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戦後処理

猫パンチ!!!



「おいルナ。お前が殺した兵の数、ちゃんと記入しろ」


「や〜だね。リザルト見せてやるから、フリットが書いてくれよ」


「お前......はぁ。早く見せろ」


「ありがとう。ほいっ」



フィデム王国の北側。そこに建つ、フィデム王城の一室にて、俺はソファでゴロゴロしながらフリットの手伝いをしていた。



「戦後処理ってマジで面倒だな。歴史で習っちゃいたが、まさか自分が体験するとは」


「仕方ないだろ。相手が振り撒いた種だ。お前達語り人が水をやってくれた今、収穫をするのは王国側だからな」


「上手いこと言うじゃん。あ、それと第1王子のメイドが作ったクッキー貰える? あれ美味しいから食べたいんだけど」


「......手伝わないのなら出て行け」


「出て行こうとしたら止められたのだがな。ったく、紅茶淹れてやるから休憩にしようぜ。お前はクッキー貰ってこい」


「はぁ......10分だけだぞ」



フリットが様々な書類をインベントリに放り込むと、部屋を出てクッキーを貰いに行った。



「リル」


「はい。どうされました?」


「紅茶が出来るまでモフらせて」


「はい!」



俺は机の上にポットを置き、アクアスフィアをイグニスアローでじっくりと火にかけ、リルを膝枕して耳をモフらせてもらった。



「貰って来たぞ......って、何をしている?」


「リルをモフってる。お前には触らせんぞ」


「別にいい」



素っ気ない返事をしたフリットは俺の反対側のソファに座り、テーブルの上に大皿に山盛りのクッキーを置いた。



「お前が気に入ったのを知ったメイドが、あらかじめ大量に焼いていたそうだ。お前、王城で何をすればこんな事が出来るんだ?」


「お前が忙殺されている間、城の人とコミュニケーションを取っただけだ。メイドにはメイドをぶつければ相性は良いし、執事には執事が相性良いからな。上手く立ち回ったんだよ」


「そう言えばお前にもメイドが居たな......そういう事か」



いぐざくとりー。相手の好感度をバッチリ稼ぎ、この城である程度自由が利くぐらいに、城の人と仲良くなっただけだ。


題して、『えっ! 仲間にお任せ!? 主の好感度稼ぎ大作戦!』だ。



「へにゃぁ......気持ちいいですぅ......」


「リルは耳の裏が好きだもんな。全く、こんなに可愛い耳を触らせやがって......もっと撫でてやる」


「えへへぇ」



紅茶を蒸らしている間、リルが蕩けた表情でモフりを堪能し始めた。

そのリルを見たフリットは少しだけ顔を赤くし、リルから目を逸らした。



「こっち見んな」


「ち、違う! たまたま目に入っただけだ!」


「触らせんからな。どうしても触りたいと言うのなら、お前も原初の天狼をテイムしろ」


「出来るか!!!」



俺、知ってるからな。リアルで1ヶ月周期で現れる、めちゃくちゃ強いフェンリル。それが原初の天狼だってことを。


そしてその原初の天狼をテイムした人が、リルの様な狼っ娘になった報告をしていることを。



「犬子さん、フェンリルに狂い始めたよな」


「私、あの人は好きじゃないです。父様のように、フェンリルに愛を向けていないので」


「仕方ないさ。あの人はそういう人なんだから。他所は他所、ウチはウチだ」



リルの狼耳をモミモミモフモフしていると、紅茶が完成した。


俺はリルを隣に座らせ、3つのティーカップに紅茶を注いでいく。



「毎度思うが、慣れているんだな」


「そりゃあ、好きだからな。紅茶を淹れる腕に関してはそこら辺のメイドよりは上だと思うぞ」


「それ以外はどうなのだ?」


「ふ〜ん。分かってて聞くあたり、お前性格悪いな。リル、猫パンチ喰らわせてやれ」



「狼パンチなら出来ますが、猫は流石に......」



「や、やめろ! お前のパンチは俺の体が消し飛ぶ威力だろう!?」



失礼な! リルのパンチくらい、今のフリットならギリギリ生きるか死ぬかくらいで、消し飛ぶ程ではないわ!

全くもう。ウチの子を化け物みたいに扱うの、やめてよね!



「ほれリル。あ〜ん」


「あ〜む......ほぁぁ、おいひいでふね!」


「だよな。フィデムに滞在している間は作ってもらえるみたいだから、折を見て感謝を伝えに行こうな。それと俺の指を舐め回すな」


「はい!」



リルが犬の様に指を舐め回してきた。次に同じことをしたら、そのまま舌を掴んでやる。

食べさせた指を舐められるなんて、ソルにもされた事が無いのに......リルの罪は重いぞ。



「コイツ......はぁ。お前が居ると疲れる。お前の嫁とやらは凄まじいな」


「ソルか? ソルは本当に凄いぞ。俺の知る限り、ソルより強い語り人は居ないからな。しかもソルは可愛い。可愛いと強いが合わされば、もうそれは最強なんだよ」


「語るな語るな。お前はソルの話になると暴走するからな」


「アクセル踏んだ奴が何言ってんだか。それとソルは──」


「あ〜あ〜あ〜、聞〜こ〜え〜な〜E」



ソルの素晴らしさを語ろうとすると、フリットは両手で耳を塞いだ。許されんな。



そうして賑やかな休憩時間が終わると、フリットは戦後処理の作業を再開した。



俺はリルを戻し、椅子に座ってサインを書き続けるフリットの後ろに立っている。



「ん?......これは......ルナ、知っているか?」


「どれどれミファソラ? あっ」



フリットが渡してきた書類を見ると、『元スパイの処遇に関して』という見出しで書かれており、俺が捕まえた5人のスパイの処遇をどうするか、俺が決めろという文が書いてあった。



「知ってるけど、知らんな。別に俺は結果に口出ししないから、フリットが決めろよ。俺はただのお手伝いで、特に意味も無く戦争に参加したからな」


「そう言えばお前、唐突に現れて参加していたな。本当に意味が無いのか?」


「無い。本当に気まぐれだ。たまたまフィデムに着いた時に、たまたまフリットをぶん殴って、たまたまフィデム行きの船を作ったから、たまたま戦争に参加したんだ」


「お前に理性は無いのか? 聞く限りじゃ、全て『楽しそうだから』やっているように感じるが」



書類に『フリットに一任する』と書いて渡すと、ため息混じりに俺の真意を伺ってきた。



「理性はあるさ。だが本当に偶然だ。特段王国に肩入れする理由も無いからな。まぁ、今は反省している。もう戦争は懲り懲りだ」


「奇遇だな。俺も戦争は懲り懲りだ」


「あぁ。ソルとデートする時間が減ったからな。せっかくキレイな海があるから、海デートもしたかったのに......全く、余計なことをしたと後悔している」


「......はぁ」



おいおい、ガッツリため息をつくなよ。幸せが逃げて行くぞ? まぁ、逃げた分の幸せは俺とソルで回収するから、無駄にはしないが。



「よし、じゃあ俺は帰ろうかな。語り人式長期睡眠に入る」


「そうか。ではまた来てくれ。次はドラゴンと戦ってみたい」


「野良ドラゴンの探し方を教えてやるよ。じゃあな」


「あぁ」



俺はフリットの机の上にある、ティーカップに紅茶を注いでから部屋を出た。

そして廊下を歩き、どうしてこんな事になったのか、改めて考える。



「......やっぱり追放された所が始まりか。あれで俺の心がボロボロになったから、フィデムまで来ちゃったんだし」


「あ、あの......」


「ダメだなぁ。俺のメンタル、強くなったと思ったのに実際は全然だった。逆にこれが原因でメンタル壊れそう。なんつって」


「あの!」


「はい?」



俺がブツブツ呟きながら歩いていると、くすんだ金髪のメイドさんが話しかけてきた。



「あの......その、私......」


「用件は最初に言った方が良いですよ。経緯より先に用件をどうぞ」



メイドさんが下を向いてボソボソと喋るので、俺が少し冷たく返答すると、メイドさんは顔を上げて俺と目を合わせた。


......濁った瞳だ。二度と見たくない。


さて、一体何を言われるのだろう。『もう城に来ないでください!』とかかな?



「私、神様なんです!」


「うわぁ、痛い子来たぁ......では失礼します」


「待ってください! 私、捕まってるんです!」


「あ、そうですか。お気の毒に......では」


「話を聞いてください!」



立ち去ろうとする俺の肩を掴み、メイドさんは引き止めてきた。



「嫌です。俺はもう、家族とフィデムで遊ぶと決めたんです。厄介事は他の語り人にお願いします」


「厄介事......た、確かに厄介かもしれませんが、どうかお話だけでも聞いてくれませんか!?」


「嫌です。俺、神には困ってないので。そういう事は付喪神が宿らないことに血の涙を流している、マサキという語り人に言ってください」


「あ、貴方にしか出来ないのです!」


「そんな事は殆ど存在しません。俺が出来ることは、大抵の人間が出来ます」



「そ、そう......ですか......」



危ない危ない。また何か変なクエストを発生させるところだった。ここは1つ、マサキを生贄にして面倒を回避しよう。



「では。マサキにあなたを探すように伝えます」


「はい......ありがとうございます」




俺はそうメイドさんに伝え、城を出て帰路に着いた。





「マサキ、神関係のクエスト欲しがってたし丁度良いな」

狼パンチ!!!



次回『スケープゴート・デートトーク』お楽しみに!

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