弟子の苦労
音ゲーの調子が悪いので投稿します。
「ぼ、冒険者ギルドへようこそ! ほ、本日は如何なされましたか? ギルドマスターを呼んできましょうか?」
「こんにちは。俺をそんな風に扱うの、あなただけですよ。それと今日の目的は王女ですので、ランザは呼ばなくていいです」
「わ、分かりました。直ぐにお呼びしますね!......ふぅ」
フィデム王国の第2王子、フリット・フィデム君の態度が急変した日からリアルで翌日。今日は土曜日なので、朝からユアストにログインしていた。
今、ゲーム内では風の曜日だ。リアルで言うところの、朝6時から朝9時までの時間だな。
そんな時間から俺は、ロークスの冒険者ギルドに遊びに来ていた。
「こ、こんにちは師匠」
「第一声からその呼び方か。俺、そんな大層な人間じゃないぞ?」
「いいんです。私にとっては大層な人物ですから」
受付嬢さんに呼ばれ、ギルドの奥からひょこっと王女が出てきた。
何故か黄色い着物に身を包んでいるが、多分プレイヤーの誰かから貢がれたんだろうな。何気に良いセンスをしているのが癪に障る。
俺も今度、ソルに着物を作ってあげるか。
「改めて、久しぶりだな。元気にしてたか?」
「お久しぶりです。元気も元気、あれからとっても強くなりましたよ?」
「じゃあ早速やるか。最近は1対50の練習ばっかりだったから、楽しみにしてたんだよ」
「......アレー? ワタシ、オナカイタイナー」
「安心しろ。死んでなけりゃ全快する魔法をかけてやる」
「くっ......いいでしょう。お願いしますとも!!!」
朝の運動に丁度いい。まだイラドラゴン達との戦闘訓練をしていないから、ウォーミングアップさせてもらおう。
「あれ、ルナさんっすか?」
王女を連れてギルドの訓練場に行こうとしていると、ギルドの依頼が張り出されているボードの近くから、聞き馴染みのある声が聞こえてきた。
「ん? おぉ、茜さんか。久しぶり」
「お久しぶりっす! 最近はフィデムばっかりだと思ってたんすけど、帰ってきてたんすね!」
「ちょっと王女と遊びにな」
「えっ!? 私の為に帰ってきたんですか!?」
俺がボソッと茜さんに返事をしていると、後ろからとんでもなく大きな声で王女が驚いていた。
「そうだけど? 理由は言えんが、王女みたいな関係の奴が新たに出来そうなんでな。感覚を思い出す為に遊びに来たんだ」
「それはそれは......相手は女性でして?」
「男だけど」
「なら良かったです。頑張って下さい!」
「お前は何の座を保持しようとしてんだよ。どうでもいいだろ? 相手の性別なんか」
「これでも貴方の一番弟子......ですから」
ユアストでは、の但し書きが必要になるがな。
俺という中身の人間の一番弟子は、実はアテナだ。
アイツをFSでボコボコにして鍛えたのが、俺の初めての弟子だ。出来は完璧と言える。
「ルナさん。浮気にならないよう、気を付けた方がいいっすよ?」
「大丈夫。ちゃんとソルには言ってあるから。今頃ベッドで倒れてる」
「ナニしてんすか......」
「限界までDEXを上げて1時間モフった」
「ヒィ!」
そうして、優しく忠告してくれた茜さんと別れ、改めて王女を連れて訓練場に出た。
何故かギャラリーのプレイヤーが沢山居るが、ただ遊ぶだけだぞ? そんな、武術大会のメタデッキが組めるような戦いなんてしないからな?
「師匠、今日はどの刀を使うのです?」
「メインは木刀だ。お前も使うか?」
「いいえ。私には、このスカーレッ刀があるので」
「フフっ......そ、そうか」
「何笑ってるんですか! 作ったのは師匠ですよ!?」
「す、すまっんブフ!」
桜器で作り出した神月の木刀を渡そうとしたが、王女は懐かしの紅い刀を見せてきた。
というより、その刀に名前を付けた奴、ネーミングセンス最高だな! きっと優しくて強くてカッコよくて、さぞかし人に好かれる人間なんだろうな〜。
......涙拭こ。ハンカチどこ?
「王女、遊び終わったらその刀貸せ。強化してやる」
「お願いします。この子、修理の度に宝石を使うので、出来ればそこの改善をお願いします」
「嫌だね。その刀は宝石があってこその刀なんだ。それに......いや、いいわ」
「え? とても気になるのですが......」
「勝手に想像してろ。さ、始めんぞ。構えろ」
俺が右手に持つ木刀を降ってビュン! と音を鳴らすと、直ぐに王女はスカーレッ刀の鯉口を切った。
うんうん。前より上手くなってるな。お兄さん嬉しいよ。
「先攻はあげよう。来い」
「はい......フッ!」
ガンッ!!!
王女の鋭い刺突攻撃を木刀で地面に受け流し、俺は刀が地面に刺さったのを確認してから、王女の首の位置に回し蹴りを入れた。
だが、これは王女も読んでいたのか、直ぐに刀を離してしゃがみこみ、蹴りを回避した。
「良いね。やっぱ10パーセントの10人より、100パーセントの1人の方が楽しい」
「師匠、もしかして血に飢えてます?」
「何でそう思う?」
「今の蹴り......普通の人なら死んでましたから」
「死なない死なない。手加減してるって」
「にしては速度が......いえ、何でもありません」
あら? 俺、手加減しすぎてたか。やっぱり、あんなんじゃ王女は物足りないよな。
でも、これはウォーミングアップなんだ。最初から飛ばしてはいけない。
「今更だけど魔法どうする? 俺としては、王女はアリで俺はナシでもいいんだが」
俺は王女が耐えられそうな、ギリギリの力加減で木刀を振り下ろした。
すると、木刀特有の鈍い音を立てながら、王女は真っ直ぐに受け止めた。
「くっ、重い......えっと、魔法ですか?」
「あぁ。今のお前なら近接戦闘中にも使えるだろ?」
「......相手が師匠じゃなければ」
「何だそりゃ。甘えたいのか?」
「な、何を! 確かに甘えたい気持ちはいっぱいありますが、そんなに言う程じゃないです!」
「勘違い系主人公じゃん。お前の甘える姿なんて、俺は見たくない」
「えぇ......嘘......」
ごめんな王女。俺、『甘えてんのか?』って言おうとしたのに、普段ソルに言う流れで『甘えたいのか?』って言ってしまった。
ごめんね☆
それと多分だが、王女は強くなったが故に誰かに甘える事が出来なくなったんだろうな。
自分より強い相手と戦わない、戦えないから、咄嗟に誰かに助けを求められなくなってるんじゃないか?
そういう面で見れば、師匠である俺にも責任があるし、手助けしてやらんとな。
「王女。お前が勝ったらコレをやろう」
俺は剣戟を止めると、王女に三角形の水晶を見せた。
「はぁ......はぁ......何ですか?」
「これは3億リテぐらい使って作成した連絡用の魔道具だ。俺の手持ちにある、同じ水晶同士が全部繋がっていて、離れていても通話をする事が出来る」
「......ギルドの物より遥かに優秀なアイテムですね。それだけで国が滅びそうな......」
政治的な使い方に頭を回す王女に、俺はもう1つ水晶を手に出して告げる。
「お前が勝てば、コレを2個やろう。国王とお前が持てばいい。逆にお前が負ければ、1個だけやる」
「え?」
「コレ、作ったはいいけど使わなかったからな。3つあるんだが、1つは俺が持っている。何かあった時に連絡をくれればいい」
「あの......え? それ、1つは確定なんですか?」
「そうだ。一応、ウチのギルドハウスがある国だし、弟子も居るからな。何かあった時に連絡が取れなかったら心配になるだろ?」
「あ、ありがとうございます」
「という事で、勝利を目指して頑張りたまえ。それと、これからは全部の武器を使うから、走馬灯でも見て楽しんでくれ」
「え、えぇぇ!?」
俺は木刀の他に糸にステラノヴァを装備し、足元にはエリュシオンとまくら、それにアルテを置いた。
「安心しろ。使う武器は1つだけだ。まぁ、ルーレットみたいにコロコロ変わるがな」
俺は素早く手に持つ武器を切り替えると、王女はこめかみに冷や汗を流した。
インベントリ操作のウォーミングアップだ。王女も頑張れ。
ツンデレルナ君きtら!!
次回『ソルニウム過剰摂取』お楽しみに!