スケープゴート・デートトーク
マスターフルコン、遂に84曲へ.....! やったぁ!
「でよぉ、月斗。聞いて欲しいんだが......」
「何だ?」
「あのクエ、付喪神が5人以上居るプレイヤーしか受けれねぇんだわ。って事で俺は受けられません。対戦ありがとうございました」
戦争が終わり、リアルで翌日の月曜日。朝のホームルームが始まる前、正樹とメイドさんのクエストについて話していた。
「頑張れ正樹。俺は陽菜と一緒に観光する事しか考えてないから、お前のツテで何とか処理してくれ」
「そんな事言われてもよぉ......5人も付喪神を連れてる奴、お前以外に居るのか?」
「居るだろ、普通に考えて。正樹のコミュ力が活きる時だ。良かったな」
俺の席の前でうんうんと正樹が唸っていると、鞄から今日の用意を机に仕舞った陽菜が、俺の肩をちょんちょんと突いてきた。
可愛いな。どうしたんだ?
「ここだけの話、今のところ確認されている付喪神の最多所持数、3人なんだよ。だから、今は月斗君しか受けられないの」
陽菜がコソコソと耳打ちで伝えてくると、正樹がチラッと俺の顔を見てきた。
「......どうだ?」
「何がだ?」
「いや、クエスト受けてくれるのかな〜って」
「受けない。俺は今度こそ陽菜と甘......楽しい旅行をするんだ。これ以上フラグを踏みたくないんだよ」
「甘々イチャイチャ観光旅行ねぇ? 自称神の多分囚われているメイドを放って置いて、自分は鈴原と甘々イチャイチャドロドロ観光か?」
「誰もそこまで言ってないんだが?」
「私は思ったよ?」
「思わなくていい。今すぐその思考を消しされ」
「やだも〜ん」
くっ......可愛い! でも、そこまで甘々イチャイチャする要素、観光旅行に存在するのか? いいや、しない。
というか正樹、お前俺がクエスト擦り付けたの、やり返そうとしてんだな?
絶対に受けないからな。神と関わると面倒なことにしかならん。
「しょうがねぇ。頑張って人は探すが、失敗しても何も言うなよ」
「そもそも俺のクエストじゃないから問題無し。頑張りたまえ、スケープゴート君」
「月斗、覚えてろよ? これはメシ1回では済まないからな?」
「はいはい」
釘を刺す様に言い放つ正樹の背中は、実に失敗しそうな者の雰囲気を放っていた。
あのクエストは間違いなく面倒臭い。それが予想出来るが故に、絶対に手を出さない。
臭いものには蓋をしろと言うが、実際のところ臭いものに近付かなければ良いのだ。
自らラフレシアの花に近付くほど、俺は馬鹿じゃない。
◇ ◆ ◇
学校が終わり、ユアストにログインした俺達はフィデムの宿屋で目が覚めた。
「ソル、準備は出来たな?」
「勿論だぜ! ところでルナ君。リルちゃん達は?」
「家で留守番させてる。今日はソルと2人っきりが良いと思ったんだが......ダメか?」
「ううん。すっごく嬉しい。いっぱい遊ぼ!」
「あぁ」
ソルは久しぶりに巫女服に着替え、昔に俺が贈った真鍮の簪を髪に挿した。
最後にソルの巫女服見たのは、随分と前のことだ。
そしてやはり、ソルに巫女服は似合っている。太陽の様に輝く金髪に、紅白のバランスが絶妙に整っている巫女服との相性はとても良い。
「どう?」
「昔を思い出した。まだ付き合って......いなかった頃か。ソルに巫女服をプレゼントした時のこと。懐かしいな」
「でしょ? 私、次にデートするなら巫女服で、って前から決めてたの。ルナ君が選んでくれた、最初のプレゼントだから......思い出も大切にしたいの」
性能面ではソルが作った服の方が上だが、思い出という面で見れば巫女服はどの服よりも強いもんな。
俺は嬉しさメーターが上限に達したので、ギュッとソルを抱きしめた。
「あの頃から変わらず好きだ」
「私も。ずっとずっと前から、大好きだよ......えへへ」
ピコピコと動く耳に頬を当てると、ぺにゃんと可愛く垂れ下がった。
暖かい。このモフモフに、俺はどれだけ救われただろうか。この肌の温もりに、どれだけ力を貰ったのだろうか。
貰いっぱなしはダメだ。俺も返せるように、頑張らないと。
俺はソルの頬に口付けをすると、右手でソルの左手を握った。
「そろそろ行こう。最初はぶらぶらとメインストリートを歩こう」
「うん!」
そうしてドアノブに手をかけ、奥に開けた瞬間──
「助けて......」
例のメイドさんが、ドアのすぐ近くでスタンバっていた。
「行くぞ、ソル」
「うん」
「待って!」
ソルの手を引いて歩き出すと、メイドさんが俺の左手を掴んできた。
「お前、人が嫌だって言ってるのに追ってくるんだな。実に神様らしくていいじゃないか。人の気持ちも考えず、何をすれば良いのかも明確にしない......そもそも頼み方が悪いんだよ。それにこれからソルとデートなんだ。邪魔する気なら覚悟しろよ? 俺は例え神だろうと、その首を斬り落とすからな」
俺はメイドから振り払った左手に布都御魂剣を顕現させ、一瞬で抜刀してメイドの喉元に刃を突きつけた。
「ッ!?......ご......ごめんなさい」
「はぁ、気分悪い。ただただ不愉快だった」
俺は最後にそう告げ、ソルの手を引いて宿を出た。
そしてそのまま街の地図を見ながら歩いていると、ソルが俺の肩に顔を擦り付けるようにして歩き始めた。
「どうした?」
「あの子、助けなくて良かったのかな」
「分からない。ただ、俺は助けたくない。これは主観でしかないが、アイツと初めて目を合わせた時、直感が走ったんだ」
「......どんな風に?」
「『関わるな』って。コイツと関わると、俺がこの先、このゲームを楽しめなくなる未来が見えたんだ」
「そんなに?」
「あぁ。なんだろう......こう、今までの幸せが、全部アイツに崩される様な、そんな気配がした」
フラッシュバックの様な、一瞬で背景が目の裏に見えるあの感覚だ。あの感覚で俺は、リルやメル達、そしてフー達も存在しない、モノクロの情景が見えたんだ。
俺はあのイメージを見て、『絶対に関わるな』と思った。
だから俺は、あのメイドの依頼は受けない。
「直感は経験と知識から導き出される、一瞬の思考......昔に師匠が言ってたよね」
「そうだな。だから俺は、基本的に直感には従っている。実際、従わずに思考を優先した結果、失敗したことがあるからな」
「そっか......なら私はルナ君を信じる。仮にもし、何が良くないことが起ったとしても、2人で受けちゃえば半分で済むからね」
ソルは俺の顔を見上げると、パッと笑顔を見せてくれた。
「ありがとう。これからも宜しく頼むよ」
「おや? プロポーズですかな?」
「ここじゃもう指輪してんだよ。だから......改めて告白? 的な?」
「ふふっ、いつかリアルでも指輪を付けられる日を楽しみにしてるね」
「......あぁ。待っていてくれ」
俺は左手を使って優しくソルの頭を撫で、その薬指に嵌めているシルバーリングに意識を向けた。
ソルがくれた、初めてのプレゼント。それがこの指輪だ。
俺はこのゲームが終わるその時まで、絶対にこの指輪は外さない。そして行く行くは、リアルで一緒に着けていたい。
「愛してるよ、ソル」
この子らいつ結婚するんですか? はよ指輪贈ったれよ月斗君。
そんな思いが生まれてきました。
次回『金と銀のフィデム旅行 1』お楽しみに!