戦闘民族の思考
脳筋ルナ君、出陣。
「騎士さん。今更だけど本当に着いて来て良かったのかな」
フィデムの王城に入り、会議室を目指して歩いている最中。俺は少し弱気なっており、軽装備を着たスキンヘッドの騎士さんに聞いてみた。
「大丈夫だ。何かあったら俺が口を出す。それに、会議にはフリット王子が出席される。和解するにせよ敵対するにせよ、実際に会うのがベストだろう?」
「敵対ですか......これでも語り人では五本の指に入る強さはあると自負しているので、腕に自身はありますよ?」
「帝国戦に向けてくれるなら、これ程頼りになる存在は居ないな。ハッハッハ!」
騎士さんに背中をバシバシと叩かれながら、シャキッとしろと、エールを貰った。
この人、中身の人柄が良すぎて敵対するにしても倒せな気がする。
フリット王子の出方次第だが、なるべく和解を検討しようか。
「ここが会議室だ。入室したら、国王から順に第1王子、第2王子に頭を下げ、整列してから敬礼。それから跪くんだぞ」
「分かりました。ですがフリット王子には頭を下げません」
「......敵対しちゃうのか?」
「それは王子次第です。人の物を取ろうとする王子に、俺は敬意は払えません」
「分かった。ただ、咎められると思っておけよ」
「勿論です」
それから騎士さんは扉を3回ノックし、大きな声で名乗ると、中から黒い髪のメイドさんが扉を開けてくれた。
「どうぞお入りく......何者ですか!」
「この者はフリット王子がお求めの方だ。通せ」
「しょ、承知しました。お入りください」
俺は騎士さんの口添えの元、何とか入室し、国王から順に第1王子へと頭を下げ、第2王子に頭を下げる前に、騎士さん達に習って敬礼した。
何故かゴトッと机に足を打ち付けるような音が聞こえたが、多分気のせいだろう。フフっ
「騎士長。見ぬ顔の人物がおるようだが」
「はっ! この者はフリット王子が求める人物であります!」
「ほう。フリット、どういうことだ?」
小さく目立たない王冠を身に付けた、1番高い位置に居る60代くらいの男が国王のようだ。
国王に訳を聞かれたフリットは、背筋をピンと伸ばして国王の顔を見た。
「私達が求める軍事力になる、ドラゴンをテイムしている人物故、私は彼の者に来るように伝えました」
ほ〜ん? 貴様、わざわざ逮捕されてやった事に恩も感じず、然も自分の手柄かのように説明するんだ〜。
ふ〜ん? 別にいいけど? まぁ? それが今後、どういう結果になったとしても? まぁ? 知らないって言うか?
うん。減点ですよ王子様。
「そうか。では何故事前に伝えなかった? この状況で私にも伝えずに外部の者を連れ込むとは、1歩間違えばお前は国家反逆罪に処されるぞ?」
「ッ!......申し訳ありませんでした。次は無いと思って行動します」
「うむ」
おぉ。次は無い、ねぇ? 自分のやった事に責任を持とうとしてるのは好感が持てるな。だが、俺を連れて来るということ自体は、かなりの痛手だと思うが。
次があっても、今があるかは分からんぞ?
「して、その者よ。名は何と言う?」
国王に聞かれたが、俺は未だ跪いたままだ。
クソガキ思考で行くなら、俺、国王の質問に答えろとか言われてないからな。
別に答えなくてもいいでしょ。
「おい、そこの者。名乗れ」
国王がトンと机を優しく叩いて聞くが、俺は動かない。
そうしていると、騎士長と呼ばれていたスキンヘッドの騎士さんが、肩を突ついてきた。
「答えるんだ」
流石にこれ以上無視していると罰が下りそうだと伝えてくるので、俺は顔を上げて答えた。
「はい。私はテスカと申します。ロークスにて冒険者をしており、語り人としての生を満喫している、しがないテイマーでございます」
ごめん皆。嘘ついちゃった。悪気しかないから、許さなくてもいいよ!
「貴様はドラゴンをテイムしていると、フリットは言っていたが、実際はどうなのだ?」
「どう、とは?」
「貴様は本当にドラゴンをテイムしているのか、ということだ」
「それならば、はい。テイムしています。群れで飛行している所を、漁の様にしてテイムしました」
俺がそう答えると、フリット以外の全員がザワザワと話し始めた。
でも、ごめんな。また嘘ついちゃった。実際は漁の様に一気に捕まえたんじゃなくて、1匹1匹地上に叩き落としてからテイムしたんだよな。
だから、ヒカリ以外のカラフルドラゴン達は皆、一定の恐怖心を俺に抱いているはずだ。
ヒカリは、唯一俺に恐れず、友達の様に接してくれるから、俺も気軽に呼び出せるから助かるんだよな。ら
俺のペットの中で、1番のお気に入りがヒカリだ。
「静粛にせよ。テスカよ。貴様は我々フィデムの味方と考えて良いのだな?」
「え? ダメです。私はフリット王子の対応次第では、敵になりますからね。私、フリット王子の命を救ったのにも関わらず、逮捕という形で連行されているので、正直に申しましてフリット王子にあまり好印象を持っていません」
国王相手にも関わらず、俺はスパッと言い切った。
するとこの場に居る全員から視線を向けられたフリットは、俯いて何かを考え始めた。
さぁ、芝居がやりたいなら勝手に踊ってもらおうか。
ここからは俺とフリットの会話勝負だ。
「国王陛下。私はテスカを雇用という形で軍に引き入れたいのです」
「他国の者を我々の軍に入れ、死ぬまで前線に放り込む気か?」
「い、いえ......ですが、テスカなら十分な活躍を......」
「活躍などどうでもよい。私は、他国の人間を軍に招き入れ、結果的に死んでしまった場合にロークスの国王から何を申されるか分からぬぞと、そう言っておるのだ」
あら? ここの王様、何だか俺の身を案じて軍に入れるのを躊躇してくれてない?
それより『活躍などどうでもよい』って、それ結構不味い発言じゃないですかね? だって、負けたら帝国に領土を奪われるんだよ?
あの綺麗な海も、多分新鮮な魚も、多分儲かっているであろう漁師の人達も、皆環境が変わっちゃうんだよ?
「陛下。活躍に関しては十分に挙げてもらわねば困ります。我が国の存亡を賭けた戦いですので、生半可な気持ちでは民の未来が危ぶまれます」
お、金髪青眼の男の人が代弁してくれた。あれが第1王子か〜......なんか、イケメンで腹が立つな。国王も歳を感じさせない若さを保っているし、もしかしたらこの国は割と栄えているのかもしれんな。
まぁ、全部はフリット次第だが。
「......なぁ騎士さん。話を聞くの面倒になってきた」
「んぐっ! お前、絶対に大きな声で言うんじゃないぞ!? 幾ら腕が立つからと言って、戦争では今までの経験と全く違うんだぞ?」
俺の小声の質問に、騎士さんは必死に声を抑えて叱ってくれた。
「騎士さん。騎士さんは1人で、99人を相手に勝ったことはある?」
「は?......無いけどよぉ」
「俺はあるよ。他にも、96対4で勝ったり、そもそもの練習として複数人を相手にしたり、戦闘民族か? ってくらい、沢山戦闘してきた」
「それがお前の強さの秘訣だと? だが、誰もお前の強さを知らないんじゃ......」
「えぇ、ですからこうするのです」
さて、色々と小難しい話をしている最中に悪いが、少しだけ会議を滅茶苦茶にしてやろう。
俺を逮捕してくれた分だと思って、潔く受けてくれ。
「皆さん、戦いましょう。争いとは勝ったものが正義です。暴力を示し、相手を屈服させたその瞬間に、自分の正しさは証明される。ですので......取り敢えず、私の力を示します」
議論な野蛮なこと、もうやめよう。やはりここは、暴力で穏便に済ますのが最適解だッ......!
「騎士さん。いや、騎士長さん。あなたの部下全員と戦うので、勝ったら俺の意見を言ってもいいですかね? お話は単純なので、こんな所でウダウダする事もありませんし」
「は、はい? お前、何を言って──」
「ほう。国の騎士と力試しをする気か。面白い」
「「父上!?」」
「ん〜! 流石王様。それとフリット王子。アンタが手を出した相手の実力、知りたいと思わないか? ドラゴンよりよっぽど強い人間の実力、気になるんじゃないか?」
「うっ......だ、だが会議が」
「よい。いい加減話も進まなくなってたしの。気分転換がてらに、テスカの実力を見ようぞ」
オイオイ、ここの王様大丈夫か? いや、他の王様を見たことないから何とも言えんのだが、フィデムの現国王が変わっている人物だというのは、流石の俺でも分かるぞ。
ま、いっか! 俺は偵察よりサーチアンドデストロイを楽しむ人間だし、体を動かそう!
「じゃあ騎士長さん、適当に広いところに案内してください」
「......分かった。どうなっても知らんぞ」
「大丈夫。手加減はするから」
「お前の心配をしたんだがな......はぁ」
そうして、騎士長さんは会議に出席している全員を集め、騎士団の訓練に使っている、大きなグラウンドに案内してくれた。
次回は戦闘パートです。やったね!
それと13章は30話完結を目標に頑張っていこうと思います。
ですので、430話に13章が終われば.....目標達成ですわね。オホホ。
これからもよろしくお願いします!
では次回!『騎士団と戦った...けど?』ジュエルステンバイ!