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初めての




「魔法だけじゃつまらないからな。行くぞ、フー」


『待ってました! ささっ、どんな技を使いますか?』


「【霊剣】」


『何で私の霊体をぉぉぉぉ!?!?』



そこかしこから響き渡る剣戟の音。そして魔法によってもたらされる凄まじい爆発音が轟く戦場に、1柱の付喪神の情けない声が追加された。



「そいっ! そいっ! あ〜よいしょ〜!」


『あぁ......グッバイ、生き別れた私の妹......』


「そんなに落ち込むなって。見てみろよ、アレを。霊剣が何人もの語り人を貫いて飛んで行ったぞ?」


『バカみたいな力で投げましたからね。ルナさんが』


「いやいや、これもフーの切れ味があってこそだ。誇ってもいいんだぞ?」


『えっへん!』


「何かウザイな。誇らないでくれる?」


『ひどい!!!』



王国側と帝国側、両者が必死の形相で戦う中、俺はいつもと変わらないテンションで戦闘していた。


現在の戦況は、人数不利かと思われていた王国側が、敵を小分けにして袋叩きにする、俺と第1王子が提案した『少数対多数』の戦法により、王国側が優勢となっている。


このまま進めば王国側の勝利は確定だが、そうは行かないだろうな。



『お兄さん。左右から槍が飛んでくるよ。それも多分、必中付きのヤツ』


「了解。どうせだし、相手に送り返すか」



シリカの報告を聞いた俺は、霊剣を全て消去し、両手の全ての指に糸を巻き付けた。



「ふぅ......」



大きく息を吐き、全神経を集中させる。


戦闘により負傷した人間の呻く声や断末魔が大量に耳へ取り込まれるが、風を切り、明確な殺意を持った飛翔物の音を聞き取った。



「『糸尽(しじん)』」



ピタッ......



そんな文字が表すに相応しいと思える程、飛んできた2本の槍を、糸で滑らかにキャッチした。



『凄〜い!!!』


『いつの間に操帝の技も習得していたんですか!?』


「フッ、凄いだろ? だがまだあるぞ。『跳糸(ちょうし)』」



必中効果を消すために槍の先端を俺の腕に当て、逆に俺はこの槍の必中効果を乗せ、糸で投げ飛ばした。


標的は勿論、俺に向かって投げてきた2人だ。



◇━━━━━━━━━━━━━━━◇

プレイヤー『レイド』を倒しました。

プレイヤー『ヒュー』を倒しました。

プレイヤー『金糸雀』を倒しました。

◇━━━━━━━━━━━━━━━◇



「返却成功。ついでに巻き添えもゲットだ」



ログの流れた順番的に、金糸雀さんが巻き添えで死んだな。

俺の射線上に居るのが悪いんだぞ? 恨むなら自分を恨みたまえ。



『カッケェ......流石です』


『今のは芸術的だよね! シリカ、見惚れちゃった!』


『さりげなく私に必中の調整をさせたの、良い判断だったわね』


『素晴らしかったです』



付喪神ズが口々に感想を言うので、俺は糸を一瞬で仕舞ってから、顔を背けた。



「そんな、皆して褒めんなよ。照れるじゃん」



『『『『可愛い......』』』』


「うるさい。取り敢えずリルに報告して、戦場の外側から殲滅する事を伝えるぞ」



俺はステラノヴァを構え、上空に掲げながらリルに念話を送る。



「『エクリプス』......もしもしリル?」


『はい、父様。どうされましたか?』


「ちょっと外周から倒してくるからさ、引き続きフリットの護衛を頼んでいいか? 3割くらい削ったら戻るから」


『むぅ......分かりました。こちらはお任せ下さい。それと王子の方は順調に戦闘していて、今のところ怪我はありません』


「それは良かった。じゃ、気を付けてな」


『父様こそ、お気を付けて。では』



周囲に高威力の光の雨を降らし、俺はフラカンを使って上空から戦場を見下ろした。


王国側と帝国側は南北に別れており、南側に拠点を構える帝国側は、王国側の戦略によって徐々に後退していた。


これは(ひとえ)に、翔達が後ろから潰してくれたのが大きいだろう。


だってアイツら、俺が合図を送った瞬間に、死ぬのを分かっていて派手に魔法を使ったからな。

そんな翔達は現在、ロークスにて待機しており、グランドクエストが終わるまではフィデム行きの船が出ないらしい。


こういう大人数で戦う時ほど翔の力が欲しいのだが......仕方ない。



「なぁ、俺を見つけた途端に魔法ブッパする奴なんなの?」


『すっごい数で撃たれてますねぇ』



上空で停止して観察していると、地上から物凄い数の魔法が飛んできた。



「これ王国側の奴も撃ってきてねぇか?」


『撃ってるね。やり返す?』


「......いい。悪意が有ろうが無かろうが、どうせ死ぬ奴は死ぬ。東側から殲滅するぞ」


『『は〜い』』



折角俺が空から手助けしようと思ったのに、まさか味方にまで攻撃をされるとはな。


もしソルが隣に居たら、君達全員死んでるよ? 俺の恋人、悪意があれば敵味方問わずにぶっ殺すからね?

ホント、ソルは超強ぇんだからな! マジすっげぇんだぞ!



「小物のルナ君、行っきまーすっ!」



戦場の東側、少しばかり帝国側が有利に立ち回っている戦場に俺は上空からダイブしてきた。


そしてすぐさまアイスウォールで敵を囲み、俺は振り返って笑顔で話しかけた。



「こんにちは。応援入ります?」


「ルナさん!? マジで!?!? 超欲しいっす!」


「おほん。では......フレー! フレー! ガ・ン・バ!

フレッフレッガンバ! フレッフレッガンバ!......ワー!!!!!」



「「「そっちの応援じゃない!!!」」」



え〜? 応援欲しいって言ったじゃ〜ん。俺、何か間違った事をしたか〜?



『ルナさん、そろそろ壊されますよ』


「あいよ。『ネヴァンレイン』」



俺は赤い雨を周囲に居る全ての敵に浴びせ、先程まで頑張って戦っていた王国側の人達に手を振った。



「そいつら、死ぬか瀕死かどっちかになるから、後は頑張ってください! それでは!」


「あ、はい」



そうして再度空を飛んで戦況を見ていると、いつの日かのレシートを再現したリザルトばりの撃破報告が流れてきた。


その名前を見てみると、倒した人間は全て、プレイヤーの名前であることが分かった。



「シリカ。もしかして帝国側って、語り人を前の方に置いてないか?」


『ん......なるほど。お兄さん、良い所に気が付いたね。確かにお兄さんの言う通り、相手は語り人を前に設置しているね』


「汚ぇなぁ。無限の命がある語り人を盾に、自分達は後ろからペチペチ攻撃するってか?......俺も提案したかったな」


『サイコパス出てるよお兄さん。でも、シリカも相手のやり方は上手いと思ったね。その方が被害は抑えられるし、戦後の事を考えた動きだもん』


「だな。だが、それは勝利した場合だ。このまま押したら......」


『全部パーだね。お兄さん、やっちゃう?』


「殺る殺る〜!」



プレイヤーが盾にされてる? 後ろからの援護が邪魔?


そんなの、全員殺っちまえば関係ねぇ! 力こそパワー。筋肉は全てを解決するッ! 前線に出て戦えバカヤロォォ!!!




「帝国兵よ、すまん。『サウンドウォール』『戦神』『(らい)』」




真ギュゲの力で気配を隠蔽した俺は敵の後ろから回り込み、戦神を使った強力な魔刀術を使った。



バチッ!




極限まで小さくされた雷の音と共に、鎧を着た帝国兵が同時に何百人も、その命の花を散らした。




「人、殺っちまった」



『これは戦争ですからね』



「一気に沢山の人間が死んだぞ」



『人間は同種で殺し合うものだからね』



「モンスターなら、もっと楽しめるのになぁ」



『あら、モンスターだって生きてるじゃない。ルナは命に価値を付けるの?』



「人間だからな。自分達以外を否定したくてしたくて......仕方がないんだ」



『それも1つの考え方です。間違いではありませんよ』



初めてだ。この世界の人間を、本当の意味で殺したのは。


今まではモンスター相手に殺すことは何も思わなかった......寧ろ喜びを感じていたが、それが、この世界に生きる人間......NPCなんて低い次元の考えを捨てている俺にとっては、何か大きな異物感を覚える。


これは果たして正義なのか? 悪なのか?



「ルナ君。一緒に勉強したでしょ? 戦争をするのに正義も悪もないって。勝った方が正義で、負けた方が悪になるの。全部は結果がもたらすものだって、世界史の先生も言ってたでしょ?」


「ソル......」



開けた草原にポツリと佇む俺の所へ、ソルが箒に乗ってやって来た。


俺を見つめる綺麗な赤い瞳は、どこか悲しげに、中の芯が揺れていた。



「ルナ君、戦って。傷ついた心は、後で舐め合おう? 今はルナ君が戦わないと、王国側の士気にも影響するの。だから......」




戦え。




「全く、酷いゲームだ。これはクソゲーだ。俺が今までにプレイしたどのゲームより、プレイヤーを不快にさせやがる」



あぁ、酷い。こんなに酷いゲームが他にあってたまるか。



「誰だよこんなグランドクエストを発生させたのは。誰だよウキウキ気分で戦場に乗り込んできたのは。反吐が出るわ」



全部自分だ。他の人から影響を受けていたにしろ、その元凶は全て俺だ。



「あ〜気持ち悪りぃ。今すぐにでもログアウトして寝たいくらいだ。ホント、嫌になる」



カズキさんにクレームでも入れてやろうか。全く。



はぁ。やるしかない。受けた以上、ちゃんとクリアせねばならない戦いだ。ここでの人生、半分ちょっと、賭けてやる。



「......ソル。これからも宜しく頼む」


「......うん。私に任せて」


「あぁ。頼んだ。ありがとう」



ソルの頬を優しく撫で、俺は2本の刀の鯉口を切った。


今からやるのは大量虐殺だ。強い者が、弱い者を大量に殺す、歴史にも載る最悪の所業。



でも、やるしかない。そうしないと、帝国側が敗北を認めないからだ。




「今なら悪魔になれそうだ、マモン」




そう呟いた俺は、2本の刀を構え、駆け出した。




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