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404 Not Found

少し長めです。




「ピギー、アイツ何やってんだ?」


「さぁ? ただ、頭がおかしいのは分かるね」


「僕、久しぶりにルナの行動が無意味だと感じたな〜」


「アレ、そういうレベルのお話なんでしょうか......」


「私達のギルマスがアレって、逆に誇らしいわね」



ギルドメンバーが口々に俺の事を話している。

だが、どうして皆、俺を気持ち悪がっているように話すのだろうか。

近くに居るリル達は何も言わないし、俺は間違ったことはしていないはずだ。



「なぁルナ。何でクラーケンの口に頭を突っ込んでんだ?」


「精神統一」


「すまん。意味が分からない」


「それぐらい自分で調べたまえ。脳筋君」


「お前の首、俺の大剣なら斬れると思うんだが試してもいいか?」


「反撃していいならどうぞ」


「くっ......」



いや〜、クラーケンの口の中って温かいんだな。何と言うか、胎内に帰ったような温もりを感じる。

俺はきっと、これからジワジワと小さくなり、オギャーと泣く赤ちゃんにまで時間が戻──



「ルナ君。私、そろそろルナ君の顔が見たいな〜」


「はいはいルナ君です」



ソルの声が聞こえた瞬間、俺はチュポンっとクラーケンの口から頭を引っこ抜いた。



「うっ......その、大丈夫?」


「大丈夫だ。頭は大丈夫じゃないが」


「物理的に? それとも精神的に?」


「それは受け取り手次第だな。ところでソル。抱きついてもいいか?」


「足で蹴ってもいいなら......」


「よし、ご褒美だな」



俺はヌメヌメとした粘液塗れの頭のまま、膝立ち状態でソルに向かって動き出した。


すると、流石に冗談では済ませられない、ソルの本気で怒った顔が見えてしまった。



「ルナ君? いい加減にしないと怒るよ?」


「ごめんなさい」


「もう。はい、お水出すから顔洗って。『水塊(すいかい)』」


「はい......洗いました」


「うん。じゃあこっち来て、顔拭くから」


「はい」



ソルは子どもを相手にするように、俺の頭を綺麗にしてくれた。



でも、なんだろうコレ。公開処刑を受けている気持ちになっているんだが、もしかしたら公開処刑よりつらい状況かもしれん。


船内でやらかした時に居合わせなかったミア達やリル達に、とんでもなく恥ずかしいところを見られている気がする。



「うん! 綺麗になったよ!」


「ありがとう。それと、後どれくらいで着くんだ?」


「もうそろそろだよ」


「そうか」



俺はギルドメンバーに白い目で見られながら、甲板の中央へとクラーケンを引き摺って歩いた。


もう、どうでもいいんだ。俺の社会的HPはとっくの昔に0になっているんだから、失う物はもう何も無い。




「お〜い! 着いたぞ〜!!!」




船長の大きな声が聞こえると、メンバーの皆は船の先端へ赴き、港の様子を見に行った。


俺は一足先にサーチで港の状況を確認しているので、すぐ側に居るソルの肩を叩いた。



「ソル、サブマスターとして下に行ってきてくれないか? 護衛はリンカでも連れて行くといい」


「分かった! リンカちゃん、行こ!」


「え、待って! ち、力つよ......うわぁぁぁ!!」



リンカの手を掴んでソルは船から飛び降り、港にスタッと着地した。

俺はその様子をサーチ越しに見ており、クラーケンに凭れながら小さく拍手した。



「なぁ、ギルドマスターさんよぉ。マジでそのクラーケンを土産に渡すのか?」



港の人が明るい反応をしている声を聞いていると、船長さんが不思議そうな顔で聞いてきた。



「はい。一応、語り人として初めて行く場所ですからね。相手方とは仲良くしておきたいんですよ」


「成程な。それとマスターさんよぉ」


「なんですか?」


「アンタ......どうやってあんな奥さん見付けたんだ? 何か秘訣があるなら、俺にも教えてくれよ」



船長さんは小さな声で、有りもしない出会いの秘訣を聞いてきた。



「ふっふっふ。それはですねぇ──」



俺が架空の出会いの話をしようとすると、いくつもの足音が聞こえてきた。




「おい! そこの銀髪の男! お前を不敬罪で逮捕する!!!」




「ん?......え?......はい?」



船に数人の警備兵が乗り込んでくると、流れるように俺の手をロープで縛ってきた。



「おいおいおい! ギルドマスターさんが何したって言うんだよ!」


「この者は我が国の第2王子、『フリット・フィデム』様を殴った罪がある。この者が王家に手を出した事を、不敬罪で済ませているだけ感謝しろ!」


「は、はぁ? ギルドマスターさんは初めてここに......」



船長が頑張って俺を庇おうとするが、心当たりがあり過ぎる俺は船長に無駄だと伝えた。



「あ〜、船長さん。兵士さんの言う通りなんですよ。実は俺、前にドラゴンに乗ってこの大陸に来たんですけど、その時に王子をぶん殴りまして......てへ」


「ギルドマスターさん......王子に手を上げたのか?」


「えぇ。礼儀も態度も悪いクソガキでしたので、ついカッとなってぶん殴りました。いや〜、中々に爽快でしたよ」



俺がそう言うと、警備兵の1人が俺の首に向かって剣の柄で殴ってきた。



「残念ですがその程度じゃ気絶しませんよ。今は逮捕ごっこに付き合ってるんですから、普通に連れて行ってくださいよ」


「こいつ!!」



ニヤッと口角を上げて呟くと、警備兵は刃を俺に向けて振り下ろそうとしたが、もう1人の警備兵に止められた。



「よせ。命令を忘れるな」


「......はい」


「残念でしたねぇ。あなた、あの時から成長していないんですね。そんなんでドラゴンを相手にしたいとは......」


「黙れ!!」


「貴様はこれから王子の元へ連れて行く。何かしらの拷問を受けるかもしれんが、自業自得だぞ」


「はいはい」



そうして俺は船から引き摺り出され、港に用意されている馬車に乗せられた。

馬車の中には、俺と同じように手足を縛られた男が5人ほど乗っており、俺は5人から注目を浴びてしまった。


それから馬車が動き、2分ほど経った頃。



「お前、何をして捕まったんだ?」



スキンヘッドの厳つい男が聞いてきた。



「この国の第2王子の顔面をぶん殴りましたね!」


「ハッハッハ! そりゃ捕まるわな! というか、寧ろ死刑になっていないのに驚くぞ」


「そりゃあ、王子は俺を求めてますからねぇ。殺してしまっては、得たい物を得られないですから」


「おぉ、お前さん、何か良い物を持ってたのか」


「良い物ってレベルじゃないですよ。命に変えても守らなければならないものです」



昔を思い出すかの様に語ると、スキンヘッドの男が興味深そうに聞いてきた。、



「ほう? それは何だ?」


「さぁ、なんでしょうねぇ?」


「チッ、やるじゃねぇか」



うわぁお、適当に濁したらめちゃくちゃ綺麗な歯を見せて笑われたぞ。

この人、何をして捕まったんだ?



「でしょう? さぁ、今度はあなたの番ですよ。あなたはどうして捕まったんですか?」


「俺か? 俺は──」



そうしてオッサンと話をしながら、俺はここまでの流れを頭で何回もリピートさせた。



俺は今回、出航前から新大陸に着いたら逮捕される事は予想していた。

理由は言わずもがな、例の第2王子だ。


アイツが何らかの理由でドラゴンを欲していることと、俺があの時に殴ったことから、それを理由に奪いに来ると予想出来た。


そして潔く捕まる事で、俺は第2王子の真の思惑と国の内情について知り、それをソル達に流そうと思ったのだ。



だが、ここまで来るのに結構苦労したものだ。



まず、逮捕される事にリル達が猛反対してきた。

気持ちは分かる。自分の親が目の前で逮捕される瞬間なんて、見たくないわな。


だから俺は、あの手この手を使ってリル達を説得し、何とか逮捕されることに成功した。



そして次に、もし何かあった時の俺の救出プランを考えるのに苦労した。



これは、逮捕後の現在地やそもそもの土地勘の無さ、さらに警備のレベルなんかが白紙の状態から始まる可能性を考慮し、様々なアイテムを作るのに手間がかかった。


多分、値段して3億リテ分くらいのアイテムは使ったぞ。


生産を繰り返す地獄日々を切り抜けたのに、その先が逮捕だなんて嫌な話だよな。



「それにしても、今さっきこの国に来たばかりなんですが、この国ってどんな所なんです?」


「この国、『フィデム王国』はな......近いうちに戦争が起きるんだよ。隣の『フラマ帝国』とな」


「戦争の理由は?」


「海さ。フラマ帝国は海が無い土地だからな。奴らは海欲しさに、王国の土地を奪おうとしてんのさ」


「ふ〜ん。じゃあ、王国側に付いたら、帝国を滅ぼせば勝利なんですかね?」


「何言ってんだ? 戦争なんざ、重要な人物さえ殺しゃあ、後は民間人っていう労働力が大量に確保出来るんだぞ? わざわざ大量の人を殺す意味が無ぇ」


「成程。それもそうですね。例え土地が広くなったとしても、その土地に住む人が居なければ、得られる物が少ないですもんね」


「その通りだ。国益にならん戦争なんざ、ただの無益な殺し合いだ」



いや〜、どうしてこの人はこんなに色んなことを知っているのだろうか。どうしてそれを俺に話してくれるのだろうか。


不思議だな〜。



「オッサン、どっち?」


「俺はコッチ」


「なら何で捕まってんすか」


「計画逮捕さ。お前さんもそのクチだろ?」


「......やることが汚いな」


「いいんだよ。コイツらは皆、俺の部下だ。周りから見ればただの犯罪者だが、実際は国王に呼ばれた騎士だからな」


「うわぁ、もしかして俺、とんでもない馬車にぶち込まれた?」


「はっ、お前の実力でンな事言われると、騎士として悲しくなるぜ」



多分、存在するであろう帝国のスパイにバレずに王に会うために、こうして逮捕された罪人を演じているのだろう。


日本人的な考え方をすると『有り得ない』の一言だが、この国のこの住民の考えからすると、『上手い考え』と言えると思う。


それにしても、罪人に扮した国を守る騎士とは、中々にカッコイイな。


俺の最弱最強の目標みたいに、矛盾のカッコ良さがある。



「着いたぞ。降りろ!」


「「へ〜い」」



馬車を操縦していた兵士さんが1人1人縄を解いていき、騎士達に怪我が無いか入念にチェックした。


やはり、この兵士もグルだったか。まぁ、そうじゃないと騎士さんが大声で話すことは無いか。



「あ〜、肩凝ったァ。これから会議とか、正直面倒だ」


「騎士がそんな事言っちゃダメでしょ」


「いいんだよ。俺だって人間なんだ。しんどい時くらい、しんどいと言わせてくれ」


「......すみません」


「気にすんな! じゃあ俺達は行くが、お前はどうすんだ?」



肩をグルグルと回してストレッチをしながら、騎士さんが俺に聞いてきた。



「う〜ん、どうせクソガキに呼ばれただけなんで、捕まったところでって感じなんですが......同行します」


「お、良いねぇ。重要な会議に部外者の乱入ってのは良い刺激になる。連中の凝り固まった思考を解してやるとするか!」



最後に俺の縄が解かれると、白い建材で立てられた大きな城にやって来ている事に気が付き、念の為にスクリーンショットを撮った。


そして素早くソル達に画像を流し、ウィンドウを消した。



「じゃあ、堂々とスパイしますかね!」


「ハッハッハ! どうなっても知〜らね!」


「その時はその時です。餌をチラつかせて逃げますよ」




そうして俺は、仲良くなった騎士さんと一緒に入城した。

いや〜、前々からやりたかったんですよ。

404話に『Not Found』ってタイトルにするの。


念願の目標も達成出来て、嬉しいです!



では次回『戦闘民族の思考』お楽しみに!

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