その娘、最強につき
最初から最後まで犬子さん視点です。
◇今日犬子side◇
「メル、アルス。来い」
ルナさんがレヴィアタンに食われる寸前、短くそう聞こえた。
僕はレヴィアタンの方をずっと見つめていると、ある異変に気が付いた。
「止まった?」
レヴィアタンの動きが止められている。先程までルナさんに猛突進していたのに、どうやって止めた?
あの人の持つ魔法の力? いや、さっき何かを......誰かを呼んでいたから、その人の力?
「ハッハッハ! お前らなら悪魔なぞ蟻と同じ感覚で倒せるな!」
「それはむり。パパ、もりすぎ」
「主。流石にそれは我でも出来ません」
「なに、ただの比喩さ。取り敢えずその蛇殺しておけよ」
「御意に」
「おっけ〜」
僕からは見えない、レヴィアタンの頭の方で、ルナさんと男の人、それに女の子の声が聞こえてきた。
とてもテンションの高そうなルナさんに対し、男の人と女の子は慣れた様子で答えている。一体誰がそこに居るんだ?
というか『その蛇殺しておけ』って、まさかたった2人に任せる気なのか!?
「犬子さ〜ん! 声だけで申し訳ないのですが、サタンの方に援護頼みます〜!」
「れ、レヴィアタンは!?」
「ウチの子達で十分ですので〜! 宜しくお願いします〜!」
ちょっと理解出来ないなぁ。レヴィアタンが2人で倒せる相手なのか?
そう思っていたけれど、直ぐに現実は訪れる。
『ギシャ......シャ............』
巨大な蛇の全身が、一瞬にしてポリゴンとなって消えていった。
「「「「......は?」」」」
僕達が呆然としていると、レヴィアタンを殺したであろう2人の人間が視界に入った。
1人は執事服に身を包んだ、金髪の男だ。それも、かなり美形だ。
もう1人は真っ赤な髪を持ち、金と赤のオッドアイの女の子だ。ゴスロリと言うか、綺麗なドレスを着ている可愛らしい女の子だ。
この人達は誰なんだ?......違う知っている。あの子の顔に見覚えがある。そう、確か......
「星塔だ。星塔の時に僕達を壊滅に追い込んだ女の子の1人だ」
「......?」
あの子は僕の言葉に首を傾げると、炎の翼を広げてルナさんの所へ戻って行った。
今時の女の子って、あんな風に空を飛ぶのか......
「あぁ、お嬢様がすみません。貴方がそちらのパーティリーダーでございましょうか?」
何も出来ずにただ眺めていると、執事服の男の人が僕に聞いてきた。
「あ、はい。あの子は?」
「我が主のご息女です」
「主って、ルナさんの事......ですよね?」
「はい」
へ、へー。ルナさんってもう1人執事が居たんだぁ。
って違う。僕の知る限り、ルナさんの子どもは1人だけのはず。確かリルという名前の、フェンリルの獣人族の子だ。
でもあの子、明らかに獣人じゃなかったよね?
「あの子がリルちゃんですか?」
「いえ。あちらはリル様ではなく『アルス! 手伝え!』......すみません。我は行きます」
執事さんはそう言うと、バチッと雷になって消えた。
「な、何アレ?」
「分からないのです。でも、凄く強そうなのです」
「いや、あれは強そうって言うか紛れもなく強いだろ。あのルナさんを主と呼ぶくらいなんだし、あの人の仲間って言ったら、それはもう強者だろ」
「うんうん。テイっちの言う通りだよ。あの雷になるのって、未発見スキルだよね? 多分」
「だと思うよ。でも、あの人は多分プレイヤーじゃない」
僕の予想だと、あの2人はテイムモンスターだ。
理由としては、レヴィアタンに襲われる寸前にプレイヤーを呼ぶのは限りなく不可能に近いからだね。
空間魔法が使えたら、多分出来るだろうけど......その線は薄そうだ。
「そんな事より僕達も戦闘に参加しよう。このままじゃお荷物だ」
そうして僕達が駆けつけると、ルナさんが弓でミノタウロスの様な姿になった悪魔を倒す瞬間だった。
『ウ゛ァァ!!! ルシファー様ァァァ!!!!!!』
「うるせぇな。『氷槍』」
もう死ぬ寸前の敵に向かって、ルナさんが魔弓術でトドメをさした。
「あ、お疲れ様です。誰も死んでませんね? 死んでませんね。良かったです」
「あ、はい」
何この人。急に自己完結し始めたんだけど。妙に笑顔だし、どうしたんだろう。
「パパ。今日はずっと一緒?」
「ん〜、さっきまで寝てたんだろ?」
「うん」
「また寝れそうか?」
「ううん」
「なら一緒に行くか」
「うん!」
え? 連れて行くの? 僕としては大丈夫なんだけど、その子のレベルが......は?
パーティメンバー一覧にある『メル』の項目を見て、僕は絶句した。
そこに書かれていたレベルは、『945』だった。
「......信じられない」
「犬子? どうしたんだ?」
「テイン。コレを見てくれ」
「ん?......は?」
良かった。僕の目がおかしいん訳ではなかった。
これはルナさんがおかしいね。どうやってこのレベルまでテイムモンスターを育てたのか、それが分からない。
あの執事の人......アルスさんはメル......さんの事を『娘』と言っていたし、もう何が何だか分からない。
「ルナさんルナさん! その子、とても可愛いのです!」
「それそれ! 私達にも抱っこさせて〜!」
「だってよメル。抱っこされてくるか?」
「嫌だ。パパのほうがいい」
「「ンガッ!!」」
おぉ、あの女性陣を一瞬でぶった斬るなんて。カーナさんとチュチュさんはストレリチアの中でも暴れ馬と言えるメンバーなのに、凄いなメルさん。
「あ、そうだ。ごめんなメル。寝ているところを呼び出して。申し訳ない」
「いいよ。でも今度、メルと一緒にお昼寝だよ?」
「ご褒美の件だな。分かってるよ」
ルナさんがメルさんの頭を撫でると、メルさんの髪に纏う炎のオーラがすうっと消えて、ルナさんと同じ銀髪になった。
「え?」
「あ、メル。お前覚醒解除したな?」
「うん。ダメだった?」
「次も戦闘があるからな......仕方ない。戦闘前にちゃんと食べろよ?」
「うん......ごめんなさい」
「いいよ。アルス、先に調べてこい」
「御意」
ルナさんがアルスさんに指示を出すと、またバチッと雷になってアルスさんが消えた。
「ルナさん、今何を?」
「えっと、あの子に......子? 違うな。執事です。執事に道を調べさせてます。アイツならそう簡単に死にませんし、多分直ぐにこの階層全体の情報を持ってきてくれますよ」
「は、はぁ」
テイムモンスターって、索敵に使う人居るんだ。知らなかったな。
僕の知る限り、命の危険が多い索敵、及び偵察にテイムモンスターを使う人は居ない。だって、モンスターの大きさや知能に頼る部分が多いし、何より......
愛情を込めて育てたモンスターに、死んで欲しくないからだ。
「彼が死ぬことは考えていないのですか?」
「え? アルスが? う〜ん、しょっちゅう俺が自分の手でぶっ殺してますし、ここら辺の幻獣相手に死ぬようなら、また鍛え直すだけですからね。まぁ、死んで情報を失うなら自分の足で行くまでですよ」
す、スゲェ。この人、自分の手でテイムモンスターをぶっ殺してるんだ。
僕は、モンスターを虐待した結果、モンスターに逃げられるテイマーをよく見てきた。
ストレスのはけ口だとか、教育だとか言ってる頭のおかしい人間だったけれど、ルナさんは違う。
だって、アルスさんからルナさんを嫌っている雰囲気は感じなかったから。
多分、シンプルにルナさんを尊敬しているんだろう。
凄い。この一言だ。そして思う。僕もカムイに尊敬されてみたいと。
「えっと、これからどうしますか? アルスさんの帰りを待つとして、僕達は何をすればいいのでしょう?」
「あ〜、もうアルスが帰ってくるので大丈夫です。そのままで居てください」
「分かりました」
今信じられるのはルナさんだけだ。この攻略時だけ、ルナさんをチームリーダーだと思って着いて行こう。
次回『中途半端な王様』お楽しみに!
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.....って言ったら、動画投稿者みたいですね。( *´꒳`*)