可愛い彼女
溺愛のルナ
「ただいま〜」
「おかえり〜、ダンジョンクリアした〜?」
「した〜。ソル〜、疲れたから癒し......あ゛っ」
城のテレポートを通じて家に帰り、リビングに入りながらソルの方を見ると、なんとマサキ達が遊びに来ていた。
「お邪魔してるぞ〜ルナ!」
「「「お邪魔してま〜す」」」
平然としたマサキと、ヤベぇモン見ちゃった顔をしたガーディ君達が挨拶するが、俺は軽く会釈して答えた。
「ふむ......今見た事は忘れたまえ。外部に漏らそうものならリスキルフェスティバルが始まると思いなさい」
「こ〜ら! そんな事言わないの」
「だってマサキ達が見たんだもん」
そう言った俺に、耳をピコピコと動かしながら抱きついて来たソルが、潤んだ瞳の上目遣いで囁いた。
「別に家なんだからいいでしょ? 4人とも、そんなの承知の上で来てるよ。きっと」
「......きっと、か」
「信用できない?」
「いいや。信じるよ」
ぎゅ〜っと抱きしめてあげると、ソルの尻尾が千切れ飛びそう勢いで振り始めた。
獣人って尻尾がちゃんと動くから、本当に可愛い。
たまに女子を動物に例える事があるが、ソルって狐より犬が近いよな。気が付いたら横にいるし、一緒に歩いてくれるし。
あ〜、本当に可愛い。大好きだ。
「......ハッ!」
「あ、俺達は気にしなくていいぞ? ただ単純に遊びに来ただけだし、邪魔なら帰る」
「いや、いい。いいけど......忘れろ」
「はいはい。ルナって意外と乙女というか、オープンじゃないというか......」
「う、うっさい!」
俺はソルを抱きしめつつ、じっとこちらを見ていたマサキに威嚇した。
大体、あれもこれもそれも、全部ソルが可愛いからいけないんだ。俺は心を奪って弄んで......その上愛してくれる。
俺の全部を奪ったソルが悪い。絶対に許さない。幸せにならないと許さないからな。
「よしよし、ソル、もういいか?」
「え〜? まだ〜!」
「ダメだ。恥ずかしい」
「んも〜、そっちが聞いてきたのに〜。仕方ない、今夜はたっぷり抱いてもらうもん」
「おい、誤解スプリンクラーやめろ」
大きな声で危ない発言を撒き散らすな。リル達が居ないからって、誤解タンクの鍵を開けるんじゃない。
「じゃあ、俺はちょっと寝るかな。あ、そうそう。ミアがナンパされてたから、心のケアをしてあげてくれないか? 俺も出来る限り頑張ってはみたが、真意は分からん」
「ナンパかぁ......ルナ君が助けたの?」
「あぁ。リル達にバッタリ会ってな。報告を受けて助けたんだ」
ソルの頭をぽんぽんと撫でてから寝室へ行こうとすると、ソルに腕を掴まれてしまった。
「私......ルナ君にナンパから助けられたこと無い」
「そりゃあお前、ナンパされたらどうなるか、皆分かってるからだろ」
「いやいや、私達のことを知らない人からされるかもしれないじゃん?」
「はぁ......」
俺は首を振って、ソルの左手を優しく包んだ。
大体さぁ、ソルに手を出そうものなら光の速度で駆けつけ、俺がソイツをぶん殴るんだからナンパする奴が居る訳ないだろ?
それに......
「この指輪が何を示しているのか、分からない人は居ないだろ?」
ソルの左手を撫で、左手の薬指に嵌められている『ヘラの指輪』を触った。
この指輪は決意の証だ。俺がソルに対する、全ての感情を結晶化させ、未来を思って磨き上げた物。
ソルがこの指輪を嵌めている限り、そこには俺が居るも同然だ。
「......ごめん。ミアちゃんに嫉妬しちゃった」
「ははっ、可愛いな。ソルに何かあれば、俺は直ぐに助けに行くから安心してくれ。だから今は、少しだけミアに時間を割いてやってくれないか?」
「うん。ありがと」
リル達も傍に居るし、多分大丈夫だと思うが......念には念を、だ。
俺はソルの頬にキスをしてから、寝室のベッドに寝転がり、ログアウトした。
◇ ◆ ◇
「う〜ん......やっぱり人間不信になる可能性もあるんだな」
リビングにてナンパされた女性について調べていると、何とも思わない人も居れば、トラウマ級に心にダメージを受ける人も居た。
「まぁ、女の子のことは女の子に任せるしかない。俺は出来ることをやらないと」
俺は紅茶を淹れる為にお湯を沸かし、その間に明日の学校の準備をしておいた。
「ついでに陽菜のもやっておくか」
陽菜の部屋から教科書と鞄を持ってきて、制服もハンガーに掛けたタイミングでお湯が沸いた。
そうして大好きなアールグレイのミルクティーを作り、テーブルのいつものポジションに座ってから頂いた。
「久しぶりの夜の紅茶だ。やっぱコレをキメなきゃ1日が締まらん」
明日から本格的に学校が再開するからな。ちゃんと冬休みの気持ちを切り替えなきゃならん。
「ふぅ......美味しい。コレはゲームじゃ味わえん美味しさだ」
ユアスト内でも紅茶の為に色々と頑張ったが、ダージリンの偽物を作るのが精一杯だった。
だから今は、現実の紅茶に似せる事を辞め、ゲームのオリジナルの味を楽しんでいる。
ゲームに出来ることと出来ないことを、ちゃんと見極めている。
「俺、陽菜に誇れるのって紅茶を上手く淹れることくらいか? 何か、他に優れていることってあるかな」
家事にしても、勉強にしても、どれも陽菜と同等以下だ。俺が陽菜に胸を張って『優れてる』と言えるのは何だろうか。
「戦闘か? いやいや、道場でもねぇのに誇れねぇわ」
対人戦だけなら優れていると言えるな。だが、役に立たん。これで陽菜を守れるかもしれんが、この技術は陽菜も持っているからな。
「うむ。これは考えれば考える程、自分を卑下するようになるヤツだ。ここいらで辞めよう」
俺は紅茶を半分ほど飲み、思考を切り替えた。
「逆に陽菜の優れている所を考えるか」
まず、なんと言っても可愛いところだろう。
トコトコと近付いて来た陽菜の頭を撫でたあの瞬間に見せる笑顔なんか、この世の幸せを詰め込んだ様な雰囲気を感じる。
「それに賢い。無駄を無意味と思わず、小さなことを積み上げるあの姿勢は本当に凄い」
陽菜は努力の天才だ。俺みたいに大きな事柄をいっぺんに取り込むのではなく、小さな小石を積み上げて城を作るみたいな、そんな努力の仕方なんだ。
「ニコラ・テスラとトーマス・エジソンみたいだな」
天性の天才と努力の天才。あの2人って、生まれる時代が違えば新たな世界を作っていたと思うんだ。
「そういや色んな資格を持ってたっけ。1年生の時に、取れそうなやつは大体取ったって、前に言ってたな」
漢字能力や日本語能力、他にも英語や電卓も持ってたっけ。
「陽菜、有能すぎるだろ。逆に何が足りないのか分からんぞ」
陽菜に足りないもの......なんだろうか。
「注意力......は、あるしなぁ。自制心......も、最近は緩いが、人よりはあるだろう」
何が足りないのだろうか。
「それは月斗君からの愛だね」
「おほい!! ビックリした」
急に後ろから抱きつきながら、陽菜が耳元で囁いた。
「いや〜、愛が足りないっすよ。もうね、死ぬ程愛して欲しい。私、愛に飢えています!」
「そんなに俺の事が好きなのか?」
「もちろん。世界で誰よりも月斗君の事が好きで、愛してるから」
あ〜可愛い。どうしてこんなに可愛いんだよ陽菜は。可愛すぎて可愛すぎて、抱きつかれたら俺のIQが2くらいまで下がるぞ。
もう、何も考えずに甘えたくなる。
「愛、か......どうやったらもっとあげられるのかな」
「およよ? 哲学モード入っちゃった?」
「まだ入ってない。ただ、今みたいな時間を、どうやったらいつまでも味わえるのかなって......」
抱きつく陽菜の首に頭を傾け、目を閉じた。
「どんな事にも、『いつまでも』なんて無いよ。時間は常に動き続けるんだもん。だからこうして、1分1秒を大切にしてるんでしょ?」
「まぁな......人間が変化を嫌うのって、時間が流れ続けるからなのかな」
「それもあるかもね。でも私は変化を嫌わないよ。生きている以上、いつか来る『終わり』の為に、今を変え続けなきゃいけないから」
難しい話だ。だが陽菜との話なら、理解してあげようと思えるし、俺も自分の話をしたくなる。
「俺は変化を嫌う。ずっとこうして陽菜と一緒に居たいし、いつか来る『終わり』なんて、考えたくない。子どもっぽいと思われてもいい。俺はずっと陽菜と一緒に居たい」
俺は胸の前に持ってきている陽菜の手を持ち、優しく握った。
「私は月斗君のそんな所が大好きだよ。考え方は違うけど、それが逆に、歯車みたいに噛み合ってると思わない?」
「それは思う。俺達って、相性良いと思う」
「でしょ〜? えへへ〜!」
笑顔で頬を顔に擦り付けてくる姿は、俺の心を簡単に爆発させてしまう。
いつも思うんだ。陽菜に触られたら凄くドキドキするし、陽菜と話しているだけで心が満たされる。
一緒に居るだけで楽しいし、人生が明るくなる。
「あ〜、現状に満足しそうで怖いなぁ」
「もっと欲を出せばいいと思うよ? 多分、月斗君は本能を理性で抑え込むから変化を嫌うんだと思う」
「欲......か。じゃあ、今日はちょっとだけ抱きつきながら寝てもいいか?」
「うん! いっぱいギューってして!」
「分かったよ。じゃ、そろそろ寝るか」
俺は紅茶を飲み干し、マグカップを洗ってから部屋に戻った。
いつもより可愛く感じる陽菜にドキドキしつつも、優しく抱きつきながら眠った。
溺愛のソル
次回『恋の病』お楽しみに!