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変態紳士に捧ぐ

頭痛の向こう側に立ちました。




「もうちょい。もうちょいだけ寄って」


「こうですか?」


「そうそう......よし、撮れた」



リルとメルに浴衣を着てもらい、神界の風景をバックに写真を撮ること30分。

俺の後ろには、何故かお稲荷さんと天狐まで着いてきていた。



「おにいさん。次は私も映りたいのです」


「せやなぁ。リルはん達と身長も一緒くらいやし、撮ってあげられへん?」


「分かった。じゃあどうするか......あの紅葉の木に3人映るのは絵面がくどいし......思い切って場所を変えるか」



先程までは、リル達に紫色の番傘を持たせて撮影していた。


1月なのに真っ赤に染まった紅葉の木を使い、如何にして2人を目立たせ、背景の美しさを魅せるか。それを考えていたのだ。


人と自然。この2つを活かすとき、割合的に『7:3』くらいが丁度いいと俺は感じたな。


人が前に立ち、その人を浮かす様に自然が映す。

写真映えしやすいこの場所だからこそ出来る、ちょっとしたパワープレイだ。



「ルナ。この辺に落ちてる紅葉、ヤバい」


「どうヤバいんだ?」


「全部レア度50超えてる」


「ヤバいな」



そう言えばここ、神界だったな。そこら辺の小石でさえ、磨けば宝石になりそうだ。



「採りたいなら今の内だぞ。次はあの山に登るから、もう紅葉には近付けないからな」


「りょ〜か〜い」



近くに流れている川へと走って行ったピギーを見送ると、リル達が俺の元に歩いて来た。



「パパ。わたしもかわであそびたい」


「あ! なら私もメルちゃんと遊びたいです!」


「この寒い冬にか?......って言おうと思ったが、そこまで寒くないな」



以外にも暖かく、秋の涼しさと言うより、春の陽気を感じるくらいだ。



「それはウチの管轄やからね。本来なら、下界と同じ様に、ここも寒いんよ? でも、ウチの権能で適温にしとるんよ」


「へぇ。凄いなお稲荷さん」


「凄いですね!」


「かみのなせるわざ」


「えっへん! 主様(ぬしさま)は凄いんですよ!」



何故天狐が胸を張る。と言いたいが、俺も天狐の立場なら、胸を張って同じことを言うだろうな。



「ふふっ、おおきに。あ、川で遊ぶんなら、もう少し暑くしよか?」



お稲荷さんが俺に聞いてくるが、俺はリル達が答えるようにジェスチャーした。



「お願いします。それと、天狐ちゃんも一緒に遊んでいいですか?」


「ええよ。ほな、少しだけ気温上げるで?」



お稲荷さんはそう言うと、目が金色に光り輝き、周囲の気温が5度程度上がった。

今まで話でしか聞いてこなかった神の権能が、こんな風に現れるとは。


貴重な体験をさせてもらったな。暑い。



「一気に暑くなったな」



キャッキャキャッキャ言いながら走る皆を見ながら、後ろの方でお稲荷さんに呟いた。



「29度にしといたわ」


「それは暑いわ。『サーキュレーション』......効かねぇ」



俺の中で1番便利だと思う魔法が効かず、仕方なしに氷属性の魔法で涼んでいると、お稲荷さんが鈴を鳴らしながら笑った。


あの鈴のリボン、可愛いな。今度ソルに作ってあげよう。



「神の力に人間は勝てへんのよ。食物連鎖で言うたら、神......それも最高神は、頂点に立っとる」


「人間を食う神が居るのか?」



()る。居るけど、神界には居らん」



なるほど。悪魔サイドという訳か。

確か、神龍の......メルの実父が悪魔側だったよな。

名前は忘れたけど、気持ち悪い奴だと言うことは覚えている。



「どの世界にも、ええ子が居れば悪い子が居るんよ」


「......そうだな。それに俺達人間にとっちゃあ、善い神に長く触れる分、悪い神にはとことん嫌なイメージが付く」



俺は自分の人生を軽く振り返りながら、目の前の川で遊ぶ、3人の天使をカメラに収めた。


うん、良く撮れている。映っている4人が皆笑顔だ。



「そうだ。もし敵の神と戦うとなった時、何か注意する事はあるか?」


「ほ? もう敵の神とは戦ってるやろ?」


「アステリアはノーカンだ。俺としては、害をなす神を言いたい」



イベントボスモンスターの話なんて今はいい。今よりもこれからだ。

これからプレイヤーが戦うことになりそうな、神やそれに類する者と戦う時のヒントが欲しい。



「下界で戦うなら、ルナはんが注意する事はない。

 ただ──」




「神界か魔界で戦うなら、まず勝てへんと思い」




そう告げられた瞬間、俺の体は一切の行動を封じられた。



「これが神の力やで。自分の領域に持ってこれば、人間なら蟻んこより弱い。人の全てを奪った上で、容易に消し去れるから」


「......怖いなぁ。でもよく分かったよ。ありがとうお稲荷さん」


「ふふっ、ええよ。ウチとしても、ソルはんの旦那さんが神に挑むのは、辞めて欲しい。やから、分かってくれてありがとう」



さて、この言葉をゲーム的に訳するか、人の言葉として訳するか。それ次第で、今後の行動方針が決まりそうだ。


まず、ゲーム的に訳すとこれは、『フラグを踏まないと』神と戦うのはオススメしない、という事になる。

何かしらのクエストでデバ解除か神の権能耐性のアイテムを貰い、それを使って戦うことになる。


そして人の言葉として訳するなら、純粋に触れない方がいい案件、という事になる。


俺の数少ない友達の1人......1柱なんだ。俺はこちらの選択肢を取るぞ。



「ソルにも言っとく」


「お願いやで?」


「あぁ。それにギルドメンバーにも伝えとくよ」


「ほう! それはピギーはんみたいな人のことやんなぁ?」


「そうそう。ピギーと同じように、昔からの友人があと2人居て、もう2人は最近知り合った奴なんだ」


「へぇ〜! ウチにもっと聞かせて〜」


「分かった。じゃあまず、アテナからだな。コイツ、今はゴリラみたいな────」




それから、ギルドメンバーに関することをたっぷりと話した。


出会いやその経緯。知り合ってからのお互いの様子など、俺は懐かしい気持ちに浸りながら語った。




◇◇




「お〜い! そろそろ場所を変えるぞ〜」


「「「は〜い!」」」


「今行くー!」



十分に遊び、ストレス発散も出来たであろう4人を呼んだ。



「3人とも、そこに並べ」


「「「はい?」」」


「『イグニスアロー』『アウラ』『ウィンドシャワー』」



俺は3人の足元に極限まで威力を抑えたイグニスアローを出し、アウラの向きを変えて温風を足に当て、ウィンドシャワーという、パチパチと弾けるような感覚のする風を浴びせた。


これなら直ぐに乾くだろう。



「ふふっ、何だかくすぐったいです」


「たしかに。でもあったかい」


「おにいさんの愛を感じます!」



「はいはい。愛してるのはソルだからな......よし、もういいぞ」



「ありがとパパ」


「「ありがとうございます!」」


「どういたしまして」



俺は魔法を使った跡を見てみると、リル達の踏んでいた近くの石が、ほんの少しだけ焦げていた。



「......クソが」



たった9つの魔法も十分に扱えない自分に悪態をついていると、お稲荷さんが俺の頭を撫でてきた。



「十分やで。十分ルナはんは頑張ってる。語り人で、そこまで上手く魔法を使えるのって、ルナはんくらいやで?」


「十分か。なら足りねぇな」



頂点を目指す際、何が1番大事だろうか。



頑張った自分を褒めてくれる人か?

──違う。


自分の出した結果に満足して、練習を辞めることか?

──違う。


じゃあ、完璧に出来ない自分に悪態をつくことか?

──違う。



大事なことは、向上心だ。前を見ながら上に登ろうとするこの気持ちが、1番大事なことだ。



「ごめん」


「ふふっ、可愛いなぁ。小さい子どもを見てる気分や」


「褒めてるのか?」


「さぁ? ただ、常日頃からソルはんも同じこと思っとると、ウチは思うで?」



子どもっぽい......とかかな? こればっかりはソルの気持ちだから、本人に聞かない限り分からないな。



「ほな行こか。ウチも可愛らしい天狐を見たいわぁ」


「はいよ」



今になって頭を撫でられたシーンをリル達に見られた事を思い出し、少々の恥ずかしさを押し殺しながら、写真撮影を再開した。



次回『肉まん感覚』お楽しみに!

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