結果発表ォォォォ!!
これにて12章、完。
「月斗、写真コンテストの結果が出てるぞ」
「もう出たのか。早いな」
1月も下旬に入り、高校2年の三学期生活に慣れてきたこの頃。昼休みに入って直ぐ、正樹が弁当を持って突撃してきた。
「そう言えば月斗君は何枚出したの?」
「3枚だ。どれか1つでも賞を取れていたらいいな」
「取れてたらいいなんて、珍しいね。普段より自信無い感じ?」
「流石に芸術はなぁ......俺と全く同じ経験をした人なら評価してくれると思うが、そうじゃないからなぁ」
ある1枚を覗いて、俺は背景に拘って撮影したからな。
メインである被写体を映せと言われていたなら、初手で落選することだろう。
「じゃあ、結果発表だ」
公式サイトにアクセスし、2人にも見えるように携帯をホログラフィックモードに変えた。
「ん〜?......ん!?」
上から順に掲載されている写真と賞、それから撮影者を見ていくと、2番目に俺の写真があった。
作品名は『無題』だ。
「準優秀賞か」
「凄いね! 2位だよ2位!」
「月斗は順位と付くものに載らずには居られないのか?」
失礼な。興味のあるものじゃないと、上を目指そうとは思わないぞ。
「にしてもこの写真かぁ......予想通りだな」
準優秀賞に輝いた俺の写真は、神界で川遊びをするリルとメル、天狐をメインに、後ろで紅葉の葉を集めているピギーを映した写真だ。
冬なのに秋と変わらず綺麗な紅色の山で、夏と思わせんばかりに楽しむ3人。そして、3人の後ろで目を輝かせながら落ち葉を拾うピギーの姿は、様々な季節を取り込んだ情景だ。
まぁ、この写真が1番だろうな、とは思っていた。
そんな風に回想していると、陽菜が早川の背中をとんとん、と叩いていた。
「雫ちゃん雫ちゃん。あれ見た?」
「どれどれ?」
陽菜が指をさした画面には、準優秀賞の文字と受賞した写真があった。
「Oh! わたシ!? わたシ映ってるネェェエ!?」
「何キャラだよ」
「えだってこれ......マジで私?」
「あぁ。前に神界に行った時に撮ったヤツだな」
「ほぇ〜」
まじまじと写真を見る早川をバックに、俺は陽菜が作ってくれた弁当を口に入れた。
今日はハンバーグ弁当だな。俺が子ども舌なのを突いた、好物を入れてくれた弁当だ。
「美味しい。ありがとう陽菜」
「いいえ〜、その顔が見れるなら作った甲斐があるってものだよ〜」
陽菜がニコニコ笑顔で言った瞬間、正樹と早川がこちらを見たので、俺はバッと顔を隠した。
どんな顔をしていたのだろうか。
「ふふっ、恥ずかしがり屋さんだ〜!」
「鈴原。月斗はどんな顔してたんだ?」
「うんうん、気になる」
俺も気になる。早く言ってくれ。じゃないと、これからは顔を気にしてしまって、外でご飯が食べられなくなるぞ?
......知らんけど。
「ふっふっふ。それは秘密だね。ただ1つ言えるのは、誰が見ても幸せそうな顔をしていたってことだね」
「「え〜?」」
2人がよく分からないと思っている中で、俺は密かにどんな表情なのかを理解してしまった。
多分、家で一緒に居る時の陽菜と、同じ表情なのだろう。
相手に『自分以外に見せたくない』と思わせる、そんな表情。
「はいはい、気を付けます」
「よろしい」
普段通りの表情に戻してから、俺は受賞作品を下の方へスクロールしていく。
「これは他に無さそうだな」
2ページ分ある受賞作品の内、1ページ目には無題以外の俺の写真は載っていなかった。
まぁ、1つでも載っていただけ良かった方だろう。
そう思い、2ページ目に進んだ。
「「「「あ」」」」
2ページ目はどうやら、ユアストの開発者であるキアラさん達が選んだ作品が載っているようで、その中の最優秀賞作品に、俺の撮った写真があった。
「月斗、これって......」
「これはリルちゃん? でもなんか、月見里君の装備が弱いような......」
「月斗君、すっごく懐かしいのを出したんだね」
2ページ目の1番上に大きく掲載された写真は、満天の星の下で胡座をかいて座る俺の上に、リルが座っている写真だ。
これはリルをテイムして直ぐの写真だ。
リルが俺と容姿が似ていることを確認する為に、色んな角度から撮った写真の内の1つ。
「タイトルが『原初の天狼』って......お前もしかして誰も知らないようなことを握ってるな? 吐け! 今すぐに情報を吐けぇぇ!!!」
「やだね。気になるなら自分で調べればいい。神に聞いて、付喪神に聞いて、現地人に聞いて......お疲れ様っす正樹さん」
「うぜぇぇぇぇ!! ちくしょぉぉぉぉ!!!」
頑張れ。フェンリルはフェンリルでも、原初の天狼が現れる法則は絶対にあるはずだ。だから、正樹が死ぬほど頑張れば、いつかテイム出来ると思うぞ。
まぁ? 原初の天狼をテイムしたところで? ウチの子には勝てないと思いますけど?
「審査員コメントがあるね。『これはユアストの歴史を変えた瞬間を収めた写真です。多くのプレイヤーが無理だと諦めた相手に、1人で完全勝利した証でもあります』だってさ」
「確かに、初期のフェンリルって生きて帰ることも出来ないくらい強かったんだよね」
「そう言われてるね。今でも時々、バカみたいに強い個体が現れるから、『初期のフェンリルを出してんのかー?』って話題になるね」
初期のフェンリル......強い......もしかして?
「早川。その強いフェンリルが出現したのって、ランダムか?」
「ランダムだと思うよ? 流石に報告された時期までは見てないし、固定ってことは無いでしょ」
「いや、もしかしたらあるかもしれん。正樹、その強いフェンリルをテイム出来たら、原初の天狼の意味が分かるかもしれんぞ」
「おうマジか!? ッシ、帰ったら研究するわ。フェンリル博士になるわ」
「がんばえ〜」
「がんばえ〜、田中君」
「私も知りたいし、混ざろうかな」
「協力者は大歓迎だ! 早川、一緒に月斗の謎を解くぞ!」
「おー!!!」
「いや俺の謎じゃねぇだろ」
そんな俺のツッコミも虚しく、2人はパクパクと弁当を食べ始めた。
もし、この2人が原初の天狼をテイムしたら......早川は兎も角、正樹は驚異になるな。
色々と備えておかないと、いざと言う時に困ってしまう。
「これで2枚だよね。あと1枚載ってたら、完全勝利?」
「だな。けど3枚目は自信が無いぞ。趣味全開というか、本来ありえない様な写真だからな」
俺はフラグを建ててからページをスクロールすると、タイトル『龍大戦』の文字が目に入った。
「あった......普通に受賞してる......」
「3つ出して3つ受賞って、とんでもないね。月斗君」
「シンプルにカッコイイな、これ」
「すっごく『男の子』って感じで、私も好きだね」
2人から評価された写真は、俺が氷と炎の魔法で派手な演出を加えまくった場所に、ラースドラゴンとブリザードドラゴンを向かい合わせ、ブレスを放っている瞬間を収めた写真だ。
俺だって男の子だもん。ドラゴンがブレスを撃ち合っている瞬間なんて、大興奮するに決まってんじゃん。
「という訳で、出した写真は全部受賞したな。ラッキーだった」
「ラッキーで済ませられる範囲を越えてると思うけどね」
「いいのいいの。俺的にはもっと良い写真を持ってるし、これだけ良い成績を残せたんだからさ」
「「「良い写真?」」」
「あぁ。ソルとリルとメルが仲良く寝てる写真とか、ソルの尻尾を齧ってるメルの寝顔とかな」
頭に俺のお気に入りの写真達を浮かべていると、陽菜がプルプルと震え始めた。
「......月斗君?」
「なんだ?」
「今すぐ消そっか!」
「ふっ、俺が多重保存してないと思うな? あれは家宝にするんだ。月見里家に代々継いでもらうものなんだ!」
「そんな家宝要らないよ! 私が消し去ってくれる!」
「残念だがそう簡単には消せないぞ。VRヘッドセット及びにPCとスマホ、それに実家の方のノートパソコンにも入っているからな。なんなら太一さん達に送ってやろうか?」
「ひどい......結婚したら全部消してやるぅ......」
「それまでに写真が増えてないといいな」
「うぅ......」
写真は財産だ。もう二度と同じ写真は撮れないのだから、色んな媒体に保存しないと、もしもの時に全部消えてしまう。
俺はそんな、大切な思い出を消したくない。
「ドSな彼氏を作ったね、陽菜ちゃん」
「月斗君がSなんて、知らなかったよ......」
ごめんな陽菜。別に陽菜をいじめようとして保存した訳じゃないんだ。ただ、俺が眺めて満足する思い出の為なんだ。
いつか2人で結婚して、どこかに引越したら、あの写真達も飾りたいな。
「そう言えば最近はイベントが無いな。正樹は何か知ってたりするか?」
「いんや? 知らない。運営が節分とかのイベントを出すなら、もう既に告知は来ているはずだからな......分からん」
「そうか」
次のイベントはなんだろうか。楽しみだな。
そうして、今日も平和な1日を終えた。
「オイ! ユニーク称号について触れてないやん!」
って思った方、安心して下さい。はいt.....次章でやりますよ!
次回は掲示板回をして、記念すべき400話から、13章に入りたいと思います。
これからもどうぞ、ユアストをよろしくお願い致します。