クラーケン、捕獲!
人間、疲れてると12時間も寝るんですね.....あ、私人間じゃなかっt(ry
「ルナ。遂に例のクエスト、クリアしたぞ」
「あ、マジ? 10億リテ稼いじゃった?」
「あぁ。俺の予想より大幅に早く稼ぎ終わったな。昨日、どこかの銀髪の男が急に2億渡すからこうなったんだが」
「いや〜、知らないな〜」
「ありがとな」
「気にすんな。じゃあ、皆集めて行くか」
2月下旬。ベルとの暮らしにも慣れ、そこそこ充実した生活を送っていた俺達は、以前からギルド内で隠していたクエストを遂行した。
そのクエストは──
「正規ルートの新大陸進出、いっちょやりますか!」
「船の資金集め、苦労したからなぁ」
俺がヒカリの乗って着いた事がトリガーになった新大陸解放のクエストは、『10億リテを港に寄付する』というものだった。
厳密に言えば、俺達は宵斬桜の素材やマネーレトレントの素材など、木材の中でも高級品に値するアイテムを大量に送り付けていた。
すると港のオッチャン達は益々やる気を出し、予定より大幅に早く作業が終わり、より頑丈で快適な船が出来たそうな。
これはヴェルテクスの皆が総出で頑張ってくれた結果だ。
ありがとう。
「でまぁ、誰が最初に乗るかなんだけど......」
港に集まったヴェルテクスのメンバーは、綺麗な円を作って向かい合っていた。
「アテナ、お前行けよ」
「何でだよ! ギルマスのお前が行けよ!」
「嫌だ。じゃあ翔、ここは男を見せようぜ?」
「え〜? ぼきゅわかんなぁぁい!」
「クソガキが。それに釣れるのはショタコンだけだ。次、ピギー」
「ごめん話聞いてなかった。何?」
「もういい。ミアは?」
「えと、遠慮しておきます......」
「はい、リンカ」
「別にいいけど、私が乗るならアンタも乗りなさいよ?」
「嫌だなぁ、断るに決まってるじゃないですか〜」
「なら私に乗らせない事ね」
「はぁ............」
誰一人として、完成したばかりの船に乗りたがらなかった。
船大工のオッチャンは平気そうな顔をしていたが、いざ巡航ルートを見直してみると、嫌な予感がプンプンするんだ。
俺達は船が怖いのではない。その道中が怖いのだ。
「クラーケン......出るよな」
「「「間違いなく出る」」」
「くぅ! クエストの最後が『新大陸に到達』って、もう嫌な気配がムンムンなんだが?」
「諦めろギルマス。そして散れ」
「おいゴリラ。テメェのポリゴンをクラーケンの餌にしてもいいんだぞ? 俺とソルが乗るんだから、1000レベ越えのクラーケンだぞ? 光栄に思えよ」
「はっ、俺の肉なんざ誰も食わんさ」
「お? やるか?」
「あ? やんのか?」
アテナと思いっ切り睨み合いをしていると、ソルが間に割って入ってきた。
「もう、2人とも辞めてね? 2人で仲良く餌になりたいなら続けていいけど、嫌なら直ぐに乗ること。これは全員、ね?」
「「「「「「はい!!」」」」」」
ソルが手をかけたミストルティンに皆恐怖し、そそくさと船に乗った。
「お、ようやく乗ったか! じゃあ、出発するぞ〜!」
ロークスで1番の船長と言われる人の合図で、俺達の乗った船は新大陸へ向けて出航した。
◇◇
「はいリル。あ〜ん」
「あ〜ん......ん〜! 甘くて美味しいです!」
「だろ? 実はこれ、砂漠に湧いた芋虫のエキス使ってるんだ。美味しいだろ?」
「......吐いてきます」
「ごめんな」
船が出てから1時間ほど。俺は甲板でリルと遊びながら周囲の警戒をしていた。
サーチを半径2キロメートルまで伸ばし、常に魔力反応を調べながら進んでいるんだ。
「ねぇルナ君。なんかあっちでリルちゃんが吐いてたんだけど、船酔い?」
「いや、俺が芋虫のアイスクリームを食わせたのが原因だ」
澄ました顔で海を見ながら言うと、ソルは俺の肩を掴んでグラグラと揺らしてきた。
「な、何してるの!? ねぇ、リルちゃんに何てもの食べさせてるの!?」
「や〜め〜ろ〜。別に不味くないんだぞ? 普通のアイスよりクリーミーで甘いんだし、原材料さえ知らなければ普通に美味しいんだ」
「でも、食べてる最中に言ったんだよね?」
「あぁ。ナチュラルに説明してあげた」
「バカーーー!!!」
ポカポカと俺を叩いたソルは、急いでリルの方へと走って行った。
俺、隠し味を教えただけなのにどうして怒られたのだろう。美味いのにな、芋虫。
そう思いながら、インベントリから芋虫を取り出して口に入れた瞬間、サーチに巨大な魔力反応が引っかかった。
「来たか」
クラーケンの巨大な足が船体に絡み付くと、その衝撃を感じたメンバーが次々と出てきた。
「ルナ!」
「もう拘束してる。フラカンでもかけて、新大陸の港に土産として持ってくか」
「はぁ!?」
俺は神鍮鉄で出来た糸を10本使い、両手を指を全て使ってクラーケンを捕まえた。
今のアイツはピクリとも動けないし、動けたとしても全ての触手を失うことになる。故に、クラーケンを捕まえたと言えるはずだ。
言える......よな? うん、言える。言えるさ。多分。
「おい! 大丈夫か!?」
「あ、船長。大丈夫ですよ。ほら、今のクラーケン、どんなにプニプニしても動けないので」
「お、おう......そうか!」
危険を感じてやって来た船長だが、流れるように頭を真っ白にして操舵室へと戻って行った。
「お前らも戻っていいぞ。1本だけつまみ食いするけど、港の人には黙っててくれよ〜」
「「「待て! / 待って!」」」
「ンだよも〜」
背中を向けて帰ろうとしていたアテナ達が、恐ろしい速さで俺の前まで走ってきた。
「俺達にも食わせてくれ」
「いいだろう? 僕達の仲じゃないか!」
「ね!」
コイツら......普通のクラーケンだったら1人で倒せる癖に......
「分かったよ。但し食中毒で死んでも知らんぞ」
「「「「「大丈夫! 船で寝たから!」」」」」
「リスポーン位置を固定しやがった......」
俺、クラーケンに恐れて船で寝るのはかなりリスキーだと思う。
だってもし、この船が破壊されて死んだ時、最初のリスポーン位置であるイニティまで飛ばされるんだぞ?
それに......いや、もういい。
「なら適当に席作って待ってろ」
「あ、じゃあ私、リルちゃん達呼んできますね!」
皆が動き始めると同時にミアがそう言ったが、俺は肩を掴んで引き止めた。
「待て、今はそっとしておいてあげてくれ」
「......え?」
「ちょっとな。オエーしてるから。オエー」
「オエー?......あ〜、分かりました」
ミアは多分、船酔いで気分を悪くしたと思ってるんだろうが、実際のところを聞いたらどう思うのだろうか。
多分、真っ白な目で見られるんだろうな......怖い。
そうして皆が席を作ってる間に、俺はクラーケンから触手を1本拝借し、神器になりかけた聖魔武具の包丁でスパスパとお造りを作った。
うん、我ながら綺麗に切れたと思う。指が。
「俺の人差し指、ホラゲー並のアッサリ感でポリゴンになったんだけど、誰も見てなさそうだし、いっか!」
言わなきゃ気付かないっしょ!
そう思っていると、後ろから2つの足音が聞こえてきた。
「お父さ〜ん。何やってるの〜?」
「りょうり? クラーケンのまえで? ごうもん?」
「メル。お前のお陰で、俺がとんでもないことをしていると気付いたぞ」
「では、なでるがよい......ん?」
メルの発言を聞いて、クラーケンから見えないように魔法を使おうとすると、メルがスっと近付いてきた。
「パパ......ゆびは?」
「海に消えたけど」
「はぁ......そのほうちょう、よくきれるからあぶないって、まえからいってたじゃん」
「人間ってのはな? 幾ら気を付けても失敗する生き物なんだ。愚かだよなぁ」
心配してため息をつくメルを他所に料理を再開すると、俺の右側からベルが背伸びをして聞いてきた。
「お父さんって〜、指を切られても〜、平気なの〜?」
「平気だな。使える行動の選択肢が減った、くらいにしか思わん」
「凄〜い。割り切ってるんだね〜」
それからは2人に監視されながら、クラーケンの足を切っていった。
何故か頑なにメルが俺の傍を離れようとしないが、きっと、優しさの部分で大きく成長したのだろう。とても暖かい。
「よし、完成。行くぞ〜メル」
「うん」
「もう治ったんだし、気にすんな」
「......ん」
潮風で靡くメルの髪を撫でながら、俺は皆にクラーケンのお造り......もとい、刺身を振舞った。
砂漠の芋虫については、番外編で登場しているので気になる方は是非。
次回『船内事件』お楽しみに!
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