フィデム王国第2王子、フリット・フィデム
投稿したと思い込んだ柑橘類
「やるなぁテスカ! 正直、死を感じたぞ!」
「走馬灯連続再生なら任せろ。んじゃ、後攻どうぞ」
「おう!」
フィデムに滞在を初めてリアルで1日、つまりゲーム内時間で1週間が経ち、俺のギルドであるヴェルテクスは、様々なプレイヤーに向けてフィデムの地を紹介した。
報告によれると、船が巨大なクラーケンや、メガロドンと言う名前の巨大なサメに襲われる事が頻発しているようで、船の護衛の為に金稼ぎをするプレイヤーが現れた程らしい。
今、それくらいにフィデムがアツくなってきた。
そんな中、フィデムの騎士団に遊びに行った俺は、騎士団長さんと模擬戦をしている。
相変わらず綺麗なスキンヘッドで男らしいな。カッコイイぜ。
「最近は語り人がよく入って来てくれるのだが、お前の手引きか?」
「いいや? 俺は身内としか関わらないから、やったとすれば俺の仲間だな。俺はゴーサインを出しただけで、実行犯はアイツらだ」
「う〜わ、それが人の上に立つ人間の言うことかよ」
「そうだ。ウチは実力制(笑)なんでな。ブラックでもあり、パワハラが毎日横行するんだ」
「......よく誰も抜けないな」
「信頼してくれているからな。それにそこまで人数が居ないから、ひとりひとりの役割がデカくて、やりがいがあるんじゃないかな?」
「やりがい......搾取?」
「やめろバカ。やりがいはやりがいだ。ウチのメンバーは良い意味で尖っているから、お互いの穴を埋めるように動くより、それぞれの分野で進んだ方が利益が出るんだよ」
「利益って、お前はそれで金を稼いでいるのか?」
「俺じゃなくて、メンバーがな。1人はダンジョン攻略の手伝いだったり、1人は裁縫のやり方講座なんかを開いたりと、得意な物事で頑張ってんだよ」
「成程な......ところで、俺の攻撃を全て無効化するのはどういうスキルなんだ?」
長々と話を続けながら戦闘をしていると、遂に騎士団長がツッコんでくれた。
「ただの『盾術』だ。団長さんの攻撃を全部パリィしているから、無効化しているんだな」
「ん? パリィとは、相手にカウンターを入れる技だと思うのだが......」
「そりゃあ、カウンターを使ってないからな。ただ話す時間を伸ばす為に、敢えて攻撃を受けるだけにしてたんだよ」
「チ、チクショォォォ!!!!」
どうだ? 騎士団長。試作品の盾、『まくら』の力は!
コイツは付与効果に『反撃不可』という超キツいデメリットがある代わりに、『パリィ補正』という、パリィの受付時間を延長する効果があるんだ。
それを使って楽に騎士団長の攻撃を吸収し、会話に興じていたんだ。
「反撃、していい?」
「いいや負けだ。降参」
「おん? いくら何でもその判断は早過ぎないか?」
「アレを見ろ......お前に客だ」
騎士団長が降参を告げ、指を指した方を見ると、護衛も連れていない第2王子がこちらに向かってあるて来ていた。
「あ〜......その、なんだ。今いいか?」
「ダメって言ったら?」
「えっ! それは......」
俺の意地悪な返しに戸惑う第2王子を他所に、俺は騎士団長に頭を下げて模擬戦をしてくれたことに感謝を伝えた。
そして頭を上げた後、第2王子......フリットの目を見て答えた。
「冗談だ。で、どうしたんだ? お前の方から俺に話しかけるとか、正直嫌な記憶が蘇るんだが」
「大丈夫だ。お前のドラゴンを奪おうなんて考えていない。あれから父上に怒られたのだ」
「へ〜。どんな風に怒られたんだ?」
「はぁ!? ま、まぁ......『政治に関する話ばかりで、親としての教育が出来ていなかった。これから共に学んで行こう』と」
それ、怒られてないじゃん。いや、怒られたのかもしれないが、どちからと言えば国王が謝ってるよね。
しかも、結構良い親の価値観をしていると思うんだが。
大きくなった息子に、自分の教育不足を謝罪しながら、これから共に成長しようと言う......そんな親、中々居ないと思うぞ。
あの人、国王になった事で国民が幸せになり、普通の親なら家族を幸せにしたんだろうな。
「めちゃくちゃ良い親じゃねぇか。俺の親と同じくらい良いと思うぞ」
「お前の親?」
「あぁ。俺は自分の親が世界一素晴らしい親だと思っているからな。だって、俺を産んだ上に育ててくれたんだぞ? もうその時点で、俺からすれば最高の親なんだよ」
「......変な考え方だな」
何故だ? 自分という存在を生み出してくれた親に感謝しないなんて、俺から見ればそっちの方が変だぞ?
人生というゲームの世界に産み落としてくれた両親には、本当に感謝しかない。パパン、ママン。ありがとう。
......まぁ、両親の次に、ソルを産んでくれた太一さんと陽奈さんに感謝してるけど、これは皆には秘密だな。ちょっぴり恥ずかしい。
「家族を想う気持ちがあれば、あの時みたいな事は防げる。これからお前は、お前の父親の様に、人を想う気持ちを成長させていけ」
「父上の様に......確かに、なれるのならなりたい。寧ろ、父上を超える優しさで人を想いたい」
アレ? コイツ、性格が180度変わってないか?
前みたいに人の意見を聞かずに自分の意見だけを述べ、それにそぐわないなら実力で勝負する、あの如何にも『帝国』の言葉が似合うスタイルはどこへ行った?
俺、正直あのスタンスは嫌いじゃなかったんだがな。
少し勿体ないことをした気分だ。
「それはお前の意思次第だな。じゃあ、お前の用件を言ってくれ」
少しフリットへの見方を変えた俺は、姿勢を正して向き合った。
「俺の用件はただ1つだ。テスカ。この前の非礼、どうか許してくれ」
フリットは王族の身分であるにも関わらず、俺に向かって真っ直ぐに頭を下げた。
「あ〜、うん。許す」
「本当にすまなかった。ここ数日、母上に言われた事を頭の中で繰り返し覚え、お前の日常を少しだけ覗いた結果から学んだのだ」
「ふ〜ん......ん?」
「以前までの俺は、テスカにクソガキと言われても仕方がないと思う。俺は、こうして広い視点から考えると、身分が高いだけの、ただの人間なんだと......そう思うようになったのだ」
「おい、覗いたって何を覗いた?」
「それでこれまでの行動を振り返り、母上に言われた『広い視点から物事を見ろ』という言葉通りの意味で考えると......過去の自分が憎くなるくらいだ」
話聞いてないじゃん。シバいたろか?
いや、ダメだ。ここでもし、フリットの頭を叩いてみろ。折角謝罪に来てくれて和解に持ち込めそうなのに、また振り出しに戻ってしまう。
でもなぁ。あまりの態度の変わりっぷりに、腹が立つんだよなぁ。
「はいはい。で、過去が憎いガキンチョは、何を思ってそんなクサイ台詞を吐いてんだ?」
「単刀直入に言う。俺を強くしてくれ」
「嫌。無理。面倒臭い」
「んなっ!? 何故だ!」
「唐突すぎる上に、お前が戦場に出てどうすんだよ。もし第1王子が死んで、その上お前も死んだら、いよいよこの国終わるぞ?」
「だ、だが......う〜ん」
フリット君は鉄砲玉かな? 行ったら帰ってこない、超絶見切り発車で命を散らす、ロケット花火なのかな?
大体、コイツに強くなろうとする向上心が見れないから、そもそも教える気が起きないんだよな。
ロークスの王女の時は、王女は努力する人間だと言うことが分かっていたから教えたけど......フリットはなぁ。
というか王女、元気かな。久しぶりに遊びたくなった。
「じゃあ俺、そろそろ帰るわ。明日の......じゃねぇな。次の聖の曜日の朝、ここにお前が居たら考えてやる。それまでに国王、王妃、第1王子、騎士団長に戦場参加の許可を貰え。それが貰えんようなら、そもそも教えん」
「分かった。絶対に貰ってくる」
「そう簡単には貰えないと思うがな」
フリット、親の愛を舐めちゃいかんぞ。
もし俺がリル達に『死ぬかもしんないけど戦いに行っていい?』なんて言われたら、絶対にダメだと言うからな。
多少の怪我なら治るからいいが、流石に死ぬような戦場には行かせたくない。
そんな戦場なら俺がめちゃくちゃに暴れ回ってやるし、なんなら俺が代わりに死んでやるくらいの思いだ。
これで学んでくれるといいな。親の愛を。
「か〜えろ。今日はソルを3倍モフろうっと」
フリットは直ぐに許可を貰いに行ったので、俺はのんびりと歩いてグラウンドから出て、暖かい夕陽を浴びながら宿に帰った。
モフモフパラダイス中に、明日はロークスに帰ることを伝えないと。
3倍モフモフリーむっ!!!(古い)
次回『弟子の苦労』お楽しみに!