、真っ直ぐに目を合わせた。
「陽菜。進路は決めたか?」
「うっ......き、決めてません」
「だろうな。でも陽菜なら普通の大学には行けるだろ?」
「まぁね。ゲーム中でも、しょっちゅう勉強してるから......でも、大学はまだ決めてない。かと言って、就職するにしても、高卒じゃ道が狭いかな〜って思って......はい、行き詰まってます」
大事な話だ。これから社会人になる身として、大学に進学するのか、或いはどこかの企業に就職するのか、よく考えないといけない。
「陽菜。陽菜はどんな風に死にたい?」
「え?......え? どういうこと?」
「そのままの意味だ。陽菜の思う未来は、どんなイメージだ?」
「え、えぇ? 考えたことも無いよ」
「ならイメージしてみろ。因みに俺は、両親に恩返しをして、孫の顔を見せられたらもう良いかな、と思ってる。あまり長く生きるのもつらい気がしてな」
「な、なるほど? 私は......私は、お婆ちゃんになっても、月斗君と一緒に居る未来しか見えないかな」
「そうか。ではどうやってその未来を実現するか、考えよう。俺と一緒に居るということは、少なくとも安定した生活が出来ているということだ」
「そうだね。だから、その安定した生活の為の地盤を、学生のうちに決めておこう、と?」
「あぁ。大学で勉強して、友達を作って、就職して.....そんな未来の後に、陽菜の描く未来があるんだろう?」
「うん。でもその大学を選ぶのが、また迷っちゃって......」
難しいな。俺としてはゴールを決めてから過程を埋めていくやり方をおすすめしたいが、踏み出す1歩目の狙いが定まらないままだと、そのまま転けてしまうかもしれない。
だから、その1歩目の狙いを決めたいのだが......
「ん? その言い方だと、大学に進学するのは確定か?」
「うん。月斗君はキアラさん達の所で働くのが分かってるから、それなら私は、月斗君の支えになれるような人になりたくて......最初の4年は大学で頑張りたいな、って」
「あ〜、だから場所で決まってたのか」
「そういうこと。だって、東京周辺じゃないとダメでしょ?」
「そんな事ないぞ。前にレイジさんに色々聞いてな。そもそも出勤する日が少ないと聞いたんだ。殆どの仕事は仮想空間内の事務所でやるから、言ってしまえば在宅勤務だと」
「そうなの!? へぇ〜」
「ということで陽菜。どの大学に行っても良いぞ。太一さん達と相談して決めてくれ。お金の心配なら要らないしな」
「もしかして月斗君、払う気なの?」
「陽菜が望むならな。元々お金は使う人間じゃないし、貯金の桁が普通の高校生と比にならない程あるからな。そこら辺は不自由しないと思うぞ」
直近で個人的にお金を使ったのって、新作のVRゲームを買った時くらいだ。
生活費は貯金から崩せないし、家賃とかも父さん達が払ってくれてるからな。
「視野を広くしようぜ。正直、日本じゃなくてもいいから、陽菜のやりたいこと、若しくは学びたいことが学べる大学を選ぼう」
「ありがとう......本当にありがとう」
「気にすんな。陽菜の問題は俺の問題でもあるからな。俺が言えた口じゃないが、もっと俺に相談してくれ。一緒に考えよう」
「うん! 頼りにしてるね!」
まぁ、俺は俺で、色々と頑張らないといけないからな。
一緒に考えていければ、双方の問題解決にも繋がると信じているぞ。
ゆずあめは高校を選ぶのが1番苦戦しましたね.....何分、頭が悪すぎたものでして、将来の為に繋がる学校を選ぶのが大変だった記憶があります。
人生日々勉強! などとは言いませんが、拾える知識は拾っとくものだと思います。
では次回『臥薪嘗胆』お楽しみに!