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Your story 〜最弱最強のプレイヤー〜  作者: ゆずあめ
最終章 最強決定戦
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原初の天狼、相対す 中編

ちゅ〜編です。




「気付いたら感動的な話になっていたな」


「ちょっとノリに乗ったら、そのまま流されちゃいましたね」


「2人とも〜、戦ってなかった〜」



許してくれ、ベル。改めてフェンリルとして対面するのが久しぶりだったから、つい昔の時を思い出してしまっただけなんだ。


過去があっての今であり、今があっての未来だと感じたのが原因だな。



「まぁまぁ、一旦王都に帰って、王女かランザに相手してもらおう。テイマー部門で圧倒的な勝利を刻む為に、0からやり直す気持ちで挑むぞ」


「分かりました」


「なんで〜、圧倒的な勝利なの〜? お父さんなら〜、普通に勝てるんじゃないの〜?」



ベルよ。それは俺への理解の伸び代がある証拠を見せている様なものだぞ。

もっと俺の根本にあるものを見てくれ。そうすれば、何故『圧倒的な勝利』を掴もうとしているのか、分かるはずだ。



「ベル、よく聞け。俺は最弱の称号を背負いながらも、最強の座を手にするのが武術大会の目的なんだ。それ故に、ただの勝利じゃ、ただの『強者』にしかなり得ないんだ」



俺がベルの目を真っ直ぐに見て言い放つと、ベルは珍しく顎に手を当てて熟考し始めた。


いいぞいいぞ、たっぷり考えてくれ。ほぼ全ての戦闘系スキルを膨大な時間を費やして練習している、お前のパパンの気ン持ちぃんを分かろうとしてくれ。


うん、俺キモイな。自分でドン引きしたわ。



「つまり〜、つまり〜......自己満足?」


「その通りだ。俺達人間は、常に自己満足感を得る為に行動している。俺が勝ちたいのも、俺がソルを抱きしめたらずっと離さないのも、全部自己満足だ」


「お母さん......も、自己満足か」



素晴らしい。よく俺の根本にある、空に浮かぶ月よりも大きな自己満足に対する欲を見抜いた。本当に素晴らしい。


これまでの俺の行動、その全ては自己満足がエネルギーだ。


体を車に例えるなら、肉体は車の形、極めたい物事がエンジン、向上心が燃料だとすると、自己満足感は元素だ。


この自己満足感があるからこそ、自分のやりたい事に理由を付けられるのだ。全部は頭の奥の、心の中にある気持ちが作っている。


例え『誰かの為』と言えど、その誰かは望んでいるのだろうか?


違うかもしれないだろう? 結局は、その誰かを救った自分が、その膨大な自己満足の欲を埋めたいから行動を起こしたのだろう?



俺は思ったんだよ。自分の取る行動の全ては、限りなく小さな自己満足の欲から生まれてるってな。



「言っておこう。ベルは出れないと思うから除外するが、リル。お前に言いたい」


「何ですか?」


「次回の大会、出たくなかったら言ってくれ。俺の自己満足に付き合いたくなかったら、そうハッキリと言ってくれ」



もう、全部曝け出してやる。これが俺の本心だ。

だからこそ、嫌だと思ったなら口に出して欲しい。俺はその言葉を受け止めないといけないからな。



「今更ですねぇ......もう引くに引けない所に来てますし、そもそも私が断ると思っているのですか? だとすれば父様は、私の事を甘く見すぎです。それはもう、交際する前の父さ「ちょっとお口チャックしようね〜」むががが!」



余計なことは言わなくてよろしい。リルが着いてきてくれるなら、それだけで俺はモチベーションが上がるよ。



「......一緒に戦います。私は父様の牙ですから」


「ありがとう」



俺の言葉は短くていい。この5文字に込められた想いが、過去と現在と未来を作ってくれるからな。




◇◇




「うぅ......参りました」


「腕を上げたな、王女。前回の大会なら2位に輝ける実力はあるぞ」


「ということは、師匠には敵わないってことですよね?」


「今お前が立っていれば、その言葉を否定してやれたがな」


「......完敗です」



久しぶりに戦った王女の腕は、前とは比にならない程上手く、強い太刀筋だった。

俺も気を抜けない状況だと思ったのだが、夏にソルと戦った砂浜のように、環境を武器にする考えが浮かんでからは余裕が出来た。


広い視野で戦うことが、苦戦を砕くハンマーだな。




「いや〜、見事だね。イベリス様の剣技は知っていたけれど、ルナはまだ強くなる気なのかい?」



王女に手を貸して立たせてあげていると、ギルドの訓練場へランザが槍を持って歩いて来た。


無論、呼び付けたのは俺だ。



「当たり前だろ。ほら、先手はやるから早く来い。軽く総合部門のシミュレーションと行こう」


「良いねぇ。『穿』!」



話しながらとてつもない速度で突き出してきた槍を避け、俺は瞬時に布都御魂剣とクトネシリカの鯉口を切った。



「ほいっ! 『斬』『(らい)』」


「あ、あっぶな! それ僕死んじゃうよ!?」


「当たらなければ死なないって。得意だろ? 避けるの」


「得意だけどさぁ......雷系統は肝が冷えるよ」


「良かったじゃねぇか。思考が切り替わっただろ?」


「あぁ。人目を気にしていられないくらいにね」



よしよし。これで俺の戦闘を見に来たギャラリーには、全部門に出場しようとする人間への抑止力として動かすことが出来るぜ。


全力は出さないが、相手が出場を辞退するレベルの技術を見せつければいい。



どうせ誰かが録画して掲示板か何かに流すんだ。逆に利用させてもらうぞ。



「おぉ、速い速い。ちょっと前の俺だと死んでたな」


「......それが全部受け流している人の言うことかい?」


「そうだぞ。動体視力と反射神経、それと勘でお前の攻撃は見切れるからな」



ランザの刺突による猛攻を、俺は全部刀で受け流している。


腹を目掛けた突きには体を逸らして回避し、肩や脚に向けられた突きはそれぞれの刀で受け流してダメージを喰らわないようにしている。


多分、INTが2万弱あれば、一般人でも避けられると思う。

でも今の俺はINTが2万も無いからな。完全にプレイヤースキルに命を懸けているぞ。



だって──



「この腕輪のせいで、全ステータス5000くらいしか無いんだよな。少し困る」


「はぁ......化け物だよ、君。語り人の中でも、かなりストイックな努力をしているんじゃないかな」


「そうか? ステータス制限があるって通達されてる以上、これぐらいは普通だと思うがな」



ルール、ヨンダ。ステータスセイゲン、アッタ。オレ、ミオトシテナイ。エライ。


おっと、アスモデウスが憑依していたぜ。危ないな。



「じゃあそろそろ他の武器も出すかな。お前は槍だけでいいのか?」


「いいや? 剣も使うさ」


「そうか。弓でも魔法でも好きにしな」


「......あぁ」



おいおいランザ君、ちょっと揺すりをかけただけで表情に裏の感情が出ているぞ?

君の発動しようとした魔法は直ぐに消せるし、何ならその剣も糸で引っ張り出しちゃうぞ?



「早く来い。戦いたくてウズウズしてんだ」


「全くルナは......スパーダと同じくらい戦闘が好きだね」


「あぁ、大好きだ。ソルの次くらいに好きだな」


「相当だね」



戦ってる時は、表で語る自分を消すことが出来るからな。


戦略とか、理性とか、そんなものより更に奥にある、俺の欲望が全て現れる時......それが戦闘だと思う。



「ほい、ほいほいほい、はい」



俺は左手の指を全て使い、ランザの足元に糸を張り、その糸に引っかかって転んだ先にもう1本糸を張り、あとの3本を攻撃と誘導用に残しておいた。



「うわぁ、君の糸の使い方がいやらしすぎる。常人の思考じゃない」



罠、誘導、攻撃、防御。大抵の事は糸が出来るからな。

ある種の万能アイテムだ。糸にはそれだけの魅力がある。



「ん?......何だこれ。リルと同じような......」



ランザと一進一退の戦闘をしていると、サーチにリルそっくりの反応が映ったのだ。



「ふっ!」


「『斬』あぁ、あの子か」



俺の目を狙った槍を弾き飛ばし、俺は訓練場の入口に指をさした。


するとランザも小さく負けを認め、俺と同じ様に入口を見て......目を見開いていた。




「居たわよ! アイツが原初の天狼の主よ!」


「待ってマナ! その人は──」




俺の元へ走って来た子どもは、リルと同じ耳と尻尾を生やし、これまたリルと同じ銀色の髪を持つ、赤い瞳の獣人だった。


この子......




「アンタのフェンリル、私と勝負しなさい!」




間違いない。この子は原初の天狼の1人だ。後ろから小走りで近付いて来たのも今日犬子さんだし、確定だ。


そして1つ、率直な感想を言わせてもらおう。




「俺、こういうタイプの子どもは嫌いなんだよなぁ」

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