銀髪さん、追放される
食中毒になりました。
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プレイヤー『ルナ』が、
『罪の宴・傲慢の会場』をクリアしました。◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
リザルト画面やワールドアナウンスが流れる中、俺は呆然と膝立ちしていた。
「アスモデウスのアニキ......」
『何勝手にアニキ化してんですか』
「いやだって、あれだけ助けてくれたのに、急に自害したんだぞ?」
『私としては、あれは一種の責任の取り方だと思いますがね。人間を好きになったルシファーと同じ様に、人間の友達を作った悪魔......アスモデウスさんなりの、責任の取り方かと』
おぉ、何故だかスっと理解出来てしまったぞ。
アスモデウスもアスモデウスで、本来敵対する人間と友好関係を築くのは、タブーだと思っていたのだろう。
そう考えると、フーの言った事がよく分かる。
「帰るか。お墓は立てられんが、せめて感謝の気持ちだけでも捧げさせてもらおう」
俺は両手を合わせて、ルシファーとアスモデウスが散った場所に向かって感謝を捧げた。
ルシファーには戦ってくれたことに感謝を。アスモデウスには、助けてくれた上に、共に戦ってくれたことに感謝を。
ありがとう。
「......あ、宝箱......なんか豪華になってんな」
普段の宝箱の見た目は木目調の物が多いのだが、今回の宝箱は赤や金等の派手な色に加え、宝石が散りばめられた見た目となっている。
見るからに良いアイテムが入ってそうだ。
「うわ〜!!! スッゲェ!! でも何これ?」
『えぇ......?』
俺が宝箱から取り出したのは、俺の肘から手首くらいの長さの白い棒だ。
底面には穴が空いており、何かが出るのだろう。
棒の上部に魔法陣がある事から、戦闘用の杖だと思う。
『あ〜! それは神界でも伝説と言われている、『レガシーシュガー』ですよ!』
「何それ?」
『無限に砂糖が出る棒です』
「......マジで何それ?」
『その神器について、歴史から振り返りますか?』
「神器......ってか歴史があるのか。それに便利なのか? この棒」
『便利も何も、あのフレイヤさんでさえ、喉から手が出ちゃったほどの代物ですよ!?』
「怖い怖い怖い怖い。でもそこまで言う物なんだな。取り敢えず持って帰るか」
『取り扱いは丁寧にお願いします。もう、ホント貴重品なので』
「はいよ」
使えそうで使えなさそうな棒を入手し、俺は傲慢のダンジョンを出た。
外は朝日が登り始めており、王都を明るく染めている。
「ふわぁぁあ」
新鮮な空気を吸ったことで、戦闘の疲れがどっと降ってきた。
数々の幻獣と4柱の悪魔。それに、1度死んだり生き返ったり、内容がとても濃かった。
「はぁ、帰って寝よ。『転移』」
◇◇
「ん?『ルナ君は入っちゃダメだす』......何これ?」
家のドアに張り紙があり、思いっきり誤字を残したまま俺に伝えてきた。
というか俺、どうすればいいんだ? 家に入れないって、これから城暮らしか? え? 捨てられた? 俺、もしかしてソルに捨てられた?
「あっ......あ......」
「落ち着いてくださいルナさん。別にこれは拒絶している訳じゃないでしょう? きっと、ソルさんやリルさんが何かサプライズをしようとしているんですよ」
あ、危ねぇ。完全に絶望するところだった。
疲れもあって、まともな思考が出来ていない。どこかで休もう。
「ヒカリ」
『は〜い! どうしたの〜? ごはん〜?』
「南の方まで、俺を乗せて飛んでくれ」
『オッケー!』
それから俺は、ヒカリの背中に布を敷き、海の冷たい風を浴びながら一眠りした。
ヒカリには申し訳ないな。頭が回らない俺を許してくれ。
◇◇
それから数時間後、強烈な熱波を感じて目が覚めた。
「何だこの熱さ」
『あ、起きちゃった〜? あの人間が攻撃してきてるの〜!』
「人間?」
ヒカリの声で俺の脳は完全に覚醒し、ヒカリが首を向けた方向を見てみると、15人くらいの甲冑を着た人間がヒカリに向けて魔法を撃ってきていた。
どうやらヒカリは、俺を起こさないように敢えて体で魔法を受け止めていたようだ。
「ありがとうヒカリ。『リザレクション』」
『ううん! 主ありがと〜!』
2割ほど減っていたヒカリのHPを回復させ、少し離れた草原の高台に着陸してもらった。
「よし。まず聞きたいんだが、ここはどこだ?」
『分かんな〜い!』
まぁそうだよな。申し訳ないが、あのヒカリがこの場所について知ってるとは思えない。
では、付喪神達はどうだろうか。
「フー達は何か知ってるか?」
『存じ上げません』
『シリカも分かんない!』
『私もです。お役に立てず申し訳ありません』
『私も知らないわね』
『その、わ、私も分からない......です』
「う〜ん、未知」
ドラゴンの上で寝てたら未知のエリアに来てしまった件。
只々ボーッと飛行していたヒカリと、その上でグッスリと寝ていた俺。
家を出て適当に南へ一直線に進んだ先に、まさかの新大陸を発見してしまった。
うむ。ちょっと情報量が多過ぎないだろうか。
さて、半分は自分の意思でここまで来てしまった訳だが、今、俺の気分としてソル達が恋しい。付喪神達が居るとはいえ、家族と呼べる存在が近くに居てほしい。
寂しがり屋になった影響が、こんな所で出てきちゃった。
「......帰りたい」
『『『ホームシックだ!』』』
「ち、違ぇし! 別に追い出されて寂しくなんてなってねぇし。別に帰りたいなんて思ってねぇし」
『あれ? さっきガッツリ口に出してた気が......』
「ンな訳ねぇだろ? 冗談キツイぜキミた『狐ちゃん、きっとお兄さんの帰りを待ってると思うなぁ』帰ろうか。うん。今すぐ死んで帰ろう」
俺はヒカリを戻し、ソルの血液入りポーションを取り出した。これを飲めば簡単に家に帰れる。
「すぅ......はぁ......」
よくよく考えてみよう。あの張り紙が出されていたのは玄関の外側のドアだ。
つまり、内側のドアには書いていない。それ即ち、死んで家の中でリスポーンすれば、あの張り紙の効力が失われるって訳だ。
いやぁ、俺って天才かもしれん。では早速いただ──
「そこのお前! あのドラゴンをどこにやった!」
「......チッ」
あの甲冑部隊がやって来やがった。謎の金髪の男の子が1人と、甲冑を着た兵士が20人。むさ苦しい奴らだ。
というか、なんでこんな場所まで追ってくるんですかねぇ? 君達じゃヒカリに勝てないの、分かってないのかな?
「おい! 聞いているのか!?」
「聞いてるよ。ってかお前ら、ドラゴンの居場所聞いてどうすんだよ。勝てもしない勝負を挑んで、その命を汚く散らす気か?」
「なっ、お前! 俺はこの国の第2王子だぞ!」
あ〜、だから妙に派手な服を着て甲冑さん達を連れているのか。
「だから何だよ。知らない国の知らない王子様の命を救おうとしたんだぞ?」
「俺達があのドラゴンに負けるとでも言うのか!」
「当たり前だろ。俺のお気に入りのドラゴンだぞ? 並のドラゴンと比べ物にならん程強化してるからな? お前らなんぞワンパンだぞワンパン。一撃ボォォンだ」
「あ、あれはお前のドラゴン......なのか?」
「あぁそうだよ。もう話し合いはいいだろ? 帰りたいんだけど」
そう言ってポーションに口を付けた瞬間──
「ま、待ってくれ! 俺の国にドラゴンが必要なんだ! だから......ドラゴンを1匹くれ!」
この言葉を聞いた瞬間、俺は名前も知らない第2王子の顔面をぶん殴った。
「ゴミカス野郎が。偉けりゃ人のモンを貰えると思うなよ。何の対価も出さず、相手の顔も見ずに『ドラゴンをくれ』だと? お前、人として最低だと理解しとけよ」
特にヒカリはお気に入りのドラゴンだ。あげる訳が無い。
まぁ、コイツは『ヒカリをくれ』とは言ってないが、それでもドラゴン達は俺の大切なペットだ。
こんな素性も知れない奴にあげる気は無い。
「じゃあな」
俺は最悪の気分のままソルの血液入りポーションを飲み、酷い拒絶反応からHPが瞬時に無くなっていった。
無限の糖製、ですわね。アンリミテッドシュガーワークスですわよ。オーホッh
次回『すれ違いは絡み合う』お楽しみに!
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