おクスリ出しますね
体調は治ってませんが投稿です。いぇあ
「ルナ! あのビームこっちにも出して!」
「それより壁を作った方が確実だ」
「なら早く!!」
「もうやってる。ピギーは前だけ見てろ」
色欲のダンジョン、第2層。ここは事前の情報通り、デバフを扱うモンスターが大量に出現する。
黄色に変色した、麻痺毒を使うアルミラージ。
数メートル上空から魔法を使い、範囲内に居ると石化する攻撃を使うコカトリス。
そして、鳴き声を聞くだけで目眩と聴覚遮断のデバフを掛けてくる、角の小さな山羊だ。
この3種のモンスターが、第2層で大量に出現する。
「ふぅ......やっぱキツイね」
「そうか? コイツら、攻撃自体は強いけどVITは紙だから、こうして安全地帯からチマチマ攻略すれば楽に倒せるぞ」
現に俺は、分厚い氷の壁越しに魔法を使い、コカトリスを20羽程ポリゴンに変えている。
「私はそれが出来ないからいいんですぅ」
「確かにそうだな。今度、ギルメン用に杖でも作ってやるか」
「マジ? 出来ればダガーに組み込めない?」
「強欲だなお前。まぁいいけど。刃渡りはどれくらいが良いんだ?」
「これと同じくらい」
そう言ってピギーは、俺に向かって短剣を投げてきた。
「危ねぇな......25センチくらいか。オーケー返す」
「よろしくね。あ、お返しと言ってはなんだけど、龍核あげよっか?」
「欲しい。最近はメルの食費が馬鹿にならんくてな。助かるよ」
「食費って......確かに食べてるけどさ」
龍核は食べ物だ。異論は認める。
そんなこんなで雑談しつつピギーから龍核を貰うと、壁の向こう側に居る敵を全て倒し終えた。
「よし、クリア。行くぞ」
「了解」
サーチによるクリアリングを行い、反応が無いことを確認してから前に進む。
どうやらこの階層に湧く敵の殆どを倒したようだ。次の敵が現れる気配がしない。
試しに蔦ちゃんを使って囮を出してみたが、全くモンスターが釣れなかった。
そう、モンスターは。
「──でさぁ、そこでソルちゃがぶぇ!!」
ピギーがずっこけた。俺の蔦ちゃんに足を引っ掛けたんだ。
「おいおい......」
「おいおいって、アンタの蔦でしょうが!」
「ちゃんと下を見ないお前が悪い。大体、これがワイヤーだったらお前死んでるぞ?」
「うぐっ......ここはユアストだもん!」
「都合のいい奴だな。仕方ない。次からは顔を打つ瞬間に助ける」
「マジで!? って思ったけど、そもそも蔦を出さなければいいんじゃ......?」
「それもそうだな。蔦ちゃん、ここまでお疲れ様」
根本的な見落としに気付き、俺は蔦ちゃんに別れを告げてから消滅させた。
もうボス部屋が近いというのに、俺達はアホである。
「私達、相当頭悪いことしてるね」
「やめろよ。俺まで頭悪いみたいじゃないか」
「何言ってんだよバカ筆頭」
「ンなこと言うなよアホ筆頭」
「あら、頭は良いけど行動はおかしいって認めてくれてるのね。優しいじゃん♪」
「フッ、お前、自分が何言ってるか考え直した方がいいぞ」
やはり面白い奴だな、ピギーは。
今でも、初めて会った時のことを容易に思い出せるくらい面白い人間だ。
言葉選びや話の受け取り方。ちょっとしたドジな所など、人の心を明るくするプロだと思う。
そういう面で見れば、俺はピギーを尊敬している。
「ボス部屋だ〜! 気を引き締めてね、ルナ」
「ピギーよりは引き締まってるぞ」
「ねぇ、人が体重増えたことに悩んでるのに、どうしてそんな事を言うの?」
「そんな事を言った覚えはない。それと男から見た女のポイントを言おう。『体重より体型』だ。ソルだってな、引き締まってはいるが体重は......ッ!」
「どうしたの?」
「悪寒がした」
今、絶対に言ってはいけないことを言おうとした気がする。
やはり女に体重の話は良くないらしい。
何か悪いことが起こる前に、話題を変えよう。
「まぁ、お前はその体型を維持していたら大丈夫だと思う」
「そう? 信じてみるね」
「あぁ」
怖い。寒い。死の予兆。そんな言葉がピッタリな未来が、俺の頭に浮かんだ。
ソル、ごめん。君のプライバシーを話そうとした俺が悪い。本当にごめんなさい。
「じゃあ行くぞ。いきなり即死攻撃が飛んできたら、頑張って避けろよ」
「軽いなぁ。命張って守ってよ」
「ソルなら守る。お前は自分で守れ」
「くそぉ......これだからリア充はよぉ......」
ならピギーも彼氏になってくれる人を探せばいい。
そこに心からの気持ちがあるのか、今後を考えられる人間なのかは知らんが、『今』は楽しめるだろう。
俺はそんな生半可な気持ちでソルに告白してないからな。
『ガ、ニンゲンガ、ギダ』
俺達をボス部屋で出迎えてくれたのは、足がガチョウの様に細く、羊の頭を持ち、蛇の尻尾を持つ大きな悪魔だった。
「ピギー、動くな」
「なっ!? どうして?」
「俺の知ってる悪魔なら、会話で攻略出来るはずだ」
「はぁ?」
「とにかく動くなよ」
俺はこの見た目の悪魔について、事前に予習をしていた。
七つの大罪、色欲を司る悪魔。名前は『アスモデウス』
この悪魔は、アスモデウスの持つ異形の姿を見ても尚恐れずに、敬意を払って丁寧に対応される事を喜ぶという。
だから俺は、アスモデウスに対して恐れずに敬意を払って、丁寧に対応しようと思う。
「こんにちは、アスモデウス様。ご機嫌いかがですか?」
『オマエ、ニンゲン』
「はい。私は人間という種族の、ルナという名前を持つ者です。まずはアスモデウス様のお部屋へ勝手に入ったことをお詫び申し上げます」
『オレ、コワクナイノカ?』
「はい。怖くありません」
『ホントウカ?』
「はい。本心から申し上げます。アスモデウス様を恐れることはありません」
頼む。これで無理なら強制戦闘コースだ。出来ることなら、特殊ギミックとして無戦闘勝利をしたいんだ。
アスモデウス、どうか戦わない選択をしてくれ。
『オレ、ルナ、シンジル。コレ、アゲル』
アスモデウスは俺に、銀色に光る指輪をくれた。
「有難く頂戴.....しま......す」
え〜、たった今アスモデウスから貰った指輪なんですが、マモン戦で入手したのと同じ悪魔の指輪です。
効果の程を知らないのでただの指輪ですありがとうございました。
というかコレ、本来はアスモデウスから貰う物だったんじゃねぇか?
『モモイロ、コイ』
「も、桃色......はい」
『オマエニハ、コレ』
ピギーの手に握られているのは、膝から太ももくらいまでの大きさの、とても美味しそうな鶏肉だ。
俺とピギーには数メートル程の距離はあるが、それでも肉が良い物だと分かる。
「あ、ありがとうございます」
『フッ! オマエタチ、イイヤツ。オレ、オマエタチガ、スキ』
どうやら気に入ってくれた様だ。こちらとしても嬉しいな。
『ホカノアクマ、タオスノ、ガンバレ。ヒント、ヤル』
『ルシファー二、キヲツケロ』
『サラバ!』
最後に忠告をしてから、アスモデウスはポリゴンとなって崩れ落ちていった。
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プレイヤー名『ルナ』『ピグレット』が、
『罪の宴・色欲の待遇』を特殊クリアしました。
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「良かったなピギー。お前もワールドアナウンサーの仲間入りだ」
「何その名誉。要らないんだけど」
「まぁまぁ。宝箱はあげるから、早く帰ってソルのご飯食べようぜ」
「オッケー。それとありがとう!」
「どういたしまして」
ピコン!
お礼を言ってから宝箱へ向かったピギーを見守っていると、誰かからフレンドチャットが飛んできた。
「誰だろ......ほう」
チャットの送り主は、俺にとっては意外な......いや、意外すぎる人物だった。
「今日犬子さんから傲慢のダンジョン攻略のお誘い、ねぇ? オッケー」
俺は少しだけ口角を上げ、了承の返信を送った。
読んでくれてありがとうございます!
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.....ってやった方がいいと友人に言われましたが、どうなでしょう。
やはり私は.....いえ、ここは友人を信用します。
宜しくお願いします!(ゲス顔)
次回『ロークス城に眠る扉』お楽しみに!