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猛省の銀髪さん

美容師に褒められる事が生きがいになりました。




「......負けちゃった。俺、やっぱダメだな〜」



スパーダさんとの模擬戦の後、周囲のプレイヤーから拍手を送られながら訓練場を出て、コキュートス君達と遊んだ帰り道。


2人はイニティでログアウトしたので、俺は1人寂しくアルトム森林の月の映る池まで歩いて来た。


そして夜の池の(ほとり)に座って、俺は反省会をしていた。




「あれ、どうやったら勝てたんだろう。純粋な戦闘系スキルだけで戦った時の俺って、実は物凄く弱いんじゃないか?」




「そんな事ありませんよ。ルナさんは強いです」


「フー、(まやか)しの言葉は要らないぞ。俺が本当に強いなら、スパーダさんに勝てたはずだからな」


「......はぁ。変なところで真剣なんですから、私のご主人様は」


「ご主人様言うな」



俺の後ろで座っているフーと慣れた会話をしつつも、俺は昼間の戦いを何回も何回も頭でリピートさせた。


あの試合の最後、スパーダさんは『(かみなり)』と『神雷』の間に生じる、0.08秒程度の隙を突いて俺を倒した。


そんな事が出来る人間相手に、俺はどの手札を切れば良かったのだろうか。



「魔刀術発動後にステラに持ち替えたとして、俺が剣を握り直している間に斬られそうだし......逆にステラを主体に戦ったとすれば、今度は手数が足りなくなる......」



どれだ? どれがあの試合の俺を勝利に導ける?


ずっとグルグルと回る思考を繰り返していると、フーがポツリと呟いた。



「ルナさん。ルナさんは『攻撃は最大の防御』というスタンスで戦っているじゃないですか」


「ん? まぁそうだな。怯ませれば大きな隙が生ま......れ......あっ」


「そうです。ルナさんは攻撃しすぎなんですよ。ここいらで1度、盾術について勉強しませんか?」



盲点だった。俺は剣や弓による攻撃しか出来ないと勝手にイメージを固め、自ら切れる手札を制限してしまっていた。


そうだ。そうじゃないか。俺が知らない強さ、例えばガーディ君の鉄壁の強さをもし俺が使えたら......あの試合は、勝てたかもしれない。


タラレバの話だというのは分かっている。だが、お陰で視野を広げられるのなら俺は喜んでタラレバを使うぞ。



「盾......盾か。武術大会もあるし、死ぬ気で練習するのも良いな」


「こら! それはメイドの私が許しません!」


「痛い。グリグリやめて」



パリィのタイミング調整を練習している自分を想像していると、後ろからフーに頭をグリグリと押されてしまった。


普通、メイドってご主人様に手を出すものか?



「もう。練習メニューは私に教えてください。ルナさんの体力を鑑みて、ベストな休憩を挟めるように調整しますので」


「はいはい。ってかお前ってそんな事が出来たのか」


「頑張って勉強しました。どうやったらルナさんの力になれるかを考え、必死に勉強したんですよ?」


「......礼は言わんぞ」


「いいですよ。どうせ忘れた頃に言ってくれるので」



オイオイ、何か俺の未来を予測されてねぇか?

それに忘れた頃に感謝するって、俺にはそんな前例が............あるかもしれん。


前にチェリに血液をあげる時に代わってもらったの、2週間くらいしてからお礼を言った気がする。



ったく、仕方ない。今はフーの描く未来の俺に合わせてあげるとしよう。




◇◇




「ただいま」


「おかえりなさいです!」


「おか」



魔境の島の家に帰ると、リルとメルがお出迎えしてくれた。

俺は2人を抱きしめてからリビングに入ったが、やはりソルの姿が見えない。


フレンド機能で確認しても、まだオフラインのままだった。



「フー、皆のご飯を頼む。俺は寝る」


「ルナさんは食べないのですか?」


「あぁ。ちょっとソルが心配でな。待ってても不安だし、連絡取ってくる」


「そういう事ですか。では行ってらっしゃいませ」


「うぃ」




◇ ◆ ◇




「......居ない、よな」



ログアウトした俺は、玄関に靴があるかを確認したが、まだ陽菜は帰っていなかった。

そろそろ、夕方と言うより夜の時間になる。

携帯にもメッセージが送られた履歴も無いし、少し......いや、かなり心配になってきた。



「電話かけるか」



居ても立っても居られない俺は、陽菜に電話をかけた。



『もしもし〜?』


「もしもし? 帰りが遅くて心配なんだが、大丈夫か?」


『大丈夫だよ。もう帰り道だし、直ぐに着くから』


「そうか。なら良かった。気を付けてな」


『うん!』



電話を切った俺は安心してホッと息を吐き、壁に凭れ掛かった。


俺、初めて帰りが遅い人を待つ人の気持ちが分かった。

こんなにも寂しい思いで誰を待つなんて、本当に耐えられない。



「はぁ......良かった」



俺は体勢を直してリビングに向かおうとすると、ガチャっと音を立てて玄関のドアが開いた。



「お〜う、ビックリしたぁ。玄関で待ってたんだね!」



右手に紙袋を持った陽菜が、目を大きくしながら帰ってきた。



「......おかえり」



荷物を受け取った俺は、陽菜を強く抱きしめた。


これだけ寂しい思いをしたんだ、少しくらいわがままさせてくれ。



「ただいま。遅くなっちゃってごめんね?」


「陽菜が無事なら何でもいい」


「......寂しかった?」


「全然。これぐらい余裕で耐えられる」


「ふふっ......そっか。次からはもっと早めに連絡するね」


「......賢明な判断だ」



陽菜は俺の真意に気付くまい。何考えてるか悟らせないように表情は変えてないし、イントネーションもいつも通りだ。

これでバレているのなら、陽菜には月斗マスターの称号をあげよう。



俺は荷物を陽菜の部屋へ運ぶと、コートをハンガーに掛けながら陽菜が聞いてきた。



「うさぎさん、ご飯は作ったの?」


「うさ......え? まぁ、作ったけど。それより兎とはどいうことだ?」


「ん〜? うさぎさんは寂しかったら死んじゃうって言うでしょ?」


「......それは嘘だぞ。兎は習性として、外的に殺されないように弱った姿を見せず、平然を装う。だから、飼い主が離れた時に力尽きるんだ」


「へ〜。でも、月斗君も一緒だよね? さっきは『全然』とか言ってたけど、本当はすっごく寂しかったんでしょ?」



こ、コイツ......気付いていたのか!? 


ふっ、俺も甘いな。小学生の時からずっと続けていたポーカーフェイス、並びにお口ポカーンフェイスが、こうも簡単に見破られるとは。



「それに、抱きしめるときの強さからして、バレバレなんだよね」


「え」



あ、お口ポカーンしちゃった。バレバレでした。てへ。



「も〜、私の旦那さんになろうとする人がこんなにも寂しがり屋だったなんて......私、心配だわっ!」


「待て、待て待て待て。俺は断じて寂しがり屋ではない。大体、去年まで1人で生きていたんだぞ?......1年は」


「まぁそうだよね。でもさ、最近の月斗君って、何をするにしても1人じゃなかったよね? 料理の時も、掃除の時も、お風呂は......最近はちゃんと別れてるけど、でも前まで2人だったよね?」


「いやいや、それだけで決め付けられたら俺、泣いちゃうなぁ」


「ゲーム内でもそうやって反論出来ますかな? お主、ゲーム内で行動する時、誰か女を連れてるじゃろ?」


「言い方が酷いな。でも俺、そんなに誰かと......誰かと......」



居るわ。殆どの時間、複数人で行動してるわ。

買い物はソルやリルと一緒に行くし、街で何かするにしても、フーやシリカ、イブキを傍に置いてるし......


俺、陽菜に反論出来ないんやが? 詰んだんやが?



「えー、月見里月斗、参りました。陽菜様に完全敗北でございます」


「ふっ、では約束通り、勝者の言うことを何でも聞いてもらおうか」


「あれ? 俺そんな事言ったっけ」


「私がルールだ」


「お前がルールだったのか」


「そうだ。そうなのだ」



や、やってしまったぁぁ!! ついいつものノリで、陽菜の作った流れに乗ってしまったぁ!!!


これはマズイぞ月見里月斗。貴様のやらかしは万死に値する。ここで陽菜に主導権を握られてみろ? それはもう、悪魔も逃げ出す──




「一緒にお風呂に入りましょう。私の背中を流す権利を、敗者である月斗君に授けます」




「喜んで。お風呂の準備は既に出来ていますので、先にお入りください」


「うむ。苦しゅうない。頼んだぞい」



仕方ない、背中を流すくらいならやってあげようではないか。なるべく鏡を見ないようにして、出来る限り目を瞑らないとな。


よし、頑張ろう。



「あ、ついでに前もお願いします」


「......は?」


「敗者よ、勝者の言うことを聞くのです」


「.....はぁ、しばらくは洗わないからな」


「うん! それに久しぶりの一緒にお風呂に入るんだもん、ラインギリギリを攻めたくなるってものでしょ?」


「このギャンブラーめ」


「私、負けたことないんだよね」


「知ってる」




そうして、俺は心臓が3回ほど破裂しそうになりながらも、何とか陽菜の命令を遂行することが出来た。


ホント、陽菜は美人なんだからあんまり肌を見せないでほしい。

綺麗すぎて触りたくないというか、意識が全部吸い込まれるというか、ちょっと自分を見失いかけるんだ。


だから一緒にお風呂に入ると、心臓がパンッ! って爆発しかける。『心臓に悪い』とは、こういう事を言うのだろう。




「......一休みするか」




俺は陽菜と温め直した親子丼を食べた後、1人で風呂に入って呟いた。


俺は元日から頑張りすぎたと思うんだ。そろそろ休みの期間に入ってもいいと思わないか?



「ダメだな。盾の練習しねぇと」



そう、俺は今日、スパーダさんに負けたんだ。

休憩に入る入らない以前に、負けっぱなしを許す俺の心は無い。




「ふぃ〜......頑張ろ」

ヒロインが強いラブコメ。


ん? ラブコメ?


ユアストは普通を目指したVRゲームの小説です。

そう、ラブはあってもコメディは無かった.....はずなんや!


神<いいえゆずあめ。あなたは我を行くのです。さぁ、あなたの想いを前回に!!!!!


.....ふっ、いいぜ神様。やってやらぁぁぁ!!



次回『結果発表ォォォォ!!』お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
[一言] ソルちょっとしつこくなってきた
[良い点] いつも楽しく読ませてもらってます。これからも頑張ってください。 例えラブストーリーで考えたとしてもこんなグラブジャムンより甘い糖まみれの小説は絶対普通じゃない。 だがそれが良い [気になる…
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