恋の病
少し短めです。
「よし、気を付けて帰れよ〜。寄り道はしても、遅くなりすぎんようにな〜」
冬休みが明け、約2週間ぶりの授業を終えて、ようやく俺達学生は放課後という至福の時間を迎えた。
「陽菜、帰ろ」
「ごめん、今日は雫ちゃん達と遊んでいいかな?」
「早川と......?」
帰る用意をしながら早川の方を見ると、手を振って笑ってきた。
「あはは! 陽菜ちゃん借りてくね〜?」
「返せよ?」
「分かってるって。遅くならないから」
「ならいいけど」
そうして直ぐに支度を終え、俺は最後に気になる事を陽菜に聞いた。
「陽菜、晩ご飯どうする?」
「う〜ん......多分作れると思うけど......もしかしたら作れないかも」
「遅くならないとは何だったのか......まぁいい。楽しんでな」
「うん!」
俺は久しぶりの1人での下校に寂しく思いつつ、帰りに夕飯の材料を買って帰った。
陽菜が食べられるように、レンジでチンできる料理にしよう。それでもって、簡単な料理を。
◇◇
「よし、出来た」
俺は帰って直ぐに晩ご飯を作り始め、1時間程度で親子丼を完成させた。
「ふぅ。陽菜、持って行って......ってそうだった」
陽菜は遊びに行ったんだった。だから俺がご飯を作っていたのに、すっかり忘れていた。
......何だろう、この虚無感は。どうして俺は1人で居るんだろう。どうして親子丼を作ったんだろう。
全部、分からなくなってきた。
「......後で食べよ」
2人分の親子丼にラップをかけ、一瞬にして顔から感情が抜け落ちた俺はゾンビのような足取りで部屋に向かった。
◇ ◆ ◇
「はぁ......」
「父様? おはようございます。どうされたのですか?」
「おはよ。パパ、げんきない?」
「ちょっとな。俺の心が弱すぎるだけだ。2人は気にしなくていい」
一緒に起きたリルとメルの頭を撫で、布都御魂剣とクトネシリカを装備して城へ向かった。
途中、城の庭で躓いてしまったのだが、注意力が散漫になっている事がよく分かった。
「......ようアテナ」
「おう、ルナ。元気無ぇな。どうした?」
「何でもない。それよりミアの様子はどうだ? 人間不信になってたり、男嫌いになってたりしてないか?」
「あぁ、アイツなら大丈夫だぞ。普通に遊んでる」
「そうか......なら良かった」
アテナと話し終えた俺は、日課の1つである武器生産をしに鍛治小屋に来た。
途中でリルが翔達と遊びに行き、俺の隣にはメル1人だけが残った。
「はぁ......」
「パパ。ためいきおおい」
「ごめんな......なんか、生きる気力が湧いてこないんだ」
欲を出したせいだろうか。失った時のダメージがデカい。
いや、まだソルは失ってない。何勝手に自分で失ってんだよ。バカか?
......でも、寂しい。
「俺も一緒に行きたかったなぁ......」
もし、あの場で『俺も行きたい』と言えばどうなっていたのだろうか。そんな事を考えながら作業をしていた。
すると──
「パパ! あぶない!」
「え?......あ〜あ」
溶けた神鍮鉄を素手で触ってしまい、俺の左手がポリゴンとなって散ってしまった。
俺は特に何も思わず、左手にリザレクションを掛けて治した。
「パパ、もうやめよ? きょうはねようよ」
「流石に寝るのはなぁ。だが鍛冶は辞めとくか。少しドラゴン達と遊ぼう」
「うん......メルもいく」
鍛治を中断した俺の左手をメルがしっかりと握り、2人で魔境の島に帰ってきた。
「ラース君、やろうか」
『はいッス! 早速やりしょう!!』
いつもの果樹園の奥にある開けた場所で、ラース君と遊びと言う名の戦闘訓練を開始した。
まず、ラース君が黒炎のブレスを吐いたのを見て、俺は直撃する寸前にグレイシアを使い、相殺した。
そして続く尻尾の薙ぎ払いを伏せてやり過ごし、ラース君が硬直した瞬間に俺は駆け出した。
「はい、王手......あガッ!」
『ま、マスター?』
刀を抜こうとした瞬間、ダッシュの勢いを抜刀に乗せることが出来ず、思いっきり顔面からズッコケた。
「痛てぇ......はぁ......俺の負けだな」
『いや、これは仕切り直しの方がいいんじゃ』
「いい。どうせこのままやっても勝てないからな。だから負けを認めた方が早い」
『そ、そうっスか......』
「パパ......」
焦点の合わない目でラース君を見て、軽く尻尾を撫でてからメルと手を繋いで家に帰った。
「パパ、さすがにおかしい」
「分かってる。今の俺、精神状態ボロボロだもん。1人で帰って1人で凹んで、1人で後悔して1人で居るんだもん」
「......ママは?」
「......さぁな」
「かえってこないの?」
「それはない。ただ、少しだけ帰りが遅いだけだ」
1時間しか待ってないのに遅いと言うのは如何なものか。
その程度も待てずに寂しさに押し潰されるなんて、俺はなんて弱い人間なのだろう。
ダメだ。今は何もできん。何かしようとするのを辞めよう。
「寝る」
「ん。メルも」
まだ太陽が上がったばかりの時間だが、俺はベッドで惰眠を貪った。
途中で起きても寂しさのショックで再度寝て、また起きても寝て......と、睡眠を繰り返した。
そして十何時間寝た頃だろうか。また寝ようと思いって目を閉じると、いつもとは違う眠り方をした。
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『罪の宴・怠惰の終奏』に入りました。
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目を開けると、俺はフカフカのベッドの上で倒れていた。
ルナ君、本当に精神がボロボロですね。
寂しがり屋の心が芽生えたせいで、1人で居ることが耐えられなくなっています.....。
次回『死んだ心と怠惰の悪魔』お楽しみに。