王と帝、示すは大罪
◆???side◆
『サタンよ。貴様は彼奴をどう見る?』
『脅威でございます。我が同胞の悪魔を滅ぼし、あのアスモデウスとは友好関係を結んだ。それが何よりの証拠でございましょう』
『やはりそう思うか』
『えぇ』
ロークス城の地下、そこに存在するもう1つの城。
その城の主である最悪にして最強の悪魔、──が待つ玉座の間にて、悪魔達は語り合っていた。
『ちなみに俺は雑魚だと思いましたよ。何せ、たった5人ですよ? 1人1人が強いならまだしも、マトモに俺達と戦えるのはあの銀色の人間だけです』
『故に我々で掛かれば相手にならぬ、と』
『その通りです』
『ふむ......貴様は些か浅慮が過ぎる。マモンよ、もう少し頭を使うべきだ』
『はっ。申し訳ありませんでした』
『ギシャァ!』
傲慢のダンジョン最奥にある、玉座の間。
そこには4柱の悪魔が集っていた。
憤怒の悪魔、サタン。強欲の悪魔、マモン。
嫉妬の悪魔、レヴィアタン。
そして──
『この傲慢の悪魔、ルシファーが命ずる。命を賭して奴らを滅ぼせ』
『『はっ!』』
『ギシィ!!』
3柱の悪魔は、ルシファーの命を受けて玉座の間を後にした。
◆ルナside◆
「やっぱり、何かおかしい」
「どうしましたか?」
「いえ、妙に敵が少ないなと。犬子さんは気付いてましたか? 1体1体の戦闘の間隔が、どんどん広がっていることに」
「いや......でも確かに、言われてみれば間隔は大きくなってますね」
傲慢のダンジョン、第2層。現れる敵が幻獣なのはまだ良しとして、その戦闘の頻度が段々と落ちていた。
これはそもそも配置されているモンスターが少ないのか、ボス前である事を示唆する演出なのかは分からないが、ここまで顕著に現れるとなると、変な考えも生まれるものだ。
人間が変化を好まない事がよく分かる。
「ん......敵なのです! それも3体!」
「迎撃しましょう。ルナさん、前衛を......ルナさん?」
犬子さん達が武器を構えるなか、俺は1人、素手で棒立ちになっていた。
「皆さん、悪い事は言いません。直ぐに逃げましょう」
「「「「え?」」」」
「どうしてですか?」
「いや、サタンとマモンとレヴィアタンが一緒に来てるんですよ? 勝てると思いますか?」
「はい?......はい?」
「嘘ですよね? ルナさんジョーク?」
「だとしてもそれは笑えないのです!」
「そうね。それにそんなギャグを言うのなら、ルナっちのギャグセンスを問うわね」
ギャグでもジョークでも何でもない。ただの事実だ。
「取り敢えず逃げません? 情報だけでも外に流しましょうよ」
「いや、戦いましょう。折角の機会ですし、負けるまで戦ってみませんか?」
悩む。確かに犬子さんの言いたいことも分かる。分かる...
...が、もし死んで家のベッドでリスポーンしてみろ。
ソルが俺を連れてこのダンジョンを破壊する勢いで暴れ回るぞ?
そうなれば、皆のソルに対するイメージが落ちてしまうかもしれないんだ。
せめてソルには皆から良く見てもらいたいと、そう思っている。
俺が悪く見られる事が多い分、せめてソルだけは、と。
「分かりました、戦います。ただ、死ぬ気はありません」
「えぇ。全力で楽しみましょう!」
俺も布都御魂剣とクトネシリカを抜刀すると、全員が前を見た。
あと数十秒後には、ここは戦場になっている事をイメージして。
『いやぁ、人間関係って面倒臭いですね〜! 私、改めてルナさんの付喪神で良かったと思いますよ〜』
『シリカも。お兄さんって外界と関わる事を強制しないから、凄く楽に過ごせるんだよね〜!』
『それは私も同感ね。実際、果樹園に篭もりっきりでも何も言わないし、寧ろ感謝してくるもの。今の生活が堪らなく好きだわ』
『ほっほっほ。人気者ですなぁ、ルナ様』
「うっさいうっさい......と言いたい所だが、ステラはどう思ってるんだ?」
『え、えぇ〜!? わ、私は......そうですね。美味しいご飯も食べさせてくれますし、お昼寝をしても許されますし、す、好きですよ?』
「そうか。なら良かった」
美味しいご飯は皆で作るし、お昼寝もしょっちゅうしてるからな。
楽しく暮らせているなら何よりだ。
『あれ? これ私のライバルになってません? ステラさん、後でよ〜く O☆HA☆NA☆SHI☆ をしましょうね!』
『は、はいぃ!』
「これがパワハラか。メイドにパワハラされる一般付喪神......実に可哀想だ。というかフー、お前もう諦めろよ。人のものを盗るのは犯罪だぞ」
『盗る気はありませんよ。共有です』
「俺には共有する気もされる気も無いからな。誰かにソルを共有しようとなんて......考えただけでも吐き気と怒りが湧いてくる」
ごめんね。フーの気持ち、俺にはよく分からないや。そもそもその考えを分かりたくないし、理解したら理解したで、自分のことが嫌いになりそうだ。
折角ソルに与えてもらった自己肯定感を、こんな所で失いたくない。
「さぁ、来るぞ。死ぬ気で殺せ」
気持ちを切り替え、俺はクトネシリカに紫電涙纏を発動させる。
狙うはサタンだ。アイツの耳を攻撃して倒してから、レヴィアタンに移ろう。
『ギシャシャシャァァ!!!!!』
「来たのです!!!」
巨大な蛇であるレヴィアタンが到着すると、カーナさんの合図によって4人が動き出した。
だが、俺は動かない。レヴィアタン程度なら4人でも殺れそうだし、サタンの方が脅威だからな。
優先順位ってヤツだ。
『フフフ......やはり聡明ですね』
「よっ、サタン。死んでくれ」
『フフフ、それは命令に無いので出来ませんね』
命令? コイツらは誰かの指示でここに来たのか? だとしたら誰が......運営か?
いや、その考えは頭が悪いな。これは多分、サタンよりも上位の悪魔が指示を出したと言えるだろう。
となると──
「傲慢の悪魔の命令か?」
『おぉ、素晴らしい! 流石は4柱の大罪を持つだけはありますね』
「人間は罪深いからなぁ」
『えぇ。その通りでございます......フフフ』
そろそろ殺るか。いい加減戦闘しないと、ストレリチアに疑われそうだ。
「『神雷』」
俺はクトネシリカに発動させた魔刀術の技を使い、一気にサタンに近付いた。
剣先からは紫色の雷の雫が滴り、地面に落ちるという瞬間、俺にとってのイレギュラーが発生した。
『フフッ』
サタンが笑ったのを見た瞬間、俺はクルっと180度回転し、先程まで居た位置に戻ってきた。
「はぁ。危なかった」
『おやおや、今のを避けますか。やはり脅威ですね、貴方は。フフッ!』
サタンの方向を見てみると、俺が斬り掛かろうとした場所に赤黒い結晶の様な物が生えていた。
「何だよそれ」
『避けた張本人が仰いますか。フフッ、果たしてこれは、何なのでしょうか』
まぁそうようね。そんな手の内を全部語る悪役みたいな事はしないよな。
知ってたよ。知ってたんだよ? サタンはそんな事しないって。でもさ、一縷の望みって......あるじゃん?
「どうしたもんかねぇ.....おっ!」
『チクショウ外した!』
サタンを見つめながら考えていると、横からマモンの魔法が飛んできた。
そう言えばマモンも居たんだった。忘れてたでござる。
『全く貴方は......手を貸してください。こちらの人間を先に始末しますよ』
『何でだよ! あっちのクソ蛇の方が人数多いだろうが!』
『やれやれ、これだから頭の回らない者は嫌いなんです』
『ンだとゴラァ!!』
わ〜! なんか仲間割れが発生したぞ〜! やったね!
ホントに何なんだよこの状況。マモン、お前少しバカになりすぎじゃないか?
というかアイツ、地味にチュチュさんの弓を奪ってんじゃん。取り返してあげるか。
「フー、行けるか?」
『数秒、それも一撃なら』
「easy」
俺はクトネシリカを納刀してから霊剣を2本出現させ、マモン戦で使用した魔刀術を発動させる。
「おし、『背理の太刀』完成」
『ルナさん、本当に気を付けてくださいね。二撃以上入れようものなら、ルナさんの魔力が空っぽになりますよ』
「あぁ、分かってる」
背理の太刀を右手で握り、今も尚口論を続けているマモンに近付き、一気に胸を貫いた。
『ガッ!......オマ......ェ......』
『しまった!』
適確にマモンの心臓を貫いた為、霊剣が消えると同時にマモンもポリゴンとなって散っていった。
奇襲は不利状況に於ける最も有力な攻撃手段だ。逃す手はない。
「チュチュさん! これ!!」
「はい!......ありがとルナっち!!」
俺は奪い返した弓をチュチュさんの元へ投げ飛ばし、その隙を突いて殴りかかってきたサタンを蹴り飛ばし、少しだけ距離を取った。
「ミスったな」
『フフフ......これは不味いですね』
不味いのはこっちだよ。お前がいまからやろうとしてるの、魔力を吸収する魔法だろ? もう俺にはタイムリミットが迫ってるんだ。その魔法を止めなきゃならん。
さて、どうしたものか。こういう時に頼りになるのは......
「ルナさん! そっちにレヴィアタンが!!!」
「ん?」
犬子さんから叫ぶ様な大声が聞こえると、俺のすぐ横まで、口を大きく開けた巨大な蛇が迫っていた。
『ギシャァァァァァ!!!!!』
「──、来い」
ルナ君、絶体絶命の大ピンチ!!
この状況で彼が呼んだのは.....!?
次回!『その娘、最強につき』お楽しみni☆