美味しさの秘密
暴飲暴食に気を付けましょう。
◇ ◆ ◇
「美味しい。やっぱソルの料理が最高だな」
「ですね! 母様の料理は世界一です!」
「ん。さいこう」
「えへへ、ありがと。美味しさの秘密は愛情だからね! この料理達には、それはもうたっぷりと入ってるんだよ」
「本当に美味しいよ。ありがとう」
「う、うん......何か恥ずかしいや」
ユアストにログインし、家で4人だけで晩御飯を楽しんでいる。
愛情だけでない、ソル自身の料理スキルによって、普通の料理の何倍もの旨みがこの料理達には宿っている。
「でもこれ......マジで全部食わなきゃいけないのか?」
「勿論。暴食のダンジョンに行きたいなら、料理を100種食べなきゃだからね」
「はぁ......」
俺の前に、机の端から端まで料理が乗っている。
和食に始まり、中華やインド、ベトナムから洋食まで、テーブルの上で世界旅行をしている。
だが、これはまだほんの一部に過ぎない。
俺が今からする事は、暴食のダンジョンに行く為の、文字通りの意味で暴食をしている段階だ。
『1度の食事で100種の料理を食べる』
これが暴食のダンジョンに行く為の手段であり、料理を食べ終えるとダンジョンの前まで転移するらしい。
転移というか、精神世界に入る感覚らしいが。
要は気絶するとのことだ。怖いな。
「父様。あ〜ん」
俺が底知れぬ恐怖に怯えていると、リルが麻婆豆腐を1口、スプーンで持ってきてくれた。
「あ〜む......美味しい。美味しすぎて涙が出てきた」
「それはこの後に待っている地獄に対する涙ですよね」
「ソンナコトナイ。ゴハン、オイシイ。ナミダ、デル」
そうして、途中から食べ物を胃にぶち込んでは『美味しい』とだけ告げる機械と化しながら、10時間程かけて最後の1食まで食べ終わった。
「すぅ......すぅ......」
俺は無心で最後の料理、お味噌汁の入ったお茶碗を手に持った。
膝の上ではリルが寝ており、俺の対面にはソルがずっと笑顔で見守ってくれている。
あと少し。頑張るんだ俺。お前なら出来る! I can do it!
「そう言えばルナ君。知らぬが仏の情報なんだけどね」
「何だ?」
「暴食のダンジョンに行く為の料理ってね」
「あぁ」
「それぞれの料理を、1口だけ食べればいいんだって」
俺の手から箸が落ちた。宵斬桜の枝で作った、超高級お箸が。
「ソルはこれだけの数の料理を、コツコツと作ってくれた」
「まぁそうだね」
「それを1口だけ食べたとして、後はどうする? モンスター達に食べさせるのか? 或いはギルドメンバーか? それとも付喪神に?......そんな勿体ないことをするくらいなら、俺が全部美味しく食べたい」
俺はそう言い放ってから、箸を水属性の魔法で洗ってから右手に持った。
「元々1口だけ作るならまだしも、沢山作ってくれたのに1口だけ食べるというのは、料理を作った人への感謝が見られない。そんなの、俺としては『食事』と言えんな」
「ふふっ、嬉しい」
「それなら何よりだ。改めてありがとう。この味噌汁、凄く美味しいよ」
「うん! ありがとう!」
そうしてソルが作ってくれた美味しいお味噌汁を飲み終わった瞬間、俺は何者かに一瞬で意識が刈り取られた。
◇◇
「洞窟型かよ。ってか、うえぇ......吐きそう」
目を覚ました瞬間、これまでに感じた事の無い吐き気に襲われた。
状態異常の吐き気.....非常に気持ち悪い。
「はぁ......はぁ......冷や汗止まんねぇ」
ってかオイ。ちょっと待て。俺の付喪神達はどこに行った? インベントリ内の付喪神が宿った武器の全てが、鎖で封じられたマークが付いているんだが。
「はぁぁ!? リルもメルもアルスもヒカリも、何で誰も呼び出せねぇんだよぉ!! 嘘だろぉぉぉ!?」
鬼畜すぎる。暴食のダンジョンの難易度、鬼畜すぎる!
「えっと? 俺の使える武器は槍と盾、糸に愛剣......」
うわぁ、アイテム整理した後だから武器作れねぇじゃん。この場で愛剣の強化も出来ないし、新しい武器も作れない。
一応、鍛冶用の道具は一式持っているが......使うタイミングが限られるな。
槍のエリュシオンは神器の癖に耐久値があるし、糸は適当に作った物で、愛剣なんて強く振ったら一瞬でポリゴンコースだ。
もし戦闘が上手く進み、減った耐久値を道具で回復させるにしても、耐久値管理に思考を割く程の余裕があるとは到底思えない。
『ガァァァァァァ!!!!』
「ダメダメダメダメダメダメ! 今来たらダメだってばぁ!!」
インベントリ内のアイテムを見ながらこの先どうするかを考えていると、頭が2つもある大きな犬が走ってきた。
「戦うな俺。逃げろ。殺るなら魔法で戦うんだ」
『ガォォォン!!』
アカン。この犬、めっちゃ速い。俺より断然速い。
無理、逃げれん。
双頭の犬......ケルベロスと鬼ごっこを始め、15秒程で決着が着いた。
『ガウゥゥゥ』
「俺の腕は美味しいか? そうかそうか。死ね」
ケルベロスの左の頭が俺の左腕を噛みちぎり、続けて攻撃してくる右の頭に、俺は行動詠唱で発動させた滅光をケルベロスに浴びせた。
そして断末魔やポリゴンすら残さず、ケルベロスは消し炭となった。
「ったく、神器が無いとステータスが半分以下......半分どころじゃねぇ。カッスカスの数値になっていやがる」
布都御魂剣やクトネシリカに付与されている『全ステータス補正:大』と、アルテの『全ステータス補正:特大』のお陰で4.5倍になっていたステータスが全部消えたんだ。
俺の強さの鍵である神器の補正が受けられなくなり、戦闘で勝利するのが困難になっている。
「はぁ。暴食のダンジョン、舐めてかかったら直ぐに死ぬ。だが......ここはいっちょ、素手と魔法縛りでやるとしますか!」
神器が縛られた? なら己の拳で戦えばいい。
話し相手が居なくなった? 肉体言語があるじゃないか。
拳は、筋肉は全てを解決してくれる。筋肉こそパワー。力こそパワーなのだ。脳筋万歳! 脳筋万歳!
俺は拳を固く握り、花鳥風月に内包されている魚の絵が描かれた和服に衣装を変えた。
『グォォォォ!!!』
「次は虎か。いいぜ? 掛かって来いよ。その牙、へし折ってやる」
俺の近くでスポーンした大きな虎がこちらを捉え、大きく吠えた後に襲いかかってきた。
首を斜めにして口を開き、左前脚の爪と同時に攻撃してくる。
俺はまず、1歩下がり、右足を引いてから右手の拳に火属性の魔闘術を発動させ、虎が噛み付く瞬間にチラッと右手を見せてみた。
『ギャゥゥゥゥ』
良い判断だ。攻撃を中断して退却出来る事は素晴らしいぞ。
だがダメだ。俺のへなちょこパンチにビビってる様じゃ、お前は慎重過ぎてチャンスを見失う。
「フッ、『イグニスアロー』」
右手の拳を突き出しながら魔法を使い、あたかも拳から魔法が出たように見せかけた。
すると予想通り、虎はイグニスアローを避けながら俺に急接近してきた。
はい、王手ですね。
『ガウゥゥゥゥ!!!』
「『戦神』」
虎が俺に噛み付こうとした一瞬の時間に戦神を発動させ、魔闘術を発動させたままの拳を振り抜き、虎の鼻に直撃させた。
『ギャゥン!!』
「硬いねぇ。『魔拳』」
MPを消費して純粋な魔力を拳に纏わせ、俺は怯んだ虎の牙をぶん殴った。
すると宣言通りに牙はへし折れ、勢いの乗った虎の体がぶっ飛び、壁に当たってポリゴンに姿を変えた。
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『グラトラ』を討伐しました。
『飢餓虎の腐食牙』×2入手しました。◇━━━━━━━━━━━━━━━━◇
「グ、グラトラ......中々良いセンスしてんじゃねぇか」
名前はそのまま『暴食の虎』って事だが、敢えて虎を日本語にしてる所にセンスを感じた。
「ま、何にせよ武器材料ゲッチュだ。次はトレントとか出て来てくんねぇかな〜」
強欲にも武器の柄に使える素材を落とすモンスターを考えながら、俺はルンルン気分でダンジョン攻略を進めた。
友人「ユアストの推しキャラって居るの?」
ゆず「ピギーかなぁ」
友人「何故にピンク娘を?」
ゆず「身長低いから。私、自分の身長嫌いだもん」
友人「低身長も低身長でつらいと思うがなぁ」
ゆず「なら分けてあげたいね。まぁ、推しはピギー」
友人「ほ〜ん。2番目は?」
ゆず「チェリ」
友人「忘れてる人居そうな奴出てきたー!」
ゆず「無口系って憧れるんだよね」
友人「ってかチェリってそもそも喋ってなくね?」
ゆず「.....悲しいなぁ。チェリ、頑張ってたのに」
友人「マジかよ」
ゆず「まぁ楽しみにしときなさい」
友人「了解です」
これは友人とゲームをしている時の会話を抜粋しました。
何故かピンク系の2人がゆずあめの推しになっていますが、チェリは桜の木ですからね。植物が推しとは。
では次回『お肉は焼きなさい』お楽しみに!