英雄vs銀髪さん
「こんにちは! コキュートス先輩の彼女で、『アイス』って言います!」
「あ、どうも。ルナです。コキュートス君、彼女居たんだね」
「......初めてちゃんと彼女って言ってくれた......!」
イニティでコキュートス君の友達と落ち合ったら、なんとコキュートス君の彼女さんだった。
髪色も水色で、ひと目で2人の関係が近しいことが分かる。
「お似合いですね。関係は長いんですか?」
「いえ、まだ付き合って1年ですね」
「長いじゃないですか。俺とソルはまだ半年くらいですよ?」
「「え? そうなんですか?」」
「はい。まぁ、出会いは5歳からなので、実質10年以上の付き合いですけど」
まだあの時はソルの事が好きじゃない......というか、好きだと気付いていなかったからな。
今はもう、自覚してるから人生に色が着いている。
逆に、色が濃すぎる気もするが......まぁいい。
「さて、アイスさんは冒険者登録諸々はまだなんでしたっけ」
「そうですね! じゃあギルドから行きましょ〜!」
そうしてアイスさんを先頭に、俺達はイニティのギルドへとやって来た。
もう何度も見てきたデータ入力を終え、アイスさんが冒険者カードを受け取る時、意外な人物から声を掛けられた。
「よぉルナ。久しぶりだな。元気にしてたか?」
野太い声の筋骨隆々のシルエット......この人は!
「お久しぶりです、スパーダさん。今は元気とは言えませんが、昨日まではピンピンしてました」
差し伸べられた手を取り、固く握手をした。
「お前が元気無ぇって、何事だ? ソルにでもフラれたか?」
「違いますよ。ちょっと帰りが遅いだけです。心配というか、不安なんです」
俺の心は脆すぎるからな。ちょっとソルエネルギーが足りないだけで、直ぐにエネルギー不足になりやがる。
全く、何世代前のバッテリーを積んでいるのだろうか。
非常に謎である。
「そうか。それはそうとコキュートス、お前の活躍も最近は有名だぞ。特にドラゴン討伐の依頼、15件も片付けてくれて助かったぞ」
「ありがとうございます。仲間に頼っていた節もあるので、自分1人の頑張りじゃないですよ」
「相変わらず謙虚だなぁ。それで、そっちの嬢ちゃんは今登録したばかりか」
「はい! これから頑張ります!」
「おう、頑張れ! それとルナ、ちょっと来い」
「ん? 説教ですか?」
「んな訳無ぇだろ。寧ろお前に説教出来る奴って、アルカナぐらいじゃねぇか?......ンなことより、模擬戦だけ模擬戦。お前の腕を見せろ」
「は〜い」
懐かしいな。俺が最初に取得した『剣術』スキルの時も、こうしてスパーダさんに訓練場で教えてもらったんだよな。
「アイス。これは物凄いものが見れるぞ」
「だ、だよね! 現状トップのプレイヤーの戦いが、生で見れるんだよね!」
「そうだ。是が非でも目に焼き付け、今後に活かすんだ。あ、ルナさん。録画してもいいですか?」
「お好きにどうぞ」
「ありがとうございます!」
生き生きと録画の準備を始めるコキュートス君達を連れて、俺達はギルドの裏にある訓練場へ出た。
何故か俺の姿を見て続々とギャラリーが増えてしまったが、妨害されないのなら問題ない。
戦いに没頭すれば、何も気にならないさらな。
そうして俺とスパーダさんが向か合っていると、後ろから大きな声が聞こえてきた。
「ふっふっふ! ルナさん、スパーダさんとの戦いなのに私が居ないとお思いですか!?」
「そ、その声は!」
「そう! 私こそは! ルナさんの友人にして、弱き頃のルナさんを知る者。そして何よりも〜!!」
「ルナさんにギルドカードを渡しそびれた者です!!」
知ってた。
「久しぶり......ではありませんね、レイナさん」
「はい! 今回は審判を、私がやりますよ!」
「それは是非ともお願いしたいです」
そう言えばレイナさんも透き通るような水色の髪だが、水色の髪と言えば、アイツが出てくるよな。
『私ですか?』
「そうだな。それと心を読むな」
『えへっ!』
そう、フーだ。この2人、髪色が共通している上に、少々のポンコツ属性を備えている。
どちらも理知的な容姿なのに、かなりアクティブに動くし、共通点は多い。
「水色の髪がポンコツを表すならば、アイスさんは......」
いや、よそう。2人とはそれなりに親しいからポンコツと言えるのであって、まだそれ程仲良くないアイスさんを巻き込むのは可哀想だ。
「さぁ、始めましょうか。ルールはどちらかの生命利用が1になるまで。では、両者構えてください!」
その言葉で俺はスっと意識を変え、いつもの3本の刀を提げ、右手にステラ、左手には神鍮鉄の糸を装備した。
「スパーダさん、全力でいいんですか?」
「あぁ。だが魔法はナシだ。魔剣術なんかは好きに使ってくれ」
「分かりました」
スパーダさんが藍色に輝く片手剣を構えると同時に、俺も布都御魂剣の鯉口を切った。
......空気がピリつく。今までの模擬戦とは何かが違うな。
何だろうか、この感覚は。これまでのスパーダさんとはオーラが違う。明らかな『強者』のオーラだ。
俺が初めてフェンリルと戦った時に近い、果てしなく高い壁に迫られている感覚......あぁ、凄く気分が良い。
周囲の息を飲む音すら聞こえそうな静寂の中、試合開始の合図を待つのがもどかしくなってきた。
さぁ、早く。早くこの人と戦わせてくれ。
「始め!」
「『藍の波』」
「『斬』」
スパーダさんの剣から飛んできた深い青色の魔力刃を、俺は布都御魂剣の『斬』で相殺した。
......ん? 相殺?
「良いですね、それ」
「俺も本気だからな。お前が神器を使う以上、俺も同等の武器の方がいいだろ?」
「確かに」
やはりな。あの剣も神器だ。先程の『斬』と同程度のパワーというのを見る限り、あちらの効果はこちらの効果を飛ばせるもの、と考えるのが妥当だろう。
魔力刃の様に飛ばせる『斬』とか、それどんなチート能力だよ。
「にしても愛剣は手に馴染むなぁ。まだ1振りしかしてないが、調子が出てきたぞ」
「怖いですね」
「フッ、お前も分かるようになるさ」
再度構え直したスパーダさんが、瞬間移動とも言える速度で近付き、俺の足を斬るように剣を振り上げた。
「あぶッ!」
「はっ、まだまだここからだぞ?」
咄嗟に足を引き、体勢が崩れた隙を突いてスパーダさんは連撃を加えてきた。
俺は防戦一方になりかけたが、真に致命傷を与えてくる攻撃が当たりそうな瞬間に【霊剣】を出すと、スパーダさんは1度バックステップで引いてくれた。
そう、引いてくれたんだ。
「剣の複製......いや、レプリカか。だが潜在的には複製品の方が......」
「ははっ!」
左手に持った霊剣に注目するスパーダさんに、俺はお返しと言わんばかりに連続で斬撃を放つ。
ガン! ガガガン!
スパーダさんは、俺の二刀流による手数重視の攻撃も全て捌き、また攻撃のターンがスパーダさんに移ろうとした瞬間に、俺は『魔糸術』を発動させた。
バチバチバチバチ!!!!
「ぐっ! 流石だルナ」
「スパーダさんこそ、よく生きてますね」
「この程度で死ぬ程、俺はヤワじゃねぇよ」
雷属性の魔糸術を喰らい、スパーダさんの右足と左腕が麻痺状態となった。
そんな圧倒的に有利な状況に持ち込んだ俺だが、何度攻撃してもスパーダさんに当たることは無かった。
この人、俺の暴力的なまでのステータスから繰り出される剣先を『見て』から避けている。
基本的な斬撃は避け、フェイントを入れた2連撃にのみ、剣で弾いている。
あ〜、楽しい。悪魔との戦いなんかより余っ程楽しい。
やはり人と戦うのって、俺には一種の快楽とさえ思える。
相手の思考を読み、自分の戦略を踏んだ上で行動に移し、アクションが起きる度に全ての工程を洗っていく......
この一瞬の間に何回も繰り返される思考のバトルが、俺は大好きなんだ。
「ふふっ」
「楽しそうだな、お前」
「えぇ、とても楽しいです。ここまで苦戦する試合なんて、正直に言って記憶に無いですからね」
俺がスパーダさんにそう返すと、後ろの方で見守っているコキュートス君達が驚愕していた。
まぁ、無理もないわな。俺がユアストで真剣に戦ったことって片手で数えられるくらいしかないし、その時と普段の違いが分からないと、俺が苦戦してるかも分からないもんな。
「ルナ、剣は楽しいか?」
「何を当たり前のことを。剣は楽しいに決まってるじゃないですか」
「だよな!」
「はい!」
そうして、5分にも及ぶ剣戟の末、遂に決着が着く。
「はぁ、はぁ......これでラストだな」
「そうですね......久しぶりに全力でやりあえて、楽しかったです」
「そいつぁ......良かった」
お互いにボロボロの状態で立ち上がった。
スパーダさんは剣を支えにして、俺は糸を使って無理やり体を起こしている。もう、そのレベルまでボロボロなのだ。
さぁ、決着を着けよう、師匠。
「ふぅ......『藍の輝き』」
「『霹』『神雷』」
1本の剣と2本の刀が交わい、周囲に爆発的な風圧を発生させた。
この試合の勝者は──
「勝者、スパーダさん!」
俺のHPは1で止まり、スパーダさんのHPは5パーセント程の残っていた。
次回『猛省の銀髪さん』お楽しみに!