金と銀のフィデム旅行 1
よろしくお願いしまぁぁぁすッ!!!!!!!
「お〜! 凄く綺麗な場所だな〜!」
「た、高いね! でも風が気持ちいい〜!」
ソルとフィデム王国のデートを初め、王都から出る馬車に乗って1時間程進んだ場所。
小さな村がある場所で降りた俺達は、村の横にある山の山頂から世界を見下ろしていた。
「あっちの......南側が元帝国領だな。戦争が終わったことで住民の緊張が解けて、今はかなり安定してきているらしいぞ」
「楽しみだね! でもルナ君、ここからどうやって行くの? 馬車は凄く待たなきゃ来ないし、歩き?」
「いいや? こうするん、だ......よっ!」
俺はソルをお姫様抱っこで持ち上げると、山の切り立った崖から一気にジャンプした。
「きゃぁぁぁぁぁああああ!!!!」
「『フラカン』」
落ちながらも咄嗟にメテオラスを取り出そうとしたソルだったが、俺が抱っこしているので取り出せず、もう地面に落ちると言ったところで俺はフラカンを発動させた。
この地面スレスレの発動タイミング......良いスリルだ。
「うぅ......漏れたかと思ったぁ......」
「安心しろ。そもそも漏れてない上に、漏らしても俺は平気だ」
「私は平気じゃないよ! もう!」
「その時は一緒に漏らせばオールオッケーだ」
「それ、ただの大惨事だから! それにホラーゲームやっても全然怖がらないくせに、ルナ君が漏らす訳無いでしょ!」
プンスカと頬を膨らませて怒るソルに、俺は元帝国領へ向けて飛びながら考えた。
ここでソルに油を注がずに済む対応は......
「ソル」
「何? 私は怒っ......」
ソルの口を、俺の口で塞いでやった。これなら多分、ソルも許してくれるのではないだろうか。
俺なら許さないけど。
「ん......んふぅ」
ピンと立った狐耳が力なく垂れたのを確認してから、俺は口を離した。
あれ、怒っている時より顔が赤い。赤いというか、ピンク色になっているな。大丈夫か?
「あ、危なかった。あと少しで強制ログアウトされるとこだった......」
「おいおい、それは勘弁してくれ。俺だって恥ずかしいのに、ソルだけ逃げられたら困る」
「な、何を〜!? ルナ君からやってきたのに! もう、あんなんで許されると思ったら大間違いなんだからね! 許す!」
「2秒で許してんじゃねぇか......」
手のひら返しが早すぎる。早すぎるあまり、ソルの手がドリルの様に高速回転していたぞ。
そんな風に思っていると、下から何かが高速で飛んできた。
「っとと、この平原はゴブリンアーチャーが湧くのか。危ないな」
「ホントだ。ルナ君、もっとスピード上げれる?」
「他の魔法と併用するけど、それでも良いなら」
「やっちゃって!」
キョカ、カクニン。コレヨリ、ブーストニハイル。
「『戦神』『ウィンドスフィア』『ウィンドブラスト』」
ッバァァァァァン!!!!!!!!
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」
風圧から身を守る為に風の球体を作り、その球体をぶっ飛ばす様に風の爆発魔法を使い、一気に加速した。
もし下に人が居たら、ソルのドップラーが効いた悲鳴を耳にしたことだろう。羨ましい。
◇◇
「とうちゃ〜く」
「た、立てない......ルナ君おんぶして」
「はいよ」
俺は元帝国領の『クレアラ』という領地に着陸すると、ソルを降ろしたのだが......あまりの速度に腰を抜かしたみたいだな。
「しまった。これだと尻尾のモフモフが感じられないな。そうだ、ソル。反対向きにおんぶすることは出来ないか?」
「私の肩がグロいことになってもいいならやるよ」
「じゃあ我慢しよう。しっかり掴まっておけよ」
「うん。ぎゅ〜ってしてる」
そう言って俺の胸の前まで腕を回してきたソルの、少し大きなプニプニを感じながら俺は歩いた。
何も考えず、ただミニマップとサーチに全神経を集中させよう。ここで邪念を思考の椅子に座らせてしまうと、俺の脳内会議を乗っ取られるからな。
抑えろ......限界まで自分の思考を抑えるんだ。
「おやおや、こんな所に人とは......旅人さんかね?」
ソルをおんぶして歩くこと20分。ミニマップに映る小さな村に辿り着いた。
そして村の門と思わしき柵の前で立っていると、狐耳を生やしたお爺さんが出迎えてくれた。
「こんにちは。あてもなく歩いていると、この村が見えてきたので来ました。旅人で合ってます」
「そうかいそうかい。あんまり居心地が良い村じゃないが、ゆっくりしていってくれ。どれ、案内しよう」
「ありがとうございます。お願いします」
俺は小さく頭を下げ、前を歩くお爺さんに着いて行くことにした。
「長閑な村だね。こういう所に、フィデム用の別荘でも建てる?」
「それも良いな。魔境の島も長閑っちゃ長閑だが、しょっちゅうドラゴンのブレスとか爆発音がその印象を崩すからなぁ......2人だけの家を建てるってのも視野に入れるか?」
「それって、リルちゃん達には内緒でってこと?」
「そうだ。あんまりこの考えは推したくないが、時々ソルと2人っきりになりたいことがあるからな。リル達を取るか、ソルを取るか......悩む」
2人っきりだけじゃなく、1人になりたい時もある。
そんな時、誰も来ないような場所に安心安全の家があれば、簡単にリフレッシュ出来ると思うんだ。
ただ、リル達に内緒というのがネックだな。
「それはまた後で考えよかっか。今は2人の旅行を楽しもっ!」
「だな。それと、そろそろ降りないか? 少しばかり、村人に見られてるんだが......」
「降りると思ってるの? あんなに激しく動いて私の腰を抜かせたくせに......責任、取ってよね!」
やりやがったなソル。お前のお陰で数少ない村人から変な目で見られてるじゃねぇか。
しかも話の内容が酷すぎる。
確かに移動は激しかったが、誤解をポップコーンみたいに弾けさせる言い方はダメだろ。
「デカい声で何言ってんだ! 恥ずかしいからやめろ!」
「えへへ、ごめんね?」
「全く......モフったら気絶するくらい弱いくせに」
「何か言った?」
「何も? ソルは可愛いな〜って呟いただけだ」
「ありがと。今夜のモフりはちょっと長めにお願いするね?」
俺の首に狐耳を擦り付けながら、ソルは小さな声でお願いしてきた。
正直に言おう。心臓が爆発するくらい嬉しい。だってさぁ、耳を擦り付けるだけで可愛さに溢れているのに、囁くようにお願いするとか......ちょっと邪念が。
「あぁ。ありがとう」
よく返した俺! よく余計な事を言わずに返事をした!
偉い、偉いぞ俺。素晴らしい。その忍耐力、序盤のロックゴーレムくらい硬いぞ!
「リアルでもモフモフ、お願いね?」
......がん......ばれ......理性の、お............れ.......
即落ちルナ君。
次回はフィデム旅行、その2です。お楽しみに!
(ブックマークとか★評価の宣伝、あれ章が終わった時にガッツリやります。この更新ペースで書いたら、くどく感じるので。皆さんも思うのではないですか? 前書きや後書きは短くスッキリして、『次へ>>』を押したいと。私は思います。っていうかこの文が邪m(ry)