人間
『アスモデウス......ふむ。まぁ良い』
『ルシファー、オマエ、ルナヲキズツケタナ?』
『傷つける? 我は断罪したのみだ。それを今し方、貴様に止められたがの』
『トメテナイ。オレハトモダチヲ、タスケタダケダ』
2柱の悪魔の会話聴きながら、俺の動かない体のHPが回復していく。
何故アスモデウスがこの場に来たのか、どうして俺だけを助けているのか分からない。だが、そんな事よりもやるべき事がある。
「う......うぅぅぅ」
自分の体重が5倍くらいになった感覚の中、俺は必死に体を起き上がらせようとした。
『ルナ。マダネテロ』
「ダメです......ルシファーを倒さないと......」
『オレガヤル。ルナ、オマエジャカテナイ』
アスモデウスにそう言われた瞬間、スっと体が軽くなった。
いや、厳密に言うなら俺の感覚がゆっくりと消えて行っている。
「勝てない......だと?」
『ソウダ。オマエジャ、チカラガタリナイ。ルシファーヲタオスチカラガ、オマエニナイ』
「黙れ」
『......?』
「何も知らねぇ癖に何いってんだよテメェ。あぁ? 俺がいつルシファーに勝てないって言ったんだよ。誰が勝てねぇっつってんだよ。あ? 100パーセントの結果じゃねぇ癖に、人が足りねぇモンをもっともっとって要求してよぉ? 何なんだよお前。ふざけんなよ」
あぁ違う。アスモデウスは助けてくれたんだぞ。何でそんなに言ってるんだ俺は。お門違いもいいところだぞ。
『ルナさん......?』
「何だよ」
『い、いえ何も......』
おいおい、どうして心配してくれているフーを威嚇してるんだよ。バカか俺は。
『見ろ。あれが人間だ。貴様に助けられたというのに恩も感じず、貴様を愚弄したぞ。アスモデウス。それでも貴様は我の前に立つ気なのか? その人間の為に』
『タツ。オレ、ルナガツヨイノ、シッテル。ヨワイノモ、シッテル。アンナフウニイワレタケド、ルナハヤサシイ。シッテル』
『ほう。貴様がそこまで人間に興味を示すとはな。何故その人間の為に貴様は戦うのだ? 勝てないと分かっているというのに』
『ルナ、オレヲミテモ、コワガラナカッタ。ワラッテオレトハナシテクレタ。ソレガ、ウレシカッタ』
『ソレニ、モモイロモ、スキ。ホントウハオレガコワイクセニ、オレノタメニワラッテクレタ』
『ダカラ、オレハニンゲンガスキ。オレヲミテモ、コワガラナイニンゲンガスキ』
『好き......か。色欲を司るだけはある』
2人が話し合う中、俺は必死に体を立て直した。
フラフラと揺れる足元に布都御魂剣を刺して固定し、死に物狂いでクトネシリカに紫電涙纏を使う。
「はぁ、はぁ......やっと動ける......」
戦わないと。戦わないと次は死ぬ。でもその前にアスモデウスに感謝を伝えないと。
「アスモデウス、ありがとう」
『キニスルナ。ソレヨリ、タタカウゾ』
「あぁ」
最低限の敬意を払ってアスモデウスにお礼を言い、俺達はルシファーに立ちはだかった。
『愚かな者共だ。【断罪ノ剣】』
『ヤラセナイ。【色食ミノウタゲ】』
ルシファーが取り出した断罪ノ剣を、アスモデウスの尻尾から出た赤い光が飲み込んだ。
「ナイスデウス。『背理の太刀』」
『ちょっ! そんな状態で使っちゃ『フー姉ちゃん黙って』アッハイ』
俺はルシファーが動けない内に急接近し、背理の太刀をいけ好かない野郎の胸にぶっ刺した。
マモンの時とは違い、弾け飛ぶ威力は無かったのだが、初めてルシファーに刃を入れる事に成功した。
今の気分は最高だ。気持ちいい。
「はは! はははは!! ほれほれほれェッ!!!」
神鍮鉄製の糸でグリモワールを取り上げ、出入口の方へとぶん投げながらルシファーの顔に回し蹴りを喰らわせた。
そしてステラノヴァを使ってバフを掛け、アルスのインベントリから強引にジュエルブレスを取り返した。
「『火焔刃』『招雷刃』」
短剣のジュエルブレスから、大剣とも取れる大きさの炎と雷で切り付け、ルシファーからは血のポリゴンが流れ出る。
「あ〜楽しい。最ッ高に気持ちいいね」
『......貴様』
「アスモデウスさん。これでも力が足りないと言いますか? 奴の生命力からして、3割を削った訳なんですが」
真っ直ぐにルシファーを見ながらアスモデウスに聞くと、アスモデウスは首を横に振って応えた。
『ツヨイ。ルナ、ルシファーヲ、タオセル』
俺の右後ろから唸る様な声が聞こえると、俺は自然と口角が上がった。
「良かった。あ、断罪ノ剣はアスモデウスさんに頼ります。後は俺が片付けますので」
『ワカッタ。ルナ、シンジル』
そうしてアスモデウスと完全な共闘状態を作り上げ、ルシファーとの戦闘が再開された。
今までにない、ボスモンスターとの共闘という異例の状態に困惑しているが、RPGではよくある事だと自分に言い聞かせて戦った。
「あ〜やべぇ。超楽しい」
『ずっと笑顔ですもんね。正直、一撃貰えば死ぬ状況で笑ってるのは結構危ないと思います』
「いいのいいの。俺、背水の陣は好きだから。この一歩間違えたら死ぬスリル......最高だ」
『変態だ......ッ!』
フーから失礼な事を言われながら、剣、刀、弓、槍、糸を駆使してルシファーに攻撃を仕掛けていく。
ルシファーの行動パターンとして、格闘と魔法、魔剣や魔槍による攻撃があるが、どれも躱したり受け流して対応している。
偶に背中に隠して断罪ノ剣を出そうとするが、そこはアスモデウスのアニキが飲み込んでくれるから安心だ。
安全ではないがな。
『......しぶとい人間だ』
「しぶとい悪魔だ。正直、MPすっからかんだから早く死んでくれ」
『我は不滅の存在だ』
「残念ながら、形あるものはいつか終わる。それはどんな世界にも共通する事だ。坊や、よく覚えときな」
『我を愚弄するか』
「最初から愚弄してんだよ。人間は傲慢だからな」
喋りながら無理やり使った蔦ちゃんやイグニスアローが片手で消されるが、ここで攻撃を辞めれば一瞬で俺は死ぬだろう。
「ふぅ......『背理の太刀』」
MPが500程度を行き来する中、俺は背理の太刀を作り出した。
『来たか。我が断罪ノ剣と同等の力』
「同等? 舐めんなよ。これはお前の厨二武器より少しだけ強ェんだよ」
勿論、断罪ノ剣の性能を知らないから何も言えないんですけどねっ☆
だが背理の太刀はルシファーに有効的なのは確実だ。
命を削る思いで振る一刀に、並の神器が勝てる訳がない。
「行くぞ〜?」
俺が構えると、ルシファーも断罪ノ剣を構えた。
アスモデウスは空気を読んで手を出さず、見守ってくれている。
この感覚は何だろう。主人公とライバルの一騎打ちの様な、妙なワクワク感がある。
まだ怠惰と暴食の悪魔が残っているのに、ラスボスと戦っている気分だ。
『来い。人間』
両手に2本の鶴を構えるルシファーに、俺は一直線に突っ込んだ。
本来なら確実に負ける動き出しだが、そんな簡単にやられる程俺も馬鹿じゃない。
「ふっ......フンッ!」
『甘い!』
ルシファーが右手の剣で俺を突き刺そうとするのを避け、太刀を振り上げたタイミングで左手の剣が俺に振り下ろされた。
あ〜あ。これ死んだね。お疲れ様でした。
「......な〜んちゃって」
『ッ!?』
俺は、ルシファーに向けて振り上げた剣で、ルシファーが振り下ろす断罪ノ剣を弾き飛ばした。
そしてすぐさま布都御魂剣に手を掛け──
「『斬』」
居合切りの要領でルシファーを真っ二つに斬った。
『人間に......負け............た......』
ルシファーは少しずつポリゴンへと体を変えていった。
そうして体の半分ほどがポリゴンになった頃、後ろからアスモデウスが話しかけてきた。
『ヨクヤッタ。ルナ、ガンバッタ』
「ありがとうございます」
ゴツゴツの悪魔の手に肩をやさしく叩かれ、アスモデウスがルシファーの横にしゃがみこんだ。
『ルシファー』
『なん......だ』
『オマエハ、ニンゲンカラウマレタコトヲ、リカイシテイルノカ?』
『人間......から、生ま......れた?』
『ソウダ。オレタチアクマハ、ニンゲンノオモイカラ、ウマレル。ルシファー。オマエハ、キヅイテナイノカ?』
『......あぁ』
『フンッ、『無知ハ罪』、ダナ。オマエハ、ゴウマンノアクマ。ダガ、熾天使ダ』
『......昔の......話だ』
『オロカナ。オマエガヒトヲ、スキニナルカラ、コンナケッカニナルンダ』
『耳が......痛い......な』
ん? どういう事だ? ルシファー君、元々は人が好きだったのか?
それに熾天使って、天使の中でも最上位の地位だよな?
それがどうして、傲慢の悪魔......もとい、背理の天使になったんだ?
『我は......人が好きだった。傲慢で、強欲で、他人に嫉妬し......色欲に溺れ、暴食に生き、憤怒に身を焦がす......怠惰な人間が......好きだった』
『故に、人になりたいと思った......そんな思いが、我を天使の理から外した』
なるほどな。あの時のフーに近かったのか。
本来人間にはなれない者が、人間になろうとして生まれた存在。
ルシファーは天使だっただけに、聖天使と魔天使の間にある、背理の天使となったのだろう。
『フッ、ソレガオマエノ『ツミ』だ』
アスモデウスがそう言うと、ルシファーは最後の力を振り絞って【断罪ノ剣】を顕現させた。
『我を......斬れ』
アスモデウスが剣を受け取ると、俺の方へとやって来た。
『ルナ。オマエガヤレ』
「俺が?」
『ソウダ。ルシファーヲタオシタノハ、オマエダ。セキニンヲモテ』
「分かった」
アスモデウスから真っ黒な剣を受け取った瞬間、剣が光り輝き、先程までとは対極的に、真っ白な剣に変化した。
不思議な剣だなぁ。性能は......見れないのか。残念。
『頼む......人間』
「あぁ。じゃあな、ルシファー」
まだポリゴンになっていないルシファーの胸に剣を突き刺した。
すると、刺された部分から白い光が溢れ出し、ルシファーの全身がポリゴンとなって散った。
『オレモ、キエルトシヨウ。サラバダ、ルナ』
「あ、はい。ありがとうございました......え?」
アスモデウスはルシファーの死を見届けると、自分の尻尾を自分の胸に刺し、ポリゴンとなって散っていった。
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
『傲慢の悪魔・ルシファー』を討伐しました。
『色欲の悪魔・アスモデウス』を討伐しました。
『悪魔の礼装・傲慢』×1入手しました。
『悪魔の礼装・色欲』×1入手しました。
悪魔の首飾り×1入手しました。
悪魔の革靴×1入手しました。
称号『半天半魔の討伐者』を獲得しました。
『半天半魔の討伐者』
・種族『人間』への進化が可能になる。
★進化済みの為、無効になります。
半身が天使、半身が悪魔の
モンスターを討伐する事で獲得。
◇━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━◇
ア、ア、アスモデウスゥゥゥ!!!! あぁ、なんて事だ.....どうして.....
まぁ、色欲の特殊クリアの演出です。ルシファー戦で共闘する代わりに、勝ったらアスモデウス自身が.....とね。
次回『銀髪さん、追放される』お楽しみに!
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.....で、いいんですよね? 台本にはこう書いてますが.....あ、はい。OK? ありがとうございます。じゃあ、お先に失礼します。はい、では〜