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努力で取り返せるのなら

破竹の勢いという言葉を聞いて破竹を食べたくなったゆずあめです。



「もう聖の曜日か。フリットとの約束もあるし、行ってくるわ」


「うん、行ってらっしゃい。チュー要る?」


「要る」



リアル時間で16時。ゲームでは聖の曜日になると、俺はソルとのフィデム観光を中断して、騎士団の訓練場に向かって歩き始めた。


もう歩き慣れた道を進み、道中で見付けた屋台にて、串に刺さった魚の塩焼きを購入した。



「熱っつ! でも美味しいなコレ。身がホクホクだ」



見た目がニジマスくらいの大きさなのだが、味が鯛にそっくりで美味しい。

この味ならきっと、身を解してお茶漬けなんかにしても、もっと楽しめるだろうな。



そんな風に魚を食べながら歩いていると、頭から背中の身を食べ終わった頃に、目的の場所に着いてしまった。



「テスカ! お〜い!!!」



声がしたので顔を上げて見ると、フリットが誰かと一緒にグラウンドの中央で待っていた。


だが俺は朝ご飯である魚を食べているので、軽く手を振ってから食事に集中した。



「テスカ〜! 許可、貰ったぞ!!」


「ん......今食べてるから後にしろ」


「何だと! それよりお前、王族の前で物を食べながら歩いて来るな! 無礼にも程があるぞ!」



笑顔で話しかけたフリットは、俺が適当に返事をした瞬間に顔を真っ赤にして怒り始めた。



「うるせぇな。黙って食ってんだから話しかけんな。それとそっちの女、剣抜こうとしてんのバレバレだぞ」


「気付......くの?」


「当たり前だろ。ちなみに剣を抜いて、あまつさえ振り下ろしてみろ。お前の首に串を刺してたからな」



フリットと一緒に待っていた者は、全身に鎧を着ているから分かり難いが、筋肉の付き方からして女性。そして剣を、それもレイピアを持っていることから、スピード特化の技術タイプであることが分かる。


これは女性に多く見られる傾向だな。



「ふぅ......ごちそうさまでした。それでフリット。そこの女は誰なんだ? ハッキリ言って、2人も教えるとか面倒なんだけど」


「この方は俺の姉上だ」



フリットが女騎士(仮)に手を差し出して紹介すると、女は頭に被っている鎧を外し、その顔を顕にした。


髪は金色。瞳は水色。ひと目でフリットと血縁関係なのが分かる。



「私はレイラ・フィデムです。フィデム王国第1王女の身分ですよ」


「あっそう。俺はル......じゃない。テスカだ。お前は何の為にここに居るんだ?」


「見学ですよ。フリットがこれまでに無いくらい、必死に父上に懇願していたので、何事かと心配になりまして......フリットが怪我をしないよう、見に来たのです」


「なら帰れ。ここからフリットは血に塗れる様な経験をしてもらうから、怪我は1回や2回じゃ済まない。戦争とかいう大規模な戦いに行くんだ。怪我の経験も積ませるつもりだ」



俺がスパッと言い放つと、フリットは静かに唾を飲み込み、姉のレイラは悲しそうな目をフリットに向けた。



「本当に......やるのですか?」


「やります、姉上。兄上が次期国王なるのは確実です。ですから、せめて私は戦える人間で在りたいと、そう決めたのです」


「そうなのですね」



あれ? フリット君、そんなに真面目な思考をしてたの?

俺としては『アイツからドラゴンが貰えねぇなら、自分で取りに行くっきゃねぇ! ギャハハ!』くらいの考えだと思っていたが......あらまぁ。



「テスカさん。今日は見学しても宜しいでしょうか?」


「好きにしろ。邪魔したら蹴っ飛ばすからな」


「はい。弟の頑張る姿を、目に焼き付けたいだけですので」



良いお姉ちゃんだな。知らんけど。


俺に兄弟姉妹は居ないから分からないが、もし仮にソルが姉だと考えると、逆に俺としては姉の頑張る姿を見たいと思うな。


いや、この場合のソルって恋人補正が掛かってるソルじゃね? ならダメか。


昔の、まだお友達感覚の時のソルは......忘れた。と言うより、思い出せなくなってきた。



「テスカ?」


「ん?」


「始めないのか?」


「あぁ、すまんすまん。考え事してた。じゃあ早速始めるか」



フリットに腕を突かれた俺は、先程までの思考を洗い流し、インベントリから木の板と紙、そしてペンを取り出した。



「まずは質疑応答からだな。はい、フリット君」


「な、何だ?」


「君が今までに経験した戦闘を教えてくれ。騎士団での訓練や、モンスター討伐といったヤツをな」


「ゼロだ。見たことはあるが、実践したことはない」


「......そうか。俺と出会った時は、どうしてあんな所に?」


「あれは......言ってしまえば家出だ。何の才能も無い俺自身に嫌気が差して、逃げ出したところを騎士団に捕まえられた」


「ふ〜ん。じゃあ次、剣を握ったことは?」


「あの時を除けば、今日が初めてだ」


「マジか。次、モンスターを見たことは?」


「アルミラージやスライム、それにボアならある。後、お前がテイムしているドラゴンと......女の子」


「あれは俺の娘だ。まぁ、ドラゴンを見たなら大丈夫か」


「何がだ?」


「こっちの話。気にすんな」



それからも俺は、フリットに質問をしては答えを聞き、それを紙に書いてを繰り返した。


これでフリットが出来ることと出来ないこと。それに、まだやっていないが出来そうなことを纏められた。




「じゃあ次に、ステータスを教えてくれ。あまりにも低いようじゃあ、お前をレベリングの旅に出すからな」


「ぐっ......せ、生命力が200、魔力が400......筋力が20に、知力が150。器用が50の素早さが15。そして幸運が500」


「ブフっ! お前、貧弱なクセに運は良いのな! 面白すぎるだろ!」


「わ、笑うなー!!!」



ステータスを書いてて思いっ切り吹き出したわ。まさかLUCが500もあるとは。



「で、レベルは?」


「10だ」


「はいよ。レベリングの旅は確定、と」


「なっ!? 10もあるのにダメなのか!?」


「ダメに決まってんだろ。せめて80は無いとドラゴンは無理だ。いや、80でも無理かもしれんが」


「どうしてドラゴン基準なんだ! 普通に人相手じゃダメなのか?」



隣でレイラもうんうんと頷いているが、正直に言って相手のレベルが分からない以上、こちらのレベルは高ければ高い程、死ぬ確率が減るんだ。


だからここは、敢えてドラゴンという、厳しい基準で行かなければならん。



「ダメだ。戦争で真っ先に突っ込んで真っ先に死にたいなら別にいいが、そうじゃないんだろ?」


「当たり前だ! 死ぬ為に戦うんじゃない!」


「なら道は見えたな。お前は自分が生きる為に戦う。自分という存在を、自分の中で生かす為に戦う。それならば、より強く、より硬く、より柔軟に、より賢くならねばならない。その為にも、モンスターと戦う旅ってのは必要になるぞ」


「......分かった」



うんうん。ここまでカッコよさそうな言葉を並べられちゃあ、男の子なら言いくるめられて当然だよね!



「それに、強くなったらモテるぞ」



俺はフリットの耳元で、ちゃんと聞こえるようにハッキリと言った。



「......本当か?」


「本当だ」


「お前は......モテるのか?」


「いや? モテる訳が無いだろ。この左手を見て、俺にそう言った意図を持って話しかける奴とか......首を斬り落としたくなる」



婚約指輪ぞ? これ。恋人が居るのを分かった上で話しかけるとか、正直に言って頭おかしいと思う。

まぁ? 元々俺は人に好かれるような容姿でも性格でもないから、例え男だろうと、あんまり近寄って来ないからな。


俺はソルが居れば十分だ。俺の世界には、ソルだけが居てくれればそれでいい。



「じゃあそろそろ、実際に体を動かす訓練を始めるか」


「あぁ。最初は何をするんだ?」


「そうだなぁ......」




俺は顎に手を当て、たっぷり10秒も考えるフリをして──





「まず、俺に剣を刺そうか!」

最後にとんでもない事を言って終わりましたねぇ。

ルナ君、もしかしてSの皮を被ったMだったり?



次回『フリット、弟子になる』お楽しみに!

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