暴食の悪魔とリスビーム
アッサリ塩味
「ぼっ♪ ぼっ♪ ボス部屋〜♪」
『マスター様......今更ですが、とてもお強いですよね』
「まぁな。弱いとは思ってないよ。最強だとも思ってないが」
『謙虚なのですね』
「表面上はな。心の中では自分を特別だと思い込み、最強になれると信じているからな」
『それも......強さです』
クリスよ。自分の事を正しく認識した上で自分の事を特別だと思わないと、どの世界でも上位に立てないんだよ。
今の俺に出来ること、出来ないことを把握し、『今は』出来なくても『いつか』出来るようにする。
そうして頑張る自分を『特別』だと思う事で、更なる高みへと至れるんだ。
自分を特別だと思い込め。それすら出来ない奴が、本物の特別になれる訳がないのだから。
「クリス、心の準備はいいか?」
『大丈夫です。いざとなればマスター様に隠れます』
「それで良し。武器確認は......問題ないな」
今の俺は、桜器で作った刀を2本腰に提げ、左手には糸を巻きつけている。
刀と糸、それから素手と魔法。この4つにプラスして、グラトラの牙やエリュシオンで戦おう。
「では、入〜場〜!」
大きなボス部屋の扉を開けると、中の空間は広い食堂となっていた。
扉から1番離れた位置にある豪華な椅子に、貴族服を着た男の子が座っていた。
『やぁ! 人間クン。非常食を頭に乗せるなんて素敵だね!』
「やぁ! 悪魔クン。こんなところで一人ぼっちだなんて、可哀想だね!」
『......』
「あれ? ピキっちゃった? おこ? おこなの? ねぇねぇおこなの? キャー! 沸点ひっく〜い!」
『......』
口を閉じて青筋を浮かべる男の子に指をさし、俺は盛大に煽り散らかした。
『人間はこれだから嫌いなんだよ。僕の見た目が子どもだからって舐めてかかる......はぁ、愚かだねぇ』
え? 別に子どもとか関係ないだろ。子どもだろうと大人だろうと、強い人は強いし、弱い人は弱い。
ゲームの上手い下手に年齢は関係無いし、楽しんだ者勝ちだろ。
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
『暴食の悪魔・ベルゼブブ』との戦闘を開始します。◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
『喰らえ。『悪食』』
「ほい、『クロノスクラビス』」
ベルゼブブが出した真っ黒な霧を消そうとしたのだが、何故かお互いの力が拮抗して消すのに時間がかかってしまった。
『う、撃ちます!』
ズバァァァン!!!! と轟音を上げ、クリスが光線を出してくれた。
『危ないなぁもう!』
「ナ〜イス」
ベルゼブブが怯んだ隙に、左側に提げている刀に雷纏を、右側には紫電涙纏を施した。
「ほら......よっ!」
横殴りの雨の様に飛ばしてくる魔法を避け、懐に潜り込んだ瞬間に左側の太刀を抜き、ベルゼブブを切った。
我ながら美しい太刀筋だが、掠り傷程度にしかならなかった。
『効かないね!』
「そりゃ弱いからな」
俺は手に持っていた太刀を捨て、瞬時に右側の太刀を抜き、ベルゼブブの胸を貫いた。
『ゴフゥ!......え......』
「急所を1つ。クリス」
『は、はい! 撃ちます!』
『待て、待ってくれ! ねぇ待って!』
太刀が刺さって動けない状態のベルゼブブに、俺の頭の上に乗っているクリスの光線石が光り輝く。
ジワジワと溜まっていく魔力をサーチで観察しながら、俺は左手の糸を用いてベルゼブブを更に拘束した。
『イヤダァァァァァァ!!!』
ズッバァァァァァァン!!!!!!
余りの明るさに目も開けられなくなり、俺の視力が回復したのは20秒も後のことだ。
再び目を開けてみると、四肢しか残っていないベルゼブブがポリゴンに変わっていく瞬間だった。
「グロいな」
『や、やりすぎ......ました? ごめんなさい!』
「謝るな。寧ろ誇れ。お前は十分頑張ったよ」
『は、はい』
完全にベルゼブブが散るまで待ち、その間は警戒を一切緩めなかった。もしかしたら死んだフリをしている可能性があるからな。油断したら負ける。
ゲームって、油断で負けた時が1番つらくなるんだよな。
技術不足や経験不足で負けるより、油断が原因の敗北の方がもっともっとつらい。
「......大丈夫そうだな」
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
『暴食の悪魔・ベルゼブブ』を討伐しました。
『悪魔の礼装・暴食』×1入手しました。
『悪魔の革靴』×1入手しました。
『スキル書:暗黒魔法』×1入手しました。
『美食の銀食器・一式』×5入手しました。◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
「なんかいつもよりドロップ量多いな。スキル書とか食器とか、正直意味分からん」
まぁ、貰える物は貰っておこう。わらしべ長者よろしく、何か重要なアイテムに変わるかもしれん。
そうして、ダンジョンから出る前に部屋の探索をした。いつもの宝箱タイムにしようと思ったからな。
「あったあった。はい、ごまだれ」
木目調のデザインの宝箱を開けると、真っ黒な盾が出てきた。
◇━━━━━━━━━━━━━━━◇
『穢れた鏡の盾』
Rare:──
製作者:──
耐久値:1/1
付与効果:『穢れた鏡』
◇━━━━━━━━━━━━━━━◇
「何これ......マジで何これ......」
鏡要素がゼロ何だが、それが『穢れ』とかいうサムスィングのせいなのか?
付与効果の詳細を見ても、文が全部、真っ黒に塗りつぶされているから分からない。
「分からない以上、持ち帰るしかないか。クリス、帰るぞ」
『あ、あの......マスター様』
「どうした?」
『その......私のテイムを解除......して頂けませんか?』
「どうしてだ?」
唐突だな。まずは話を聞こう。俺としてはクリスの意見を尊重したいから、まずクリスの意見を聞かないと。
『私、外の世界で上手く生きれる自信が無いのです。今もこうしてマスター様にくっ付いている様に、私は誰かに、何かに縋らないと生きていけないのです』
「それがどうしてテイムを解除する要因になるんだ?」
これでもし、『マスター様の迷惑になるから......』とか言ったら、流石にこの場でテイムを解除する事は出来ない。
迷惑なんていくらでもかけてもらっていい。その先にある幸せが存在するなら、今を耐えてみせよう。
クリス。君はどうして俺から離れたいんだ?
『私の自立の為です』
「......正解、引いちゃったかぁ」
これを言われたら俺はもう、何も言えん。迷惑をかける事や俺達との幸せより、自立の方が大事だからな。
『マスター様......どう......ですか?』
「分かったよ。解除する」
初めてだ。初めてテイムを解除する。少しの恐怖と、大きな寂しさが残る。
『ありがとうございました』
「こちらこそありがとう。クリスのお陰で、楽しくダンジョンを攻略できた」
『はい』
「じゃあ、これを餞別として渡すわ。役立つ事を祈る」
俺はクリスを左手の上にクリスを乗せ、インベントリから取り出した、グラトラの牙を使った極小の剣をクリスの前に置いた。
「このサイズなら、お前でも扱えるだろ?」
『こ、これ......いいの......ですか?』
「勿論。クリスを守ってくれると信じてる」
『はい......ごめ......いえ、ありがとうございます』
「あぁ。元気でな」
光線石を仕舞い、極小の剣を持ったクリスは、俺の手から降りて歩いて行った。
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
テイムモンスター『クリス』のテイムを解除しました。◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
「帰るか」
ウィンドウを閉じ、俺は1人で食堂を歩き、魔法陣の前に来た。
このダンジョン、最初は付喪神達の力が使えないことに焦ったが、意外となんとかなるものだ。
的確に弱点を突く技術に、周囲を常に見張る注意力。それに空間認識能力や魔法など、プレイヤー本人を鍛えるのに向いているダンジョンだと思った。
まぁ、今はクリスと出会ったプレイヤーが勝てる事を祈ろう。
「魔剣持ちのモンスター、そう簡単には倒せないぞ?」
俺はニヤッと口角を上げてクリスが出て行った先を見送り、魔法陣に乗った。
そろそろ掲示板を挟みたくなってきたお年頃。
どこかタイミングを見て、ぶっこもうと思います。
次回『可愛いはズルい?』お楽しみに!
★評価やブックマーク、レビュー等、検討だけでもどうぞ!
それと小説のタグ(キーワード)を少し変えたのですが、お気付きでしょうか?
楽しんでくれたら幸いです。