人間が食べる物じゃない
フランクフルト美味しいです。(朝に9本食べる柑橘類)
『昇華を許可します』
「やった〜! ありがとう女神様!」
『では、私はこれにて』
100万体討伐の後フィデムの南にある街へ行くと、またあの爺さんが現れ、今度はソルを教会へと連れて行った。
「やったよルナ君! 妖術が【陰陽術】になったよ!」
「おぉ、それは凄いな。どれくらい凄いか分からないが」
「それとね、剣王が【剣舞】になったの!」
「なんやそのスキル。俺知らんぞ」
「私も分かんない!」
「なんでやねん」
どうして自分のスキルも知らな......待て、俺も【剣神】とか【軍神】とか、昇華したスキルの詳細を知らないぞ。
うわぁ、俺、ソルに何かを言える立場に居なかったんだが? クッソ恥ずかしいな!
「よし、丁度2人だしデートでもするか。欲しい物を買ってあげない」
「え? 買ってくれないのにその話題を出したの!?」
「いや〜、最初は買おうと思ったんだが、そんなことをすれば俺の金が溶ける未来が見えてな。買ってあげないことにした」
「私、そこまで物欲ないよ? それにお店で売ってる物って、大体は私達の手でも作れるよね?」
「反物も、か?」
「うっ......」
俺、知ってるもん。ソルは反物を作るのが大の苦手で、いつもリンさんから仕入れている事を知ってるもん。
それにリンさんの売る反物、1つ150万リテくらい値段が張るのも知ってるもん。
気持ちは分かるんだけどさ、それを続けると金遣いが荒くなると思うんだ。
「嘘だよ。そこまで高くなけりゃ買ってやるから、ほら、行くぞ」
俺はソルの手を掴み取り、優しく引っ張った。
「う、うん! 楽しもうね!」
「あぁ。まずはご飯からだ。あっちの方のお店に行こう」
懐かしいな。こうしてソルの手を取って歩くの、小学生の時を思い出す。
あの頃は陽菜も俺も、空いてたら手を引いて遊んでたっけ。小学校は陽菜と違う学校だから特に何も言われなかったが、もし俺が普通に通っていたら、同級生から色々と言われたのかもな。
あぁ、あの時の陽菜が、今はこんなにも立派なケモ耳を生やして......俺は嬉しいよ。
「はいソル。あ〜ん」
「あ〜ん......うん!」
「美味しいか?」
「不味い!」
「だろうな」
俺が今、ソルの口に入れた物は『マルグスタム』という、何かの肉を何かの葉っぱで巻いて焼いた物だ。ちなみに屋台で大量に売っている。
「ここまで潔く不味いと言える食べ物、存在するんだね」
「肉は良いのに葉っぱがダメだな。腐ったレタスに納豆の匂いを付けた感じだから、それが原因だろうな」
「うわ〜、その例え、しっくり来た。来てしまったよルナ君」
「絶対にその口でキスしようとするなよ。地獄を味わいたくない」
「いやん! 食べさせた人が言うことじゃない!」
「まぁな。ソルは食べたこと無さそうだったし、一種の経験として食べさせ......待て、許してくれ。俺が悪かった」
口の端に葉の欠片を付けたソルが、ジリジリと俺の腕に抱きついてきた。流石の俺でも、あの食べ物はもう無理だ。人間が食べる物じゃない。
というかさ、食べさせた俺が悪いのは認めるが、二次被害を生むのは辞めないか?
「ねぇルナ君。この料理の詳細、見た?」
「見てないけど何だ?」
「これ『モンスター用』って書いてあるけど」
「......マジで人間が食べる物じゃなかったな」
確かにおかしいとは思ったんだ。周りでコレを食べてる人、居ないもん。でもさ、それがモンスター用だって、気付ける訳無いじゃん。
モンスター用ならモンスター用だって、最初から言ってくれよ。
「私、リアルで例えるならドッグフードをあ〜んしてもらったの? 嘘でしょ?」
「まぁまぁ。美味しかっただろ?」
「アクイヲカクニン。ルナクンヲ、ツカマエマス」
「待て待て待て!......あっ」
デート中にしたキスは、腐ったレタスに納豆の匂いを付けた様な味がしました。
「ルナ君ルナ君! あの果物美味しそうだよ!」
「......そうだな。口直しには丁度いい」
「だね! おじさん、コレ2つください!」
「あいよ。600リテだよ」
悲しい。俺は悲しいよ。別にソルにキスをされたのが悲しいんじゃない。俺、過去にあのドッグフードポジションのマルグスタム、丸々食べたんだよ。
言うなればお茶碗1杯のドッグフード、食べたんだよ。
それが悲しくて悲しくて、非常につらい。
「はいルナ君、あ〜ん」
「......美味しい。桃の味がする」
「ね! 見た目は林檎なのに、味は桃。面白いね!」
「あぁ。元気なソルを見ているだけで楽しい」
「......?」
「ソルが可愛いって思っただけだ。ずっと笑顔で居てくれ」
尻尾も綺麗になったし、今のソルは可愛さ純度100パーセントの最高の状態だ。昔から変わらない明るい笑顔があれば、大抵の問題は解決出来そうだ。
少なくとも、俺の問題は解決出来るだろう。
「ふふっ、ずっと笑顔にさせるのは、パートナーであるルナ君の役目だよ?」
「分かっているさ。ソルに笑顔で溢れる人生を送ってもらう為に、俺は色々と決心したんだからな。これでソルが幸せにならなったら俺、ショックで世界をぶち壊すかもしれないからな?」
「あはは! その時は、是非とも私が勇者となって、魔王ルナ君を倒してみせよう」
「一撃で負ける自信がある」
「私も。お互い、命を奪える程の凶器を持っているからね......」
「あぁ。だから気を付けなければいけない。お互いを想い合うことで、その凶器に手を掛けないようにしないと」
「うん。だから......その......」
「どうした?」
何かをボソボソと喋るソル近くに顔を持っていくと、ソルは俺の耳元で囁いた。
「......凶器が見付からないくらい、愛してね?」
「愛の基準は分からないが......勿論だ。ただ、それは俺も言えることだからな? ソルの持つ無限の魅力、ちゃんと俺に見せてくれよ?」
「勿論! ルナ君にしか見せない姿、い〜っぱいあるもん!」
その笑顔だ。俺の大好きな、陽菜の笑顔。ずっとこの笑顔をさせていられるように、俺は沢山の努力が必要だろう。
目先の問題から少しずつ片付けて、最終的に俺は、愛するソルを幸せにせねばならない。
「さてと、リフレッシュしたし帰るか! 3月に入れば武術大会のルールとかも出る......と信じてるし、頑張ろうな」
「うん! 私、打倒ルナ君で参戦するからね!」
「おう、掛かって来い。5248戦2624敗。そろそろ決着を付けたいからな」
「いいよ。この10年ちょっとの勝負、終わらせよっか」
あぁ、楽しみだ。ソルと戦う時を、俺はワクワクしているぞ。
よ〜し、これから対人戦の練習だ。真の最弱最強を決める為の戦い、それに向けて地獄の鍛錬だ。
紅茶美味しいです(1日5杯は飲む柑橘類)
次回『その告知を待っていた!』お楽し.....み.....あれ?
このタイトル、どこかで.....?