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Your story 〜最弱最強のプレイヤー〜  作者: ゆずあめ
最終章 最強決定戦
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見付けられない想いの塊

更新が送れた理由:書いたのに投稿忘れてた。


アホあめでした。


◇ ◆ ◇




「陽菜、ちょっと遠くのコンビニまで行くけど、何か欲しい物はあるか?」



終業式の1週間前となった土曜日の午前。俺は1人で出掛ける用意をして、リビングで本を読んでいる陽菜に向けて聞いてみた。



「ん〜......抹茶アイス!」


「分かった。じゃあ行ってくるわ」


「うん! 行ってらっしゃい。気を付けてね」


「あぁ。行ってきます」



本を閉じてくれた陽菜にハグをしてから、俺は久しぶりに外出用の鞄を持って家を出た。


桜の蕾が春を呼ぶ道を歩き、もう高校2年生が終わる寂しさを感じながら、家から10キロ程離れた場所にある綺麗な店にやって来た。



「すみません、探している物があるんですけど──」




◇◇




「ただい麻婆豆腐」


「おかえ理事長」


「アイスは冷凍庫に入れとくぞ。俺のはチョコアイスにしておいた」


「ありがとう!」



俺が帰ってきたのはちょうど12時半だった。帰り道は走ったので、合計で買い物に使った時間は2時間ちょっとかな?


コンビニのレジ袋を片手に、少しだけ汗をかいた。



「お昼ご飯、もう出来るよ。オムライスなのだ!」


「匂いで予想ついてた。じゃあ手洗ってくる」


「うん!」



そうして洗面所で手を洗いながら俺は、コンビニに行く前に寄った店のことを考えていた。


あの店で色々と下準備はしてきたし、これで5月までは今まで通りの生活が送れるだろう。


タイムリミットは1ヶ月と少し。もし俺が1歩を踏み出す勇気が無ければ、人生が全部パーになると思わないといけない。



「......ふぅ、やれるはずだ。1から2に変えるのは得意分野だ。今までに受けた恩を、自己満足を乗せて返さないと」



きっかけは貰った。スタートラインは切ったんだ。

今までゴールに向かって歩いていたのを、ランニングに変えるだけだ。



「よし......よし......ははっ!」



ふと鏡を見てみると、まるで人形の様に表情が消えている自分が見えたので、思わず笑ってしまった。



「緊張してるなぁ」



心拍数も上がってないのに表情だけが消えるなんて、俺はどこでぶっ壊れたんだ?



「大丈夫、大丈夫」


「大丈夫じゃないでしょ? 月斗君、さっきから笑えてないよ?」


「......いや、大丈夫」


「取り敢えず水止めて、ご飯食べよう?」


「あぁ」



いかんいかん。陽菜に心配をかけてはダメだ。怪しまれない程度に心配はかけたいが、不用意に陽菜に苦労かけるのはダメだ。



「じゃあ、いただきます」


「うん。よく味わってね」



おーまいがー。オムライスの味が分からないぜ。何故そこまで俺は緊張している? いや待て、待つんだヒロシ。ヒロシって誰だ? あ〜ダメ、頭が回りすぎて空回りしてる。



「月斗君、顔色悪いよ? 大丈夫?」


「声色? 別に普通だと思うが」


声色(こわいろ)じゃなくて顔色(かおいろ)。ねぇ、絶対何かあったよね? 話してくれたら何でも聞くよ?」



アカン。めっちゃ心配されてる。これはマズイぞ。


今、俺には2つの選択肢がある。


1つは、何があったか......と言うより、俺が何をしたかを全て明かし、気持ちをぶちまけることだ。


もう1つは隠すことだが、これは余計に陽菜を心配させた上に、最悪、陽菜の信頼を裏切ることになりかねない。

もし裏切ってしまったら、俺は落ち込むどころの騒ぎにならないぞ。



「えっと......その、な」


「今すぐに言えないことなら、別に後でもいいよ。ただ、私は凄く心配するけどね」


「言いたい。言いたいが......まだ言っちゃダメなんだ」


「ダメ、と言うと?」


「それは勿論......ってオイ!」


「あはは、言わなかったか〜」



あと少しでバラすところだった。陽菜は昔から、そうやって人の悩みを聞こうとするから好きなんだ。相手を想い、自分の口から言わせることで、自分も相手も悩みの種を再認識させてくれる。


でも、今回だけはダメだ。話してはいけない。



「しょうがないな〜、もう。後で膝枕してあげるから、取り敢えずその緊張を解そうよ」


「ありがとう。お願いする」



深く付け込まずに待ってくれるどころか、ちゃんと相手の状態を1段階ずつ理解しようとしてくれる陽菜に感謝しかない。


俺はどうやってこの恩を返せばいいんだ? 俺には些か、相手が良すぎるのではないか?


......違う。卑屈になるな。恩を返そうと思ってるから、変に深く考えすぎるんじゃないか?


ダメだ、分からない。分からない理由が分からない。



「月斗君」


「......ん? 何だ?」



あ〜あ。考えるあまり、返事が送れた。アホか俺は。




「私は待つよ。今まで私から押してきた分、待つ。でも我慢はしないから」




待つ......待つ? あれ? もしかして全部バレてる?

まさかそんなハズは......あるか。俺の様子がおかしすぎるもんな。


どうしよう。こんな時に、なんて言葉を返せば......



「ありがとう」



この一言しか思い浮かばない。素直な気持ちで、真っ直ぐ、誠意を込めて。



「ふふっ、いつになく真剣な顔で......好きだよ」


「そ、そんなに待たせないからな! 少しだけだ。少しだけ」



恥ずかしい。正直になろうとしない自分にも、陽菜より自分を優先したことも、全部恥ずかしい。

この人はいつも俺のことを考えてくれているのに、どうして俺は考えてやれない?


──今までの経験が、その思考を生まないからだろう。


だが、その経験を埋める役割を、陽菜は担ってくれてるだろう?


──自分という人間が分からないから出来ないんだ。



「......ごちそうさまでした。早速膝枕を頼んでいいか?」


「勿論。沢山甘えていいからね」


「助かるよ」




そうして自問自答を繰り返しながら、ソファで陽菜の膝枕を受けた。




「よしよし。1人で頑張らなくてもいいんだよ。私が一緒に居るから、2人で頑張ればいいんだよ」



そう言って陽菜が頭を撫でてくると、モヤのかかった俺の思考が段々とクリアになってきた。



「月斗君は昔から、頑張り過ぎる癖があります。自分のHPを見ずに、目標達成だけを見て......中学生くらいの時に治ったと思ったけど、まだ治ってなかったね」


「いやいや、ちゃんと広い視野で見てるぞ?」


「本当にそうなら、私がここまで心配することは無いよ。ちゃんと私を見て? あなたを見る私を」



ゴロンと寝返りを打つようにして下から陽菜の顔を覗くと、陽菜の目から涙が零れていた。

悲しそうな、悔しそうな......そんな表情で。



「ストイックなのは分かるけど、ちゃんと自分を見て。あなたが傷つく姿を見て、誰も悲しまないと思ったら間違いだと気付いて。私ね、昔から、月斗君の傷つけ姿を見てきたの。誰かに傷つけられた姿も、知らず知らずに自分で自分を傷つけている姿も......もう、つらいよ」


「......今回は俺が悪い」


「全部月斗君が悪いよ! 私に言ってくれたら気が紛れると思うのに、私に言ってくれたら解決出来るかもしれないのに! なのに、なのに......1人で背負い込んで、本当の本当にピンチになった時に、ギリギリで解決して......もっと私を頼ってよ。もっと私を必要としてよ。もっと私を......私を信じてよ」



言わせてしまった。今、絶対に言わせてはいけないことを俺は言わせた。大切な陽菜に、1番傷つかせる台詞を言わせた。


もう......ダメかもしれない。



「陽菜。今まで心配かけた」


「......え?」


「これからは出来る限り心配させないようにするからさ」


「違う」


「これでも、陽菜を信じているつもりだったんだ。でも、心の奥ではどこか、信じ切れてなくてさ」


「ねぇ、違うよ」




「だから......さ。少しだけ、前みたいにならないか?」




もう何も分からなくなった俺は、陽菜と同じくらいの涙を流しながら言った。


バカだなぁ。本当にバカだ。俺は自分で幸せを捨てるのか? いや......捨てたんだ。だからバカなんだよ。



かつてこれ程まで感情が揺れた事は無い。

思考を呑み込み、経験を押さえ付け、自分を見失い、相手を傷つかせて......意味が分からない。



「月斗君」


「何だ?」


「目......瞑って」


「分かった」



数秒か、或いは数分か。1度目を閉じると、瞼の裏に物凄い数の文字が見えた感覚に襲われた。


これまでの人生が、全て文字になっているのだろう。

つらい事も、楽しい事も、嬉しい事も、頑張った事も、全部が文字となって見えている。



「目、開けていいよ」


「あぁ......え?」



重い瞼を上げると、上半身が下着姿の陽菜が俺を覗き込んでいた。



「どうし......」



何故その姿になったのかを聞こうとしたら、俺の口が陽菜の口で塞がれてしまった。

そして俺の体を起き上がらせると、陽菜は俺を下にするようにして押し倒してきた。


非常にマズイ予感がする。何か、積み上げてきたものが崩れる予感が。






「覚悟............決めたよ」



次回『冷めない温もり』お楽しみに!

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