陽の光を浴びる者
「『糸尽』『斬』『遅炎』」
「うグッ......フッハハハ! 多彩な攻撃だ。美しい」
糸、刀、魔法。他にも俺の持つ、様々な武器を手に皇帝と戦っている。
俺も皇帝も、どちらもHPが減っては回復し、減って回復し......強すぎる神器を身に付けた者同士の戦いは、非常に醜い争いとなっていた。
「......早く死んでくれよ。もう深夜だぞ」
「そうつまらなさそうに言うでない。この華やかな戦いに、月明かりも必要であろう?」
「はぁ......嫌だなぁ」
重い、痛い、熱い。皇帝が使う剣の付与効果が、デバフや属性に特化した物が多く、徐々に俺の体を蝕んでいく。
現在の防具は天使シリーズだ。花鳥風月は耐久値が2桁にまで減ったので、破壊される前に着替えた。
それ故に、デバフを解除するのに魔法を使わなくてはならない。
だが、そんな時間、皇帝が与えくれないのは明白だ。
毒や麻痺、他にも多種多様な状態異常に罹っているが、何とかして立っている現状、更なる長期戦には持ち込みたくない。
どうにかして、奴の心臓を貫かねば。
「おっと、弓の腕前も一級品か。素晴らしい」
「黙れ。『神雷槍』」
「フッ!......我の心からの賛美を蹴るとは、初めて見る者だ」
魔弓術に魔刀術を重ねた複合技でも、皇帝は剣を振るうだけでかき消した。
「その剣が強いのか? それともお前が強いのか?」
俺は純粋な疑問を口に出すと、皇帝がニヤッと口角を上げて答えた。
「両方、とは考えぬのか?」
「前提条件を誇らしげに言うなよ。その中でも強い方が気になったのに、バカだなぁ」
「ハッハッハ! なんと、既に認められておったか! それでは質問の答えにならなかったな」
皇帝は黒い2本の剣を仕舞うと、今度は赤い剣と黄金のショーテルを取り出した。
「力か技か。見せてやろう」
皇帝はそう宣言すると、俺の懐目掛けて急接近してきた。
突然だな、今の俺の頭に、ある2つの考えが浮かんでいる。
1つは、ただ単純に俺が弱くて、皇帝が倒せないという考え。
これは後ろでジーッと観察している王国側の人間が思っているであろう事で、1番有り得るものだと思う。
俺と皇帝の装備、技量、力量が同等で、戦闘が長引いていると。
もう1つは、これが『負けイベント』じゃないか? という考え。
俺、神龍戦の時にも思ったのだが、1番負けイベントとして宜しくないのって、『同じくらいの実力で、HPが無限の奴』だと思うんだ。
勝てるか負けるか分からない、ギリギリのラインを攻める負けイベントは、俺が1番嫌いな演出だ。
その昔、このイベントがあるコンシューマーゲームで、15時間ほど耐久したことがあるからな。
今、あの時と同じような顔をしていると思う。廃人の目だ。
「どうだ? どちらが優れているか、分かったか?」
「はいはい。どっちも凄いね」
「なんだ、心が篭っておらぬではないか」
「当たり前だろ。こちとら精神削って戦ってんだよ」
「それは我も同じだ。ここまで苦戦した相手は他におらぬ。故に戦いを求める心が削れておる」
「嘘つけジジイ」
「甘いぞ若者。自制心を鍛えよ」
もう既に鍛えてるんですよ。何度も何度も誘惑をされても、自分の決めたことを曲げず、ずっと耐えているんだ。
本当の自分の想いを殺して、未来を生かそうとしているんだよ。
お前にこの気持ちが分かるか? 分かる訳無いよなぁ?
お前は俺じゃないんだ。知った気になっても困るのはこっちだ。
1人で生きる覚悟をしていた俺に、2人の道を照らしてくれた存在が見ているんだよ。例え何時間掛かろうと、何日掛かろうと、俺は負けないからな。
自称10代最強の自制心を持つ俺が、逃げ出したい心を抑えて戦うんだ。
「生きる証、よく見ておけ」
「死にゆく命に恐ろしい物を見せるでない」
俺は左手の薬指に嵌められた指輪を撫で、皇帝の降臨させたアテナと戦っているシリカを剣に戻した。
『お、お兄さん......?』
「皇帝を倒す。そうすればあの女神も消えるだろう」
『いや、いやいや。2体1の中、皇帝さんだけを倒すって言うの? 幾らお兄さんでも、それは......』
「やるぞ。それに、俺は別に1人で戦う訳じゃない。そろそろ待ちきれなくなっている奴が多くてな。一緒に戦う」
俺は1歩引いてウィンドウを開き、テイムモンスター召喚のボタンをタッチした。
「父様、久しぶりの共闘ですね。頑張ります!」
「ん。アイツをたおせばいいんだね。まかせて」
「うわぁん、寝てたのに〜......あの人間を殺して、一緒に寝ようね〜? お父さん」
まずは娘達から出した。俺の家族の中で、特別に大切な存在だ。
そんなお前達に戦わせる事を許してくれ。
「フェンリルに神龍......それに大悪魔!?」
「ほう、あれが伝承の......強いのか?」
「......2割です」
「それ程か」
戦女神ともあれば、全員の種族を見破れるか。にしても余計な事を言ってくれる。これでは皇帝のヘイトが娘達に向いてしまうではないか。
では、強力なモンスターで中和させようか。
「来い、イラドラゴン」
『お、おぉ......遂にマスターと共闘ッス! テンション上がってきたァ!!』
『良かったね、ラース君。夢が叶ったね』
『うるさいぞラース。マスターに迷惑だ』
俺の背後に、赤黒い甲殻に覆われた、10体の巨大なドラゴンが現れた。
彼らは普段、魔境の島にてスポーンするモンスターを狩り続け、ラースドラゴンから進化した、イラドラゴン達だ。
フリット達のような、現地人の神話や伝承に出てくるラースドラゴンとは比較にならない強さだと自負している。
「主よ。命が惜しければ降伏してください。あの化け物は、神をも殺す龍です」
「フッ、斯様な逸物と戦えるのなら本望。戻れ、アテナ」
皇帝はアテナを大剣に戻し、俺に向かって構えた。
「貴様の連れているモンスター、1匹は葬らせてもらうぞ」
「出来るものならやってみろ。最弱種族がテイムした最強のモンスター......お前程度が倒せると思うなよ」
そうそう、アルスはお留守番だ。流石にアルスまで呼び出すと、島の維持が難しくなるからな。本当にピンチなら呼び出すが、余裕が生まれた今、過剰戦力は必要ない。
「ゆくぞ。ルナ」
「来い、サンギス」
ガンッ!!!
皇帝の重く鋭い一撃を耐えると、一斉にドラゴン達が飛び立ち、上空から破壊のブレスを放ち出した。
「ぐぅぅぅぅ!!!!」
「リル、スイッチ」
「はい、父様!『雷』!」
俺は大剣を跳ね除けると、ツクヨミさんを構えたリルが、神速の抜刀術を繰り出した。
「フンッ! 遅い!」
「メル、ベル。足を狙え」
「「りょうか〜い」」
のんびり組のメルとベルは、それぞれ違う魔法で皇帝の足を止めにかかった。
メルは龍神魔法で地面と足を同時に攻撃し、その攻撃を避けんと動く皇帝を、ベルが赤黒い糸で縛りつけた。
「ぬおっ!?」
流石の皇帝も龍神魔法には耐えられず、魔法を防いだ大剣が吹き飛び、右足がポリゴンとなって散った。
そして俺は、何も出来ずに後ずさる皇帝に近付いた。
「最初からこうすれば良かった。じゃあな」
「ま、待て。待て!!!」
「待つ訳ねぇだろ」
グサッ!!
俺は皇帝の心臓へクトネシリカを突き刺すが、それでも皇帝のHPは0にならない。
「これで終わりだ。『斬』」
「待っ......」
スパッと皇帝の首が落ち、その体がポリゴンとなって散った。
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グランドクエスト『大陸戦争』が終了しました。
『フィデム王国』が勝利しました。
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俺は2本の刀を鞘に納めると、どっと疲れが降りてきて倒れた。
どうやら疲労度が限界近くまで溜まっていたらしい。
あと少し戦っていれば、疲労気絶をしていただろう。
「父様! 大丈夫ですか!?」
リルが俺の体を触り、怪我の確認をしてきた。
「大丈夫じゃない......死にそうだ」
「い、今母様を呼んできます! ベルちゃん!」
「もう連れて来てるよ〜」
ベルののほほんとした声が聞こえると、暖かい手が、優しく俺の頭を撫でてきた。
「頑張ったね......ルナ君」
「あぁ......勝ったぞ」
「皆見てたよ。あんなに長い時間戦ってたのに、誰も飽きなかった」
「嘘つけ。絶対に何人かはログアウトしてる。だが......ありがとう」
今出せる最大限の笑顔で感謝を伝えると、ソルも花を咲かせた様に笑った。
『ヒャッハー! マスターの勝利だ〜!! お祝いだ〜!!!』
ラース君の元気な声が聞こえると、ドラゴンの皆が空を目掛けてブレスを放った。
「とんでもねぇ祝砲だ」
「だね。あれが地上に向けられてたら、全員仲良く死んじゃうね」
「怖いことを言うなよ。逃げれねぇんだから」
「疲れ果ててるもんね。ログアウトしたら、いっぱいい〜っぱい、癒してあげるね?」
ソルはそう言って地面に座り込むと、膝枕をしてくれた。
「はぁ......マジで疲れた」
そう呟いて目を閉じると、優しい陽の光が俺達を照らした。
めちゃくちゃ長いこと戦ってました。
途中に出てきた『神雷槍』は神雷と雷槍を続けて放つので、ルナ君が1文字略しましたね。
さて、これにて13章新大陸編の中の戦争編は終わりです。
次回からまた、ゆるりとしたドンパチ生活に戻ります。
では次回『戦後処理』お楽しみに!